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5 引っ越しの日
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妹が一人暮らしをしたいと言い出したらしい。
母親から電話がかかってきた。
父親が反対するのは当然で。
まあ、普通より執拗にというか案の定泣き落としで反対してごねたらしい。
・・・父の話である。
でも子供に甘いのも事実でハルヒに言いくるめられて、最後は許したらしい。
そうなると後はこっちに丸投げ。
週末をつぶして物件探しに付き合った。オートロック、駅近。
兄である自分の部屋からも遠くないところ。
親の出した条件で家賃を考え、少し下ったあたりで探そうということになって見つけたところ。
ハルヒは随分気に入ったらしい。
諸手続きをしてやり、いろいろと教えながら買い物にまで付き合ってやった。
話に紛れさせて彼氏の事を聞いたが、今はいないらしい。
親が心配していたのは当然そのことで。
もしかしてそのための一人暮らしじゃないかと。
特にそうでもないらしい。
安心はした。
大家さんもいい人っぽいし、周りも女性の一人暮らしが多い小ぶりのマンションだった。
帰り道も遅くなっても大丈夫な大通り。そこをちょっと入ったところだった。
そしてそのまま当然のように引越しの手伝いも全面自分の仕事になった。
予定したのは週末の晴れの日。引っ越し日和だ。
朝、実家に顔を出したらまだパジャマのままのハルヒ。
「おい、自分の引っ越しなのに何だその恰好は。」
朝一で車を借りてきた自分は早起きだった。
「あ、お兄ちゃん荷物運んでていいよ。」
朝ごはんのパンにかぶりつきながら平然と言うハルヒ。
何て奴だ。
「テツ、ご飯は?」
「食べる。」
早起きして何も食べてない。
同じようにパンを焼いてもらいコーヒーをもらう。
「お前、着替えと化粧をするつもりか?」
「うん、もちろん。スッピンじゃ行かないよ。」
「早く準備しろ。お前の引っ越しだぞ。」
「分かってるよ。嫌だなあ、せっかちで。」
もぐもぐと咀嚼しながら言い、席を立つ。
昔からマイペースに人を巻き込むのがうまい妹だった。
分かっている、こういうやつだ。
ゆっくりご飯を食べてハルヒの部屋の前に行く。
一応ノックすると返事があってドアが開く。
すっかり着替えも終わっていたらしい。
部屋には箱が数箱。まだまだ少ない。
ほとんどが今の季節の衣類だ。
その他たいていの物はワンコインで買うと言ってほとんど持って行かないらしい。
多分自分が払うことになる気がするが。
引っ越しの後、ご飯を食べさせて、買い物まで付き合う。それが今日の予定だ。
荷物の運び込みはすぐ終わった。
実家も遠い訳ではない。近いくらいだ。
寂しそうな父親の顔。前面に捨てられ感が漂い泣きそうな顔だ。
心配と寂しさ。寂しさが勝ってるらしい。
「お父さん、すぐに着替え取りに来るし、お腹空いたら帰ってくるから。」
ハルヒには軽くあしらわれてる。
そんなやり取りに母親は呆れてる。
「ちゃんと連絡しなさいね。いきなり帰ってきてもご飯はないわよ。」
「は~い。」
「じゃあテツ、よろしくね。」
「ああ、行ってくる。」
「行ってきま~す。」
手を振って車に乗り込み新しい部屋を目指す。
「あああ、寂しいなあ。友達出来るかなあ。」
どこに友達を作るつもりだ?
寂しいならあと二年くらい実家にいればよかったのに。
「はあ~、でも楽しみ、一人暮らし。」
「あんまり羽目を外すなよ。危ない目にあわないようにしろ。」
「もちろん、分かってる。でも遅くなったらお兄ちゃんとこに泊めててもらおうっと。」
「アホか、断る。」
「え~、だってこっそり彼女がいるなんてことなさそうじゃん。可愛い妹が愚痴聞いてあげるし。」
失礼な。まあ、彼女はいないから引っ越しの手伝い一式付き合えるわけだが。
自分の住んでる部屋は二路線利用できる場所で、ハルヒのところよりは都内に近く便利ではある。
就職してボーナスで引っ越しをした。
今のところ気に入ってる自分だけの城だ。
可愛いとか可愛くないはともかく、妹に入りびたられて変な噂が出たらどうする。
やはり断固拒否する、と言いながらも駅まで迎えに行く自分の姿が想像できるのだ。
妹に優しい兄だから。
年が離れているせいか昔からなんとなく面倒を見なくてはと、兄というより保護者的な気持ちで見てしまう。
実際に一緒に遊ぶことは少なかった。
小さい頃母親の手伝いをして面倒を見て、本当に子育ての手伝いだった。
さすがに自分に喧嘩をしかけてくることもなく、甘えるほうだった。
それなりに可愛がってきたつもりだ。
ボーナスのたびに食事に連れて行ったり、プレゼントをしている。
「彼女が出来るまでもらってやるから。」
そんな生意気な口をたたきながら楽しみにしてるだろう。
高価だけどさほど驚く金額でもないものをねだる。
大切に使ってるのもわかる。
まあ、いい奴なんだ。
そう思わせる甘え上手な妹、頼まれると嫌とは言えない甘い兄。
マンションに着いた。水道やガスの手続きも終わってる。
役所関係は明日行くという。
部屋の掃除は終わってるらしい。
ドアを開けて荷物を運びこむ。もちろん自分が部屋まで。
エレベーターがついていてよかった。
あとは部屋でハルヒがどんどん荷解きをしていく。
一通り運び終わり。ハルヒの仕舞い込みも終わった。
次は買い物。必要なものは書き出しているらしい。
車で来てるので大きい物も買える。
大きな量販店で買うと決めてたらしく車で出かける。
まず電化製品は明日届く予定と。
携帯とパソコンがあるのでしばらくテレビもいらないというが買ってやるというと嬉しそうに見に行くと言い出す。カーテンや布団など、タオルや食器も、結局ワンコインじゃなくついでの様に全部をそのお店で揃えた。
「食事をして帰るか?何が食べたい?」
「もちろん引っ越し蕎麦。」
そう言われて大きな通りにある蕎麦屋に適当に入った。
なかなかおいしかった。
あとは買った荷物を運び入れる。
途中隣の部屋に住むという女性と会った。
荷物の出し入れでドアを開けたままだったし、ちょっと話声がうるさかったかもしれない。
わざわざ声をかけてきてくれたらしい。
挨拶をするハルヒの後ろに立つ。
「よろしくお願いします。」というハルヒと一緒にお辞儀をする。
きれいな女性だった。目立つようなきれいさではないが意思の強そうな、凛とした女性。
そんな思いを抱いていて、慌ててお辞儀をして別れた。
ただそれだけ。
「きれいな人だね。お兄ちゃん好きでしょう?あんな人。」
何を根拠に言うんだ。
「きれいな人を嫌いな男はいない。」
一般論にした。妹ながら恐ろしい洞察力。
確かにそうだが、なぜ言い切れるんだ?可愛い女子も好きだぞ。
荷物を運びいれると両隣に挨拶に行く。
もちろんお菓子も準備していた、自分が。
隣の奥一つは不在。さっきの人の部屋らしい。
「あとでご挨拶しよう。仲良くなってあげようか?」
にんまりと聞くハルヒ。
「好きにしろ。」
お願いしますと言うわけないだろう。大体彼氏がいるはずだ、絶対。
それが春の出来事で。
次の週必要なものはないかと聞いて手伝いに行こうとしたが、大丈夫とのことだった。
1人暮らしも順調ということで安心していた。
時々洋服を取りに行ったり、食事食べに戻ってるらしい。
一年くらいはそんなことになるだろうと思ってた。
そして本当に隣の人、鶴来奈央さんと仲良くなったらしい。
その日のうちに食事に行ったとメッセージが来た。
何て奴だ。本当にうまい。人たらしめ。今度会ったらお礼を言わねば。
『いつも妹がお世話になってます。』と。
実は楽しみにしていたのにハルヒからのヘルプコールはなく。
『やっぱり彼氏がいるらしい。』といううれしくない報告が来た。
つまらない情報だった。がっかりもした。始まらないうちに失恋か?
でも続く文章には多分うまく行ってないと書かれていた。
喜んではいけないが。口元が緩んだ。
それからも月に2、3回くらいは食事をしてるらしい。
お茶だけならお互いの部屋を行き来してるくらい、普通のようにしてるらしい。
職業も聞いた。看護師さんだと、似合う!
『いやらしい想像はしないように。』と続けて書かれていた。
ついはっとした。
確かに似合うと思った瞬間浮かんだのはピンクのナース服姿。
スカート気持ち短め?
実際普通がどのくらいの長さなのか病院に縁がないのでわからない。
・・・まさかパンツスタイルだったとは・・・・。
ただ恋愛の方面の続報はないまま。ただの妹の隣の部屋の人と思ってた。
冬、年末年始は実家で過ごすことになったと連絡が来て、自分もそうすると知らせた。
そのあと届いたメッセージは。
『喜んじゃダメだよ』と。
『やっぱり奈央さん別れてたらしい。だいぶ経つみたい。ちょっと元気なくて痩せた時期があったから2ヶ月くらい前かな?少し元気になって元に戻ったみたい。しばらく一人でいいって言ってた。クリスマスは1人みたい。寂しそう。』
喜ぶなと言われたから喜ばない。
でもハルヒの文章でも悲しみが伝わってくる。
いったいどんな奴だろう。
は~。ただ特に会うこともないし、印象もすでにぼんやりしてる。
勝手に送られてくるハルヒのニュースで随分片思いしてる気がする。
実際話をしたら印象が違ったりして。
ご縁があれば・・・・そう思っていただけだった。
冬、実家から荷物を運ぶために車を借りた。
迎えに行っていらない荷物を実家に運び、実家から必要なものを持ってくる。
そのための手伝いだった。
期待したが二度目の再会はなく。
「今日は仕事だって。」
隣の部屋のドアを見てたら言われた。
「別に・・・・。」
今更だが知らんぷりをした。
笑われた気がする。
お正月をぐうたらと過ごしてハルヒを送ってきた。
その時に偶然ドアが開き奈央さんと会えた。
変わらない。相変わらずきれいだった。
悲しいニュースを聞いたからかちょっと頼りなげに思えたりして。
「ハルヒちゃん、お帰り。」
「あ、奈央さん。ただいま。後でご飯持って行っていいですか?」
「うん、いつもの頃で。」
「はい。じゃあ。」
奈央さんが軽く目礼をして自分の後ろを通り過ぎて行った・・・・行ったじゃないか・・・・。
ハルヒ・・・・・それはないだろう。紹介しろ!
背中を見た後ハルヒを向く。
言えない、言いたいけど言えない。
だが気が付いたらしい。
「あ、お兄ちゃん、紹介するのを忘れてた。」
わざとか?わざとだろう?
結局顔が見れて新しく脳内イメージを新鮮にしたくらいの短い時間の邂逅。
文句を言ったらダメだが、物足りない。
ハルヒのボケッ。
「今日、後で言っとくね。」
「何をだ。」
「兄を紹介し忘れました。存在感がなくて・・・って。」
「・・・・。」
「なので今度紹介します。兄のおごりで食事でもしましょう!って。」
ハルヒ、今こそ有言実行だ!
そうは言ってもそんな機会もなく。
相変わらずメールで食事しただの、飲んだだのうらやましい情報が来るばかり。
本当に兄でしたと伝えてくれたのか疑問だった。
そして・・・まさか本当に伝えてないとは。どんな仕打ちだ?
彼女とのご縁は自分とのものではなく、ハルヒが握りしめているんだなあと思ってあきらめていた。
その内彼氏ができるかもしれないし。
そう思って、期待も薄れて行った。
だからあの日、偶然見かけた時はびっくりした。
近づいて名前を確認した。
間違いないと。
でも知らないふりして声をかけた。
覚えてもらえてないことにちょっとだけショックも受けたが。しょうがない。
ハルヒが握りしめていたご縁を少し緩めて自分に分けてくれたんだと。
勝手に舞い上がった。
うれしくて。
ハルヒは知らない。教えてない。
一緒に食事をして話をして、楽しくて。
名刺を渡して連絡を待った。夜・・・ずっと。
来なかった。絶対、来る自信はあったのに。
会社のアドレスは自分のパソコンでも見れる。
来れば分かる。無駄に見た分寂しさが募り残念に思った。
せめてお礼だけでも。それ以上はなくても。
悪い印象はなかったと思うのに。
あそこにいたんならまだ彼氏はいないんじゃないかと思った。
そして次の恋愛をしようと思うくらいには昔を忘れたんだと。
それでも、次の日も待った。
偶然だがハルヒに留守番を頼まれた。
寂しくて買ったハムスターのオス『ピッコロ』の世話とともに。
留守番の間、泊ってもいいと。
運命のようなタイミング。次の日は当然の様に有休をとった。
その日奈央さんが休みなのは聞いていた。
お礼のメールが来たら食事に誘うつもりだった。
そしてお世話になってるハルヒの兄ですと伝えるつもりで。
食事が無理でも、次の日に偶然のふりして出会えるかもしれない・・・・と。
ただ、連絡は来ない・・・それ以上は何をできる気もしない、偶然を装うのも無理じゃないか?
自分は住所は知っていてもメルアドは知らない。
本当にダメだったんだろうか?自分の気のせいだったのだろうか?
半分近く諦めていた。
早く仕事を終えてハルヒの部屋に帰るべく移動していた。
着信を知らせる携帯。
知らないアドレスからのメール。ちょっと緊張して開いた。
待っていた連絡だった。
あっさりだがお礼が書かれていた。遅くなったお詫びも。
速攻で返事を書いた。
電話番号と駅にいると。一時間くらいなら待ちたい。連絡が欲しいと。
どうして自分の最寄り駅にいるんだろうと不思議に思われるかもしれない。
まだ内緒だ。もしかして思い出してくれるかもしれない。
返事は電話ですぐに来た。
知らない番号だったが改札を出て隅に行き話をする。
来てくれると返事をもらった。
ふと思った。ハルヒに鉄コンで出会った男性の話をしただろうか?
でもハルヒは何も言ってこない、してないのだろう。
彼女にとって話するほどの出会いでもなかっただろうか。
自分は彼女の中ではどんな存在になりうるのか。
これから・・・・。
考えて、話ができるほうがいいと思った。楽に二人きりで。
ふと目についたカラオケ。
ハルヒもよく使うと言っていた。仲間数人で勉強をすると。
集中できるのか疑問だが、数人で集まりノートを写したり話し合ったり、そんなのに便利だと。
いいんじゃないかと思った。
美味しいものが食べたいなら次の約束を。飲みたりないときは二軒目を。
そう考えていたら彼女の姿が見えた。
ちょっと急いできたのかおでこの髪の毛が全開だ。
急いで席を立ち、まっすぐに歩いていく。気が付いてくれたらしい。
仕事の後でそのまま来たから服とバッグが・・・という彼女。
全然。スーツの自分とはちょっと違うがそれでもシンプルなスタイルだ。
自分の提案通りカラオケに行くことにした。
食事を頼んで三時間。邪魔されずに話ができる時間を確保した。
どうしても確認したいこと。
彼氏が、好きな人がいるか?
自分は候補になりえるか?
さり気ない探りが彼女にとっては不審に映ってしまったらしい。
そんなのは誤解だ。ちゃんと聞けない自分も悪い。
空回りし続けて一喜一憂しそうな自分もどうかと思う。
でもどうしても向き合うには自信と経験と・・・時間も、いろいろ足りなかった。
こうして目の前にしてやっと伝えたいことは伝えた。
母親から電話がかかってきた。
父親が反対するのは当然で。
まあ、普通より執拗にというか案の定泣き落としで反対してごねたらしい。
・・・父の話である。
でも子供に甘いのも事実でハルヒに言いくるめられて、最後は許したらしい。
そうなると後はこっちに丸投げ。
週末をつぶして物件探しに付き合った。オートロック、駅近。
兄である自分の部屋からも遠くないところ。
親の出した条件で家賃を考え、少し下ったあたりで探そうということになって見つけたところ。
ハルヒは随分気に入ったらしい。
諸手続きをしてやり、いろいろと教えながら買い物にまで付き合ってやった。
話に紛れさせて彼氏の事を聞いたが、今はいないらしい。
親が心配していたのは当然そのことで。
もしかしてそのための一人暮らしじゃないかと。
特にそうでもないらしい。
安心はした。
大家さんもいい人っぽいし、周りも女性の一人暮らしが多い小ぶりのマンションだった。
帰り道も遅くなっても大丈夫な大通り。そこをちょっと入ったところだった。
そしてそのまま当然のように引越しの手伝いも全面自分の仕事になった。
予定したのは週末の晴れの日。引っ越し日和だ。
朝、実家に顔を出したらまだパジャマのままのハルヒ。
「おい、自分の引っ越しなのに何だその恰好は。」
朝一で車を借りてきた自分は早起きだった。
「あ、お兄ちゃん荷物運んでていいよ。」
朝ごはんのパンにかぶりつきながら平然と言うハルヒ。
何て奴だ。
「テツ、ご飯は?」
「食べる。」
早起きして何も食べてない。
同じようにパンを焼いてもらいコーヒーをもらう。
「お前、着替えと化粧をするつもりか?」
「うん、もちろん。スッピンじゃ行かないよ。」
「早く準備しろ。お前の引っ越しだぞ。」
「分かってるよ。嫌だなあ、せっかちで。」
もぐもぐと咀嚼しながら言い、席を立つ。
昔からマイペースに人を巻き込むのがうまい妹だった。
分かっている、こういうやつだ。
ゆっくりご飯を食べてハルヒの部屋の前に行く。
一応ノックすると返事があってドアが開く。
すっかり着替えも終わっていたらしい。
部屋には箱が数箱。まだまだ少ない。
ほとんどが今の季節の衣類だ。
その他たいていの物はワンコインで買うと言ってほとんど持って行かないらしい。
多分自分が払うことになる気がするが。
引っ越しの後、ご飯を食べさせて、買い物まで付き合う。それが今日の予定だ。
荷物の運び込みはすぐ終わった。
実家も遠い訳ではない。近いくらいだ。
寂しそうな父親の顔。前面に捨てられ感が漂い泣きそうな顔だ。
心配と寂しさ。寂しさが勝ってるらしい。
「お父さん、すぐに着替え取りに来るし、お腹空いたら帰ってくるから。」
ハルヒには軽くあしらわれてる。
そんなやり取りに母親は呆れてる。
「ちゃんと連絡しなさいね。いきなり帰ってきてもご飯はないわよ。」
「は~い。」
「じゃあテツ、よろしくね。」
「ああ、行ってくる。」
「行ってきま~す。」
手を振って車に乗り込み新しい部屋を目指す。
「あああ、寂しいなあ。友達出来るかなあ。」
どこに友達を作るつもりだ?
寂しいならあと二年くらい実家にいればよかったのに。
「はあ~、でも楽しみ、一人暮らし。」
「あんまり羽目を外すなよ。危ない目にあわないようにしろ。」
「もちろん、分かってる。でも遅くなったらお兄ちゃんとこに泊めててもらおうっと。」
「アホか、断る。」
「え~、だってこっそり彼女がいるなんてことなさそうじゃん。可愛い妹が愚痴聞いてあげるし。」
失礼な。まあ、彼女はいないから引っ越しの手伝い一式付き合えるわけだが。
自分の住んでる部屋は二路線利用できる場所で、ハルヒのところよりは都内に近く便利ではある。
就職してボーナスで引っ越しをした。
今のところ気に入ってる自分だけの城だ。
可愛いとか可愛くないはともかく、妹に入りびたられて変な噂が出たらどうする。
やはり断固拒否する、と言いながらも駅まで迎えに行く自分の姿が想像できるのだ。
妹に優しい兄だから。
年が離れているせいか昔からなんとなく面倒を見なくてはと、兄というより保護者的な気持ちで見てしまう。
実際に一緒に遊ぶことは少なかった。
小さい頃母親の手伝いをして面倒を見て、本当に子育ての手伝いだった。
さすがに自分に喧嘩をしかけてくることもなく、甘えるほうだった。
それなりに可愛がってきたつもりだ。
ボーナスのたびに食事に連れて行ったり、プレゼントをしている。
「彼女が出来るまでもらってやるから。」
そんな生意気な口をたたきながら楽しみにしてるだろう。
高価だけどさほど驚く金額でもないものをねだる。
大切に使ってるのもわかる。
まあ、いい奴なんだ。
そう思わせる甘え上手な妹、頼まれると嫌とは言えない甘い兄。
マンションに着いた。水道やガスの手続きも終わってる。
役所関係は明日行くという。
部屋の掃除は終わってるらしい。
ドアを開けて荷物を運びこむ。もちろん自分が部屋まで。
エレベーターがついていてよかった。
あとは部屋でハルヒがどんどん荷解きをしていく。
一通り運び終わり。ハルヒの仕舞い込みも終わった。
次は買い物。必要なものは書き出しているらしい。
車で来てるので大きい物も買える。
大きな量販店で買うと決めてたらしく車で出かける。
まず電化製品は明日届く予定と。
携帯とパソコンがあるのでしばらくテレビもいらないというが買ってやるというと嬉しそうに見に行くと言い出す。カーテンや布団など、タオルや食器も、結局ワンコインじゃなくついでの様に全部をそのお店で揃えた。
「食事をして帰るか?何が食べたい?」
「もちろん引っ越し蕎麦。」
そう言われて大きな通りにある蕎麦屋に適当に入った。
なかなかおいしかった。
あとは買った荷物を運び入れる。
途中隣の部屋に住むという女性と会った。
荷物の出し入れでドアを開けたままだったし、ちょっと話声がうるさかったかもしれない。
わざわざ声をかけてきてくれたらしい。
挨拶をするハルヒの後ろに立つ。
「よろしくお願いします。」というハルヒと一緒にお辞儀をする。
きれいな女性だった。目立つようなきれいさではないが意思の強そうな、凛とした女性。
そんな思いを抱いていて、慌ててお辞儀をして別れた。
ただそれだけ。
「きれいな人だね。お兄ちゃん好きでしょう?あんな人。」
何を根拠に言うんだ。
「きれいな人を嫌いな男はいない。」
一般論にした。妹ながら恐ろしい洞察力。
確かにそうだが、なぜ言い切れるんだ?可愛い女子も好きだぞ。
荷物を運びいれると両隣に挨拶に行く。
もちろんお菓子も準備していた、自分が。
隣の奥一つは不在。さっきの人の部屋らしい。
「あとでご挨拶しよう。仲良くなってあげようか?」
にんまりと聞くハルヒ。
「好きにしろ。」
お願いしますと言うわけないだろう。大体彼氏がいるはずだ、絶対。
それが春の出来事で。
次の週必要なものはないかと聞いて手伝いに行こうとしたが、大丈夫とのことだった。
1人暮らしも順調ということで安心していた。
時々洋服を取りに行ったり、食事食べに戻ってるらしい。
一年くらいはそんなことになるだろうと思ってた。
そして本当に隣の人、鶴来奈央さんと仲良くなったらしい。
その日のうちに食事に行ったとメッセージが来た。
何て奴だ。本当にうまい。人たらしめ。今度会ったらお礼を言わねば。
『いつも妹がお世話になってます。』と。
実は楽しみにしていたのにハルヒからのヘルプコールはなく。
『やっぱり彼氏がいるらしい。』といううれしくない報告が来た。
つまらない情報だった。がっかりもした。始まらないうちに失恋か?
でも続く文章には多分うまく行ってないと書かれていた。
喜んではいけないが。口元が緩んだ。
それからも月に2、3回くらいは食事をしてるらしい。
お茶だけならお互いの部屋を行き来してるくらい、普通のようにしてるらしい。
職業も聞いた。看護師さんだと、似合う!
『いやらしい想像はしないように。』と続けて書かれていた。
ついはっとした。
確かに似合うと思った瞬間浮かんだのはピンクのナース服姿。
スカート気持ち短め?
実際普通がどのくらいの長さなのか病院に縁がないのでわからない。
・・・まさかパンツスタイルだったとは・・・・。
ただ恋愛の方面の続報はないまま。ただの妹の隣の部屋の人と思ってた。
冬、年末年始は実家で過ごすことになったと連絡が来て、自分もそうすると知らせた。
そのあと届いたメッセージは。
『喜んじゃダメだよ』と。
『やっぱり奈央さん別れてたらしい。だいぶ経つみたい。ちょっと元気なくて痩せた時期があったから2ヶ月くらい前かな?少し元気になって元に戻ったみたい。しばらく一人でいいって言ってた。クリスマスは1人みたい。寂しそう。』
喜ぶなと言われたから喜ばない。
でもハルヒの文章でも悲しみが伝わってくる。
いったいどんな奴だろう。
は~。ただ特に会うこともないし、印象もすでにぼんやりしてる。
勝手に送られてくるハルヒのニュースで随分片思いしてる気がする。
実際話をしたら印象が違ったりして。
ご縁があれば・・・・そう思っていただけだった。
冬、実家から荷物を運ぶために車を借りた。
迎えに行っていらない荷物を実家に運び、実家から必要なものを持ってくる。
そのための手伝いだった。
期待したが二度目の再会はなく。
「今日は仕事だって。」
隣の部屋のドアを見てたら言われた。
「別に・・・・。」
今更だが知らんぷりをした。
笑われた気がする。
お正月をぐうたらと過ごしてハルヒを送ってきた。
その時に偶然ドアが開き奈央さんと会えた。
変わらない。相変わらずきれいだった。
悲しいニュースを聞いたからかちょっと頼りなげに思えたりして。
「ハルヒちゃん、お帰り。」
「あ、奈央さん。ただいま。後でご飯持って行っていいですか?」
「うん、いつもの頃で。」
「はい。じゃあ。」
奈央さんが軽く目礼をして自分の後ろを通り過ぎて行った・・・・行ったじゃないか・・・・。
ハルヒ・・・・・それはないだろう。紹介しろ!
背中を見た後ハルヒを向く。
言えない、言いたいけど言えない。
だが気が付いたらしい。
「あ、お兄ちゃん、紹介するのを忘れてた。」
わざとか?わざとだろう?
結局顔が見れて新しく脳内イメージを新鮮にしたくらいの短い時間の邂逅。
文句を言ったらダメだが、物足りない。
ハルヒのボケッ。
「今日、後で言っとくね。」
「何をだ。」
「兄を紹介し忘れました。存在感がなくて・・・って。」
「・・・・。」
「なので今度紹介します。兄のおごりで食事でもしましょう!って。」
ハルヒ、今こそ有言実行だ!
そうは言ってもそんな機会もなく。
相変わらずメールで食事しただの、飲んだだのうらやましい情報が来るばかり。
本当に兄でしたと伝えてくれたのか疑問だった。
そして・・・まさか本当に伝えてないとは。どんな仕打ちだ?
彼女とのご縁は自分とのものではなく、ハルヒが握りしめているんだなあと思ってあきらめていた。
その内彼氏ができるかもしれないし。
そう思って、期待も薄れて行った。
だからあの日、偶然見かけた時はびっくりした。
近づいて名前を確認した。
間違いないと。
でも知らないふりして声をかけた。
覚えてもらえてないことにちょっとだけショックも受けたが。しょうがない。
ハルヒが握りしめていたご縁を少し緩めて自分に分けてくれたんだと。
勝手に舞い上がった。
うれしくて。
ハルヒは知らない。教えてない。
一緒に食事をして話をして、楽しくて。
名刺を渡して連絡を待った。夜・・・ずっと。
来なかった。絶対、来る自信はあったのに。
会社のアドレスは自分のパソコンでも見れる。
来れば分かる。無駄に見た分寂しさが募り残念に思った。
せめてお礼だけでも。それ以上はなくても。
悪い印象はなかったと思うのに。
あそこにいたんならまだ彼氏はいないんじゃないかと思った。
そして次の恋愛をしようと思うくらいには昔を忘れたんだと。
それでも、次の日も待った。
偶然だがハルヒに留守番を頼まれた。
寂しくて買ったハムスターのオス『ピッコロ』の世話とともに。
留守番の間、泊ってもいいと。
運命のようなタイミング。次の日は当然の様に有休をとった。
その日奈央さんが休みなのは聞いていた。
お礼のメールが来たら食事に誘うつもりだった。
そしてお世話になってるハルヒの兄ですと伝えるつもりで。
食事が無理でも、次の日に偶然のふりして出会えるかもしれない・・・・と。
ただ、連絡は来ない・・・それ以上は何をできる気もしない、偶然を装うのも無理じゃないか?
自分は住所は知っていてもメルアドは知らない。
本当にダメだったんだろうか?自分の気のせいだったのだろうか?
半分近く諦めていた。
早く仕事を終えてハルヒの部屋に帰るべく移動していた。
着信を知らせる携帯。
知らないアドレスからのメール。ちょっと緊張して開いた。
待っていた連絡だった。
あっさりだがお礼が書かれていた。遅くなったお詫びも。
速攻で返事を書いた。
電話番号と駅にいると。一時間くらいなら待ちたい。連絡が欲しいと。
どうして自分の最寄り駅にいるんだろうと不思議に思われるかもしれない。
まだ内緒だ。もしかして思い出してくれるかもしれない。
返事は電話ですぐに来た。
知らない番号だったが改札を出て隅に行き話をする。
来てくれると返事をもらった。
ふと思った。ハルヒに鉄コンで出会った男性の話をしただろうか?
でもハルヒは何も言ってこない、してないのだろう。
彼女にとって話するほどの出会いでもなかっただろうか。
自分は彼女の中ではどんな存在になりうるのか。
これから・・・・。
考えて、話ができるほうがいいと思った。楽に二人きりで。
ふと目についたカラオケ。
ハルヒもよく使うと言っていた。仲間数人で勉強をすると。
集中できるのか疑問だが、数人で集まりノートを写したり話し合ったり、そんなのに便利だと。
いいんじゃないかと思った。
美味しいものが食べたいなら次の約束を。飲みたりないときは二軒目を。
そう考えていたら彼女の姿が見えた。
ちょっと急いできたのかおでこの髪の毛が全開だ。
急いで席を立ち、まっすぐに歩いていく。気が付いてくれたらしい。
仕事の後でそのまま来たから服とバッグが・・・という彼女。
全然。スーツの自分とはちょっと違うがそれでもシンプルなスタイルだ。
自分の提案通りカラオケに行くことにした。
食事を頼んで三時間。邪魔されずに話ができる時間を確保した。
どうしても確認したいこと。
彼氏が、好きな人がいるか?
自分は候補になりえるか?
さり気ない探りが彼女にとっては不審に映ってしまったらしい。
そんなのは誤解だ。ちゃんと聞けない自分も悪い。
空回りし続けて一喜一憂しそうな自分もどうかと思う。
でもどうしても向き合うには自信と経験と・・・時間も、いろいろ足りなかった。
こうして目の前にしてやっと伝えたいことは伝えた。
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無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
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