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20 あんの誕生日、前日、二年生最後の日
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大きな行事が終わると後は淡々と日々は過ぎて行く。
少しづつ寒くなり、あっという間に忙しい季節が過ぎ、少しづつ三年生になった自分の事を考えたりする。
相変わらず時々図書室で勉強していて。
成績もいい感じのところで安定するくらいになった。
それでも自分が何になりたいか見つけられずにいた。
「お母さん、まだ私はやりたいことが見つからない。」
「そうね、とりあえずはせっかく成績上がったんだから、あと一年もその調子で頑張って、高校に受かってから考えてもいいんじゃない?」
「そうかな。」
「友達が変われば、またいろんな環境も変わるからね。」
「うん。」
三年になるとまた友達が変わる。
そうだと思う。
今の仲間も一年の時の友達とは違う。
一年の時の友達も時々は連絡してるけど、学校で会ったら手を振るくらいはするけど。
そういえば会ってないかもしれない。
むしろ萌ちゃんと会ってるのが珍しいくらいなのだ。
三週間の仲間が、学校の友達より濃いなんて。
それはきっとお互いの理由によるものだろう。
この間、ふいに委員長の事を聞かれた。
「ねえ、委員長とはどこに出かけてるの?」
「え、・・・・なんで?」
どうしてそんな話になってるの?
水族館に行っただけ。
友達とのあれこれとかは一切話してないから、全然知らないと思う。
むしろ最近はまったく委員長の事を話題にもしないのに。
ごくまれにおじいさんとナオの事を話すくらいなのに。
でも萌ちゃんは、まったく気がついてないみたいで。
「だって気になるから。全然教えてくれないけど、ちょっと知りたいなあって。」
「全然会ってないよ、話しも一度もしてない。二回くらい連絡があっただけ。ただのクラスメートだよ。」
「なんで?」
萌ちゃんが本当に驚いた顔をする。
「萌ちゃんこそ、なんで。そんな話してないよ。」
「そうだけど・・・・・てっきり・・・・・。ごめんね、でも何で?しおりちゃん、仲良くしたいんじゃないの?」
そう言う萌ちゃんの顔が悲しそうだった。
自分の顔も同じような表情なのだろうか?
「うん・・・・そうだね。本当は・・・そう。」
今、自分は認めた。
本当は仲良くしたい。話をしたり、一緒にナオとおじいさんと時間を過ごしたい。
それは決して変なことじゃない、無理なことでもない。
でも・・・・・出来ない事はある。
萌ちゃんに話した。
自分の家に来てもらって、あんと一緒にのんびりとしているときだった。
お母さんもお父さんもいなくて、だから週末の自宅に誘ってみた。
話しをしながら自分の話してる声が、萌ちゃんの相槌の声が、両方湿っぽくなってきた。
「そんなの・・・・おかしいよ。」
一言、言われた。
「ねえ、その友達の沼田君が言うように、三年生になったら仲良くすればいいよ。遠慮しなくていいから。もともと必要ないのに。」
そう簡単じゃない気がする。
どうなんだろう。
だってあれから随分経っているし。
そして萌ちゃんが自分の話もしてくれた。
萌ちゃんもクラスで浮いてしまったらしい。
「私は『お一人様』なの。」
「クラス替えの最初の頃に、グループの子を怒らせたの。そんなつもりじゃなかったのに、私の言葉がその子を傷つけたらしいの。知らなかったことなのに・・・・、そんな事だったけど、今でも許されてない。同じかな、そんな変な雰囲気だったから、自分から離れて、お一人様のできあがり。」
やっぱり似ているかもと思ってた。
「すっかり慣れたけど。」
そう明るい顔になって言う。
「夏休み、ちょっと離れた塾に行って、しおりちゃんと仲良くなれて、すごくうれしかった。新しい友達が出来たんだから。出かけたり、ご飯食べたり、ここに来たり、凄い楽しい、ありがとう。」
「でもね、やっぱり学校にも友達が欲しいの。だから三年になったら、新しいクラスで作るつもりだよ。」
今度こそさっきよりも明るく笑う萌ちゃん。
楽しみだって言ってるみたいな笑顔。
「だからって言うんじゃないけど、しおりちゃんも少し自分に素直になってね。連絡来たら会うんだよ。おじいさん家にいるのに気がついたら、知らないふりしておじいさんを訪ねて行けばいいよ。」
「さすがにそれは・・・・出来るかなあ・・・・。」
私も笑顔で言う。
出来るかもって、少しは思ってもらうような笑顔で、そうするねって言う笑顔で。
萌ちゃんがいてくれてよかったと思う。
多分お互いに近いのか遠いのか微妙な距離だから。
そうじゃなかったらやっぱり委員長の事は言えなかった思うから。
同じクラスのメンバーもあと少し。
グループの間でもそんな話は出る。
でもそんなマンモス学校じゃなくて、クラスは5クラス。
だから女子の中でも二人くらいは必ず来年も一緒のクラスになるだろう。
私は一年の時に同じクラスだった女子はいたけど、すごく仲がいい訳ではなかった。
副委員長と、あと少し。
だから今のメンバーは二年になって知り合った子。
三年になったらどうなるんだろう。
一年の時の仲良しの子と一緒になったら、その子とまた仲良くできるんだろうか?
もちろん一緒のクラスが続いた男子もいる。数人。
「三年になったら、塾に行かなきゃいけない。なんだか成績が落ちたって言われたから、強制的に入れられそう。」
「たいてい皆行くんじゃない?しおりは?」
「私は、お金かかるから、出来るだけ自分でやるようにしてる。図書室で本を見ながらやるようにしてる。」
「誰か教えてくれる人がいるとか?」
さり気なく聞かれた。
ちょうど紅美ちゃんがいないから、少しだけホッとしている。
「ううん、塾で仲良くなった先輩が夏の間は教えてくれて、それで随分覚え方とか分かってきて、今は前よりは楽に覚えられるようになった。」
「そんな事あったの?」
「だって全然、勉強の仕方が分からなくて、夏の間通っただけでも成績上がったよ。」
「みんな行きたい高校あるんだよね?」
「そうだね。何度か話し合ってる。私立の方がいいって言っても、ちょっと授業料高いし。付属狙いは相当頑張らないと。」
「私は私立は無理だなあ。まだ弟も続くし、あんまり勉強も好きじゃない。」
なんだか本当に最後の一年が先を決めるような気がしてくる。
まだ何も決めてない。
高校は近くの公立高校でもいいと思ってたのに。
皆そこから違うのかも?
お姉ちゃんに聞いてみようと思った。
一度は考えただろうから。私はお姉ちゃんと同じ高校でいいと思ってる。
お姉ちゃんが帰ってくる時間はバラバラ。
バイトもしてるから、遅くなることが多い。
でも時々はデートだと思う。
なんとなんと、まだリョウさんと仲良しらしい。
週末はリョウさんと会ってるし、バイトは入れてないみたい。
お姉ちゃんの部屋のドアに手紙を挟んだ。
『時間のある時に相談がある』と。
夜、勉強してたら部屋のドアがノックされながら開いた。
「なんでこんな古典的な呼び出し?」
「何が?」
「個人的にでもメッセージくれれば早く帰って来たのに。これじゃあ部屋に着くまで気がつかないじゃない。」
「そんなに急ぐことじゃないから。その内にって事で。」
「お母さんたちには内緒なの?」
「う~ん、別に、そう言うわけじゃない。高校の事を聞きたかったの。」
「ああ、そんな事?なんだあぁ。」
ガッカリしたようにベッドに座る。
気がついてすぐ来てくれたみたいで、まだお風呂にも入ってないみたい。
「どこに行けばいいのかな?お姉ちゃんと同じところでもいいと思ってたのに、私立とか大学の付属とか、友達はもっとちゃんと考えてた。近い所でいいやって思ってたのに。」
「大分成績上がったから、いい所に行った方が後々楽よ。付属ならもっと楽かもしれない。私は途中からやる気出して塾通いしたけど、しおりは一人で出来るなら、付属でもいいかもよ。塾の分入れたら私も結構最後にはお金かけたから。大学もたくさん受けたりしたし。やっぱりお母さんとお父さんと相談してみたら。」
「うん。そうしてみる。」
「ねえ、かずさ君と同じところにはいかないの?」
顔が上がる。
首を振る。
「どこに行くか知らない。」
「そうなの?ちょっと難しいかな。やっぱり頭いいんだね、委員長は。」
知ってる風に言う。
おじいさんに聞いたとか?
もっともっとランクの上のところに行くことは分かった。
頭がいいから。
時々だけど、沼田君と話をする。
図書室だったり、人が少ない教室だったり。
教室はともかく、図書室は明らかに目的がなさそう。
私と話をしたらすぐ帰る。
「ねえ、小坂さんは三年になるのは楽しみ?」
「・・・どうだろう?」
いろいろ考えることが増えそうでちょっと焦ったりもするし。
「あんまり。」
「そうなんだ。」
「沼田君は楽しみそうだね。」
「そうでもないよ。今度違うクラスになったら自分で宿題やらなくちゃいけなくなる・・・・憂鬱だよ。」
委員長の宿題を写してるのは知ってる。
一年から同じクラスらしいから。
でも、それって、大丈夫?
「ねえ、沼田君は行きたい高校あるの?」
「僕はかずさと違って頭いい訳じゃないから、そんな偉そうには選べない。」
「委員長は、すごく難しい所に行くのかな?」
そう聞いてみた。
ちょっとだけ気合を入れて聞いた質問だった。
そのまま答えの出ない沼田君と見つめ合って。
何か聞いたらいけない事だった・・・・とか?
そう思ってたら笑顔で答えられた。
「僕はハッキリわからない。直接聞いて。」
そう言って、じゃあねといなくなった。
教えてはもらえなかった。
聞けるわけないのに。
そして最後の試験があり、終わったらあとは終業式まで淡々と授業が進む。
成績は前ほど上がることもないけど、ここのところずっと横ばいでいいと思う。
これが私の実力だろう。
ここまで上がった自分に拍手!!
委員長と副委員長の提案で、終業式の後に教室でおやつパーティーをしようということになった。
当然反対する人はいない。いろんな事情で参加できない人はしょうがない。
塾や家庭の都合や、先約や。
元々言い出したのは違う人だったらしい。
クラスでのイベントだからと最後の役割のように委員長と副委員長が司会をしてるだけらしい。
「おやつの買い出し、ジュースの買い出し。前日の放課後までにお願いしたいです。」
「職員室の冷凍室を借ります。」
あとそのほか、紙コップと、お皿の買い出し、お菓子の盛り付け係。
黒板にメッセージを書く係。
記念撮影係。
全ての精算をする会計係。
「担任、副担任から善意の寄付もありました。」
教室を使う許可を取った時にもらったらしい。
先生たちは招待されないらしい。
お気の毒に。
「机の準備と後かたずけは残りの皆で。後、個人的に芸を披露したい人は各自でどうぞ。」
いるんだろうか、そんな人?
私はおかしの買い出しを副委員長と他何人かで担当した。
前日の放課後にスーパーに買い出しに行って
会計係にレシートを渡す。
ひたすらお菓子の名前が並んだ長いレシートだった。
皆で両手パンパンに膨らんだ袋を下げて教室に戻り、後ろの空っぽの棚に押し込んだ。
後は明日適当に皿に盛るだけで私の役目は終わりだった。
皆で一緒に帰った。
校門出たところで別れる子もいたけど、数人は同じ方向で。
最近バスには乗らずにのんびりと歩いて帰ることが多くなっていた。
雨の日はバスを使う。
人が減って行って、最後の子とも別れて、住宅街を歩く。
途中の公園で足が止まった。
あの時に暗がりから出てきた委員長にビックリした事を思い出した。
急に浴衣を着ていて、暗かったから本当に顔だけが見えた感じだった。
よく悲鳴をあげなかったな。
ちょっとだけ懐かしく思い出して、そのまま中に入ることもなく、まっすぐ帰った。
二年生、最後の日。
目が覚めて、ベッドに腰かけて。
頭の中に沼田君の声がした。
『ねえ、小坂さんは三年になるのは楽しみ?』
どうなんだろう。
それでも今日でクラスがバラバラになるんだと思うと少し寂しい。
思い出した顔は昨日ワイワイと言いながら一緒に買い出しの時にいた副委員長や友達グループ、最近は話はしてないけど紅美ちゃんもいた。
沼田君や、もちろん委員長も。
形ばかりの終業式が終わり、宿題もない春休み。
先生にみんなでお礼を言った。
委員長の号令で、寄付のお入れも含めてお礼を言った。
成績が上がったと喜んでくれた先生。
一人ぼっちの時にはさりげなく理由を聞いてくれた。
いじめが始まったのかと心配しただろう。
あの後、元のグループにいるのを見てホッとしただろう。
高校の話も少し相談した。
このまま頑張ればいろんな選択肢があるから、来年の半分くらいまでにゆっくり考えても大丈夫だと言われた。
決して焦らせることはない、すごくいい先生だったと思う。
お母さんも信頼してたみたいだし。
大きな紙袋に入った手紙とプレゼントを渡して、泣きそうな先生と私たち。
先生にプレゼントを贈る案はずっと前に出ていて、女子数人が買い出しに行っていた。
それに皆が便箋に手紙を書いて封筒に入れて、紙袋に集めた。
色んな封筒がたっぷりとつまった封筒も重いかもしれない。
本気で泣きだす前に先生も職員室に戻った。
その後は委員長の号令で皆が一斉に机を動かす。
たくさんの島を作り、私たち買い出し隊は後ろに行って紙皿にどんどんお菓子を開けていく。
先生の机では紙コップが並べられて、職員室からとってきた氷とジュースが注がれていった。
それぞれ適当な場所で好きな飲み物の紙コップを持ち、乾杯。
ぼりぼりとあちこちでお菓子を食べる音がする。
こうやって皆で食べるのなんて初めて。
しばらく食べて飲んで。
お菓子とジュースだけど、思いっきり立ち食い立ち飲み。
誰が一芸披露なんてしたいんだろうって思ったのに。
・・・・いたらしい。
わざわざ練習したメンバー。
しかもかなり秘密裏に。
言い出しっぺの子が入ってる当たり、どうも自分たちのショーをやりたかったらしい。
それなりに練習の成果が披露されて、盛り上がった。
両隣の教室にはうるさかったかもしれない。
ギターとボーカル。ちょっとした打楽器みたいなもの。
楽しそうだった。
本人たちが楽しそうな顔だった。
そしていろいろあったけど私にとっても間違いなく一番楽しい年だった気もする。
あんと出会い、委員長と出会い、おじいさんと仲良く出来て、お姉ちゃんの彼氏も初めて紹介されて、萌ちゃんという大切な友達もできて、沼田君とも喋るようになって。
委員長とは喋らなくなったのに、結局紅美ちゃんとは一言もしゃべってない。
大切な猫友を一人失くした代わりに、女の子の友達を選んだつもりだったのに、 紅美ちゃんは委員長を選んだと言うことだろう。
本当に数回だけど二人が話をしている声を聞いた気がする。
それはどうぞ、私が何も言うことではないです。
でも、私とは結局話をすることはなかった。
本当に一番楽しい年だったのだろうか?
ちょっと自信がなくなってきた。
でもあんと萌ちゃんは大切。
おじいさんも。
成績も上がったし、やっぱりいい年だったよね。
こんな二年生の頃のメンバーで同窓会なんてやらないだろうから、このメンバーで集まるのは最後。
そう思ったら泣きそうになる。
せめて三年生だったら、また会えた。
数年後、何もかもまっさらな状態に戻って、懐かしいねって、変わってないねって会えるのに。
「しおりちゃん、そんなに感動?泣いてるよ。」
副委員長がそばに来てくれた。
お菓子係だったからそのまま後ろの方にいた。
まだ余ってるから、少ないテーブルには追加してもいい。
そう思ってここにいた。
下を向いてこっそり涙を拭く。
「何だか寂しくなった。さっきの先生の泣き顔を思い出したら、泣けてきた。」
「そう?三年間一緒のクラスってことあるかな?」
私と副委員長だ。
「どうだろう。次も一緒だったらよっぽど縁があるね。副委員長、すごく気を遣ってくれたし、信頼できる。すごく好き、いい人。」
「私も好きだよ。あんまり一緒にはいないけど、さり気なく気遣いが出来るのは分かってる。だからここ居るんでしょう?まだお役目背負ってるでしょう?」
半分はそう。
でも半分は、もうあのグループに執着しなくていいんだって思って。
来年は来年で違う友達と一緒にいるんだって思ったら、少しだけどうでも良くなったから。
でもそれはバレたくない。自分の黒い感情・・・・。
曖昧に笑ったまま誤魔化す。
「もし来年も一緒だったら、もっと仲よくしよう。」
「うん。すごく楽しみになった。」
本当にそう思った。なんだかいろいろ刺激をくれそう。
「良かった。笑った方が可愛いから。」
「ありがとう。」
他には一芸発表はいなかった。
一通り満足したらしく片づけをして、後ろに楽器たちを置いている。
「は~、スッキリした。」
「なかなかうまく行ったよね。」
「俺たち、ここ一、本番に強いタイプじゃん。」
楽しそうな会話だ。
静かにそこを離れてみんなの所に行った。
「しおり、春休み遊ぼう。」
「うん。今のところ予定は少しだけだから、大丈夫だと思う。」
「塾に行く子もいるし、遠出は無理だねって話をしてたの。またフェミレスだね。」
「海行きたいなあ。」
「夏でもないのに?」
「そうか、でも夏は人多いし。せっかく宿題ないし、新学期の少し前行かない?海!」
皆の視線が二人に向く。塾に行く予定の二人かもしれない。
「4月ならなんとかなるかも。」
「うん、私も。」
「じゃあ、予定決めちゃおう。」
私も萌ちゃんと遊んだり、姉の掃除に駆り出されたり、お母さんと出かけたり。
今なら空けられる。
新学期二日前に予定して、昼前に着くように出かけることをざっくりと決めた。
後は電車の中で決めようと。
私もどうせすることがない日は図書室に行こうと思ってる。
『一番の趣味が勉強になりつつある?』
この間お姉ちゃんに聞かれた。
元々列挙するほど趣味はないから。
一番も二番もないのに。
それでも休みの間はたっぷりあんとも遊べる。
そう言う意味でも本当に楽しみになってきた。
ある程度お菓子もなくなった。
びっくりだ。
様子を見に来たら、後ろの棚に置いてあったものもいつの間にか空袋になっていた。
足りなくて勝手に追加したらしい。
沼田君が横に来た。
「すぐ三匹の猫たちの誕生日だね。」
そう言われた。
ああ、ちょっと忘れてた。
323でおじいさんの奥さんのナオさんの誕生日。
「三匹集合したら喜ぶんじゃない?久しぶりでしょ?」
「・・・うん。」
そんな予定は今のところない。
あんを外に出すことは本当にない。
ナオと違って窓辺にいることもないし、外に出たいそぶりを見せることもない。
いつも決まった自分の好きな場所にいるだけ。
「沼田君は呼ばれてるの?」
「え?誕生会?まさか・・・・。」
そうやって笑う。
「ねえ、前に言ったこと覚えてる?この学年が終わる頃にはどうかなって、あの時は思いっきり首を振られたけど。」
沼田君の顔を見た。
何度か話しかけられてたりしても、沼田君が私に興味を持ってるなんて思ってもいないから。
なんとなく特定の人の為かなって思ってたりしてた。
やっぱりそうだったんだ。
「分からない。」
「そう、前の時の返事よりは、なんとなくうれしいかも。少し希望があるような気がする。」
そんな事を思われても困るけど。
「じゃあ。またね。」
そう言っていなくなった。
もう喋ることはないのかもしれない。
沼田君とも、委員長とも。
クラスが違ったら、それにもう『委員長』でもなくなる。
もう、・・・ないと思う。
沼田君の背中を見ていたけど、誰のところに行くか分かったから視線を外した。
「ねえ、何で?何で沼田君なの?酷いことするよね。」
ビックリした。私に向けられた言葉。
もうずっと聞いてなかった気がする声。
だって本当に私にその声が向いたのなんて、夏以来・・・・・。
すごい久しぶりなのに、それはとても友達としての会話じゃなかった。
表情も、その目も、口調だって、全然許されてないと分かった。
でもその内容は違う。
「沼田君は時々話しかけてくれるから、ちょっとだけ話をするだけだよ。」
そんなに見られてるとも思ってなかった。
だって一人の時が多いし、さり気なく話をするだけ。
聞かれても困らない程度の会話。
何で怒るの?
「そうやって名木君の友達と無邪気に話してるのを見せつけるんだ。」
ビックリした。
そんなんじゃないのに・・・・・。
そう言う前に言われた。
「だから大嫌い。顔も見たくないくらい大嫌い。」
そう言って背中を向けられた。
あんまり仲良くない私でも大好きだって言ってくれた副委員長。
もっともっと仲良かったはずなのに、大嫌いだって。
顔も見たくないって言われたら、さっきした海に行く約束なんて行けるわけない。
行けない。
そこまで嫌われたの?
俯いてた間にクラス会を締めくくられた。
委員長じゃなかった。副委員長だった。
最後まで頼もしい人。
委員長の良き相棒。
手早くゴミ袋が出てきてゴミが回収される。
私はそのまま後ろを向いてゆっくり空き袋のゴミを集めてた。
それを目の前に来た袋に落とした。
顔もあげずに。
「大丈夫?」
それは委員長だったらしい。
顔も見ずに軽くうなずいただけ。
「そう。」
そう言っていなくなった。
終わったら箒が出てきて軽く掃除して、机を元に戻して終わりの合図とともにお開きになった。
ゴミ当番がゴミを捨てに行っただろう。
ペットボトルは洗ってつぶしてスーパーへ。
それぞれ担当した人がいて、手際がいい。
私は後ろのドアから廊下に出て急いで帰った。
お願いします。
紅美ちゃんと同じクラスになりませんように。
委員長とも副委員長とも別れていいので、紅美ちゃんとは一緒のクラスになりませんように。
家に帰って自分の部屋に閉じこもった。
あんに挨拶もしてない。
今日は無理。ごめんね。
最後の最後に向けられた否定の言葉は深く刺さったみたいで、心が痛い。
おやつを食べてお腹も空かない。
夜ご飯は断った。
お母さんが買い物をするより先に連絡した。
沼田君を恨んじゃいけない。
気を遣って話しかけてくれたんだから。
沼田君を恨んじゃいけない。
そう繰り返し自分に言い聞かせた。
あんなに誤解されないようにって、そう思ってたのに、気を付けてたのに。
委員長の友達なのに、何でそう思うのか分からない。
少しも分からない。
シャワーだけ浴びて着替えをした。
洗濯物を取りこんで、たたんで、いつもの場所に置いておいた。
顔をあげたあんを軽く撫でてまた部屋に戻った。
そしてそのまま布団をかぶって目を閉じた。
目が覚めた時、まだ夜早い時間だった。
隣の部屋は静かで、ドアを開けると下からはテレビの音がかすかに聞こえて、お姉ちゃんの声もした。
鏡で顔を見る。
可哀想なくらいの暗い顔の自分が見返してきた。
文句を言いたい。
沼田君じゃなくて、紅美ちゃんに。
『関係ないじゃない。』
そう言い切りたかった。
だって本当に関係ない。
そもそも誤解だし。
携帯に連絡があったみたいだ。
委員長からだった。
『明後日、誕生会やりたいんだけど。あんを連れて参加してくれるのは、無理かな?』
沼田君が言ってたお誕生会のお誘いだった。
主役の三匹が集合出来ないかなって、それは当然の誘いかも。
でも私じゃ無くてもいい、主役はあんとナオと一路だから。
私が行かないと二人と二匹はあんに会えない・・・・でもそうじゃないって気がついた。
本当は私だって行きたい、すごく行きたいけど。
あんは違う方法で参加することもできるんだ・・・・・。
『お姉ちゃん、明後日忙しいですか?』
『何?起きてるなら降りて来ればいいのに。』
『あん達の誕生日なの。二人と二匹がおじいさん家で待ってる。時間があったらあんを連れて行って遊んで来てほしい。』
『何で私なの?しおりは行かないの?』
『私は行けないから頼んでる。』
『ただじゃ行かない。お礼は?』
『なんでも、出来ることならなんでもします。』
『了解。』
『お願いします。』
その後は何も聞かれなかった。
おじいさんに直接連絡を取ったのかもしれない。
良かった。とりあえずあんは2人と二匹に会える。
久しぶりだし、楽しんで来ればいい。
二人に撫でてもらって、ゴロゴロと体を擦り付けて、私の分もお姉ちゃんと楽しんで来ればいい。
携帯の電源を落としてまた布団をかぶった。
萌ちゃんは新しい学年を楽しみにしてるから。
私は萌ちゃんと会うまでには元気になりたい。
あん達の誕生日は静かに近づいてきた。
少しづつ寒くなり、あっという間に忙しい季節が過ぎ、少しづつ三年生になった自分の事を考えたりする。
相変わらず時々図書室で勉強していて。
成績もいい感じのところで安定するくらいになった。
それでも自分が何になりたいか見つけられずにいた。
「お母さん、まだ私はやりたいことが見つからない。」
「そうね、とりあえずはせっかく成績上がったんだから、あと一年もその調子で頑張って、高校に受かってから考えてもいいんじゃない?」
「そうかな。」
「友達が変われば、またいろんな環境も変わるからね。」
「うん。」
三年になるとまた友達が変わる。
そうだと思う。
今の仲間も一年の時の友達とは違う。
一年の時の友達も時々は連絡してるけど、学校で会ったら手を振るくらいはするけど。
そういえば会ってないかもしれない。
むしろ萌ちゃんと会ってるのが珍しいくらいなのだ。
三週間の仲間が、学校の友達より濃いなんて。
それはきっとお互いの理由によるものだろう。
この間、ふいに委員長の事を聞かれた。
「ねえ、委員長とはどこに出かけてるの?」
「え、・・・・なんで?」
どうしてそんな話になってるの?
水族館に行っただけ。
友達とのあれこれとかは一切話してないから、全然知らないと思う。
むしろ最近はまったく委員長の事を話題にもしないのに。
ごくまれにおじいさんとナオの事を話すくらいなのに。
でも萌ちゃんは、まったく気がついてないみたいで。
「だって気になるから。全然教えてくれないけど、ちょっと知りたいなあって。」
「全然会ってないよ、話しも一度もしてない。二回くらい連絡があっただけ。ただのクラスメートだよ。」
「なんで?」
萌ちゃんが本当に驚いた顔をする。
「萌ちゃんこそ、なんで。そんな話してないよ。」
「そうだけど・・・・・てっきり・・・・・。ごめんね、でも何で?しおりちゃん、仲良くしたいんじゃないの?」
そう言う萌ちゃんの顔が悲しそうだった。
自分の顔も同じような表情なのだろうか?
「うん・・・・そうだね。本当は・・・そう。」
今、自分は認めた。
本当は仲良くしたい。話をしたり、一緒にナオとおじいさんと時間を過ごしたい。
それは決して変なことじゃない、無理なことでもない。
でも・・・・・出来ない事はある。
萌ちゃんに話した。
自分の家に来てもらって、あんと一緒にのんびりとしているときだった。
お母さんもお父さんもいなくて、だから週末の自宅に誘ってみた。
話しをしながら自分の話してる声が、萌ちゃんの相槌の声が、両方湿っぽくなってきた。
「そんなの・・・・おかしいよ。」
一言、言われた。
「ねえ、その友達の沼田君が言うように、三年生になったら仲良くすればいいよ。遠慮しなくていいから。もともと必要ないのに。」
そう簡単じゃない気がする。
どうなんだろう。
だってあれから随分経っているし。
そして萌ちゃんが自分の話もしてくれた。
萌ちゃんもクラスで浮いてしまったらしい。
「私は『お一人様』なの。」
「クラス替えの最初の頃に、グループの子を怒らせたの。そんなつもりじゃなかったのに、私の言葉がその子を傷つけたらしいの。知らなかったことなのに・・・・、そんな事だったけど、今でも許されてない。同じかな、そんな変な雰囲気だったから、自分から離れて、お一人様のできあがり。」
やっぱり似ているかもと思ってた。
「すっかり慣れたけど。」
そう明るい顔になって言う。
「夏休み、ちょっと離れた塾に行って、しおりちゃんと仲良くなれて、すごくうれしかった。新しい友達が出来たんだから。出かけたり、ご飯食べたり、ここに来たり、凄い楽しい、ありがとう。」
「でもね、やっぱり学校にも友達が欲しいの。だから三年になったら、新しいクラスで作るつもりだよ。」
今度こそさっきよりも明るく笑う萌ちゃん。
楽しみだって言ってるみたいな笑顔。
「だからって言うんじゃないけど、しおりちゃんも少し自分に素直になってね。連絡来たら会うんだよ。おじいさん家にいるのに気がついたら、知らないふりしておじいさんを訪ねて行けばいいよ。」
「さすがにそれは・・・・出来るかなあ・・・・。」
私も笑顔で言う。
出来るかもって、少しは思ってもらうような笑顔で、そうするねって言う笑顔で。
萌ちゃんがいてくれてよかったと思う。
多分お互いに近いのか遠いのか微妙な距離だから。
そうじゃなかったらやっぱり委員長の事は言えなかった思うから。
同じクラスのメンバーもあと少し。
グループの間でもそんな話は出る。
でもそんなマンモス学校じゃなくて、クラスは5クラス。
だから女子の中でも二人くらいは必ず来年も一緒のクラスになるだろう。
私は一年の時に同じクラスだった女子はいたけど、すごく仲がいい訳ではなかった。
副委員長と、あと少し。
だから今のメンバーは二年になって知り合った子。
三年になったらどうなるんだろう。
一年の時の仲良しの子と一緒になったら、その子とまた仲良くできるんだろうか?
もちろん一緒のクラスが続いた男子もいる。数人。
「三年になったら、塾に行かなきゃいけない。なんだか成績が落ちたって言われたから、強制的に入れられそう。」
「たいてい皆行くんじゃない?しおりは?」
「私は、お金かかるから、出来るだけ自分でやるようにしてる。図書室で本を見ながらやるようにしてる。」
「誰か教えてくれる人がいるとか?」
さり気なく聞かれた。
ちょうど紅美ちゃんがいないから、少しだけホッとしている。
「ううん、塾で仲良くなった先輩が夏の間は教えてくれて、それで随分覚え方とか分かってきて、今は前よりは楽に覚えられるようになった。」
「そんな事あったの?」
「だって全然、勉強の仕方が分からなくて、夏の間通っただけでも成績上がったよ。」
「みんな行きたい高校あるんだよね?」
「そうだね。何度か話し合ってる。私立の方がいいって言っても、ちょっと授業料高いし。付属狙いは相当頑張らないと。」
「私は私立は無理だなあ。まだ弟も続くし、あんまり勉強も好きじゃない。」
なんだか本当に最後の一年が先を決めるような気がしてくる。
まだ何も決めてない。
高校は近くの公立高校でもいいと思ってたのに。
皆そこから違うのかも?
お姉ちゃんに聞いてみようと思った。
一度は考えただろうから。私はお姉ちゃんと同じ高校でいいと思ってる。
お姉ちゃんが帰ってくる時間はバラバラ。
バイトもしてるから、遅くなることが多い。
でも時々はデートだと思う。
なんとなんと、まだリョウさんと仲良しらしい。
週末はリョウさんと会ってるし、バイトは入れてないみたい。
お姉ちゃんの部屋のドアに手紙を挟んだ。
『時間のある時に相談がある』と。
夜、勉強してたら部屋のドアがノックされながら開いた。
「なんでこんな古典的な呼び出し?」
「何が?」
「個人的にでもメッセージくれれば早く帰って来たのに。これじゃあ部屋に着くまで気がつかないじゃない。」
「そんなに急ぐことじゃないから。その内にって事で。」
「お母さんたちには内緒なの?」
「う~ん、別に、そう言うわけじゃない。高校の事を聞きたかったの。」
「ああ、そんな事?なんだあぁ。」
ガッカリしたようにベッドに座る。
気がついてすぐ来てくれたみたいで、まだお風呂にも入ってないみたい。
「どこに行けばいいのかな?お姉ちゃんと同じところでもいいと思ってたのに、私立とか大学の付属とか、友達はもっとちゃんと考えてた。近い所でいいやって思ってたのに。」
「大分成績上がったから、いい所に行った方が後々楽よ。付属ならもっと楽かもしれない。私は途中からやる気出して塾通いしたけど、しおりは一人で出来るなら、付属でもいいかもよ。塾の分入れたら私も結構最後にはお金かけたから。大学もたくさん受けたりしたし。やっぱりお母さんとお父さんと相談してみたら。」
「うん。そうしてみる。」
「ねえ、かずさ君と同じところにはいかないの?」
顔が上がる。
首を振る。
「どこに行くか知らない。」
「そうなの?ちょっと難しいかな。やっぱり頭いいんだね、委員長は。」
知ってる風に言う。
おじいさんに聞いたとか?
もっともっとランクの上のところに行くことは分かった。
頭がいいから。
時々だけど、沼田君と話をする。
図書室だったり、人が少ない教室だったり。
教室はともかく、図書室は明らかに目的がなさそう。
私と話をしたらすぐ帰る。
「ねえ、小坂さんは三年になるのは楽しみ?」
「・・・どうだろう?」
いろいろ考えることが増えそうでちょっと焦ったりもするし。
「あんまり。」
「そうなんだ。」
「沼田君は楽しみそうだね。」
「そうでもないよ。今度違うクラスになったら自分で宿題やらなくちゃいけなくなる・・・・憂鬱だよ。」
委員長の宿題を写してるのは知ってる。
一年から同じクラスらしいから。
でも、それって、大丈夫?
「ねえ、沼田君は行きたい高校あるの?」
「僕はかずさと違って頭いい訳じゃないから、そんな偉そうには選べない。」
「委員長は、すごく難しい所に行くのかな?」
そう聞いてみた。
ちょっとだけ気合を入れて聞いた質問だった。
そのまま答えの出ない沼田君と見つめ合って。
何か聞いたらいけない事だった・・・・とか?
そう思ってたら笑顔で答えられた。
「僕はハッキリわからない。直接聞いて。」
そう言って、じゃあねといなくなった。
教えてはもらえなかった。
聞けるわけないのに。
そして最後の試験があり、終わったらあとは終業式まで淡々と授業が進む。
成績は前ほど上がることもないけど、ここのところずっと横ばいでいいと思う。
これが私の実力だろう。
ここまで上がった自分に拍手!!
委員長と副委員長の提案で、終業式の後に教室でおやつパーティーをしようということになった。
当然反対する人はいない。いろんな事情で参加できない人はしょうがない。
塾や家庭の都合や、先約や。
元々言い出したのは違う人だったらしい。
クラスでのイベントだからと最後の役割のように委員長と副委員長が司会をしてるだけらしい。
「おやつの買い出し、ジュースの買い出し。前日の放課後までにお願いしたいです。」
「職員室の冷凍室を借ります。」
あとそのほか、紙コップと、お皿の買い出し、お菓子の盛り付け係。
黒板にメッセージを書く係。
記念撮影係。
全ての精算をする会計係。
「担任、副担任から善意の寄付もありました。」
教室を使う許可を取った時にもらったらしい。
先生たちは招待されないらしい。
お気の毒に。
「机の準備と後かたずけは残りの皆で。後、個人的に芸を披露したい人は各自でどうぞ。」
いるんだろうか、そんな人?
私はおかしの買い出しを副委員長と他何人かで担当した。
前日の放課後にスーパーに買い出しに行って
会計係にレシートを渡す。
ひたすらお菓子の名前が並んだ長いレシートだった。
皆で両手パンパンに膨らんだ袋を下げて教室に戻り、後ろの空っぽの棚に押し込んだ。
後は明日適当に皿に盛るだけで私の役目は終わりだった。
皆で一緒に帰った。
校門出たところで別れる子もいたけど、数人は同じ方向で。
最近バスには乗らずにのんびりと歩いて帰ることが多くなっていた。
雨の日はバスを使う。
人が減って行って、最後の子とも別れて、住宅街を歩く。
途中の公園で足が止まった。
あの時に暗がりから出てきた委員長にビックリした事を思い出した。
急に浴衣を着ていて、暗かったから本当に顔だけが見えた感じだった。
よく悲鳴をあげなかったな。
ちょっとだけ懐かしく思い出して、そのまま中に入ることもなく、まっすぐ帰った。
二年生、最後の日。
目が覚めて、ベッドに腰かけて。
頭の中に沼田君の声がした。
『ねえ、小坂さんは三年になるのは楽しみ?』
どうなんだろう。
それでも今日でクラスがバラバラになるんだと思うと少し寂しい。
思い出した顔は昨日ワイワイと言いながら一緒に買い出しの時にいた副委員長や友達グループ、最近は話はしてないけど紅美ちゃんもいた。
沼田君や、もちろん委員長も。
形ばかりの終業式が終わり、宿題もない春休み。
先生にみんなでお礼を言った。
委員長の号令で、寄付のお入れも含めてお礼を言った。
成績が上がったと喜んでくれた先生。
一人ぼっちの時にはさりげなく理由を聞いてくれた。
いじめが始まったのかと心配しただろう。
あの後、元のグループにいるのを見てホッとしただろう。
高校の話も少し相談した。
このまま頑張ればいろんな選択肢があるから、来年の半分くらいまでにゆっくり考えても大丈夫だと言われた。
決して焦らせることはない、すごくいい先生だったと思う。
お母さんも信頼してたみたいだし。
大きな紙袋に入った手紙とプレゼントを渡して、泣きそうな先生と私たち。
先生にプレゼントを贈る案はずっと前に出ていて、女子数人が買い出しに行っていた。
それに皆が便箋に手紙を書いて封筒に入れて、紙袋に集めた。
色んな封筒がたっぷりとつまった封筒も重いかもしれない。
本気で泣きだす前に先生も職員室に戻った。
その後は委員長の号令で皆が一斉に机を動かす。
たくさんの島を作り、私たち買い出し隊は後ろに行って紙皿にどんどんお菓子を開けていく。
先生の机では紙コップが並べられて、職員室からとってきた氷とジュースが注がれていった。
それぞれ適当な場所で好きな飲み物の紙コップを持ち、乾杯。
ぼりぼりとあちこちでお菓子を食べる音がする。
こうやって皆で食べるのなんて初めて。
しばらく食べて飲んで。
お菓子とジュースだけど、思いっきり立ち食い立ち飲み。
誰が一芸披露なんてしたいんだろうって思ったのに。
・・・・いたらしい。
わざわざ練習したメンバー。
しかもかなり秘密裏に。
言い出しっぺの子が入ってる当たり、どうも自分たちのショーをやりたかったらしい。
それなりに練習の成果が披露されて、盛り上がった。
両隣の教室にはうるさかったかもしれない。
ギターとボーカル。ちょっとした打楽器みたいなもの。
楽しそうだった。
本人たちが楽しそうな顔だった。
そしていろいろあったけど私にとっても間違いなく一番楽しい年だった気もする。
あんと出会い、委員長と出会い、おじいさんと仲良く出来て、お姉ちゃんの彼氏も初めて紹介されて、萌ちゃんという大切な友達もできて、沼田君とも喋るようになって。
委員長とは喋らなくなったのに、結局紅美ちゃんとは一言もしゃべってない。
大切な猫友を一人失くした代わりに、女の子の友達を選んだつもりだったのに、 紅美ちゃんは委員長を選んだと言うことだろう。
本当に数回だけど二人が話をしている声を聞いた気がする。
それはどうぞ、私が何も言うことではないです。
でも、私とは結局話をすることはなかった。
本当に一番楽しい年だったのだろうか?
ちょっと自信がなくなってきた。
でもあんと萌ちゃんは大切。
おじいさんも。
成績も上がったし、やっぱりいい年だったよね。
こんな二年生の頃のメンバーで同窓会なんてやらないだろうから、このメンバーで集まるのは最後。
そう思ったら泣きそうになる。
せめて三年生だったら、また会えた。
数年後、何もかもまっさらな状態に戻って、懐かしいねって、変わってないねって会えるのに。
「しおりちゃん、そんなに感動?泣いてるよ。」
副委員長がそばに来てくれた。
お菓子係だったからそのまま後ろの方にいた。
まだ余ってるから、少ないテーブルには追加してもいい。
そう思ってここにいた。
下を向いてこっそり涙を拭く。
「何だか寂しくなった。さっきの先生の泣き顔を思い出したら、泣けてきた。」
「そう?三年間一緒のクラスってことあるかな?」
私と副委員長だ。
「どうだろう。次も一緒だったらよっぽど縁があるね。副委員長、すごく気を遣ってくれたし、信頼できる。すごく好き、いい人。」
「私も好きだよ。あんまり一緒にはいないけど、さり気なく気遣いが出来るのは分かってる。だからここ居るんでしょう?まだお役目背負ってるでしょう?」
半分はそう。
でも半分は、もうあのグループに執着しなくていいんだって思って。
来年は来年で違う友達と一緒にいるんだって思ったら、少しだけどうでも良くなったから。
でもそれはバレたくない。自分の黒い感情・・・・。
曖昧に笑ったまま誤魔化す。
「もし来年も一緒だったら、もっと仲よくしよう。」
「うん。すごく楽しみになった。」
本当にそう思った。なんだかいろいろ刺激をくれそう。
「良かった。笑った方が可愛いから。」
「ありがとう。」
他には一芸発表はいなかった。
一通り満足したらしく片づけをして、後ろに楽器たちを置いている。
「は~、スッキリした。」
「なかなかうまく行ったよね。」
「俺たち、ここ一、本番に強いタイプじゃん。」
楽しそうな会話だ。
静かにそこを離れてみんなの所に行った。
「しおり、春休み遊ぼう。」
「うん。今のところ予定は少しだけだから、大丈夫だと思う。」
「塾に行く子もいるし、遠出は無理だねって話をしてたの。またフェミレスだね。」
「海行きたいなあ。」
「夏でもないのに?」
「そうか、でも夏は人多いし。せっかく宿題ないし、新学期の少し前行かない?海!」
皆の視線が二人に向く。塾に行く予定の二人かもしれない。
「4月ならなんとかなるかも。」
「うん、私も。」
「じゃあ、予定決めちゃおう。」
私も萌ちゃんと遊んだり、姉の掃除に駆り出されたり、お母さんと出かけたり。
今なら空けられる。
新学期二日前に予定して、昼前に着くように出かけることをざっくりと決めた。
後は電車の中で決めようと。
私もどうせすることがない日は図書室に行こうと思ってる。
『一番の趣味が勉強になりつつある?』
この間お姉ちゃんに聞かれた。
元々列挙するほど趣味はないから。
一番も二番もないのに。
それでも休みの間はたっぷりあんとも遊べる。
そう言う意味でも本当に楽しみになってきた。
ある程度お菓子もなくなった。
びっくりだ。
様子を見に来たら、後ろの棚に置いてあったものもいつの間にか空袋になっていた。
足りなくて勝手に追加したらしい。
沼田君が横に来た。
「すぐ三匹の猫たちの誕生日だね。」
そう言われた。
ああ、ちょっと忘れてた。
323でおじいさんの奥さんのナオさんの誕生日。
「三匹集合したら喜ぶんじゃない?久しぶりでしょ?」
「・・・うん。」
そんな予定は今のところない。
あんを外に出すことは本当にない。
ナオと違って窓辺にいることもないし、外に出たいそぶりを見せることもない。
いつも決まった自分の好きな場所にいるだけ。
「沼田君は呼ばれてるの?」
「え?誕生会?まさか・・・・。」
そうやって笑う。
「ねえ、前に言ったこと覚えてる?この学年が終わる頃にはどうかなって、あの時は思いっきり首を振られたけど。」
沼田君の顔を見た。
何度か話しかけられてたりしても、沼田君が私に興味を持ってるなんて思ってもいないから。
なんとなく特定の人の為かなって思ってたりしてた。
やっぱりそうだったんだ。
「分からない。」
「そう、前の時の返事よりは、なんとなくうれしいかも。少し希望があるような気がする。」
そんな事を思われても困るけど。
「じゃあ。またね。」
そう言っていなくなった。
もう喋ることはないのかもしれない。
沼田君とも、委員長とも。
クラスが違ったら、それにもう『委員長』でもなくなる。
もう、・・・ないと思う。
沼田君の背中を見ていたけど、誰のところに行くか分かったから視線を外した。
「ねえ、何で?何で沼田君なの?酷いことするよね。」
ビックリした。私に向けられた言葉。
もうずっと聞いてなかった気がする声。
だって本当に私にその声が向いたのなんて、夏以来・・・・・。
すごい久しぶりなのに、それはとても友達としての会話じゃなかった。
表情も、その目も、口調だって、全然許されてないと分かった。
でもその内容は違う。
「沼田君は時々話しかけてくれるから、ちょっとだけ話をするだけだよ。」
そんなに見られてるとも思ってなかった。
だって一人の時が多いし、さり気なく話をするだけ。
聞かれても困らない程度の会話。
何で怒るの?
「そうやって名木君の友達と無邪気に話してるのを見せつけるんだ。」
ビックリした。
そんなんじゃないのに・・・・・。
そう言う前に言われた。
「だから大嫌い。顔も見たくないくらい大嫌い。」
そう言って背中を向けられた。
あんまり仲良くない私でも大好きだって言ってくれた副委員長。
もっともっと仲良かったはずなのに、大嫌いだって。
顔も見たくないって言われたら、さっきした海に行く約束なんて行けるわけない。
行けない。
そこまで嫌われたの?
俯いてた間にクラス会を締めくくられた。
委員長じゃなかった。副委員長だった。
最後まで頼もしい人。
委員長の良き相棒。
手早くゴミ袋が出てきてゴミが回収される。
私はそのまま後ろを向いてゆっくり空き袋のゴミを集めてた。
それを目の前に来た袋に落とした。
顔もあげずに。
「大丈夫?」
それは委員長だったらしい。
顔も見ずに軽くうなずいただけ。
「そう。」
そう言っていなくなった。
終わったら箒が出てきて軽く掃除して、机を元に戻して終わりの合図とともにお開きになった。
ゴミ当番がゴミを捨てに行っただろう。
ペットボトルは洗ってつぶしてスーパーへ。
それぞれ担当した人がいて、手際がいい。
私は後ろのドアから廊下に出て急いで帰った。
お願いします。
紅美ちゃんと同じクラスになりませんように。
委員長とも副委員長とも別れていいので、紅美ちゃんとは一緒のクラスになりませんように。
家に帰って自分の部屋に閉じこもった。
あんに挨拶もしてない。
今日は無理。ごめんね。
最後の最後に向けられた否定の言葉は深く刺さったみたいで、心が痛い。
おやつを食べてお腹も空かない。
夜ご飯は断った。
お母さんが買い物をするより先に連絡した。
沼田君を恨んじゃいけない。
気を遣って話しかけてくれたんだから。
沼田君を恨んじゃいけない。
そう繰り返し自分に言い聞かせた。
あんなに誤解されないようにって、そう思ってたのに、気を付けてたのに。
委員長の友達なのに、何でそう思うのか分からない。
少しも分からない。
シャワーだけ浴びて着替えをした。
洗濯物を取りこんで、たたんで、いつもの場所に置いておいた。
顔をあげたあんを軽く撫でてまた部屋に戻った。
そしてそのまま布団をかぶって目を閉じた。
目が覚めた時、まだ夜早い時間だった。
隣の部屋は静かで、ドアを開けると下からはテレビの音がかすかに聞こえて、お姉ちゃんの声もした。
鏡で顔を見る。
可哀想なくらいの暗い顔の自分が見返してきた。
文句を言いたい。
沼田君じゃなくて、紅美ちゃんに。
『関係ないじゃない。』
そう言い切りたかった。
だって本当に関係ない。
そもそも誤解だし。
携帯に連絡があったみたいだ。
委員長からだった。
『明後日、誕生会やりたいんだけど。あんを連れて参加してくれるのは、無理かな?』
沼田君が言ってたお誕生会のお誘いだった。
主役の三匹が集合出来ないかなって、それは当然の誘いかも。
でも私じゃ無くてもいい、主役はあんとナオと一路だから。
私が行かないと二人と二匹はあんに会えない・・・・でもそうじゃないって気がついた。
本当は私だって行きたい、すごく行きたいけど。
あんは違う方法で参加することもできるんだ・・・・・。
『お姉ちゃん、明後日忙しいですか?』
『何?起きてるなら降りて来ればいいのに。』
『あん達の誕生日なの。二人と二匹がおじいさん家で待ってる。時間があったらあんを連れて行って遊んで来てほしい。』
『何で私なの?しおりは行かないの?』
『私は行けないから頼んでる。』
『ただじゃ行かない。お礼は?』
『なんでも、出来ることならなんでもします。』
『了解。』
『お願いします。』
その後は何も聞かれなかった。
おじいさんに直接連絡を取ったのかもしれない。
良かった。とりあえずあんは2人と二匹に会える。
久しぶりだし、楽しんで来ればいい。
二人に撫でてもらって、ゴロゴロと体を擦り付けて、私の分もお姉ちゃんと楽しんで来ればいい。
携帯の電源を落としてまた布団をかぶった。
萌ちゃんは新しい学年を楽しみにしてるから。
私は萌ちゃんと会うまでには元気になりたい。
あん達の誕生日は静かに近づいてきた。
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