すべての事件は裏の家でおきていました。

羽月☆

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21 休題 姉かおりのミッション、どんなに困難でも上手くやり遂げて見せます。

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 夏休みのあの日。
リョウ君とのデートを半日無駄にしてまで付き合ってあげた。

二人を水族館に連れて行き、野放しにした。

楽しく帰って来た二人。
声がして、すぐに分かった。
リョウ君に囁いた。
『帰って来た。振り向かないで。』

すごくいい顔してるかも。

そう思ったのになかなか声をかけてこなくて。
トイレに行ったらしくメッセージが来た。
気がつかなかったらしい。まあいい。

戻ってきたしおりはペンギンのぬいぐるみを抱えていた。
車だからと思って何も考えないで買ったな。
途中の駅で落とすつもりなのに。
あれを抱えて二人で電車に乗るのに。

まあいい。デート帰りだと誰もが思うだろう。

ご機嫌になってレストランで食事をして、なぜかリョウ君の提案でバッティングセンターに行くことにした。
地元の駅にある、私もよく連れていかれるところだ。
二人にリョウのホームランを見せてやれ!!
私も見たい!見たことないぞ!!


かずさ君も打ち、しおりと半分づつ私も打つ。
しおりは全然だった。
そして言い出したリョウ君。

何故かストレスを吐き出すように愚痴を叫びながら打ってる。

ホームランは?
大人の余裕は?

ビックリしてる二人の子供。

大人は大変だと思ってくれただろう。

何かあったのか、後で聞いてやろう。

スッキリしたみたいで、叫び声ほどは遠くまで届かなかったのに満足そうに出てきたリョウ君。

駅まで二人を送って、別れた。

私はこのままリョウ君とデート~。
オトナの時間~。


「ねえ、疲れた?」

「ううん、大丈夫。可愛いね、若いっていいなあ。」

「いつもは私の事を若いって言ってくれるのに?」

「まあ、若いと言うか、本当に子供だね。かわいい。ペット感が出てしまいそうだね。」

「弟がいるでしょう?」

「それはほら、他人行儀じゃないから生意気だし。」

「残念ね。しおりはあのままよ。私には逆らわない、いい子に育てたから。」

「まるで母親だね。」

「もう、あの二人とも可愛いの。なかなかうまくいかなくてイリイリしてたの。協力してくれてありがとう。」

「満足。」

「もちろん。」

「まだまだ中学生だけど、可愛い思い出があった方がいいよね。」

「まあね。」


絶対仲良くしてると思ってた。
夏休みが終わったら話題のカップルになったりしてって。

それなのに。

新学期が始まって、元気のないしおりと、元気のないおじいちゃん。
ついでにかずさ君もそうらしい。

どこで間違った?

ただの喧嘩じゃない事は分かった。

お母さんが心配してた。
本当に元気がないらしい。

食事の手伝いをしながらいろんな話をしてたのに、まったく会話の内容が変わったらしい。
友達の名前が出てこなくなったと。
代わりにひたすらその日覚えた英単語や戦国武将や、他の知識を披露されて、復習に付き合ってるらしい。
勉強してるということだ。

喜ぶべきことだけど、急に?

夏休みにきっかけはあった。
塾に通いだしてちょっとだけ・・・・成績も上がって。
それだけでは終わらずにもっと勢いついて勉強してるらしい。
親なら喜ぶべきところだけど、やっぱり変だと思うくらいには変なんだろう。


おじいちゃんに聞いてみた。

「一総は振られたらしい。」

なんで?

分からない。

それで、何で元気ないの?

あんなに楽しそうだったのに。

「ここで会うことも、勉強を一緒にすることもないらしい。」

「かずさ君、ちゃんと言ったのかな?誤解したしおりが怒ってるとか?」

ちゃんと伝わってるの?

「まだ中学生だし、一緒にっていう約束くらいだけど、それもダメって事らしい。学校では一切話もしないし、顔も見ないらしい。同じクラスなのにね。ここで会えなかったら、何もないって言ってた。」

いつの間にかいなくなったペンギンのぬいぐるみ。
名前まで決めていたのに。
『あん』と『ペン』とか言ってた。
嬉しそうにデートの報告をお母さんにしてたのに。
あの日は絶対いい日になったってリョウ君とも喜んでたのに。

どこですれ違ったの?

「しおりちゃんは何も言わないかな?」

「うん、学校の事を話さなくなったみたい。勉強のことばかりになって、友達の名前も出てこないってお母さんが言ってた。」

「なんだかな、一総もはっきり言わなかったけど、ちょっと友達と喧嘩してるらしい。クラスの誰もが分かるくらいの状態らしい。」

「なに、いじめられてるの?」

「いや、そんな風には言ってない。最近いつも一緒にいる子達といないって。」

「だから友達の話は無しで勉強してるのか。」

「そうなんだろうね。一総のこととは無関係だろうか?」

「どっちとも早く仲直りできればいいけど。」

「さすがにそんな事だったら、何もできないねえ。」

「そうね。」



本当に元気出せとも言えない、気にするなとも言えない、本当に見守るしかない。

表面上はあまり変わらない風にしてるけど。

家にいる時はあんと一緒にいることが多くて、それ以外は図書館に行ってるらしい。
本気で勉強してるのだろう。

ある日、帰ったらドアのところに手紙が挟まっていた。
思いっきり開けてたら気がつかなかったかも。

何?

拾って開くとしおりから伝言だった。
どうして携帯じゃないのよ。

そのまま荷物を部屋に入れて隣の部屋に行った。

ぐるっと見回すでもなく、やっぱり『ぺん』はいなかった。

何を相談されるかと思ったら高校受験の事だった。
何よってガクッと来たけど安心もした。
私が言えることじゃないから、両親に話をするように言った。
勉強を頑張って成績が上がってる事は褒めてあげた。
それはうれしそうな顔をしてる。

また前の友達の名前も出て来てるらしいから、喧嘩はどうにかなったんだろう。

お母さんも安心してた。
私も良かったとホッとしておじいちゃんに報告していた。


原因は結局何だったのか、結果成績だけ上がって行きたい高校でいいと言われてるらしい。
あと一年あるからゆっくり決めればいいと。

前は甘えた顔か、プリプリと怒ってる顔しか見てなかったけど、ちょっと落ち着いた表情をしてることが多くなった。あんまり楽しそうな表情じゃないのが気になるけど。
あんを撫でながらも前みたいにかわいがるでもない。
子猫じゃなくなったから、あんもそうそうは遊ばれてないけど。
元々大人しい猫だから。
ただ一緒にくっついてぼんやりしてる一人と一匹。

「なんだか、最近あんとしおりが似て来てる。ぼんやりしてるでしょう?」

「美人になって来たって事?」

うれしそうな顔をする。

「そんな事は言ってない。ぼんやりっていったの。完全に魂手放してる系。」

「何それ。あんの体温と手触りを楽しんでるの。癒されてるの。」

「中学生なのに、何そんなにつらい事があるのよ。」

ちょっと探ってみた。

「中学生だって人生について考えるの、ねえ、あん。誰かみたいに毎日能天気の晴れマークばかりじゃないんです。」

私はそう見えるの?
こんなに妹の事を思ってる姉に対して。
まったく・・・・。

「悔しかったらかずさ君を誘って遊びにでも行けば?」

「行かない。」

即答だった。

前に『振ったんだって。』そう言ったら否定してたけど。
なんで裏の家でも仲良く出来ないんだろう?
クラスの子にバレるのを警戒してるのかと思わないでもないけど、おじいちゃんの家だけならいいじゃない?

「本当に何の予定もないの?」

「図書館に行く。」

「色気ないなあ。」

「別にいいです。あんと遊んで勉強して、お母さんの手伝いもして学生らしく過ごします。」

「優等生ですこと。」

本当に可愛げがないなあ。もっと可愛い話をしてくれれば相談にも乗れるのに。
あの手はもう使えないし。
何とかしたいのに。別に無理に付き合えとかは言わないけど、明らかに元気ないし。友達ならいいじゃない。一緒に勉強すればいいのに。

まさか他に・・・とか、ないよね。

「しおり、本当に他に遊びたい男の子とかいないの?誰か誘いたい子がいたら協力するよ。」

協力なんてそのあたりは適当に言ってみた。
あれはおじいさんの協力があったから出来たことで、かずさ君以外は無理だ。

「いません。」

そうらしい。
そうだろうなあ。
見るからにそうだしなあ。


可愛いのに。私の妹だからもっとモテていいのに。
性格もいいのに。色気はないけど、それなりに楽しめそうなのに。
・・・全く見る目のないガキどもめ。


おじいちゃんのところに行った。


「しおりの休みの日はあんと図書館と手伝いだけみたい。デートの約束もないとは。私の妹なのに全然色気がない。」

「中学生だから、これからだろう。高校生になったら一気に変わるかも。」

「そうかなあ。家でもぼんやりしてばかりだよ。あんを膝に置いてボケッとしながら撫でてる、縁側のおばあちゃん状態。」

「そういえば、三月の三匹の誕生日なんだよ。一総が久しぶりに一路を連れて来るって言ってて、しおりちゃんもあんを連れて来てくれたらうれしいんだけどなあ。三人と三匹が集まって、かおりちゃん、一緒に連れて来てくれる?」

「もちろん。全力で、首輪つけてでも。」
この場合はあんじゃなくて、しおりに首輪だけど。

よし、やってやろうじゃないの。

最後のお節介かもしれない。
絶対かずさ君が嫌いなはずない。
好きじゃなくても嫌いじゃないはず。
いやいや、嫌いなはずはない。
おじいちゃんだってそう思ってるんだから。


「おじいちゃん、私が誘うと意地になって行かなそうだから、かずさ君から誘ってね。私はおじいちゃんに聞いてちょっとだけ顔を出すって感じにする。」

「了解だよ。かずさが断られた時はよろしくね。」

「がってん了解。」

「本当にかおりちゃんは頼もしいなあ。」

「でしょう?味方である限りはそう言われる。」

「確かに敵に回したくはないね。」

「おじいちゃんも余生を穏やかに過ごしたいなら、気を付けてね。」

「本当に冗談じゃ無く聞こえる。」

「冗談ですよ。基本はか弱き乙女です。あえてそう見せないだけです。」

「長い付き合いだけど、泥酔の時以外は見たことないからね。隠し方がうますぎるね。」

「家族も知りません。秘密にしてね。じゃあ、おじいちゃん、頑張るから、あの手この手で連れ出すから。」



そう言った。

委員長の誘いを断る確率は十分ある。
まさかあっさり出かけて行くなんて思わない。
せいぜいあんをおじいちゃんに預けるくらいか、どうか。
それもなさそうで全力不参加かもと。


リョウ君とも相談した。

最近しおりの事を相談されるリョウ君も、もう兄貴気分だって言ってた。
深い意味はないだろうから・・・・照れないようにした。


しおりがどんな手を使うか分からない。
色んなパターンを想定して、なんとかおじいちゃんを我が家に呼んで二人きりにさせてみたらどうだろかと、さすがにリョウ君には強引じゃないかと言われたけど、そこは一度しか会ってないリョウ君と、私&母&じいが感じる印象が一番。しょせん子供は隠せない・・・・と言い切った。

そしてあんを隣の家に行かせることにはまったく問題ないらしかった。
しおりも二人と二匹にあんを会わせたいのだろう。
まさか家の中にいてメッセージでそれを頼まれるとは。

前夜になって、おじいさんとのシュミレーションも完璧。
あとはうまくいくかどうか。


終業式の日、しおりは帰って来て部屋に閉じこもってると聞いた。
洗濯物はとりこんでくれてる。
でもあんのトイレと餌は変えてない。
珍しいことだった。

お母さんには『おやつを食べてご飯はいらない。』そう連絡があったらしい。
終業式後にクラス皆でお別れ会をやるとは聞いていた。
楽しそうにお菓子の買い出しに行ったことを話ししていたらしい。
少しは寂しいだろうけど、・・・なぜ部屋から出てこない?

食べたくなくても顔は出すはずなのに。

嫌な予感しかしない。

何かあった?

母親も沈黙、代わりに私が夕飯の支度を手伝う。


「子供も内緒事が多くなると悲しくなる。いっそかおりは分かりやすくて、その点は良かった。」

振り返ってもいつも『公明正大』っぽい感じ?だった私。
何でもお母さんには言っていた。
といっても、中学生のころは。

最近は何でも言ってる相手がおじいちゃんになっただけ。

あんまり落ち込んだ様子を家には持ち込まない。

それが偉いのかどうなのか、お母さんも私の事を能天気だと思ってるだろう。
私だって悲しい事はあるし悔しい事もある。
泣きたい時も酔いたい時も愚痴りたい時も、ののしりたい相手も・・・・。

おじいさんが役にたってる。
あそこで思いっきり吐き出したら忘れられる。
そんな不思議な場所に認定してしまった。

しおりもいっそぶちまけたらいい。

相手がかずさ君でも、おじいちゃんでも、ナオでもいい。
変に真面目だからため込んで、言えなくて、間違ったりするのだ・・・・と思う。

「何かあったのかな?さりげなく聞いておく。」

何だか世話の焼けるしおりになった。それが中二病というやつ?



「お母さん、お父さんとは何歳から付き合って、どのくらい付き合ったらプロポーズされたの?」

お母さんの手が止まる。
こっちを見る目が何かを探る。

「聞いてみただけ。同級生が結婚したいってしきりに騒いでるから。まだ早いって言ってるの。卒業しなきゃね。少しは働かなきゃね。」

「かおりがそう思ってるなら安心。お父さんと出会ったのは就職してすぐ。結婚したのは出会って二年目くらい、付き合っては一年ちょっと。」

計算してみる。

「お父さんやる~。」

私が出来たからみたい。
今よりはやっぱりね・・・・。

「反対されなかった?」

「さすがに出来ないからね。」

そりゃそうだな。

「会社も考えてくれたから。そのまま少しは働いてたし、今のところもそのままの条件を引き継いで異動にしてくれたからね。」

社内恋愛で、産後は子会社ということらしい。

何ていい会社だ。

リョウ君の会社にはそんな設定があるのだろうか?・・・って、別に関係ない。
一般論だってば。思わず俯いてしまった。


「良かったね。」

「そうね。かおりが本当に天使に思えた瞬間だったからね。」

「瞬間・・・・・って、短くない?」

「手がかかったのよ、癇癪持ちで。おじいちゃんとおばあちゃんに預けるのも一苦労、幼稚園も慣れるまでは二苦労。」

「そんなの覚えてないけど、楽しかった記憶しかない。おじいちゃんもおばあちゃんも大好きだったし。」

「ある程度大きくなってからはね。もっと前、二歳になる前くらいかな。だからしおりと年が離れたのよ。」

「何で?」

「赤ちゃん返りされたら厄介だって、皆がそう言ったから。」

記憶にない事で言われても反論のしようがない。
映像に残る私はしおりの横でちゃんとお母さんの代わりに面倒を見ていた。
ぐずったらお腹を叩いてあげて、おもちゃを振って見せてあげて、真っ赤な顔してたらおむつのお知らせサインを見たりしてお母さんを呼んだり。
たどたどしく本を読んで寝かしつけまでやったんだから。
難しい平仮名は飛ばしたし、セリフが変わって変になったり、面倒でページを飛ばしたりはした。
そんな映像が残ってる段階でお父さんか誰かが撮っていたんだろう。
面白映像満載だ。子供らしいかわいい姉、たまに面倒で振りだけで誤魔化す・・・・。


大学は卒業する。就職もする。
ちゃんと自立しないと。
学費を出してもらっていて遊んでばかりじゃない。
しおりのお手本にもなるんだから、リスペクトされる姉でいたい。

リョウ君と付き合いはじめて9ヶ月。
おおお、最高記録!とこの間思ったのだ。
あんが来る少し前から付き合いだした。
なんと、出会ったのはあん達の誕生日なのだ。
覚えてたのはリョウ君だけど。


作戦会議でいろいろと話をしていた時に言われた。

「三月二十三日、323か、覚えやすいね。」

「そうだね。季節もいいし、おじいちゃんの愛妻ナオおばあちゃんの誕生日でもあるんだって。」

「なるほど。・・・・ねえ、かおり、すっかり忘れてるみたいだなあ、忘れてるより、まったく覚えてないって事だろうけど。」

「何を?」

「かおりと出会った日、323。僕は覚えてるよ。」

覚えてないけど、思い出そう。
あれは飲みに行った時の席で偶然隣にいた社会人二人。
こっちも友達と二人。
しかし、こっちの話は最悪な彼氏の二股で怒りに震えて鉄槌をくらわした私の武勇伝を笑い話に変えていた時。
本当は泣きたかったくらいなのに。
まだまだショックだったのに。
全ての怒りを笑いに変えて吐き出していた。
そこまでうるさくはなかったのは、やっぱり悲しみがあったからだと思いたい。

『今度は大人男子がいいなあ。もう、チャラそうなのはいいや。落ち着いた人の方がいい。』

最後にはトーンダウンしていた。

リョウ君じゃない方が声かけてきた。

『大人男子はここにもいるけど。』

いきなりだったけど、そう言う軽い奴はダメだと言ったんだ!!という目つきで睨んだ。

『おい、やめろよ。ごめんね。ちょっと話は聞こえてしまいましたが、こいつもちょっと残念なことがあったばかりだったから、酔っぱらってるし、無視していいからね。』

やさしい声だと思った。
言うとおりに無視したのに、勝手に悲しいエピソードを聞いてくれとばかりに披露し始めた壊れた大人一人。

結局一緒に飲んで、最後には私と愚痴の言い合いになって。

ちょっとだけスッキリして。

リョウ君に名刺をもらった。

「また飲みたいな、二人一緒にまた飲もう。今度はこいつも普通だと思うから。」

一人で誘われたんじゃない。
私と友達と。あっちもこっちも二人。
でも名刺は私がもらって、大切に保管して。

後日お礼のメールをした。

会社のメルアドだったから簡潔に仕事の相手のように。
その時に友達には相談した。
一緒に文章も見てもらって。

『返事来るかな?』
そう言って楽しみにしてた。

すぐに来た返事は新しいアドレスだった。
プライベート用だと思った。


それから何度か連絡取り合い、また四人で飲んだ。


友達がリョウくんじゃない方が好みと分かって安心していた。
まさかふられ者同志となったらがっかりだった。
そしてリョウ君が友達の方を気に入っていたわけでもなかった。


あの時の事はいろいろ思い出せるのに、日にちは覚えてない。

「323、その日だったかな?」

「覚えてない?」

「ごめん。日にちは無理。でも他の事なら色々覚えてる。それで許して。」

「別にいいよ。僕が覚えてるから。」

さすがに出会った日記念日はいいよね、そう思ったけど、これからは忘れないだろう。
しおりが毎年言い出しそう。
じゃあ、こっそりもう一つくらい記念日を重ねていいじゃない?
そして・・・・。

「ねえ、いいよね。しおりとかずさ君がちゃんと仲直りした日とかにしてもいいよね。もう一つうれしい事が重なったら、リョウ君もうれしいよね。」

「時々可愛い姉の顔になるんだね。手ごろでおもちゃのような可愛い二人の事で楽しんでるだけだと思う時もあるけど。」


「酷いなあ、本気で心配してるの。だって高校は別になると思うから。かずさ君は頭いいから、さすがにしおりとは別の高校に行くと思う。だからあと一年。いい思い出が出来ればいいと思ってる。」


「分かってるって。」


目指す、交際記念日一年目を目指す。

落ち着いた大人のリョウ君、でもボールを打つところではちょっと毒舌になって口が悪くもなる。
終わったらスッキリした顔を見せてくれるから安心してる。

『今週の分もスッキリ。』
そういって、毎週快音を響かせてる。
たまに付き合ってる私も上達したみたい。

出来たら、私がもっと大人女子になるまで待っててほしい。
後二年もあるけど、どうかな?


「何?」

「なんだかいい日になったらいいなあって思って。」

誤魔化した。

可愛い私もここにいる。
おじいさんには見せない、しおりも知らない、お母さんもビックリの私を時々見せているのだ。
リョウ君だけには。




そして終業式の日に引きこもりになったしおり。

ため息が出る。
何があったんだろう。
私に相談することはない、お母さんにも、じゃあしおりは誰に相談できてるんだろう。
私にはおじいちゃんもいたのに、数年前まではナオおばあちゃんもいた。

閉じ込められてる世界が、本当に狭い世界だと思うにはまだまだ子供だから。
せいいっぱいその世界を守ろうとしがみついている時代。


テーブルに置いた携帯に連絡が来た。

しおりからだった。
部屋のドアに手紙を挟む余裕もないのだろうか。

用件は三匹の『誕生会』のこと。

私に時間があったら隣に連れて行って欲しいと。

う~ん、そう来たか。

でもそれも想定内です。

了解の返事をする。

何度かやり取りしても全く用件だけ。
降りて来ればいいだけなのに。


自分は無理だからと理由も明かさず無理と言って私に丸投げしてきた。
代わりに何でもするらしい。
そんな覚悟があるのなら、代わりに連れて行ってあげよう。
それくらいはやる。
その後は知らないけど。

食事の用意が出来た。

「しおりに声かける?」

困った顔をするお母さん。

「お腹空いたら降りて来るかな?」




次の日約束通り隣にあんを連れて行った。
家の中にしおりはいるのだろうか?

玄関で靴を見た。

多分いる。

気になってると思う、本当は行きたいと思ってるだろう。

えい!手がかかる子!!うじうじな妹!!!


隣にあんを連れて行った。

ナオにおめでとうを言い、一路にも。

一路はほとんど写真でしか見たことがなかった。

靴下を脱ぎ去った黒猫というところがあんと違うところだ。
それでも男の子だから体が大きくて、顔つきも鋭い気がする。
愛想はないけど、警戒もされない。

あの兄貴の方に似てるのだろうか?

撫でながら、念を込める。

上手くいくように祈ってて、見守ってて。

特別にケーキが出て来るとか、そんなことはない。
おじいちゃんの野菜と手料理がテーブルにある。
あとはお茶が。

あんを撫でていたかずさ君が抱きかかえながら、一路とナオのところに連れて行って挨拶をさせている。
あんまりゆっくりしてるとしおりが出かけたら困る。

おじいちゃんに合図を送り外に連れ出した。

あんはきっと大丈夫だろう。


あんまり外には出たことがないからリードをつけてかずさ君に預けた。


おじいちゃんと外で話をする。
計画の全貌を。ざっくり簡単に。

そっと家に帰り、おじいちゃんには庭に隠れててもらう。


「しおり、いる?しおり~。」

ここからは私主演の女優の演技で。

ドアが開いて、顔を出したしおり。表情が・・・泣いてたの?
取りあえず構わず計画遂行。

「しおり、ごめん……あんが・・・・逃げたの・・・・・・・・。」

急いで降りてきたしおり。

「なんでっ?」

「いきなり手の中から飛び出したの。探して、早く見つけよう。しおりはおじいちゃんの家に行って、名前を呼んであげて、もしかしたらどこかの部屋の隅っこにいるかも。」

「おじいちゃんと私は外を探してくる。携帯に連絡してね。」

しおりが携帯をもって家から飛び出して行った。

信じた?うまくいった?

おじいちゃんを呼んで家に入ってもらう。

おじいちゃんがここに来るのは珍しい、初めてかもしれない。

リビングでくつろいでもらいお茶を出す。

適当にお菓子を持ってきて広げる。

「どうかなあ?これであんを抱いて帰ってきたら全部だめだってことだよね。」

「そうだねえ。」

「少しは話をしてるよね。一路に会うのも久しぶりだろうし。一路を撫でながらだったら話が出来るよね。」

「ああ。大丈夫だろう。」

それでもしばらくは玄関の開く音に耳を澄ますように静かにしていた。
10分、20分。

「大丈夫かなあ。仲直りは出来たかな?」

「喧嘩してたのかなあ?」

「そういうんじゃないだろうけど、何だかいろいろあったのかなあ?しおりは全然話してくれないから。お母さんも私もお手上げ。」

「そうか。」

「私は嫌なことがあったりするとおばあちゃんとおじいちゃんに言いつけに行ってたよね。友達に言えない事でも聞いてもらうとスッキリしてたし、ありがたかった。しおりもそうなればいいのに。甘え下手なのか、真面目なのか、悩みにかずさ君が無関係じゃないか、その全部か。」


「一総も話もできてないらしいから何も言ってくれない。言いたくないのかな。そうだったら一総が関係してるのかも。」


「もう大丈夫だよね。随分時間たったから、まさかしおりだけ外を散歩してるなんてことないよね。」


「さすがに一総も何かを仕組まれたと気がつくだろうから。しおりちゃんも。」


「あのね、偶然なんだけど、今日は私とリョウ君が初めて出会った日なんだって。リョウ君が覚えてたんだけど。だからしおりとかずさ君が仲良くなれた日でもいいかなって、そうしたら来年はもっと楽しい記念日だよね。」


「かおりちゃんがリョウ君と仲良しである限りね。」

「へへへ、もうお付き合い始めて九ヶ月になります。長いのです。やっぱり落ち着いた大人男子はいい。」

照れながらも惚気る私。
すっかり当初の目的は達成したと安心してもいた。

「じゃあ、来年は皆参加で。かおりちゃんとリョウ君と。」

「そうだね、そうなるといいね。」

その後はリョウ君との惚気話を聞いてもらい、時々発生する喧嘩の種を吟味してもらい、もっと熟成しきった大人男子の意見を聞いた。



すっかり忘れたころに携帯が震えた。
しおりだった。
さすがに間か持たなくなった?
それともようやく思い出した?


『どこにいるの?』

『外を探してる。』

『・・・・嘘。帰ってくれば。』

『邪魔じゃない?』

『おじいさんは?ちゃんと連れて帰って来て。あんに会わせたいんだから。』

『偉そう・・・・。邪魔じゃないなら今から帰ります。』


やり取りをしながら笑顔になる。

顔をあげたらおじいちゃんも嬉しそうで。

「帰ろう。」

そう言って2人と三匹のところに戻った。



「あん、どこにいたの?探したのよ~。」

「もうそのお芝居はいい。ずっとリードついてたんでしょう?」

「良かったね、あん。美人の飼い主のウジウジの妹が暗い顔のままだと嫌だよね。元気になったかな?」

かずさ君の顔を見たら真っ赤になって可愛かった。

だって明らかにしおりは泣いた顔だった。さっきよりもひどく。

あんの事じゃないだろう。
すぐにあんがここにいることはバレただろうから、私の名演技に騙されたことに気がついただろうから。
きっと話が出来たのだろう。

あとはもう一度一路におめでとうを言い、内緒で良かったねと伝え、グリグリと撫でまわして、立ち上がる。

「じゃあ、私はもう一つの記念日を楽しみます。じゃあね。しおり、お母さんも心配してるんだから、謝りなさい。」

「・・・・はい。」

「じゃあ、後はよろしく。」

かずさ君を見ていい、おじいちゃんを見た。

「あ、しおり、何でもするって言った約束は生きてるからね。」

しおりが嫌な顔をした。
だから、ただじゃやらないって言ったじゃない。
主演女優の出演料です。
何がいいかな~。


そして、私はもっともっと大切な記念日のために待ち人のところへ。
もう直接報告したいけど結果だけ先にメッセージで知らせてしまった。

『詳しくは後で聞くつもりだけど、どうやらうまくいったみたい。』

『良かった。安心安心。』


来年、もしかしたらリョウ君も記念日の主役の一人になれるかも、ということは内緒にした。
まだ分からないからね。
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