すべての事件は裏の家でおきていました。

羽月☆

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7 数字が可愛いと思えてきた頃 

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夏休みに入った。寝坊をしてもいいけど、ちゃんとお母さんの手伝いをお姉ちゃんと分担してやることになっている。

掃除と洗濯物を取り込むことと、お買い物と夕飯の手伝い。


それでもやっぱり、お姉ちゃんは全くだった。
確か去年もそうだった。

例のごとく自分の汚したところまで私に押し付けて来るくらいだから。
私は塾のお金の分、真面目に働いた。


そう嫌いではないから。


『私はしおりが小さいときにしおりの面倒も見たし、お母さんの手伝いもしおりの年からやってたの。だから今はしおりの番でいいよね。』

そんなことを言っていた。

私の面倒って何?
本当ですか?そんな場面の写真も映像も目にしてませんし、記憶にもないです。
それに私は小学生のころから下手で、邪魔だったかもしれないけど、お母さんを手伝っていたつもり。
その時お姉ちゃんはいなかったと思う。
一体いつ手伝ってたの?

そんな当然の疑問は顔に出たらしい。

『規則正しい生活も若い時は大切だからね。』

そう平然と言って出かけていくお姉ちゃん。

若いって何よ。こんな時ばかり大人ぶるんだから。

年上ってすごくいいんじゃないの?
むしろ私がいてよかったね、部屋も綺麗になるし、手伝いも事実上免除です。



塾は中学生の数学のスケジュールに参加した。
一年生から三年生までが一緒の教室にいた。
よく見る個別指導のコマーシャルの様な仕切りはなく長机があるだけ。
ざっくりと学年が分かれていた。
二回くらい隣になった同じ年の女の子と話をするようになって、自習室も一緒に使った。
結城 萌ちゃんは隣の中学だった。
この塾は安いから、友達もいないからとわざわざ電車で来てるらしい。

友達が・・・のところは敢えて聞かない。
何となく私と同じ匂いがしたかな?


明るいし、とても話しやすい子だった。
二人でご飯を食べてから、午後のクラスに参加することもあった。


同じクラスにいた三年生だという紺さんとも話すようになって、結局宿題を教わったりして。


一つ年上なだけでも大人感を感じる。
とても優しくて、丁寧な人だった。

高校受験のための塾通いで、もともと成績はいいらしい。
苦手の克服だと言って数学のクラスだけ別にとっていると聞いた。


来年は私も高校受験を考えないといけないけど。
まだまだ何をしたいかなんて思いつかなくて、入れる高校でいいかなって簡単に考えてた。

萌ちゃんは動物の看護師さんになりたいらしい。
動物が好きらしい。
あんの写真を見せたら見たいと言ったので、今度家に遊びに来ることになった。
萌ちゃんも歴代猫をたくさん飼い続けていたと言う。
最初は拾ってきた猫で、その内子供を産んでしまったので、人にあげたり、自分の家でそのまま飼ったり。

多い時には5匹くらいいたらしい。

それはすごいと思う。

三匹集まっただけでもにぎやかだったのに、五匹・・・・・。


「萌ちゃん、じゃあ、お母さん猫はお腹の手術しなかったの?」

「二回子供を産んだ後したよ。さすがにもらってくれる人を見つけるのも大変だから。」

普通に言う。
看護師さんになりたいくらいなんだから。
当たり前だと思ってる?


「すごく痛いのかな?」

「眠ってる間にやってもらうし、今は本当にほとんどの猫がやってるから。猫だけじゃなくて、犬も。」

「しおりちゃんのあんちゃんはどうしたの?」

「うん、ちょっと前にしたの。私は最後まで反対してたんだけど、それは変?」

「え~っと、分からない。家の中にいるなら、そんなに大変じゃないかもしれないけど。う~ん、痛いからってそう思うの?」

「うん、多分。」

「そこはプロです。先生が優しく宥めてあっという間に麻酔を吸い込んで寝ちゃうから。」

頼もしい笑顔で言われた。
病院の先生にいろいろ聞いたり、本を読んだりしてるのかもしれない。
将来の夢だし。

「そうかもね。終わって先生に抱かれて帰って来た時も大人しくしてたし、その後も普通だった。」

「それは良かったね。」

「うん。」

なんだか今病院の先生に言われた気がした。

そうやって安心させてくれれば動物を連れてきた子供も安心して預けるから。

そんな夢がある萌ちゃんが羨ましかった。

「萌ちゃんはいつから夢を決めてたの?」

「いつからかなあ・・・・。自然と病院はよく行ったし、ああ、こんな人になりたいなあって思ったら、自然と。」

「そうなんだ。私は塾の先生にどんな人になりたいのかって聞かれて『お母さんみたいな人。』って答えたの。お母さんが後からお仕事とか夢の事を聞いたんだよって教えてくれたけど、まだ全然決めてないの。何になりたいのか分からない、なれるのかも分からない。みんないつの間に決めるんだろうって思ってる。」

「別に急いで決めなくてもいいよ。その内私だって変わるかもしれないし。」

そうなのかなあ?そう思ったけど。

「そうかも。でも来年には決めたいなあ。」


教室に入って横並びでテキストを出す。
萌ちゃんの数学の点数は私とあんまり変わらない。
そこも良かった。

「しおりちゃん、萌ちゃん、今日も一緒にお昼食べてたの?」

「はい。」

「紺さんも今度一緒に食べますか?」
萌ちゃんが誘う。
なかなか大胆だ。

「そうだなあ。明後日なら大丈夫だから混ぜてもらおうかな。」

「いいですよ。駅の改札に集合です。12時でいいですか?」

「いいよ。無理になったら連絡するから。」

そう言って斜め後ろのテーブルに歩いて行った。

成績のいい紺さんは何になりたいのだろう?
ちゃんと決まってるのかな?
決まってるよね。


真面目に毎日勉強してるから、自習室でも一人か、もしくは萌ちゃんと勉強してるから、少しは数字も可愛く思えるくらいにはなった。
凄い進歩だと思う。
頭から拒絶してたのに、少し仲良くなれたんだから。


『良かったね。』
委員長の声が聞こえて、笑顔が浮かんだ。

何で出てくるの。

でもそう言ってくれると思う。

ビックリするかな?

テストの点数上がったんだって教えたら、凄いねって。

ん? それは悪い時の点数を教える前提だ。
さすがに同じクラスの委員長に教えるのはちょっと。
紺さんと萌ちゃんとは違う。
アホだと思われる。お馬鹿だったんだって思われる・・・・。

止めよう。点数は、具体的には内緒だ。


そんな事を思っても夏休みが1週間以上過ぎても会うことも、連絡をとることもない。

朝出かける時に時々おじいさんに会う。

「しおりちゃん、今日も塾なの?」
そう聞かれる。

「はい。三週間みっちりと通います。」

「そう、頑張ってね。週末一総が泊まりに来るから、遊びに来てね。」

毎回そう言われるけど、返事だけして、遊びに行くことはない。

庭で少し立ち話をするくらい。
窓辺で寝転ぶナオにガラス越しに挨拶するくらい。
家には上がってない。
委員長が来る日は近寄ってない。


連絡も来なくなった。

忙しいんだろう。
委員長も塾に行ってるって言ってた。
友達と遊んだりしてるかもしれない。


金曜日、お昼に改札で二人を待っていた。
特にどちらからもキャンセルの連絡はないから。

今日は家に萌ちゃんが来ることにもなってる。
あんに会いに来てくれる。

来る前にアンのブラシもかけて、余分な毛もとって、部屋にもコロコロをかけた。
遊び道具とちょっとだけのおやつも用意してる。
あんにあげてもらう分と、私と萌ちゃんの分。
お姉ちゃんには食べないように言ってあるし。


「お待たせ。」
先に紺さんが着いた。

「紺さん、こんにちは。お腹空いてますか?」

「うん、空いてるよ。」

「午前中は何してたんですか?」

「もう一つの塾。」

ええ~、塾のハシゴ・・・・。
頭が疲れる。

「紺さん、凄い高校目指してますか?」

「少し難しい所なんだ。頑張らないと確実に受かるくらいの成績の方がいいからね。」

「・・・・頑張ってください。」

「ありがとう。」

「紺さんは、将来何になりたいか決めてるんですか?」

「うん、決めてるよ。研究者になりたいんだ。化学の研究者になりたいんだ。」

それは何でしょうか?具体的に何をするの?

「ちょっと難しそうで分かりません。例えば・・・・・。」

「そうだなあ、色々あるけど、身近なところの研究がいいんだ。キッチンや掃除用の洗剤の開発とか、あとは最近化粧品も面白いと思ったり、もっと進歩すれば美容皮膚科の方にも関われるかもしれないし。あくまでも目標だけどね。大体そんな方向で考えてる。化学は得意なんだ。」


化学・・・というと白衣。
似合うかな?

ちょっとイメージ違う気がするけど。

「しおりちゃんは?何になりたいの?」

そんな風に、私も当然決まってるだろうみたいに聞かれた。

「それがただいま模索中です。絶賛考え中です。」

絶賛考え中って合ってるの?
小さく言われた。

知りません。

「まだ何も思い浮かばないんです。いつ思い浮かぶんでしょうか?」

「う~ん、『夢を探し続ける女の子』でもいいんじゃない?」

「聞く分にはメルヘンな響きがありますが。」

「あ、よく言えばそうかも?」

「紺さん、意外に意地悪ですね。私だって来年には決めないといけないと思ってます。」

「でも小さいころから何もなかったの?アイドルとかケーキ屋さんとか。」

「お母さんが言うには言ったことがないらしいです。代わりに姉が何度も宣言してはコロコロと変わってたらしいです。」

「ふ~ん、『夢多き姉』と『夢を探し続ける妹』だね。」

「はい。」

「認めた・・・・。」

「今はそうです。」

「萌ちゃんは決まってるのに。なんだか夏休みの宿題が増えた気分です。」

「無理してもしょうがないからね。」

そうとも思ってる。ピンとくる瞬間を待ちたいとも。
ただいつ来るのか分からないと不安もあって。

「お待たせしました~。」

萌ちゃんが到着合流。

「すみませんでした。出がけにバタバタと忘れ物を取りに帰ったりなんだり。」

「じゃあ、行こうか。いつもどこ行くの?」

「お小遣いで食べれるところは決まってます。」

そう言って安いパスタ屋さんに行った。
本当はマックとかで食べることが多いんだけど。
料金はあんまり変わらなかった。

楽しくお昼を食べて、眠くならないように集中するように数字と向き合い、終わったら萌ちゃんと自宅に帰った。

「ただいま~。」

あんが走って来て、見知らぬ萌ちゃんを見て足を止める。
ちょっと臆病なのは私に似たのだろうか?
美人なのはお姉ちゃんに似てるらしい、お姉ちゃんだけがそう言い張ってる。


「あんちゃん、こんにちは。」
無理に距離を詰めずにゆっくりと手を出してあんが近寄るのを待つ。
私が一緒だからあんもちゃんと安心して来てくれた。

おでこを擦り付けられたらそのまま抱き上げられて。

「かわいい、かわいい、何で片足だけ靴下履き忘れてるの?」

トレードマークの三足白靴下に気がついてくれた。

「私もそれが気に入ったの。」

「うん、すごく可愛い。」

すっかりくつろいでる、あん。
やっぱり上手かもしれない。

冷たいジュースとプリンを出す。

「ありがとう。」

食べてる間は膝の上に乗せて、食べ終わったらごしょごしょと体を撫でて可愛がってくれてる。

「あ~、可愛いなあ。また飼いたいなあ。」

「もう飼わないって決めてるの?」

「ううん、でも人にあげた子が子猫が生んだり、捨て猫がいたり、里親の募集があったり、出来るだけそんな猫を飼おうって決めてるの。」

「そうなんだ。」

徹底してるかも。
そんな萌ちゃんに飼われたら猫も幸せだと思う。

1時間くらいあんと遊んでもらって、駅まで送った。
おじいさんの家の前を通った。
菜園の方から委員長の声が聞こえた気がした。
もう来てるのかもしれない。
さっき見た携帯には連絡はなかった。
もう来ないと言うことだろう。

寂しいと思った。

変な服を着た委員長が思い出された。
捨てたはずの赤白の帽子が頭にのっていた。


駅から帰る時はすごい勢いで通り過ぎた。
それでも声は聞こえなかったと分かるくらいに、耳はおじいさんの家に向いていたみたい。
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