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3 誘われてみた日
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相変わらず集合時間をすぎるころ駆け込んだ人たち。
プリントが配られた。
今回の会議は事故防止委員の会議。
事故がとり返しのつかない事態になるこの仕事。
私の勤務するのは地域で中規模の総合病院。
2つある内科の一つで毎日クタクタになるまで働いてる。
毎日何かしらの出来事が起り、呼ばれて対処に当たらされる。
日々の業務でも忙しいのに新人の教育係も押し付けられている。
普通の仕事だけしたい。
普通の仕事でも定時に終わるのは難しいのに、仕事の終わりにこうして集まりがある。
はぁ~。
やめ時、一番はやっばりあれだけど・・・・。
だいたい美幸も普通の街コンに誘ってくれればいいのに。
なんで鉄コンだったのよ。
それでもなかなかそういった場には一人じゃいけない。パーティーもしかり。
どこに落ちてるの?素敵なご縁。
ちょっとだけ春日さんの顔が浮かんだ。
あ、いけない、ぼうっとした。やっば疲れてる。
急いで昨日の記憶を消しうつむく。
会議でさらに疲労を積み重ねて、一人静かなロッカーで着替えをすませる。
流石に未送信ボックスを開いて一気に下書きメールを春日さんに送った。
悩むのもなんとなく、これ以上伸ばすのもなんとなく。
ぼんやりとした気持ち。
ちょっとだけ化粧を直す。鏡に映る疲れた顔。
明日は、明日こそは何もない休み、ううう・・・・嬉しい。ゆっくり寝たい。
働きながら子育てしてるママナースを尊敬する。
自分のこともままならないのに。子供と夫なんて。
バタンとロッカーを閉めてバックを持つ。
携帯に着信があったのに気が付いた。未登録のアドレス。
タイミングだと春日さん?
開けるのをためらう。
周りに人はいない。勤務交代はとっくに終わり日勤の人は帰ってる時間。
メールを開くと『お疲れ様です。』と。
『なかなかメールいただけず、がっかりと不安の日でした。こんなことならちゃんとアドレスも聞いておくべきでした。今仕事終わりですか?確か近いと思っていたのですが、よろしかったらお食事はいかがですか?駄目ならこの次でも。すぐに見ていただけたのでしたらお電話をください。しばらく1時間ほど時間をつぶして待ってます。』
なんと、断りづらいメール。
1時間待つといわれたら早く電話しないと、断るにしても・・・・。
どう言ったらいいんだろう。明日は休みだから遅くなっても構わない。
でも今日のラフな格好はどうだろう?
ジーンズにカーディガン。いつも着替えるし楽な格好をしていた。
とりあえず電話をしてみた。
2回コールの後に誰かが出た。それは春日さんでしかないのだが。
「メールありがとうございました、鶴来です。」
『いえ、こちらこそ。お電話ありがとうございます。』
春日さんのうしろからは人の賑わいが聞こえる。
『今どちらですか?』
「仕事が終わって着替えたばかりです。」
春日さんが今いる駅を教えてくれた。
・・・・・遠くはない。というか住んでるところの最寄駅です。
病院は部屋から二駅離れていて、天気のいい日は自転車で通っている。
雨でも歩けるくらいの距離なのだ。電車に乗ると余計疲れる。
『あの、急でしたか?』
「はい?」
『お食事です。』
「あ、すみませんでした。えっと・・・・大丈夫なんですが、ちょっと楽な格好をしていて、本当に・・・・いいですか?」
春日さんはスーツだと思うけど、その隣で食事する格好じゃない。
『大丈夫です。気にしません。』
そう言われた。どちらへと言われたので春日さんの待つ駅に向かうと伝えた。
あと20分くらいで行ける。
予約のいらないようなお店になると思いますと断った。
こんなことならもう少し気を使った格好をしてきたのに。
ついでにお金も下ろしておく。
この間はご馳走になったのだからと思い出した。
今回はお礼として私が払おう。
自転車をこいで駅まで行き、遅くまでやってるスーパーに止めて駅中へ急ぐ。
待ち合わせたのはよくあるコーヒー屋さん。
中に入るまでもなく気が付いて出てきてくれた。
思った通りのスーツ。
「すみません、仕事帰りでこんな格好です。自転車通勤で荷物もこんな感じです。」
なんだかどんどん恥ずかしくなる。あぁ、ついでに化粧も。
もういいや。ありのままです。
「確かに先日とはイメージちがいますが、シンプルに綺麗です。」
はい、大人対応されました・・・・。
「カラオケ行きませんか?」
?。
「高級でもないですがご飯は食べれますし、ゆっくり話ができますし。」
はぁ。ゆっくりうなずく。
「じゃあ、行きましょう。」
行き先を決めてたかのような足取りで。
私の家とは逆方向。良かった、一応。
駅からすぐのチェーン店、会員カードを出してる春日さん。
三時間利用にして、食べ物と飲み物もオーダーして上がる
「奈央さん、いつも仕事はこのくらいですか?」
「まちまちです。もっと遅くなる時もあります。」
「あの、お礼が遅くなってすみませんでした。」
「ドキドキしましたよ。もう会えないかなって。」
「はい。すみません。」
それ以外なんと答えていいか。
「座りましょ。」
さりげなく手を引かれる。
横の並びのふたり。食事が来るまで待つ。
「おなか空きました?」
「もちろんです。春日さんも仕事はいつもこのくらいまでですか?」
「そうですね、僕もまちまちです。」
料理が来て乾杯!
「よく来るんですか?会員カードお持ちでしたよね。」
「2人きりは初めてです。会話が気にならないから良くないですか?もしかして歌いたいですか?」
マイクを指さされる。
「えっ、いえ、いいです、とりあえず自信がないので聞き役で。」
「僕も歌いませんよ。歌いたいわけじゃないですから。」
ジャケットを脱いでリラックス、ネクタイはそのままだけど袖を捲る。
ドキドキしてしまう。
「春日さんは仕事のスーツだとこの間より大人っぽく見えますね。」
ごまかすように言う。
「そうですか?どっちが好みです?」
「えっっ。」なんで、だから。
「もしかして興味を持ってもらえたかなぁって思ってたんですが。」
答えに詰まる私にそう言って笑顔を向ける春日さん。
なかなか、慣れない・・・・その素直な反応に。
「今更ですが、一応この間あそこにいたのなら彼氏とか好きな人とかいないと思ってもいいのですか?」
「・・・はい。いません。」言い切った。
「良かった。この間さりげなく聞いたのにすっかり流されました。」
えっ、いつ?もう驚いてばかりで。
「・・・・すみません気がついてなくて。」
なんだか申し訳ない気分になる。
手にしたグラスを煽るように飲む。ほとんどジュース。
「次、頼みますか?おかわり。明日は?」
「休みです。」
ついうれしそうな顔になった。
うれしそうですねとはっきり言われた。
外では結構な歌声が響いてるみたい。
それでも気にせず話を出来るのは確かにいいかも。
ご飯もまあまあ空腹を満たすには十分で。この間よりも深く個人的な話をする。
春日さんは業界紙の印刷を扱う会社勤務らしい。いろんな業界があるらしい。
楽しいのはお菓子や文房具など馴染みのあるもの。タワシや畳や筆とか全くかかわらないものだと理解が及ばないこともあるらしい。文房具楽しそう。いろんな業界があるらしい。驚くような部数を印刷することもあるという。
そんな話を楽しくしながら、私も病院勤務だと伝えた。
「なんとなくイメージに合いますね?」
「そうですか?」
「夜勤もあるんですか?」
「今は雑用が多いので少しになりました。」
「いつからなろうと思ったんですか?」
「母親もそうなんです。だからなんとなく小さい頃から。」
「どんな服ですか?」
何?
「やっぱり男は好きですから、制服。」
「残念ですがパンツスタイルです。」
「あぁ、夢がない、・・・・本当に残念。せっかく想像したのに、なんて。動きやすいんでしょうけどね。僕は年に一回検診に行くだけでドキドキです。採血苦手なんです。違う会社の人でしたが順番が前の人が倒れたんです。それからなんか一層怖くて。」
「男の人のほうがそうですね。女の人も怖がりはいますが貧血を起こすのは男の人です。」
「きっと平気な顔でやるんでしょうね。」
「そりゃあ、私が怖がってたらどう思いますか?」
「ああ、確かに不安になります。」
「でもいい血管してます。大丈夫です。失敗はされませんよ。」にっこり。
「そんな目で見てたんですか!なんて。確かに褒められたこともあります。」
「そうですね、こことかこことか。あ、ここも行けますね。」
つい指をさしてなぞってしまった。
「何でそんなに何回も刺すんですか?もしかして入院勧めてます?」
「是非どうぞ。」
「奈央さんを担当ナースに指名しますよ。」
「それは無理です。」
「いえ、わがまま患者と言われてもいいです。」
会話はあからさまに変です。
そう、確かにカラオケルームは楽。大きな声でも気にならない。話題もそう。
友達と話しててリアルすぎて思わず周りがドン引きするような話になってたこともある。
「こうしてカラオケで話し込むことよくあるんですか?」
そう聞いたら困った顔をされた。
「あ、すみません。別に・・・・・すみません。」
「いえ。お酒追加しますか?飲めるんですね。この間は眠そうになってましたよね。」
「明日休みだと気が楽で。」家も近いし。
「あの・・・どの位お付き合いしてないですかって聞いたら怒りますか?」
「・・・・・答えたくはないです。」
いきなりの話題転換。しかもそんな事を聞きますか?
「すみません。また、調子にのりました。」
「春日さんは?私も聞きますよ。」
冗談のようにして聞いた。
「2年くらいです。だからすごく・・・・久しぶりてす。」
「義一さんと他のパーティーに行ったりしてないんですか?」
義一さんとはこの間一緒に参加した友達の名前だった。
『ギイチ』と春日さんのよぶ呼び方の『音』が気に入って覚えた。
「もちろんです。ギイチ以外とも行ってないです。」
「会社内の飲み会とか、他の会社の人との飲み会とか。」
合コンの事をさり気なく聞いてみた。
「普通に仲間と飲みに行く事はありますが。もともとうちの会社は自宅勤務が多いんです。会社じゃなくても仕事できますから。」
「いいですね。通勤が楽だし。うらやましい。子育てしながらとか、流行りのイクメンになれますよ。」
ふっと笑われた。変なこと言いました?
「明日は何をするんですか?」
「寝坊と掃除と洗濯と・・・・。後は適当に。」
「部屋きれいそうですね?」
「普通です。掃除はあんまり好きじゃないので物は置かないようにしてます。すごく寂しい部屋だってよく言われます。」
「誰にですか?」
「え、っと友達とか。」
時々会話が止まる。普通に広がりそうな会話なのに、何故か止められる。
タイミングを外されるとちょっとびっくりしてしまう。
食事も結構食べてお酒もジュースみたいだったけどお代わりをして。
部屋の電話が鳴って時間が来た。
3時間が経っていたらしい。あっという間だった。楽しかった。
春日さんの考えがチラチラと見える。
わざとかと思うくらい、本当にわざと見せてる?
でももしかして揶揄われてるだけ?ってちょっと引いて考えてしまう。
仕事は知ってるけど年齢を知らない。
同じくらい?義一さんはそれくらいだと思えたけど。
あの日美幸は仲良くなった人としばらくお付き合いすることにしたらしい。
やっぱり趣味が一緒というのはいいらしい。
残念ながらギイチさんは同志と盛り上がって終わったらしい。
「奈央さん?どうかしましたか?」
「あっ、すみません。」
すっかりジャケットも着ている春日さん。
どんだけぼんやりしてたんだろう。早く寝た方がいいかも。疲れがたまりすぎ。
私もバッグを持って部屋を出る春日さんに続く。
ドアに手をかけた春日さんが振り向く。
視線が合う。
「あの、もう少し一緒にいたいんですが、奈央さんは帰りたいですか?」
どうだろう?・・・あっという間に三時間たったくらい楽しいと感じてたのに答えを出せずに悩むようなふりをする自分。
「明日仕事ですよね?」
そして変に気を使った風の質問をしてしまう。
「また・・・・勘違いしたんでしょうか?」
「あの・・・・私は・・・・・明日休みなので・・・・。」
「じゃあ、もう一軒お付き合いしてもらえますか?」
「・・・・はい。」
「ちゃんと送りますので。」
「いえ、遠くはないですから。」
「僕もそうです。」
?
「とりあえず出ましょうか。」
そう言って先に部屋を出る。後について行く私。
ドアの外には他の部屋からの大きな音楽と歌声が響き渡っていた。
プリントが配られた。
今回の会議は事故防止委員の会議。
事故がとり返しのつかない事態になるこの仕事。
私の勤務するのは地域で中規模の総合病院。
2つある内科の一つで毎日クタクタになるまで働いてる。
毎日何かしらの出来事が起り、呼ばれて対処に当たらされる。
日々の業務でも忙しいのに新人の教育係も押し付けられている。
普通の仕事だけしたい。
普通の仕事でも定時に終わるのは難しいのに、仕事の終わりにこうして集まりがある。
はぁ~。
やめ時、一番はやっばりあれだけど・・・・。
だいたい美幸も普通の街コンに誘ってくれればいいのに。
なんで鉄コンだったのよ。
それでもなかなかそういった場には一人じゃいけない。パーティーもしかり。
どこに落ちてるの?素敵なご縁。
ちょっとだけ春日さんの顔が浮かんだ。
あ、いけない、ぼうっとした。やっば疲れてる。
急いで昨日の記憶を消しうつむく。
会議でさらに疲労を積み重ねて、一人静かなロッカーで着替えをすませる。
流石に未送信ボックスを開いて一気に下書きメールを春日さんに送った。
悩むのもなんとなく、これ以上伸ばすのもなんとなく。
ぼんやりとした気持ち。
ちょっとだけ化粧を直す。鏡に映る疲れた顔。
明日は、明日こそは何もない休み、ううう・・・・嬉しい。ゆっくり寝たい。
働きながら子育てしてるママナースを尊敬する。
自分のこともままならないのに。子供と夫なんて。
バタンとロッカーを閉めてバックを持つ。
携帯に着信があったのに気が付いた。未登録のアドレス。
タイミングだと春日さん?
開けるのをためらう。
周りに人はいない。勤務交代はとっくに終わり日勤の人は帰ってる時間。
メールを開くと『お疲れ様です。』と。
『なかなかメールいただけず、がっかりと不安の日でした。こんなことならちゃんとアドレスも聞いておくべきでした。今仕事終わりですか?確か近いと思っていたのですが、よろしかったらお食事はいかがですか?駄目ならこの次でも。すぐに見ていただけたのでしたらお電話をください。しばらく1時間ほど時間をつぶして待ってます。』
なんと、断りづらいメール。
1時間待つといわれたら早く電話しないと、断るにしても・・・・。
どう言ったらいいんだろう。明日は休みだから遅くなっても構わない。
でも今日のラフな格好はどうだろう?
ジーンズにカーディガン。いつも着替えるし楽な格好をしていた。
とりあえず電話をしてみた。
2回コールの後に誰かが出た。それは春日さんでしかないのだが。
「メールありがとうございました、鶴来です。」
『いえ、こちらこそ。お電話ありがとうございます。』
春日さんのうしろからは人の賑わいが聞こえる。
『今どちらですか?』
「仕事が終わって着替えたばかりです。」
春日さんが今いる駅を教えてくれた。
・・・・・遠くはない。というか住んでるところの最寄駅です。
病院は部屋から二駅離れていて、天気のいい日は自転車で通っている。
雨でも歩けるくらいの距離なのだ。電車に乗ると余計疲れる。
『あの、急でしたか?』
「はい?」
『お食事です。』
「あ、すみませんでした。えっと・・・・大丈夫なんですが、ちょっと楽な格好をしていて、本当に・・・・いいですか?」
春日さんはスーツだと思うけど、その隣で食事する格好じゃない。
『大丈夫です。気にしません。』
そう言われた。どちらへと言われたので春日さんの待つ駅に向かうと伝えた。
あと20分くらいで行ける。
予約のいらないようなお店になると思いますと断った。
こんなことならもう少し気を使った格好をしてきたのに。
ついでにお金も下ろしておく。
この間はご馳走になったのだからと思い出した。
今回はお礼として私が払おう。
自転車をこいで駅まで行き、遅くまでやってるスーパーに止めて駅中へ急ぐ。
待ち合わせたのはよくあるコーヒー屋さん。
中に入るまでもなく気が付いて出てきてくれた。
思った通りのスーツ。
「すみません、仕事帰りでこんな格好です。自転車通勤で荷物もこんな感じです。」
なんだかどんどん恥ずかしくなる。あぁ、ついでに化粧も。
もういいや。ありのままです。
「確かに先日とはイメージちがいますが、シンプルに綺麗です。」
はい、大人対応されました・・・・。
「カラオケ行きませんか?」
?。
「高級でもないですがご飯は食べれますし、ゆっくり話ができますし。」
はぁ。ゆっくりうなずく。
「じゃあ、行きましょう。」
行き先を決めてたかのような足取りで。
私の家とは逆方向。良かった、一応。
駅からすぐのチェーン店、会員カードを出してる春日さん。
三時間利用にして、食べ物と飲み物もオーダーして上がる
「奈央さん、いつも仕事はこのくらいですか?」
「まちまちです。もっと遅くなる時もあります。」
「あの、お礼が遅くなってすみませんでした。」
「ドキドキしましたよ。もう会えないかなって。」
「はい。すみません。」
それ以外なんと答えていいか。
「座りましょ。」
さりげなく手を引かれる。
横の並びのふたり。食事が来るまで待つ。
「おなか空きました?」
「もちろんです。春日さんも仕事はいつもこのくらいまでですか?」
「そうですね、僕もまちまちです。」
料理が来て乾杯!
「よく来るんですか?会員カードお持ちでしたよね。」
「2人きりは初めてです。会話が気にならないから良くないですか?もしかして歌いたいですか?」
マイクを指さされる。
「えっ、いえ、いいです、とりあえず自信がないので聞き役で。」
「僕も歌いませんよ。歌いたいわけじゃないですから。」
ジャケットを脱いでリラックス、ネクタイはそのままだけど袖を捲る。
ドキドキしてしまう。
「春日さんは仕事のスーツだとこの間より大人っぽく見えますね。」
ごまかすように言う。
「そうですか?どっちが好みです?」
「えっっ。」なんで、だから。
「もしかして興味を持ってもらえたかなぁって思ってたんですが。」
答えに詰まる私にそう言って笑顔を向ける春日さん。
なかなか、慣れない・・・・その素直な反応に。
「今更ですが、一応この間あそこにいたのなら彼氏とか好きな人とかいないと思ってもいいのですか?」
「・・・はい。いません。」言い切った。
「良かった。この間さりげなく聞いたのにすっかり流されました。」
えっ、いつ?もう驚いてばかりで。
「・・・・すみません気がついてなくて。」
なんだか申し訳ない気分になる。
手にしたグラスを煽るように飲む。ほとんどジュース。
「次、頼みますか?おかわり。明日は?」
「休みです。」
ついうれしそうな顔になった。
うれしそうですねとはっきり言われた。
外では結構な歌声が響いてるみたい。
それでも気にせず話を出来るのは確かにいいかも。
ご飯もまあまあ空腹を満たすには十分で。この間よりも深く個人的な話をする。
春日さんは業界紙の印刷を扱う会社勤務らしい。いろんな業界があるらしい。
楽しいのはお菓子や文房具など馴染みのあるもの。タワシや畳や筆とか全くかかわらないものだと理解が及ばないこともあるらしい。文房具楽しそう。いろんな業界があるらしい。驚くような部数を印刷することもあるという。
そんな話を楽しくしながら、私も病院勤務だと伝えた。
「なんとなくイメージに合いますね?」
「そうですか?」
「夜勤もあるんですか?」
「今は雑用が多いので少しになりました。」
「いつからなろうと思ったんですか?」
「母親もそうなんです。だからなんとなく小さい頃から。」
「どんな服ですか?」
何?
「やっぱり男は好きですから、制服。」
「残念ですがパンツスタイルです。」
「あぁ、夢がない、・・・・本当に残念。せっかく想像したのに、なんて。動きやすいんでしょうけどね。僕は年に一回検診に行くだけでドキドキです。採血苦手なんです。違う会社の人でしたが順番が前の人が倒れたんです。それからなんか一層怖くて。」
「男の人のほうがそうですね。女の人も怖がりはいますが貧血を起こすのは男の人です。」
「きっと平気な顔でやるんでしょうね。」
「そりゃあ、私が怖がってたらどう思いますか?」
「ああ、確かに不安になります。」
「でもいい血管してます。大丈夫です。失敗はされませんよ。」にっこり。
「そんな目で見てたんですか!なんて。確かに褒められたこともあります。」
「そうですね、こことかこことか。あ、ここも行けますね。」
つい指をさしてなぞってしまった。
「何でそんなに何回も刺すんですか?もしかして入院勧めてます?」
「是非どうぞ。」
「奈央さんを担当ナースに指名しますよ。」
「それは無理です。」
「いえ、わがまま患者と言われてもいいです。」
会話はあからさまに変です。
そう、確かにカラオケルームは楽。大きな声でも気にならない。話題もそう。
友達と話しててリアルすぎて思わず周りがドン引きするような話になってたこともある。
「こうしてカラオケで話し込むことよくあるんですか?」
そう聞いたら困った顔をされた。
「あ、すみません。別に・・・・・すみません。」
「いえ。お酒追加しますか?飲めるんですね。この間は眠そうになってましたよね。」
「明日休みだと気が楽で。」家も近いし。
「あの・・・どの位お付き合いしてないですかって聞いたら怒りますか?」
「・・・・・答えたくはないです。」
いきなりの話題転換。しかもそんな事を聞きますか?
「すみません。また、調子にのりました。」
「春日さんは?私も聞きますよ。」
冗談のようにして聞いた。
「2年くらいです。だからすごく・・・・久しぶりてす。」
「義一さんと他のパーティーに行ったりしてないんですか?」
義一さんとはこの間一緒に参加した友達の名前だった。
『ギイチ』と春日さんのよぶ呼び方の『音』が気に入って覚えた。
「もちろんです。ギイチ以外とも行ってないです。」
「会社内の飲み会とか、他の会社の人との飲み会とか。」
合コンの事をさり気なく聞いてみた。
「普通に仲間と飲みに行く事はありますが。もともとうちの会社は自宅勤務が多いんです。会社じゃなくても仕事できますから。」
「いいですね。通勤が楽だし。うらやましい。子育てしながらとか、流行りのイクメンになれますよ。」
ふっと笑われた。変なこと言いました?
「明日は何をするんですか?」
「寝坊と掃除と洗濯と・・・・。後は適当に。」
「部屋きれいそうですね?」
「普通です。掃除はあんまり好きじゃないので物は置かないようにしてます。すごく寂しい部屋だってよく言われます。」
「誰にですか?」
「え、っと友達とか。」
時々会話が止まる。普通に広がりそうな会話なのに、何故か止められる。
タイミングを外されるとちょっとびっくりしてしまう。
食事も結構食べてお酒もジュースみたいだったけどお代わりをして。
部屋の電話が鳴って時間が来た。
3時間が経っていたらしい。あっという間だった。楽しかった。
春日さんの考えがチラチラと見える。
わざとかと思うくらい、本当にわざと見せてる?
でももしかして揶揄われてるだけ?ってちょっと引いて考えてしまう。
仕事は知ってるけど年齢を知らない。
同じくらい?義一さんはそれくらいだと思えたけど。
あの日美幸は仲良くなった人としばらくお付き合いすることにしたらしい。
やっぱり趣味が一緒というのはいいらしい。
残念ながらギイチさんは同志と盛り上がって終わったらしい。
「奈央さん?どうかしましたか?」
「あっ、すみません。」
すっかりジャケットも着ている春日さん。
どんだけぼんやりしてたんだろう。早く寝た方がいいかも。疲れがたまりすぎ。
私もバッグを持って部屋を出る春日さんに続く。
ドアに手をかけた春日さんが振り向く。
視線が合う。
「あの、もう少し一緒にいたいんですが、奈央さんは帰りたいですか?」
どうだろう?・・・あっという間に三時間たったくらい楽しいと感じてたのに答えを出せずに悩むようなふりをする自分。
「明日仕事ですよね?」
そして変に気を使った風の質問をしてしまう。
「また・・・・勘違いしたんでしょうか?」
「あの・・・・私は・・・・・明日休みなので・・・・。」
「じゃあ、もう一軒お付き合いしてもらえますか?」
「・・・・はい。」
「ちゃんと送りますので。」
「いえ、遠くはないですから。」
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