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21 いきなりランチのお供に・・・。
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すっかり専務の部屋で目覚めることにも慣れた。
週末仕事もあるって言ってたのに、会えない事はそんなにない。
ほとんど二日一緒にいる週が多い。
「相手だって週末は家族サービスしたり恋人と過ごしたいんだろう。」
そうか、そうだよね。
そんな世の中の流れに万歳!
「香月がそうなら世の中の彼女や奥さんもそうだろう?」
「世の中の彼氏と旦那さんとお父さんがそうなら、大地さんもそうでしょう?」
「当たり前だ。面倒で仕方ないよな。」
「社長や副社長はどうなんでしょう?」
「家にいるんじゃないか?」
じゃあ、いいよね。
友達とは時々ランチをとってる。
やっぱりウエストは油断できなくて、本当に週に一、二回。
あとは一人でコーヒー屋に行くか、専務がいるときは部屋で食べることにしてる。
静かな音楽をかけながら、音楽を完全にBGMにして話をしながら軽く食べることも多い。
友達にはバレてない、他の誰にもバレてない。
きっとそんな噂は林森さん経由で入ると思う。
それか友達だって黙ってられないから聞いてくると思う。
でも探られることもなく、すっかり上の階のあの部屋に馴染んでしまった。
最近ソファにだらんともたれてる時にも専務の手が腰の肉をつまんでくる。
自分サイズのパジャマのゴムにちょっとだけしめられて、座ってるとちょっとだけぷよってなる部分はある。しょうがないじゃない。
「暗闇ではあんまりわからないのにな。」
確かにあるなと、あえて言いたいらしい。
お返しにつまみ返したいところだけど、本当にないんだからつまみようがない。
「柔らかくて気持ちいいな。」
とても褒められてるとは思えない。
「やっぱり餌付けが効いてるのかもな。見上げてくる笑顔が見たくてあげずにはいられないんだよなあ、食べ物も、夜の時間も。」
その手を払いのけたいくらいになる。
実際叩いた。
「しゃっきりすればそうでもないです。」
「今もそうでもないよ。心配するな。想定内。」
そう言って捲ってきた。
逃げるように立ち上がり洗面台に行く。
じっと顔を見る。
太った?大丈夫だよね?
でもお昼はもっと少なくしよう。
駅では階段を使い、自宅ではストレッチをし、歩くときは腹筋を意識して。
そう思って背筋を伸ばした。
ほら、もう腰には・・・ない。
友達とのランチは週一にして、ダイエットをすると言った。
「どうしたの?」
「なにがあった?」
嬉しそうに聞いてくる。
お互い容赦なく指摘するけど、自分より綺麗になるとちょっと嫉妬の炎がめらめらと燃え立つ女性あるある。
喜んでない?
「運動不足だと思う。部屋にジッとしてるからカロリーの取り過ぎかも。おやつも封印して、ランチもカロリーを減らそうと思って。」
「おやつの時間はそんなにあるの?」
「週に二回くらいはできない日があるけど、それ以外結構一人の時間はあるから。」
「一緒に外に出ることは?」
「まったくなくなった。同行しても役に立たないし。」
「そうだよね、別に何をするってわけじゃないよね。」
「最近営業の島先輩とよく一緒に出掛けてるみたい。」
「そう言えば最近下で見かけるよね。」
「・・・・ふ~ん。」
それは知らなかった。誰かと同行するなんて、それが最近よくあるなんて、それが美人で有名な営業の綺羅星と言われる女の先輩だなんて。そんなに『よく』と言われるくらいだなんて。
今日の午後の時間、『誰』かと一緒に『どこか』に行ってるかもしれない専務はいない時間。
ランチ少し前に出かけた専務。
行ってらっしゃいと見送った。
ぼんやりと窓辺に立つ。
『どこ』に行ってるかはタブレットに書いてあるから分かる。
でも隣に誰がいるかは分からない。
今までいるなんて思いもしなかった。
確かに営業の人と一緒に行くのはあると思う。
担当者と同行するんだろう、そんな必要がある場合もあるんだろう。
ふ~ん。
控え目のノックの後専務が入ってきた。
戻ってきたらしい。
時計を見ると随分サボってたことになる。
「お帰りなさい、専務。特に何もなかったです。」
そう言ってすれ違う。
笑顔のサービスもなしだ。
ちょっと不思議そうな顔をした。
それに気が付かないふりで仕事を始めた。
静かな部屋で仕事を頑張る。サボり過ぎたから終わらせたい。
定時少しすぎに終わらせて提出して、お仕事終了。
身に覚えのないだろう私の不機嫌は放っておかれた。
夜にも特に連絡はなく。
週末は遠い。
しばらくモヤモヤするんだろうか?
専務は仕事をしてるだけなのに、島先輩も仕事をしてるだけなのに。
なんて心が狭いんだろう。
次の日、あんなに反省してもつい・・・・。
「変なものでも食べたのか?随分愛想がないが。」
だよね・・・。
「気のせいです。気になさらないでください。」
「愚痴があるなら聞くぞ。」
「心当たりがあるんですか?」
「まったくないから困ってる。」
「すみません、個人的な感情です。ご迷惑をかけます。」
「友達と喧嘩したのか?」
全然違う。
「そんなところです。」
でもそう言った。
全く信じてない顔で小さくため息を漏らされた。
微妙な数日が過ぎ、それでも週末に誘われるとここに来た。
ちょっとだけ食事をして、お酒を飲んでここに来た。
「さすがに気になる。言いたいことは?」
美味しい餌を与えても笑顔が戻らない相手に問いただしたいらしい。
気になってるなら聞いてもいい。
どんな顔で何を言うか。
ずっとモヤモヤじゃあストレスがたまるばかり。
「最近よく下に行ってます?」
「いや、まったく。昼は部屋にいるじゃないか。」
「お昼じゃなくて、仕事でです。」
「別に用はないが・・・・。なんだ?」
「営業担当と同行して一緒に外に出てますか?」
「ああ、そうだな。ここ数回頼まれたんだよ。昔の仲間だし気を遣わなくて楽だからいい。でもよく知ってるな。」
「噂になってたみたいです。」
「はあ?もしかして島と俺が?仕事時間に?堂々と連れ立ってるのに?だいたいあいつには婚約者いるし、しかも社内に。」
へ?そこは聞いてない。何で誰も言ってくれないの?知らないの?
「はっは~、誰かが中途半端な噂をしてて、それを聞いたんだ。それで『個人的感情』で不機嫌になってたと。」
見上げると本当にあきれたような顔。
彼氏と言わず婚約者というあたり、真実味がある気がする。
そんなうれしい報告をされたんだろう。
そしてこの数日モヤモヤした気分だったのはめでたく解決。
良かった・・・・の前に。
「すみませんでした。モヤモヤとしてました。」
「ツンツンとジトジトとしてたけどな。」
「・・・はい、すみません。」
「どうせすぐ結婚の噂も流れるよ。当人たちもこの段階で隠してるわけじゃないんだから。」
「今度から聞くぞ、不機嫌だったらちゃんと聞くから、ちゃんと言うこと。」
「はい。」
は~、疲れた。そう言ってソファに沈んだ専務。
腰を引かれたので同じように横に沈み込んでもたれた。
「あほ。」
「はい。」
その通りです。友達だって別に声を潜めて噂したわけじゃないんだから、たまたま見かけるよって話をしただけなんだろう。それを疑っただけだ。本当にあほだ。
すりすりとおでこをこするようにして反省する。
「『お帰り』は笑顔で言うこと。」
「はい。」
そう言われて腰の肉をつままれた。
「減ってないか?」
「気のせいです。」
ちょっとだけ食欲がなかったし、ダイエットしてたし。
余計に効果があったけど、ダイエットも元気にしたい。
今日の食事ももっとおいしかったはずなのに、いつもの笑顔は出なかったと思う。
あほ。
二日間たっぷり反省して甘えた。
ちょっとだけ寂しかった数日分、たっぷり元気で埋めた。
「美味しいですね。」
駅まで送ってもらいながら夕食をとる。
いつものパターンだ。
ほとんど部屋で過ごした週末だったので久しぶりの普通の食事だった。
笑顔も出たんだろう。
満足そうに見られた。
それから島さんの噂は私には届かない。
でもご機嫌に働いてる。
ある日朝のミーティング後帰ってきた専務に言われた。
「今日は昼は部屋でとろう。」
「はい。」
元々専務も昼前に帰社予定で午後は社内の日だった。
美味しいものを買って来てくれるんだろうか?
まだあれからお茶会はしてない。
そこはちょっとだけガッカリもあるけど、ダイエット中だし。
午前の予定を終えて帰ってきた専務。
「お帰りなさい、専務。電話二件です。付箋を置いてます。」
「ああ、ありがとう。」
専務の手には何もお土産がない。
冷蔵庫に入れたんだろうか?
出て行った時と同じ荷物だった。
お昼まであと少し。
昼のチャイムのすぐ後にノックの音がした。
「はい。」
ドアを開けて、笑顔でこたえる・・・・その笑顔のまま凍りついた。
「社長・・・・。」
何とか声にはなった。
ドアを開けたら社長って、あり?
「お疲れ様です。」
急いでお辞儀をした。
そうしたら目に入った。
社長の手元のお弁当とお茶、三人分・・・・。
ゆっくり顔をあげて、振り向くまでもなく声がした。
「親父、ようこそ。美味しいランチを一緒にどうぞ。」
そういうことか・・・・・って一言あってもいいよね。
親子水入らずでもいいし。
急いでドアの前を離れた。
専務が林森さんの時にも使わなかった椅子を自分の机にくっつけて、父親を誘導する。
私の分のお弁当も専務の机に・・・・近い・・・・。
まさか副社長の分ってことはないよね?
ボンヤリとドアの前に立つ私に声がする。
「椅子を持ってくればいいから。楽しみって言ってたよな。」
言ってません!!
「あのこれは副社長の分では・・・・・。」
ちょっと聞いてみた。
「そんなこと思ってもいないだろう?」
そう言われた。思ってなくてもそうかもしれないじゃない。
社長にも見られてるし、きちんと言うことは聞く。
反抗はしない。
お弁当を見て、匂いで内容を透視してみた。
ステーキと魚は西京焼き、あとはだし巻き卵と煮物が見えてきた。
どうだろう?
「椅子椅子。」
「はい。」
そう言われてお弁当から視線をはがし椅子を持ってくる。
ここでジタバタは出来ない。
でもあとで思いっきりジタバタしてやる!
背中を向けてギュッと顔を寄せて、その後余所行きの顔をした。
近い三角でお弁当を広げて、緊張のランチタイムスタート。
「履歴書でも見ただろうけど、新山 香月さん。新人、経理からここに引っ張ったのが誰かは知らないけど。」
いきなりそんなセリフ。
確かに履歴書は見られたと思う。
専務の秘書、息子の秘書、面倒な先輩でクレーム交代後の人事。
「新山 香月です。」
よろしくというのは変だから。
「誰が采配してくれたのか感謝しかないよね。まさか気になってた後輩をわざわざ引き上げてくれたんだから。思わず林森が手を入れたのかと思うよ。」
「偶然だろう。」
「まあね。人事でもないのにそんな権限があったら驚くよ。でもラッキーだった。」
「楽しく仕事してるらしいと聞いてはいたが。」
「まあね。」
私の手はさっきから動いてない。
ちなみに完璧透視成功。焼き肉西京焼き煮物パーフェクト!
「食べて食べて。遠慮しなくていい。」
「いただきます。」
さっきも言ったけどまた言って早速手を動かした。
魚を一口。
これまた柔らかい肉厚の魚で、上品でおいしい。
きっといい所のだよね。
しかもまだ温かいときた、うれしい。
「美味しいらしいよ。きっと二回目も歓迎してもらえるよ。」
専務が社長に言う。
「美味しいです。素晴らしいです。」
お礼を言う。二回目なんとかをするほど社長は暇じゃないだろう。
無視。
「何か聞きたいことは?」
そのセリフは社長に向いていた。
「別に、公私の区別はつけるように、くらいだ。」
「もちろん。ここではあくまでも上司部下だから、ご心配なく。」
専務が偉そうに言う。あの事はなかったことになってるらしい。
まあいいけど。
じっと見たら、あっって顔をしてこっちを見た。
急いで肉と見つめ合った。
和牛和牛、小さくても分厚い和牛ステーキ。
容器に入ったソースをかけた。
ソースまで美味しい、こっちも素晴らしい。
「せっかく経理の仕事を覚えてただろうに、急に異動させて申し訳なかったね。働きづらい事はないですか?」
社長が私に、一平社員、しかも新人の私に聞いてきた。
「いいえ、特には思い当たりません。」
箸をおいて答えた。
「それは良かった。」
「順調です。公私ともに。」
勝手に専務が言う。
「そう聞いて母さんも安心してる。たまには顔を見せに帰るように。」
「まあ、そのうちにね。」
「その内家の方にも是非どうぞ。」
そんな事を言われても全力で首を振りたい。
結構です、無理です、嫌です。
そんな気持ちは隠して軽く笑顔を返すだけにした。
・・・・引きつった。
「小さいころから長男よりも体が小さくて、母親が甘やかしてたツケで少々我がままに育ってしまいましたが、一つよろしくお願いします。」
「・・・いいえ・・・・・。」
甘やかされた・・・我がまま・・・・・・・。
ふ~ん。
林森さんに教えよう、そんな子供時代のあれこれをついでに聞き出そう。
「そんなことないよ、いつの話だよって。」
すっかり親子の会話になってる。
これで副社長まで入ったらもっと家族の会話になるんだろうか?
それはそれで聞いてみたい・・・なんてのんきに思ったりして。
「新山さんはご兄弟姉妹は?」
「いません、一人です。副社長と専務が仲がいいのが羨ましいくらいです。」
「まあ、タイプは全然違うのにそんな感じですね。年も離れてますし兄の方が面倒見が良かったんですよ、昔から。だから余計にこうなったのかもしれませんが。」
こうなったらしい次男、どうなったんだか分からないけど、本当に甘やかされたのかもしれない疑惑。
最初の緊張は消えて食も進む。
美味しい、煮物もいい具合でばっちりです。
「で、話は最初に戻るが、どうやって知り合ったんだ?」
「林森と知り合いだったから、一緒に飲みたいって頼んだんだよ。」
「その前の段階だよ。」
詳しく知りたい父親、教えてやろうとする甘やかされた我がままな次男。
照れもなく言う。
「まあ、熱い視線で見られたから気になっただけだよ。好みドンピシャだったんだよ。」
「違います。ただ滅多にお見掛けしない偉い方だと聞いたので見てただけです。」
「まあ、お互いが一目ぼれってことで。」
口が開いた。
危うく里芋を投げつけたくなるくらい。
もったいないからそんなことしませんが、今までそんな話になったことはない。
単なる好奇心で見てただけだ。
『優良なハンター』と言われるその人を。
「そこも兄弟同じようなのか?」
「まあね。」
何?副社長は奥さんに一目ぼれ?
見たい!奥さんを見たい!今度写真を見せてもらおう、家族写真が送られてきたなんてことを聞いた気がする。
「そこは爺さんと父親と親子三代、そんな家系だからね。でも始まりはたいていそんなものじゃないの?じわじわ来る系もいるけどたいていは視界に入れるのは好みのタイプで、その中から選ぶよね。たまたま今回は二人ともそのタイミングが同じでバッチリだったってことだよ。」
なんと・・・社長も・・・・とは。
誰に教えられるんだ、こんな内輪の話。
ああ、気になる気になる、家族写真。
出来たら小さいころの兄弟の写真も見たいくらい。
ああそれにしても・・・この茄子も最高、美味しい。さすが社長。本当に次回もあったら歓迎したいくらいに美味しいです!!
「親父、美味しいらしいよ。」
私の表情を正確に読んで感想を伝えてくれた。
もっと心を込めて言葉を飾って伝えてほしいくらいだけど。
「はい、すごく美味しいです。どれを食べても美味しいです。」
「お前はちゃんと美味しいところでご馳走してるのか?」
「もちろんだよ、毎回こんな感動の顔をしてるんだよ。分かりやすいでしょう?」
顔を戻す。
「あの、本当に美味しいです。」
恥ずかしい。
ダイエット中の体に浸み込む栄養素。
じわじわ来てるのが分かる。
最初の緊張感も薄れた、満腹になるのとともに薄れた・・・気がする。
それは専務があまりにも普通で、社長も本当にお父さんっぽい。
ただ偶然時間があったから一緒にお昼を食べてる、そんな気分になった。
同じテーブルにお弁当というこの距離も近いくらいで逆にかしこまらない。
社長が食べ終わり箸をおいて、じゃあよろしく、そう副社長と同じ言葉を私にかけてささっと部屋を出て行った。
ドアが閉まる音を聞いたとたん・・・・・。
体から力が抜けた。
やっぱりいつもより姿勢よく食べてたかもしれない。
自分のお弁当を見る、あと五口くらい。
最後まで美味しく食べ終わって口を拭いてお茶を飲んで。
文句を言おうと専務を見たら嬉しそうにこっちを見ていた。
何?
息を飲んだまま、肩が落ちた、勢いがそがれた。
開こうとした口は思ったより勢いも小さくなった。
「知りませんでした。社長とお昼をとるなんて、ちゃんと教えてくれてもいいのに。」
「朝決めたんだけど、向こうも予定が急に変わるかもしれないからな。」
「その時はその時で無しになったと言われればいいです。」
「それじゃあお腹ががっかりするだろうから。美味しかったな。」
話題をすり替えたらしい。
「会社で一緒にお昼をとったことはあるんですか?」
「秘書を譲ってもらう時だけだね。引継ぎというか教育的指導とともに三人で、向こうに呼ばれた時以来。」
「副社長とはよくご一緒してたのに?」
「それはそれだよ。色々話すこともあるし、まだ親父よりは話しやすい。」
「社長とも普通でしたけど。」
「そう見えたならいいけど、まああんな感じではあるかな。」
もう一歩踏み込んでは聞けない。
反対されないんですか?とかは聞けない。
今まで他にも・・・なんて絶対聞かない。
それよりもっといろいろ思ったことがあったはずなのに、忘れてしまった。
思い出したら問い詰めよう。
とりあえずこのまま働くことは許された。
立派な秘書にはなれないかもしれないけど、それなりのチームワークで働けたらいいと思う。今のところばっちりだと思ってるから。
週末仕事もあるって言ってたのに、会えない事はそんなにない。
ほとんど二日一緒にいる週が多い。
「相手だって週末は家族サービスしたり恋人と過ごしたいんだろう。」
そうか、そうだよね。
そんな世の中の流れに万歳!
「香月がそうなら世の中の彼女や奥さんもそうだろう?」
「世の中の彼氏と旦那さんとお父さんがそうなら、大地さんもそうでしょう?」
「当たり前だ。面倒で仕方ないよな。」
「社長や副社長はどうなんでしょう?」
「家にいるんじゃないか?」
じゃあ、いいよね。
友達とは時々ランチをとってる。
やっぱりウエストは油断できなくて、本当に週に一、二回。
あとは一人でコーヒー屋に行くか、専務がいるときは部屋で食べることにしてる。
静かな音楽をかけながら、音楽を完全にBGMにして話をしながら軽く食べることも多い。
友達にはバレてない、他の誰にもバレてない。
きっとそんな噂は林森さん経由で入ると思う。
それか友達だって黙ってられないから聞いてくると思う。
でも探られることもなく、すっかり上の階のあの部屋に馴染んでしまった。
最近ソファにだらんともたれてる時にも専務の手が腰の肉をつまんでくる。
自分サイズのパジャマのゴムにちょっとだけしめられて、座ってるとちょっとだけぷよってなる部分はある。しょうがないじゃない。
「暗闇ではあんまりわからないのにな。」
確かにあるなと、あえて言いたいらしい。
お返しにつまみ返したいところだけど、本当にないんだからつまみようがない。
「柔らかくて気持ちいいな。」
とても褒められてるとは思えない。
「やっぱり餌付けが効いてるのかもな。見上げてくる笑顔が見たくてあげずにはいられないんだよなあ、食べ物も、夜の時間も。」
その手を払いのけたいくらいになる。
実際叩いた。
「しゃっきりすればそうでもないです。」
「今もそうでもないよ。心配するな。想定内。」
そう言って捲ってきた。
逃げるように立ち上がり洗面台に行く。
じっと顔を見る。
太った?大丈夫だよね?
でもお昼はもっと少なくしよう。
駅では階段を使い、自宅ではストレッチをし、歩くときは腹筋を意識して。
そう思って背筋を伸ばした。
ほら、もう腰には・・・ない。
友達とのランチは週一にして、ダイエットをすると言った。
「どうしたの?」
「なにがあった?」
嬉しそうに聞いてくる。
お互い容赦なく指摘するけど、自分より綺麗になるとちょっと嫉妬の炎がめらめらと燃え立つ女性あるある。
喜んでない?
「運動不足だと思う。部屋にジッとしてるからカロリーの取り過ぎかも。おやつも封印して、ランチもカロリーを減らそうと思って。」
「おやつの時間はそんなにあるの?」
「週に二回くらいはできない日があるけど、それ以外結構一人の時間はあるから。」
「一緒に外に出ることは?」
「まったくなくなった。同行しても役に立たないし。」
「そうだよね、別に何をするってわけじゃないよね。」
「最近営業の島先輩とよく一緒に出掛けてるみたい。」
「そう言えば最近下で見かけるよね。」
「・・・・ふ~ん。」
それは知らなかった。誰かと同行するなんて、それが最近よくあるなんて、それが美人で有名な営業の綺羅星と言われる女の先輩だなんて。そんなに『よく』と言われるくらいだなんて。
今日の午後の時間、『誰』かと一緒に『どこか』に行ってるかもしれない専務はいない時間。
ランチ少し前に出かけた専務。
行ってらっしゃいと見送った。
ぼんやりと窓辺に立つ。
『どこ』に行ってるかはタブレットに書いてあるから分かる。
でも隣に誰がいるかは分からない。
今までいるなんて思いもしなかった。
確かに営業の人と一緒に行くのはあると思う。
担当者と同行するんだろう、そんな必要がある場合もあるんだろう。
ふ~ん。
控え目のノックの後専務が入ってきた。
戻ってきたらしい。
時計を見ると随分サボってたことになる。
「お帰りなさい、専務。特に何もなかったです。」
そう言ってすれ違う。
笑顔のサービスもなしだ。
ちょっと不思議そうな顔をした。
それに気が付かないふりで仕事を始めた。
静かな部屋で仕事を頑張る。サボり過ぎたから終わらせたい。
定時少しすぎに終わらせて提出して、お仕事終了。
身に覚えのないだろう私の不機嫌は放っておかれた。
夜にも特に連絡はなく。
週末は遠い。
しばらくモヤモヤするんだろうか?
専務は仕事をしてるだけなのに、島先輩も仕事をしてるだけなのに。
なんて心が狭いんだろう。
次の日、あんなに反省してもつい・・・・。
「変なものでも食べたのか?随分愛想がないが。」
だよね・・・。
「気のせいです。気になさらないでください。」
「愚痴があるなら聞くぞ。」
「心当たりがあるんですか?」
「まったくないから困ってる。」
「すみません、個人的な感情です。ご迷惑をかけます。」
「友達と喧嘩したのか?」
全然違う。
「そんなところです。」
でもそう言った。
全く信じてない顔で小さくため息を漏らされた。
微妙な数日が過ぎ、それでも週末に誘われるとここに来た。
ちょっとだけ食事をして、お酒を飲んでここに来た。
「さすがに気になる。言いたいことは?」
美味しい餌を与えても笑顔が戻らない相手に問いただしたいらしい。
気になってるなら聞いてもいい。
どんな顔で何を言うか。
ずっとモヤモヤじゃあストレスがたまるばかり。
「最近よく下に行ってます?」
「いや、まったく。昼は部屋にいるじゃないか。」
「お昼じゃなくて、仕事でです。」
「別に用はないが・・・・。なんだ?」
「営業担当と同行して一緒に外に出てますか?」
「ああ、そうだな。ここ数回頼まれたんだよ。昔の仲間だし気を遣わなくて楽だからいい。でもよく知ってるな。」
「噂になってたみたいです。」
「はあ?もしかして島と俺が?仕事時間に?堂々と連れ立ってるのに?だいたいあいつには婚約者いるし、しかも社内に。」
へ?そこは聞いてない。何で誰も言ってくれないの?知らないの?
「はっは~、誰かが中途半端な噂をしてて、それを聞いたんだ。それで『個人的感情』で不機嫌になってたと。」
見上げると本当にあきれたような顔。
彼氏と言わず婚約者というあたり、真実味がある気がする。
そんなうれしい報告をされたんだろう。
そしてこの数日モヤモヤした気分だったのはめでたく解決。
良かった・・・・の前に。
「すみませんでした。モヤモヤとしてました。」
「ツンツンとジトジトとしてたけどな。」
「・・・はい、すみません。」
「どうせすぐ結婚の噂も流れるよ。当人たちもこの段階で隠してるわけじゃないんだから。」
「今度から聞くぞ、不機嫌だったらちゃんと聞くから、ちゃんと言うこと。」
「はい。」
は~、疲れた。そう言ってソファに沈んだ専務。
腰を引かれたので同じように横に沈み込んでもたれた。
「あほ。」
「はい。」
その通りです。友達だって別に声を潜めて噂したわけじゃないんだから、たまたま見かけるよって話をしただけなんだろう。それを疑っただけだ。本当にあほだ。
すりすりとおでこをこするようにして反省する。
「『お帰り』は笑顔で言うこと。」
「はい。」
そう言われて腰の肉をつままれた。
「減ってないか?」
「気のせいです。」
ちょっとだけ食欲がなかったし、ダイエットしてたし。
余計に効果があったけど、ダイエットも元気にしたい。
今日の食事ももっとおいしかったはずなのに、いつもの笑顔は出なかったと思う。
あほ。
二日間たっぷり反省して甘えた。
ちょっとだけ寂しかった数日分、たっぷり元気で埋めた。
「美味しいですね。」
駅まで送ってもらいながら夕食をとる。
いつものパターンだ。
ほとんど部屋で過ごした週末だったので久しぶりの普通の食事だった。
笑顔も出たんだろう。
満足そうに見られた。
それから島さんの噂は私には届かない。
でもご機嫌に働いてる。
ある日朝のミーティング後帰ってきた専務に言われた。
「今日は昼は部屋でとろう。」
「はい。」
元々専務も昼前に帰社予定で午後は社内の日だった。
美味しいものを買って来てくれるんだろうか?
まだあれからお茶会はしてない。
そこはちょっとだけガッカリもあるけど、ダイエット中だし。
午前の予定を終えて帰ってきた専務。
「お帰りなさい、専務。電話二件です。付箋を置いてます。」
「ああ、ありがとう。」
専務の手には何もお土産がない。
冷蔵庫に入れたんだろうか?
出て行った時と同じ荷物だった。
お昼まであと少し。
昼のチャイムのすぐ後にノックの音がした。
「はい。」
ドアを開けて、笑顔でこたえる・・・・その笑顔のまま凍りついた。
「社長・・・・。」
何とか声にはなった。
ドアを開けたら社長って、あり?
「お疲れ様です。」
急いでお辞儀をした。
そうしたら目に入った。
社長の手元のお弁当とお茶、三人分・・・・。
ゆっくり顔をあげて、振り向くまでもなく声がした。
「親父、ようこそ。美味しいランチを一緒にどうぞ。」
そういうことか・・・・・って一言あってもいいよね。
親子水入らずでもいいし。
急いでドアの前を離れた。
専務が林森さんの時にも使わなかった椅子を自分の机にくっつけて、父親を誘導する。
私の分のお弁当も専務の机に・・・・近い・・・・。
まさか副社長の分ってことはないよね?
ボンヤリとドアの前に立つ私に声がする。
「椅子を持ってくればいいから。楽しみって言ってたよな。」
言ってません!!
「あのこれは副社長の分では・・・・・。」
ちょっと聞いてみた。
「そんなこと思ってもいないだろう?」
そう言われた。思ってなくてもそうかもしれないじゃない。
社長にも見られてるし、きちんと言うことは聞く。
反抗はしない。
お弁当を見て、匂いで内容を透視してみた。
ステーキと魚は西京焼き、あとはだし巻き卵と煮物が見えてきた。
どうだろう?
「椅子椅子。」
「はい。」
そう言われてお弁当から視線をはがし椅子を持ってくる。
ここでジタバタは出来ない。
でもあとで思いっきりジタバタしてやる!
背中を向けてギュッと顔を寄せて、その後余所行きの顔をした。
近い三角でお弁当を広げて、緊張のランチタイムスタート。
「履歴書でも見ただろうけど、新山 香月さん。新人、経理からここに引っ張ったのが誰かは知らないけど。」
いきなりそんなセリフ。
確かに履歴書は見られたと思う。
専務の秘書、息子の秘書、面倒な先輩でクレーム交代後の人事。
「新山 香月です。」
よろしくというのは変だから。
「誰が采配してくれたのか感謝しかないよね。まさか気になってた後輩をわざわざ引き上げてくれたんだから。思わず林森が手を入れたのかと思うよ。」
「偶然だろう。」
「まあね。人事でもないのにそんな権限があったら驚くよ。でもラッキーだった。」
「楽しく仕事してるらしいと聞いてはいたが。」
「まあね。」
私の手はさっきから動いてない。
ちなみに完璧透視成功。焼き肉西京焼き煮物パーフェクト!
「食べて食べて。遠慮しなくていい。」
「いただきます。」
さっきも言ったけどまた言って早速手を動かした。
魚を一口。
これまた柔らかい肉厚の魚で、上品でおいしい。
きっといい所のだよね。
しかもまだ温かいときた、うれしい。
「美味しいらしいよ。きっと二回目も歓迎してもらえるよ。」
専務が社長に言う。
「美味しいです。素晴らしいです。」
お礼を言う。二回目なんとかをするほど社長は暇じゃないだろう。
無視。
「何か聞きたいことは?」
そのセリフは社長に向いていた。
「別に、公私の区別はつけるように、くらいだ。」
「もちろん。ここではあくまでも上司部下だから、ご心配なく。」
専務が偉そうに言う。あの事はなかったことになってるらしい。
まあいいけど。
じっと見たら、あっって顔をしてこっちを見た。
急いで肉と見つめ合った。
和牛和牛、小さくても分厚い和牛ステーキ。
容器に入ったソースをかけた。
ソースまで美味しい、こっちも素晴らしい。
「せっかく経理の仕事を覚えてただろうに、急に異動させて申し訳なかったね。働きづらい事はないですか?」
社長が私に、一平社員、しかも新人の私に聞いてきた。
「いいえ、特には思い当たりません。」
箸をおいて答えた。
「それは良かった。」
「順調です。公私ともに。」
勝手に専務が言う。
「そう聞いて母さんも安心してる。たまには顔を見せに帰るように。」
「まあ、そのうちにね。」
「その内家の方にも是非どうぞ。」
そんな事を言われても全力で首を振りたい。
結構です、無理です、嫌です。
そんな気持ちは隠して軽く笑顔を返すだけにした。
・・・・引きつった。
「小さいころから長男よりも体が小さくて、母親が甘やかしてたツケで少々我がままに育ってしまいましたが、一つよろしくお願いします。」
「・・・いいえ・・・・・。」
甘やかされた・・・我がまま・・・・・・・。
ふ~ん。
林森さんに教えよう、そんな子供時代のあれこれをついでに聞き出そう。
「そんなことないよ、いつの話だよって。」
すっかり親子の会話になってる。
これで副社長まで入ったらもっと家族の会話になるんだろうか?
それはそれで聞いてみたい・・・なんてのんきに思ったりして。
「新山さんはご兄弟姉妹は?」
「いません、一人です。副社長と専務が仲がいいのが羨ましいくらいです。」
「まあ、タイプは全然違うのにそんな感じですね。年も離れてますし兄の方が面倒見が良かったんですよ、昔から。だから余計にこうなったのかもしれませんが。」
こうなったらしい次男、どうなったんだか分からないけど、本当に甘やかされたのかもしれない疑惑。
最初の緊張は消えて食も進む。
美味しい、煮物もいい具合でばっちりです。
「で、話は最初に戻るが、どうやって知り合ったんだ?」
「林森と知り合いだったから、一緒に飲みたいって頼んだんだよ。」
「その前の段階だよ。」
詳しく知りたい父親、教えてやろうとする甘やかされた我がままな次男。
照れもなく言う。
「まあ、熱い視線で見られたから気になっただけだよ。好みドンピシャだったんだよ。」
「違います。ただ滅多にお見掛けしない偉い方だと聞いたので見てただけです。」
「まあ、お互いが一目ぼれってことで。」
口が開いた。
危うく里芋を投げつけたくなるくらい。
もったいないからそんなことしませんが、今までそんな話になったことはない。
単なる好奇心で見てただけだ。
『優良なハンター』と言われるその人を。
「そこも兄弟同じようなのか?」
「まあね。」
何?副社長は奥さんに一目ぼれ?
見たい!奥さんを見たい!今度写真を見せてもらおう、家族写真が送られてきたなんてことを聞いた気がする。
「そこは爺さんと父親と親子三代、そんな家系だからね。でも始まりはたいていそんなものじゃないの?じわじわ来る系もいるけどたいていは視界に入れるのは好みのタイプで、その中から選ぶよね。たまたま今回は二人ともそのタイミングが同じでバッチリだったってことだよ。」
なんと・・・社長も・・・・とは。
誰に教えられるんだ、こんな内輪の話。
ああ、気になる気になる、家族写真。
出来たら小さいころの兄弟の写真も見たいくらい。
ああそれにしても・・・この茄子も最高、美味しい。さすが社長。本当に次回もあったら歓迎したいくらいに美味しいです!!
「親父、美味しいらしいよ。」
私の表情を正確に読んで感想を伝えてくれた。
もっと心を込めて言葉を飾って伝えてほしいくらいだけど。
「はい、すごく美味しいです。どれを食べても美味しいです。」
「お前はちゃんと美味しいところでご馳走してるのか?」
「もちろんだよ、毎回こんな感動の顔をしてるんだよ。分かりやすいでしょう?」
顔を戻す。
「あの、本当に美味しいです。」
恥ずかしい。
ダイエット中の体に浸み込む栄養素。
じわじわ来てるのが分かる。
最初の緊張感も薄れた、満腹になるのとともに薄れた・・・気がする。
それは専務があまりにも普通で、社長も本当にお父さんっぽい。
ただ偶然時間があったから一緒にお昼を食べてる、そんな気分になった。
同じテーブルにお弁当というこの距離も近いくらいで逆にかしこまらない。
社長が食べ終わり箸をおいて、じゃあよろしく、そう副社長と同じ言葉を私にかけてささっと部屋を出て行った。
ドアが閉まる音を聞いたとたん・・・・・。
体から力が抜けた。
やっぱりいつもより姿勢よく食べてたかもしれない。
自分のお弁当を見る、あと五口くらい。
最後まで美味しく食べ終わって口を拭いてお茶を飲んで。
文句を言おうと専務を見たら嬉しそうにこっちを見ていた。
何?
息を飲んだまま、肩が落ちた、勢いがそがれた。
開こうとした口は思ったより勢いも小さくなった。
「知りませんでした。社長とお昼をとるなんて、ちゃんと教えてくれてもいいのに。」
「朝決めたんだけど、向こうも予定が急に変わるかもしれないからな。」
「その時はその時で無しになったと言われればいいです。」
「それじゃあお腹ががっかりするだろうから。美味しかったな。」
話題をすり替えたらしい。
「会社で一緒にお昼をとったことはあるんですか?」
「秘書を譲ってもらう時だけだね。引継ぎというか教育的指導とともに三人で、向こうに呼ばれた時以来。」
「副社長とはよくご一緒してたのに?」
「それはそれだよ。色々話すこともあるし、まだ親父よりは話しやすい。」
「社長とも普通でしたけど。」
「そう見えたならいいけど、まああんな感じではあるかな。」
もう一歩踏み込んでは聞けない。
反対されないんですか?とかは聞けない。
今まで他にも・・・なんて絶対聞かない。
それよりもっといろいろ思ったことがあったはずなのに、忘れてしまった。
思い出したら問い詰めよう。
とりあえずこのまま働くことは許された。
立派な秘書にはなれないかもしれないけど、それなりのチームワークで働けたらいいと思う。今のところばっちりだと思ってるから。
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