紹介し忘れましたが、これが兄です。

羽月☆

文字の大きさ
4 / 29

4 はじめてじゃなくて。

しおりを挟む
一緒に外を歩く。駅向こうってあんまり行くことがなかった。
何故か駅から離れるように歩く。
どこかお店を決めてる?

さっき遠くないって言ってたけど、住んでるところがここじゃないのは知ってる。
路線は一緒だけどもっと都内に近い駅でこの間は降りたから。
なんだかもやもやとした疑問。
ちょっとした言葉に相変わらず振り回されてる気もする。
やっぱり揶揄われてる?
それでも、自宅から離れてるのに大人しくついて行く自分。
足元を見ながらだったので止まるのが少し遅れた。
あっと、危うくぶつかるところだった。


「奈央さん、ここでいいですか?」

「はい。」

そう言って地下に続くバーにつれていかれた。
1人じゃ絶対入らない。地下のお店ってかなりの冒険です。

手を取られて店内へ。
出された手に素直に手をのせてしまう自分。
そして意味を考える、素直なのか、他はというと・・・なんなのか。
広い店内は低い音量の音楽と、思ったより賑やかな雰囲気があった。
昼はカフェをやってるらしいが夜はぐっと照明が落とされているみたい。
窪んだ場所にあった席が空いていてそこに落ち着く。


「春日さん、ここにいらしたことあるんですか?」

「はい。」

にっこり。
ゆかりのある駅なの?
もうずいぶんこの駅には住んでるけど初めて知りました。
実家があるとか?

取りあえずお酒を注文する。あとはおつまみを少々。

「気に入ってるんです。いつも一人で来てたんですが、ご一緒できてよかったです。」

いつも?1人で・・・・カウンターでしょうか?
オーダーのお酒などが届いた。
またしても乾杯。
さっきのお酒とは違う、やっぱり美味しい。

テーブルの手に手を重ねられた。
案内されるように手をつなぐのとは違う、びっくりして思わずひいてしまった。
私が抜けたまま、春日さんの手はテーブルに残ったまま。

「すみません、びっくりして。」

まさか手を戻すのは正解じゃないだろう。
そのまま膝の上に乗せる。
慣れない、春日さんの・・・・揶揄うような言動に。

「春日さん・・・・何か・・・私は揶揄われてるんでしょうか?」

「そんな・・・・どうしてですか?心外です。」

視線が厳しくなる。

「すみません、さっきから・・・・・なんだかさり気なく言われることに心が落ち着かなくて。」

「さりげなく・・・・・って、はっきり言ってます。奈央さんが・・・奈央さんこそ、思わせぶりです。」

何が?さっぱりわからない。それこそ心外です。
見返す私の表情で何か気が付いたのかもしれない。
春日さんの表情がハッとなった。

「この駅は・・・・たまたまこの駅にいたんですか?」

「いいえ、違います。ここに来たかったんです。返事がもらえず、どうしようかと思って。つい、ここに来たんです。」

「どうして・・・・?私の最寄り駅ですが、ご存知でしたか?」

「・・・・はい、知ってました。」

そう答えた春日さん。はっきり言われてもなぜ?としか思えない。教えましたか?

「どうして・・・・・。」

ふぅっと春日さんが肩の力を抜くようにして困った顔になる。

「あの日、あの博物館で奈央さんを見つけたのはもちろん偶然です。でもその前に二度お会いしてます。挨拶もしました。覚えてませんよね。」

ビックリするのは私。
改めて顔を見る。
同級生や上下級生じゃない、二度挨拶・・・一番考えられるのは患者様の家族。
でもそんなところまでは覚えてない・・・・。二回じゃ無理

「すみません、ちょっとすぐには思い出せなくて。」

「いえ、そうかもしれません。」



「春日・・・と聞いてもですか?」

春日さん・・・・・まったく。そんな患者さんに記憶がない。
そんな表情を読まれた。

「一度目は去年の春、そして二度目は冬に。一方的ですが他にもいろいろ知ってます。顔を見てわかりましたが、名前が珍しいので間違ってないと確信したんです。」

まったく・・・・・・。失礼ながら思い出せない。
無理そう。

「妹がお世話になってます。」

妹・・・・・春日・・・・・。
じわじわと記憶が呼び起こされる。
あ・・・・すっかり違う呼び名で呼んでたから・・・・。




確かに去年の春の頃だった。

「あの隣に越してきた春日です。さっきは突然ですみませんでした。よろしくお願いします。これどうぞ。」

可愛いパッケージのお菓子をもらった。
手を出して受け取りお礼を言う。さっき彼氏と一緒にいるところを見かけてあいさつした。
2人で住むのだろうか?ちょっと狭いかも?

「社会人?学生さん?」

「春から大学3年生になります。思い切って実家を出てきました。」

「そうなの。」

大学生だと、とりあえずは1人暮らしか。

「何か分からないことがあったら聞いてね。1人暮らし初めてでしょう?」

「はい。よろしくお願いします。あの、さっそくちょっとだけいいですか?」

そう言っていろいろとお店を聞かれて教えた。

「ありがとうございます。あのもし夕飯まだでお時間あるようでしたらご一緒してもらえませんか?もちろんお礼なのでごちそうします。初日から何だか寂しくて。」

そうでもないような笑顔で言われた。
作るつもりだったけどいいかなと思って一緒に夕食を取りに出かけた。
とても人懐っこくて、誰にでも好かれそうな子。

「ハルヒと呼んでください。割と好きなんです、自分の名前。」

明るくそう言われた。次の瞬間からハルヒちゃんと呼んでいた。
だから・・・・本当に記憶がなくて。
そういえば時々『兄が』という言葉を聞いた。
優しくて甘えられるというような話を、そして今分かった。
ハルヒちゃんと会った時に横にいた人。てっきり彼氏だと思っていた。
だからあんまり顔を見ることもなく軽く会釈した。
よく考えれば年が離れてたかも。変じゃないけど。
まさかお兄さんと一緒に買い物したりするとは思わなくて。
確かに引っ越しの日と、その後もう一度会った。
たまたま勉強会で出かけて帰ってきた休日。
廊下でばったり会った。私は部屋へ入るところ、ハルヒちゃんが出かけるところ。
一緒に男の人もいて先に廊下で待っていた。
すぐにハルヒちゃんが出てきて、いつものようにあいさつした。
でも、それだけで。

『兄です。』と紹介されていたなら分かってただろうけど、紹介もなく、ずっと彼氏だと思っていて。
いいなあ、って思ってたりもして。
あれから何度かハルヒちゃんとはご飯に行っている。
いろんな話をしている。

そして、私が失恋をして・・・・・本当に大人げなく泣き崩れたこともある‥‥一度だけ。
もしかしてハルヒちゃんはそんなことも春日さんに?

春日さんを見る。
私が気が付いたのには気が付いてるみたい。
私を見る視線に特に変わりはない。

でも、私は・・・・、だってさっき言った。
いろいろ知ってるって。

ハルヒちゃん・・・・・・何を教えたの?


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

処理中です...