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4 楽しい予定があるってことも楽しいと思う。
しおりを挟む月曜日。
金曜日のいろいろが尾を引いて、少しだけ明るい気分だった週末だったけど、会社では何も変わってない。
だって変わる必然も必要もない。
ひたすら数字と見つめ合う。
疲れたら気分転換に文字を追う仕事をする。
そこそこ器用な自分、すっかり慣れて仕事ペースもつかめてる。
合間に休憩も上手にはさめるようになった。
社員食堂は昼時間以外はただの休憩室になる。
一休みの人や逃避中の人、ぐったりな人がいる。
適当に等間隔でポツポツといる人に交じりコーヒーを飲む。
後、2時間。
眠気を覚ましたくてブラックコーヒーを選んだ。
携帯のカレンダーを表示させる。
予定に入ったのはもちろんライブ。
土曜日の夜、第一希望の日を取ってくれた。
すごく楽しみ。
あの夜に予約が取れたと連絡が来て、すぐにそう返事した。
次の日は休みだし、気を遣わずにお酒を飲んで欲しい。
やっぱり他の人がたくさんいるとゆっくりできるタイプじゃないみたいだし。
私といても、もしかして気を遣う?・・・・遣うんだろうなあ。
大丈夫、そんなに酔っぱらうほど飲まないし、あとは・・・・適当に話をして食事して。
何だかデートみたいだけど、そんな関係じゃないから気を遣わなくてもいい、そう言おう。
携帯をポケットに入れ立ち上がろうとした時に声を掛けられた。
「如月さん。お疲れ様。」
幹事の瀬野尾君だった。
「瀬野尾君、お疲れさま。」
「この間楽しかった?抜け駆けして佐賀がちょっと誘いに行ったみたいだけど。」
誘い?知らない、何だろう?
「石神君が相手してくれたから大丈夫です。」
「だってそれじゃあつまんないでしょう?こっちに来ればよかったのに。声かけれなくてごめんね。」
石神君より自分の方が楽しませてあげれましたよ、とそう言いたいらしいけど。
それをストレートに表現してしまうのね。
「石神君との話も楽しかったから。一緒に話をしててすごく楽な人だし。」
「まあ、それはそうだろうけどね。楽は楽でも、そうそうはね。」
「次は絶対一緒に話をしようね。また誘うよ。」
そう言って手を振って出て行った。
結構です!! 背中に向かって断った。
疲れる。
ああいうタイプは苦手だ。
何を話せというのだろう。欲しいのは聞き役だろうな。
あのかたまりの中にもいい人はいると思う。
話をすれば合う人もいると思う。
でも瀬野尾君は多分そうじゃない。
今のやり取りでもそう思ったから。
仕事に戻ろう。
カップを捨てて自分の席に戻った。
それ以降は特に同期と触れ合うこともなく、時々浅井さんと軽いトークを文字でして。
ある日、その浅井さんから連絡が来た。
『ごめん、今日仕事終わってから時間あるかな?』
当日に?
『もちろん、残業はほぼない予定。終わったら連絡し合うんでいい?』
『ありがとう。じゃあ、あとで。』
仕事後の予定が出来た。
月頭の山を越えたばかりで良かった。
どうしたんだろうと思ったけど深くは考えず、残業無しにすべく数字に集中した。
終業のチャイムと同時に終わった感じで。
トイレに行き化粧を直し。
連絡をするとすぐに返事が来て。
前と同じように玄関で待ち合わせする。
梓さん・・・岩井梓さんが通りかかった。
目が合ったけど逸らされて挨拶もできず。
何か悪い事をしたみたいな気分になった。
知らない。佐賀君くらいコントロールして欲しい。
大体興味があるのは珍しいからなのに。
だいたいそうなのだ、子供がおもちゃを我先に取り合いするように珍しいものは一番に触ってみたいのだ。
そういうタイプはよく見てきたから分かる。
自分が器用におもちゃで遊んでる姿を他の人に見せたいだけだから。
岩井さんの背中を見ながらそう思った。
「お待たせ。」
振り向くと浅井さん・・・・、顔が・・・・暗い、むくんでる?
「大丈夫。どこに行く?」
「ちょっとお酒飲みたいの。付き合ってくれる?」
「もちろん。私は本当にどこも知らないから任せていい?」
「ありがとう。」
少し後ろを歩きながらも、あんまりいい話の予感はしない。
何か決定的なものなのか。
お酒を飲んで言いたいことがあるのか。
連れていかれたお店は半分個室の暗いお店で。
一気にお酒を頼んでおつまみも少し。
乾杯もなく飲み始めた。
グラスを置いた浅井さんと視線が合う。
「ごめんね。ちょっと甘えてしまって、なんだかどんな話も聞き流してくれそうで。」
やっぱり聞き流してほしい、そんな話がしたいらしい。
「ふ~、実は大学の時から講師と付き合ってたの。」
「そうなんだ。」
いきなり直球で話題に入った。
「あ、違うかな。付き合ってると思ってた。だって向こうは奥さんいるし。」
不倫!!!・・・・・さすがに驚きを隠せない。
大人だ。そんな話は大人の話だ。
「軽蔑する?」
首を振る。
「正直驚いてる。でも自分じゃ想像できない、そんな大人の恋愛。普通のもあんまりだから。」
軽く笑う浅井さん。
「あ、でも軽蔑とか、そんなのはないよ。ちょっと異次元の話だと思うから。」
「ありがとう。最初は普通の恋愛だと思ってたんだよね。知らなかったから。」
なるほど。よくありがちなのか、話には聞きそうなパターン。
「この間子供が出来たって言われて、まあ、その前からちょっと避けられてたかも。奥さんにバレる前にゼロにしたくなったんだろうね。」
「バレなかったの?」
「多分、会うのは私の部屋ばっかりだったし。連絡も突然向こうからってパターンがほとんど。」
辛そうに言う。
何だか全然ハッピーに思えない。
「なんだかもう終わりは見えてたから、思い切って無くしてみた。まだちょっと空っぽな感じが大きくて。でも少しはすっきりした。もう悩まなくていいって思って。」
上を向いて、涙をこらえてるのかも。
「心から良かったって、そう思える日が早く来ればいい!!だってまだまだこっちの方が未来があるから。」
無理に笑う顔が痛々しい。
「ごめんなさい、あんまり自分には振られない役割だからちょっとかけてあげる言葉の正解が分からないんだけど。」
「ううん、いい。興味本位に聞いてくるタイプじゃないと信じてるし、上辺じゃないって分かってる。」
「それに誰にも拡散させないしね。」
「そうね、それもある。石神君にも言わないでね。」
「なんだか本当に友達が石神君だけって思ってる?一応会社ではそうだけど、その前もあるし、いるよ、ちょっとは。」
「分かってる。」
「飲もう。・・・・でも、ちょっと羨ましい。人の物でも欲しいって思えるくらいなんて。そんな人と出会いたい。あ、誰にも渡したくないって思うくらいって事。」
「そうなのかな?どうなのかな?なんだか違う気がする。結局男は罪悪感がある方が優しいんだと思う。そして女は欲深い。人の物ならなおさら戦いたいって思ったり。そんな感じかも。」
だったらそんな悲しい顔はしないと思うけど。
「うん、欲深い・・・・かも。」
そんな事も経験ない。自分の経験ではなにも思い出せない。
それでもそう思うことにしよう、そう思った方が浅井さんも楽だろうから。
しばらくすると少しは元気が出てきたみたいで。
結局お酒を二人で7杯も飲んだ。
それでもまだまだ酔い足りないくらいだけど、明日も仕事だから。
「ねえ、もし如月さんも何か相談があったら乗るよ。私だけ弱みを知られたなんてずるいから。ちょっとは弱い所見せてね。」
最後は綺麗な笑顔が見れた。
「うん、何かあったら相談する。」
「約束ね。」
「ありがとう。」
「じゃあね。」
そう言って駅で別れた。
背中に向かって元気出してとエールを送る。
絶対次はいい恋を。
自分は空っぽなくせに浅井さんの事を偉そうに応援した。
「如月さん、今帰り?」
後ろから声をかけられた。
お友達認定の石神君。
「石神君、今終わったの?」
「うん。如月さん、食事してたの?」
「うん、ちょっと浅井さんと飲んでた。」
「結構飲んでる?」
「うん、ふたりで7杯くらい・・・・かな?」
「どっちかが三杯でどっちかが四杯?」
「ううん、一緒に味見したりしてグチャグチャに飲んでた。」
「楽しそうな顔してる。」
ん?それは困る・・・・かも。
最終的には楽しかったでいいのだろうか?
「如月さん、大丈夫?送って行こうか?」
我に返る。目を合わせると本当に優しそうな目があった。
「大丈夫だよ。そんなに気を遣わないでも平気、ちゃんと帰れるよ。」
ちょっと足ふみをした。大丈夫、ふらつかないし。
ほらねって石神君を見たらびっくりした顔をされて、愉快そうに笑われた。
ちょっとその表情もびっくり。子供っぽい顔をしてた。
ちょっと恥ずかしくなった。
「大丈夫そうなら安心。今度もたくさん飲んで大丈夫そうだね。」
「もちろん、石神君も飲もうね。」
「うん。楽しみにしてくれてると本当にうれしい、案内のしがいがある。後は気に入ってくれれば。」
「もちろん、おいしそうだった、ご飯。」
「まあ、それもだけど、場所とか、雰囲気とかも。」
「あ、そうだね。楽しみにしてるから、案内よろしくね。」
やっぱり酔ってると思う。
会社では絶対見せた事がない笑顔と明るい声が出てるのが自分でも分かる。
三度しか喋ってないのに。本当にいい人、楽な人。
駅の中まで一緒に入って別れた。
次の日、浅井さんからはお礼のメッセージが来た。
すごくスッキリしたと、ありがとうと。今度奢りますと。
『美味しいものをご馳走してください。』とお願いしておいた。
ついでに石神君とのやり取りを思って、来週末を楽しみに思った。
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