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1 二人が遅く起きた朝は。
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今日も洗面台で顔を洗っていたら追い出された。
まだ泡がついてるのに。
タオルも手にする暇がなく、滴る水滴。
さっきまで私がいた鏡の前に堂々と陣取り、ドライヤーの音にも負けないくらいご機嫌に鼻歌を歌ってる姉。
私の多少の恨み言はきっと聞こえない、聞こえてても煩わしそうに睨まれるか、無視されるか。
ほぼ暴君。
ほぼという表現に救いがあるといいのだけど、それは完全に家の外のこと。
家の中では完全暴君だ。
お父さんさえ従えそうな勢い。
誰が姉をこんな女にした?
お父さんとお母さん、両家の父母四人に見守られ、許され、可愛がられ、のびのびすくすく思うままに我がままに育ってしまった姉。
確かに小さいときは子供らしさ全開の愛らしい子供でもあり、初孫としては誰の目にも痛みはおろか違和感すらなく入って、可愛がられただろう。
私が生まれるまでの数年、小さな女帝のように大人の上に君臨してただろう。
そして6年後、私が産まれて人気の分散という最大の危機にも耐えたようだ。
『姉』という武器は私を守るために使われたのだろうか?
それを時々振り回して、刃物として私に当たることもあったのでは?
時々と言わず、よくある事だったのでは?
小さい頃の映像では私の泣く声に負けまいと姉の声も残ってる。
『しおりうんち。』
『しおりゲーしてる。』
『しおりくさい。』
かわいい子供の声で何度も叫ばれるその言葉が、私の変化を母親に教えてる。
『あらあら。』
そう言って私に駆け寄る母親。
いい子、いい姉、そう思いたい。
少なくとも私の近くにはいてくれていた。
ただ、素直に感謝できないのもまた本心。
『しおり、かわいいね。』とか、『しおり、危ないよ。』とか、『しおり、大丈夫だから、泣かないで。』とか・・・・褒めたり、心配したり、慰めたりする声は本当に一つも入っていないのだ。
母にはありがたい変化の報告と思えるそのセリフが、ただただ文句を言ってるとしか思えなくなるのだ。
ウンチしたりゲーしたり、本当に迷惑なくさい妹・・・・。
しょうがない、赤ちゃんだから。
「しおり、洗面台掃除しててね。あ、暇だよね、ついでに私の部屋もお願い。」
洗面台を明け渡し、そう言い放つと、姉はキッチンに立ち寄った後、家を飛び出していった。
せっかくの学校の創立記念日。
今日はゆっくり起きることを許されていた。
起きた時には両親は仕事に出かけていた。
一人で朝ごはんの準備をしてのんびり食べるつもりだったのに。
姉も起きるのはゆっくりで良かったらしい。
でも急いで出かけなければいけなかったらしい。
きっと時間を読み間違えたんだろう。
ちょっとだけ二度寝を楽しんだろう。
好意的にそう思った。
洗面台から押しのけられるように弾き飛ばされても、そんな事はこの私には些細なことでしかない。
そんな扱いにも態度にも慣れているのだ。
あの姉の妹に生まれた私の背負うべき宿命だととうに諦めている。
姉が無事にでかけて行って、やっと平和が戻ってきた家の中。
姉のカップを片付けて、やっと自分の食事の支度をする。
『コーヒー』とあいさつより先に叫んだだけで、出かける準備をしてる間に適温のカフェオレが出てくるのだ。
そして、優先的にわざわざ用意しても、半分くらいは残ってる。
まあ、いい。
些細なことだ。
自分の分のトーストを焼いてヨーグルトを食べる。
大体自分の事は自分でしてる。
中学生の私だってそうだ。
お母さんだってお仕事をしていて朝の時間は貴重だし。
もう一人で出来る年ごろだから。それは随分前から。
六歳上の姉に出来ないはずはない。
本当に誰もいない時は自分でしてるか、片付けも面倒で何もしてないか。
私がいるなら自分でする必要性はまったく感じないんだろう。
それゆえの暴君。
全てがそんな調子だ。
中学生で既に自分の役割をわきまえて、その役割に忠実にいれる。
諦観と忠誠心。
でも、姉には早く一人暮らしして欲しいくらいだ。
まさか一人暮らしの部屋には呼ばれまい。
『週末留守にするから、掃除しておいて。料理の腕も磨いていいよ。』
掃除と食事の支度を命じる姉の声が聞こえた気がした。
いやな予感に鳥肌が立つ。
そこまでは無理。
首を振ってその幻聴を消した。
まだ泡がついてるのに。
タオルも手にする暇がなく、滴る水滴。
さっきまで私がいた鏡の前に堂々と陣取り、ドライヤーの音にも負けないくらいご機嫌に鼻歌を歌ってる姉。
私の多少の恨み言はきっと聞こえない、聞こえてても煩わしそうに睨まれるか、無視されるか。
ほぼ暴君。
ほぼという表現に救いがあるといいのだけど、それは完全に家の外のこと。
家の中では完全暴君だ。
お父さんさえ従えそうな勢い。
誰が姉をこんな女にした?
お父さんとお母さん、両家の父母四人に見守られ、許され、可愛がられ、のびのびすくすく思うままに我がままに育ってしまった姉。
確かに小さいときは子供らしさ全開の愛らしい子供でもあり、初孫としては誰の目にも痛みはおろか違和感すらなく入って、可愛がられただろう。
私が生まれるまでの数年、小さな女帝のように大人の上に君臨してただろう。
そして6年後、私が産まれて人気の分散という最大の危機にも耐えたようだ。
『姉』という武器は私を守るために使われたのだろうか?
それを時々振り回して、刃物として私に当たることもあったのでは?
時々と言わず、よくある事だったのでは?
小さい頃の映像では私の泣く声に負けまいと姉の声も残ってる。
『しおりうんち。』
『しおりゲーしてる。』
『しおりくさい。』
かわいい子供の声で何度も叫ばれるその言葉が、私の変化を母親に教えてる。
『あらあら。』
そう言って私に駆け寄る母親。
いい子、いい姉、そう思いたい。
少なくとも私の近くにはいてくれていた。
ただ、素直に感謝できないのもまた本心。
『しおり、かわいいね。』とか、『しおり、危ないよ。』とか、『しおり、大丈夫だから、泣かないで。』とか・・・・褒めたり、心配したり、慰めたりする声は本当に一つも入っていないのだ。
母にはありがたい変化の報告と思えるそのセリフが、ただただ文句を言ってるとしか思えなくなるのだ。
ウンチしたりゲーしたり、本当に迷惑なくさい妹・・・・。
しょうがない、赤ちゃんだから。
「しおり、洗面台掃除しててね。あ、暇だよね、ついでに私の部屋もお願い。」
洗面台を明け渡し、そう言い放つと、姉はキッチンに立ち寄った後、家を飛び出していった。
せっかくの学校の創立記念日。
今日はゆっくり起きることを許されていた。
起きた時には両親は仕事に出かけていた。
一人で朝ごはんの準備をしてのんびり食べるつもりだったのに。
姉も起きるのはゆっくりで良かったらしい。
でも急いで出かけなければいけなかったらしい。
きっと時間を読み間違えたんだろう。
ちょっとだけ二度寝を楽しんだろう。
好意的にそう思った。
洗面台から押しのけられるように弾き飛ばされても、そんな事はこの私には些細なことでしかない。
そんな扱いにも態度にも慣れているのだ。
あの姉の妹に生まれた私の背負うべき宿命だととうに諦めている。
姉が無事にでかけて行って、やっと平和が戻ってきた家の中。
姉のカップを片付けて、やっと自分の食事の支度をする。
『コーヒー』とあいさつより先に叫んだだけで、出かける準備をしてる間に適温のカフェオレが出てくるのだ。
そして、優先的にわざわざ用意しても、半分くらいは残ってる。
まあ、いい。
些細なことだ。
自分の分のトーストを焼いてヨーグルトを食べる。
大体自分の事は自分でしてる。
中学生の私だってそうだ。
お母さんだってお仕事をしていて朝の時間は貴重だし。
もう一人で出来る年ごろだから。それは随分前から。
六歳上の姉に出来ないはずはない。
本当に誰もいない時は自分でしてるか、片付けも面倒で何もしてないか。
私がいるなら自分でする必要性はまったく感じないんだろう。
それゆえの暴君。
全てがそんな調子だ。
中学生で既に自分の役割をわきまえて、その役割に忠実にいれる。
諦観と忠誠心。
でも、姉には早く一人暮らしして欲しいくらいだ。
まさか一人暮らしの部屋には呼ばれまい。
『週末留守にするから、掃除しておいて。料理の腕も磨いていいよ。』
掃除と食事の支度を命じる姉の声が聞こえた気がした。
いやな予感に鳥肌が立つ。
そこまでは無理。
首を振ってその幻聴を消した。
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