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6 夏休み前に決めたこと。
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しばらくおじいさんの家にも行けなかった。
委員長にも飲み物のお礼がうまく言えず。
憂鬱な日々は体調のせいばかりじゃない。
なんとなく紅美ちゃんの視線を感じてる。
週末には動物病院に連れて行かないといけない。
手術の事なのに、同じ年の子猫のナオと一路がいるのに、おじいさんにもうまく相談できないまま、委員長にはなおさらだった。
腹痛で休んでた午後の時のプリントを返してもらってなくて、授業が終わったあと担当の先生のところに行くことになっている。もう、どうでもいいくらいなのに。
お腹の痛みのピークは過ぎても体がだるい。
それは毎月の事だった。
嫌になるサイクル。そんなのいらないのに・・・・・。
放課後、なかなか立ち上がろうともせず、みんなには先に帰ってもらった。
ゆっくりと立ち上がり、先生のところに行った。
取りに来るように言った先生がなかなかプリントを見つけられずに、ガサゴソと書類の山を探るのをぼんやり見てるしかなかった。
「おお、あったあった!」
嬉しそうな先生。
私は感動もないです。
説明を受けてプリントを返してもらい職員室を後にした。
のろのろとお辞儀をして、廊下に出ると委員長がいた。
びっくりした。
扉の前から退いたのに、歩き出した私と同じ方向に歩き出した委員長。
少し足取りを早める。
「小坂さん、少し話ししたいんだけど、なんだかおじいちゃんが落ち込んでて。」
そう言われたら止まるしかない。
「分かった。」
教室に戻ったら数人がまだいたから一人で帰るように教室を出た。
校門を出て自分の家の方へ歩く。
しばらくしたら委員長が追いついてきた。
忘れてた、お礼。
「この間保健室に飲み物届けてくれた?ありがとう。ごめんなさい、お礼が遅くなって。」
「ううん、別にいいよ。元気ないね、ナオがあんに乱暴したって聞いて、大丈夫?」
「うん、大丈夫。乱暴とかじゃないから。週末に病院に連れて行って手術を受けることになったの。家の皆が言ってたのに私だけが反対してて。でも仕方ないって思えてきたから。しばらくは遊びに行けないと思う。おじいさんに謝ってもらっていい?びっくりして勝手に帰ってきちゃったから。だから、・・・・じゃあね。」
そう言って、少しだけ顔を見て、向きを変えて走った。
またお腹が少し痛くなってきた気がした。
でもあんはきっともっと痛い思いをするから。
疲れて歩き出して、ゆっくり家に帰った。
いつもはバスを使うけど、すっかりバス停を通り越していた。
歩いてもいいし、いい時間のバスがあったら乗ってもいいかなと思ってた。
委員長は優しい。
あの日かぶっていた赤白ボーダーの帽子。
おじいさんに三匹を預けた日、段ボールに帽子も入れていたら、すっかり一路が気に入って、一人で入って寝ていたらしい。
他の二匹から少し離れてたのに、帽子の中に納まって布団のように体にもかけて顔だけ出ていたらしい。
おじいさんが可愛いからと写真を撮っていた。
『一路は委員長の匂いが好きなんだね。』
そう言った私。
『そうかなあ。うれしいなあ。』
一路を抱き上げて鼻をくっつけていた。
ただ一路はそんな気分じゃなかったらしく、手の平をおでこにつけて突っ張った。
爪も出ていたらしく、痛いと委員長が一路から離れた。
『なんだか嫌がられたんだけど。』
『気のせいだよ。猫は基本ツンデレだから。」
『そうかなあ?』
そんな会話をして笑った。
三匹が大きくなり、大人の猫に成長し始めている。
私たちはあんまり変わらないはずなのに、それでも前みたいに笑えない私、・・・私だけが。
週末はずっとあんの近くにいた。
本当に思ったほど痛がってもいない。
全然気にしてないみたいで、安心した。
ちょっとだけ毛を剃られて傷を縫った痕がある。
ちょっとだけ薬をつけてあげて、もらった薬をご飯に混ぜて飲ませて、来週また連れて行く予定になってる。
先生はあの頃と変わらずに優しかった。
大好きな先生だった。
あんを抱っこして出てきた時も、あんは全然怖がってなかった。
麻酔で少し眠そうだったけど、大人しかったって言われた。
今もお気に入りのソファの上で丸くなって寝ている。
食事も食べられて、薬も飲めてるから心配ないと思う。
それでもずっと近くにいた。
委員長がおじいさんのところに来てるらしい。
携帯に連絡があった。
『あんが手術の後だから側にいたい。』
そう返した。
『おじいさんとナオにもよろしく、一路にも。』
そう付け加えた。
腹痛の期間はすっかり終わって少しだけ元気になる。
前よりは数学が楽しくなった。
まだまだかっこいい!!なんて思わないけど、考えようと思えるようになった。
夏休み、一緒に勉強する予定だったけど・・・・。
「名木君、ここ教えてもらっていい?」
「ああ、そうかあ、分かった。さすがだね。」
クラスで委員長に数学を教えてもらう子が増えた。
単純に宿題を早く終わらせたい子もいるし、本当に教わりたい子もいる。
でも誰でもいいんじゃなくて、委員長だから教わりたい子もいる。
沼田君がうっかり話をしていた女子に言ってしまったのだ。
私と委員長のおじいさんが仲良しで、数学を教えてもらったらしいと。
三匹の猫を分け合ったと。
多分ほとんどの人が知ってるだろう。
だからと言って急に委員長に話しかけることはしない。
そんな私の代わりに話しかけてる女子は思ったよりたくさんいた。
委員長も女の子たちのうれしそうな顔を見ながら楽しそうに教えてる。
感謝と・・・・もっと別の気持ち。
外から聞いてても、見ていても分かりそう。
『皆が数学得意になったら、テストが難しくなっちゃうかも。』
そんな冗談が本当になったりして。
そのままテスト期間に入り、ちょっとだけ数学の成績が伸びた私。
それでも全体的にまだまだだった。
学校から帰ってお母さんとお父さんがいるところで話をした。
「あの、私は勉強が苦手みたい。でも大学に行ってもいいのかな?頑張って勉強して成績が上がったら行ってもいいの?」
二人ともビックリしたみたい。
お姉ちゃんは小さいころから歌手やケーキ屋さんやモデルや女優や写真家やと、無駄にいろんな夢を披露してたらしいけど私は何も言ってない。
だって何も考えてないから。
普通に大学に行って普通に就職して普通に結婚して普通にお母さんになれると思ってた。
でも、もしかしたら私にはその普通も難しいの?
そう思った。
「大学行きたいなら行けばいいのよ。もっと違うことがあったら専門学校でもなんでもいいし。勿論お勉強を頑張らないと大変かもしれないわね。お姉ちゃんはすごく最後に頑張ったのよ。大好きな先輩と同じ大学に行くんだって、そんなきっかけだったけど頑張ったからね。」
「私はまだまだなの。夏休みに塾に行ってちゃんと勉強しようと思ったんだけど・・・・。」
少し分かる様になったら前より興味が出てきた数学。
少しずつ勉強も慣れると少しは楽しくなって少しは賢くなるかもしれない。
そんな伸びしろはたくさんある今の私。
「いいわよ。行きたいところがあるなら話を聞いてパンフレットを貰って来なさい。夏だけのコースもあるし、それでお試ししてもいいんだし。」
「もしかして、しおりはお金の心配をしてるのかな?」
お父さんが聞いてきた。
「ええ~、そんな事だったの?」
お母さんが驚いた。
「ううん、それもそうだけど、いろいろ。だって全然勉強したくないのにお金だけ出してもらって行くのも無駄だから。」
「お姉ちゃんは楽しそうよ。友達もたくさんできるし、絶対無駄にはならないから。塾も大学も、行きたいならいいのよ。」
「ありがとう。ちゃんと計画を立てて勉強する。」
「そう。じゃあ、楽しみにしてるから。」
「うん、ありがとう。」
夏休み、私は一人でも勉強できるように、・・・・委員長に迷惑をかけなくてもいいように夏休み集中コースを申し込んだ。
やっぱりお金はかかる。
結局あんの手術代も出してもらって、私の通帳はそのまま減りもせず。
だからとりあえず数学を選んだ。
そして通ってる子は自習室を使ってもいい事になっていた。
多分私は一生懸命塾に通って勉強するだろう。
おじいさんのところに遊びに行けないくらい、毎日・・・・・。
そんなつもりで夏休み前のテストも頑張った。
本当に点数も全体的に上がってうれしかった。
数学以外もちゃんと勉強したから。
成績表を持って家に帰り、夜にお父さんとお母さんに褒められた。
珍しくお風呂から出てきたお姉ちゃんもビックリした後、中学は簡単だからね・・・・、そう言ったけど、その前にお姉ちゃんよりもいいねって言われてたので全然気にしなかった。
お姉ちゃんよりまじめに頑張る夏休みにはなりそうだった。
あれから平日に一人でおじいさんのところに顔を出すことはあった。
私が籠も持たずにあんも連れて来てないのにちょっとだけガッカリしてたみたいだけど。
代わりにナオはうんと可愛がった。
逞しい男の子になって体も大きい。
ふざけてると本当に爪と牙が痛くて、思わず手を引っ込めることもある。
ちょっと傷だらけになった手。
あんが女の子で良かったってちょっとだけ思ったりして。
「週末、一総が誘っても振られてばかりで来てくれないって寂しがってるけど。数学も教えたいのにって勉強道具も持ってきてるけど。」
さり気なく探られた。
「数学はおかげでいい点を取れました。委員長に感謝です。でもクラスで委員長に勉強を教えてもらう子が増えてて、今度からテストが難しくなるかも。私は夏休みに塾に通って数学が得意になるように頑張る予定です。」
「じゃあ、一総にはもう教わらない?」
「おじいさん、皆が委員長に勉強を教わってたら委員長の勉強が進まないから。」
「・・・・・・楽しみにしてるのに。」
「一緒に勉強してる子はたくさんいます。委員長が忙しいくらいです。夏休みはきっと楽しい予定がたくさんできると思います。今までより話しやすくなってるって言われてるから。」
「そうか。」
「はい。」
私は教室の委員長とクラスメートの笑顔を思い出して元気に答えた。
「そうか。」
それでも、二度言われた。
最近紅美ちゃんの視線は気にならない。
だって委員長の周りにいることが多くて、私よりずっとずっとたくさん話をしてる。
今までよりたくさん委員長の笑顔を見てる。
自分に向けられる笑顔を近くでたくさん見てるから。
良かったと思う。
私と紅美ちゃんは仲のいい友達のままでいれてる。
だから私は良かったと思ってる。寂しくない。
居心地悪い思いもしないでいられてる。
良かった。
夏休み数日前に友達と花火の話になった。
中学が打ち上げ会場になる地域の花火がある。
前は浴衣を着て家族で出かけていた。
「ねえ、今年は皆で行こうか。」
話しの流れでそんな話になった。
そういえば・・・・花火・・・・・。
そんな約束もあったけど、どこかへ行ったかな。
みんな家族に聞いて許可をもらうことにした。
待ち合わせ場所を決めて、皆で浴衣で集合することになった。
当日の学校はすごく混んでると思うから、近くの公園に一度集合することにした。
お母さんに浴衣を出してもらう予定だった。
去年着た浴衣はすごくお気に入りだった。
サイズは多少変わっても浴衣だから、今年もそれを着る。
お父さんもお母さんと一緒に行くと言っていた。
夏休み、塾の申し込みはお母さんも一緒に行ってくれた。
時間割を貰って、一日おきに午前と午後の二時間。
三週間、きっちりと数学を勉強することになった。
先生は優しそうな若い先生だった。
あんまりたくさん人は集めない。その代わりに個人のレベルにあった内容で教えると言われた。
三週間終わる頃にはレベルアップしてると嬉しい。
自習室もずっと解放してるから自由に使ってもいいと言われた。
夏休み。
学校に来ることはしばらくない。
成績表を貰って、宿題もたくさんもらって、バッグがパンパンになってしまったくらい。
塾の先生に将来どんな人になりたいか聞かれた。
まったくイメージもできない私。
とっさに『お母さんみたいな人。』そう答えてた。
先生がお母さんを見て、お母さんがすごく恥ずかしそうにして。
「しおりがお母さんの事を褒めてくれたみたいでうれしいけど、きっと先生はどんなお仕事をしたいかとか、夢は何かっていう意味で聞いてきたと思うわよ。」
帰り道でお母さんが言った。
「そうかなあ?でも本当だよ。お母さんみたいな人が目標だよ。仕事はまだわからないし、夢もわからない。」
「お姉ちゃんはたくさんあり過ぎて困ったけど、しおりはお姉ちゃんに少し分けてもらっていいくらいね。友達とそんな話しないの?」
「う~ん、しないかなあ。」
「そう、まだ二年生だしね。来年にはもう少し決まってるといいけど。」
「うん、考える。」
自分が自慢できるような得意なことなんて何もない。
平凡なんです。
委員長みたいに教えるのがうまいと先生みたいなお仕事もできそうだけど・・・・って委員長、今は関係ないよね。
首を振る。
本当に関係なから。
委員長にも飲み物のお礼がうまく言えず。
憂鬱な日々は体調のせいばかりじゃない。
なんとなく紅美ちゃんの視線を感じてる。
週末には動物病院に連れて行かないといけない。
手術の事なのに、同じ年の子猫のナオと一路がいるのに、おじいさんにもうまく相談できないまま、委員長にはなおさらだった。
腹痛で休んでた午後の時のプリントを返してもらってなくて、授業が終わったあと担当の先生のところに行くことになっている。もう、どうでもいいくらいなのに。
お腹の痛みのピークは過ぎても体がだるい。
それは毎月の事だった。
嫌になるサイクル。そんなのいらないのに・・・・・。
放課後、なかなか立ち上がろうともせず、みんなには先に帰ってもらった。
ゆっくりと立ち上がり、先生のところに行った。
取りに来るように言った先生がなかなかプリントを見つけられずに、ガサゴソと書類の山を探るのをぼんやり見てるしかなかった。
「おお、あったあった!」
嬉しそうな先生。
私は感動もないです。
説明を受けてプリントを返してもらい職員室を後にした。
のろのろとお辞儀をして、廊下に出ると委員長がいた。
びっくりした。
扉の前から退いたのに、歩き出した私と同じ方向に歩き出した委員長。
少し足取りを早める。
「小坂さん、少し話ししたいんだけど、なんだかおじいちゃんが落ち込んでて。」
そう言われたら止まるしかない。
「分かった。」
教室に戻ったら数人がまだいたから一人で帰るように教室を出た。
校門を出て自分の家の方へ歩く。
しばらくしたら委員長が追いついてきた。
忘れてた、お礼。
「この間保健室に飲み物届けてくれた?ありがとう。ごめんなさい、お礼が遅くなって。」
「ううん、別にいいよ。元気ないね、ナオがあんに乱暴したって聞いて、大丈夫?」
「うん、大丈夫。乱暴とかじゃないから。週末に病院に連れて行って手術を受けることになったの。家の皆が言ってたのに私だけが反対してて。でも仕方ないって思えてきたから。しばらくは遊びに行けないと思う。おじいさんに謝ってもらっていい?びっくりして勝手に帰ってきちゃったから。だから、・・・・じゃあね。」
そう言って、少しだけ顔を見て、向きを変えて走った。
またお腹が少し痛くなってきた気がした。
でもあんはきっともっと痛い思いをするから。
疲れて歩き出して、ゆっくり家に帰った。
いつもはバスを使うけど、すっかりバス停を通り越していた。
歩いてもいいし、いい時間のバスがあったら乗ってもいいかなと思ってた。
委員長は優しい。
あの日かぶっていた赤白ボーダーの帽子。
おじいさんに三匹を預けた日、段ボールに帽子も入れていたら、すっかり一路が気に入って、一人で入って寝ていたらしい。
他の二匹から少し離れてたのに、帽子の中に納まって布団のように体にもかけて顔だけ出ていたらしい。
おじいさんが可愛いからと写真を撮っていた。
『一路は委員長の匂いが好きなんだね。』
そう言った私。
『そうかなあ。うれしいなあ。』
一路を抱き上げて鼻をくっつけていた。
ただ一路はそんな気分じゃなかったらしく、手の平をおでこにつけて突っ張った。
爪も出ていたらしく、痛いと委員長が一路から離れた。
『なんだか嫌がられたんだけど。』
『気のせいだよ。猫は基本ツンデレだから。」
『そうかなあ?』
そんな会話をして笑った。
三匹が大きくなり、大人の猫に成長し始めている。
私たちはあんまり変わらないはずなのに、それでも前みたいに笑えない私、・・・私だけが。
週末はずっとあんの近くにいた。
本当に思ったほど痛がってもいない。
全然気にしてないみたいで、安心した。
ちょっとだけ毛を剃られて傷を縫った痕がある。
ちょっとだけ薬をつけてあげて、もらった薬をご飯に混ぜて飲ませて、来週また連れて行く予定になってる。
先生はあの頃と変わらずに優しかった。
大好きな先生だった。
あんを抱っこして出てきた時も、あんは全然怖がってなかった。
麻酔で少し眠そうだったけど、大人しかったって言われた。
今もお気に入りのソファの上で丸くなって寝ている。
食事も食べられて、薬も飲めてるから心配ないと思う。
それでもずっと近くにいた。
委員長がおじいさんのところに来てるらしい。
携帯に連絡があった。
『あんが手術の後だから側にいたい。』
そう返した。
『おじいさんとナオにもよろしく、一路にも。』
そう付け加えた。
腹痛の期間はすっかり終わって少しだけ元気になる。
前よりは数学が楽しくなった。
まだまだかっこいい!!なんて思わないけど、考えようと思えるようになった。
夏休み、一緒に勉強する予定だったけど・・・・。
「名木君、ここ教えてもらっていい?」
「ああ、そうかあ、分かった。さすがだね。」
クラスで委員長に数学を教えてもらう子が増えた。
単純に宿題を早く終わらせたい子もいるし、本当に教わりたい子もいる。
でも誰でもいいんじゃなくて、委員長だから教わりたい子もいる。
沼田君がうっかり話をしていた女子に言ってしまったのだ。
私と委員長のおじいさんが仲良しで、数学を教えてもらったらしいと。
三匹の猫を分け合ったと。
多分ほとんどの人が知ってるだろう。
だからと言って急に委員長に話しかけることはしない。
そんな私の代わりに話しかけてる女子は思ったよりたくさんいた。
委員長も女の子たちのうれしそうな顔を見ながら楽しそうに教えてる。
感謝と・・・・もっと別の気持ち。
外から聞いてても、見ていても分かりそう。
『皆が数学得意になったら、テストが難しくなっちゃうかも。』
そんな冗談が本当になったりして。
そのままテスト期間に入り、ちょっとだけ数学の成績が伸びた私。
それでも全体的にまだまだだった。
学校から帰ってお母さんとお父さんがいるところで話をした。
「あの、私は勉強が苦手みたい。でも大学に行ってもいいのかな?頑張って勉強して成績が上がったら行ってもいいの?」
二人ともビックリしたみたい。
お姉ちゃんは小さいころから歌手やケーキ屋さんやモデルや女優や写真家やと、無駄にいろんな夢を披露してたらしいけど私は何も言ってない。
だって何も考えてないから。
普通に大学に行って普通に就職して普通に結婚して普通にお母さんになれると思ってた。
でも、もしかしたら私にはその普通も難しいの?
そう思った。
「大学行きたいなら行けばいいのよ。もっと違うことがあったら専門学校でもなんでもいいし。勿論お勉強を頑張らないと大変かもしれないわね。お姉ちゃんはすごく最後に頑張ったのよ。大好きな先輩と同じ大学に行くんだって、そんなきっかけだったけど頑張ったからね。」
「私はまだまだなの。夏休みに塾に行ってちゃんと勉強しようと思ったんだけど・・・・。」
少し分かる様になったら前より興味が出てきた数学。
少しずつ勉強も慣れると少しは楽しくなって少しは賢くなるかもしれない。
そんな伸びしろはたくさんある今の私。
「いいわよ。行きたいところがあるなら話を聞いてパンフレットを貰って来なさい。夏だけのコースもあるし、それでお試ししてもいいんだし。」
「もしかして、しおりはお金の心配をしてるのかな?」
お父さんが聞いてきた。
「ええ~、そんな事だったの?」
お母さんが驚いた。
「ううん、それもそうだけど、いろいろ。だって全然勉強したくないのにお金だけ出してもらって行くのも無駄だから。」
「お姉ちゃんは楽しそうよ。友達もたくさんできるし、絶対無駄にはならないから。塾も大学も、行きたいならいいのよ。」
「ありがとう。ちゃんと計画を立てて勉強する。」
「そう。じゃあ、楽しみにしてるから。」
「うん、ありがとう。」
夏休み、私は一人でも勉強できるように、・・・・委員長に迷惑をかけなくてもいいように夏休み集中コースを申し込んだ。
やっぱりお金はかかる。
結局あんの手術代も出してもらって、私の通帳はそのまま減りもせず。
だからとりあえず数学を選んだ。
そして通ってる子は自習室を使ってもいい事になっていた。
多分私は一生懸命塾に通って勉強するだろう。
おじいさんのところに遊びに行けないくらい、毎日・・・・・。
そんなつもりで夏休み前のテストも頑張った。
本当に点数も全体的に上がってうれしかった。
数学以外もちゃんと勉強したから。
成績表を持って家に帰り、夜にお父さんとお母さんに褒められた。
珍しくお風呂から出てきたお姉ちゃんもビックリした後、中学は簡単だからね・・・・、そう言ったけど、その前にお姉ちゃんよりもいいねって言われてたので全然気にしなかった。
お姉ちゃんよりまじめに頑張る夏休みにはなりそうだった。
あれから平日に一人でおじいさんのところに顔を出すことはあった。
私が籠も持たずにあんも連れて来てないのにちょっとだけガッカリしてたみたいだけど。
代わりにナオはうんと可愛がった。
逞しい男の子になって体も大きい。
ふざけてると本当に爪と牙が痛くて、思わず手を引っ込めることもある。
ちょっと傷だらけになった手。
あんが女の子で良かったってちょっとだけ思ったりして。
「週末、一総が誘っても振られてばかりで来てくれないって寂しがってるけど。数学も教えたいのにって勉強道具も持ってきてるけど。」
さり気なく探られた。
「数学はおかげでいい点を取れました。委員長に感謝です。でもクラスで委員長に勉強を教えてもらう子が増えてて、今度からテストが難しくなるかも。私は夏休みに塾に通って数学が得意になるように頑張る予定です。」
「じゃあ、一総にはもう教わらない?」
「おじいさん、皆が委員長に勉強を教わってたら委員長の勉強が進まないから。」
「・・・・・・楽しみにしてるのに。」
「一緒に勉強してる子はたくさんいます。委員長が忙しいくらいです。夏休みはきっと楽しい予定がたくさんできると思います。今までより話しやすくなってるって言われてるから。」
「そうか。」
「はい。」
私は教室の委員長とクラスメートの笑顔を思い出して元気に答えた。
「そうか。」
それでも、二度言われた。
最近紅美ちゃんの視線は気にならない。
だって委員長の周りにいることが多くて、私よりずっとずっとたくさん話をしてる。
今までよりたくさん委員長の笑顔を見てる。
自分に向けられる笑顔を近くでたくさん見てるから。
良かったと思う。
私と紅美ちゃんは仲のいい友達のままでいれてる。
だから私は良かったと思ってる。寂しくない。
居心地悪い思いもしないでいられてる。
良かった。
夏休み数日前に友達と花火の話になった。
中学が打ち上げ会場になる地域の花火がある。
前は浴衣を着て家族で出かけていた。
「ねえ、今年は皆で行こうか。」
話しの流れでそんな話になった。
そういえば・・・・花火・・・・・。
そんな約束もあったけど、どこかへ行ったかな。
みんな家族に聞いて許可をもらうことにした。
待ち合わせ場所を決めて、皆で浴衣で集合することになった。
当日の学校はすごく混んでると思うから、近くの公園に一度集合することにした。
お母さんに浴衣を出してもらう予定だった。
去年着た浴衣はすごくお気に入りだった。
サイズは多少変わっても浴衣だから、今年もそれを着る。
お父さんもお母さんと一緒に行くと言っていた。
夏休み、塾の申し込みはお母さんも一緒に行ってくれた。
時間割を貰って、一日おきに午前と午後の二時間。
三週間、きっちりと数学を勉強することになった。
先生は優しそうな若い先生だった。
あんまりたくさん人は集めない。その代わりに個人のレベルにあった内容で教えると言われた。
三週間終わる頃にはレベルアップしてると嬉しい。
自習室もずっと解放してるから自由に使ってもいいと言われた。
夏休み。
学校に来ることはしばらくない。
成績表を貰って、宿題もたくさんもらって、バッグがパンパンになってしまったくらい。
塾の先生に将来どんな人になりたいか聞かれた。
まったくイメージもできない私。
とっさに『お母さんみたいな人。』そう答えてた。
先生がお母さんを見て、お母さんがすごく恥ずかしそうにして。
「しおりがお母さんの事を褒めてくれたみたいでうれしいけど、きっと先生はどんなお仕事をしたいかとか、夢は何かっていう意味で聞いてきたと思うわよ。」
帰り道でお母さんが言った。
「そうかなあ?でも本当だよ。お母さんみたいな人が目標だよ。仕事はまだわからないし、夢もわからない。」
「お姉ちゃんはたくさんあり過ぎて困ったけど、しおりはお姉ちゃんに少し分けてもらっていいくらいね。友達とそんな話しないの?」
「う~ん、しないかなあ。」
「そう、まだ二年生だしね。来年にはもう少し決まってるといいけど。」
「うん、考える。」
自分が自慢できるような得意なことなんて何もない。
平凡なんです。
委員長みたいに教えるのがうまいと先生みたいなお仕事もできそうだけど・・・・って委員長、今は関係ないよね。
首を振る。
本当に関係なから。
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