内緒ですが、最初のきっかけは昔の彼の記憶でした。(仮)

羽月☆

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10 吹いたのは南風。

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下を向きながら視界の端に元の自分の席をとらえる。
ずっと空かないまま。
戻れないまま。

浅井さんと目が合うと悲しい顔をされた。

バーベキューの話は盛り上がってるみたいでサイトの検索を始めてる。
乗り気の女の子たちもいる。当然、瀬野尾君の横に。



気が付いたら隣の席の男の人が変わってた。

「如月さん、ほとんど初めまして。」

「あ、はい。」

誰か・・・そんなの分かるわけない。

「ごめんなさい。名前が・・・・。」

「う~ん、やっぱり駄目か。知念です。『知念 一海です。一つの海と書いてカズミと読みます、沖縄出身です。』そう自己紹介したよ。」

「ああ、思い出しました。ごめんなさい。本当に。」

「いいよ、途中隔離されてたしね。」

インフルエンザの事だ。

「はい、まあ。」

「誰のこと覚えてた?」

「誰も・・・・。」

顔とエピソードだけなら石神君だけ。
名前は知らなかったから、誰も覚えてないことになる。

「すごいね、女子は。」

「そっちも。」

・・・・・呆れられた?
笑われた。やっぱり呆れられたんだよね。

「本当に?だって2週間一緒にいたよね。隔離が5日で、具合悪い日も入れても半分の1週間は一緒にいたのに。」

「胸の名前を見てたから。顔は分からないけど名前の上と下の組み合わせならシャッフルされても上手にできるかも。」

「もしかして、自慢してる?」

すごく笑われた。

「まさかだなあ、面白いね。」

「でも自己紹介の時のセリフは思い出しましたよ。一番印象的でした。『よく間違えられますが男性です。』って続けましたよね。」

「うれしいな。覚えてくれてたんだ。」

「はい。顔もみんな並んだら沖縄の人っぽい感じで分かったかもしれません。」

「本当?うれしいなあ。」

「名前が印象的で素敵ですよね。『一つの海』、画のタイトルにありそう。」

「すごい褒められてる?今までそんな褒め言葉はなかった。本当にもっと自分の名前が好きになりそう。」

「如月さんの『舞さん』はなんで?」

「呼びやすくて、日本人じゃなくても覚えやすいようにって。ほとんど後半は意味がないですけど。」

「ダンスとかバレエやってたりとかは?」

「ないです。」

「そうなんだ、細いし、首も長いからバレエやってても意外じゃないかも。」

「全然です。」


「知念君は泳げるんですよね。」

「それは、沖縄人にとっては海は庭だから。」

「今はどうしてるんですか?泳がなくても平気ですか?」

「だって沖縄の海はきれいだよ、こっちじゃ入る気にもならないくらいに。」

「そうでしょうね。」

「行ったことある?」

「修学旅行で水族館と首里城、定番コースを。」

「季節は?」

「秋です。」

「海に入れた?」

「泳いではいませんが、サンダルで入りました。」

「オールシーズン綺麗だよ、朝も夜も。」

「はい、きれいでした。知念君はウミガメと会ったこともあるの?」

「潜るとまれに会えるよ。島の方へ行くともっと。」

「島・・・。」

「うん、いっぱいあるから。」

「そうかあ、全然知らないです。」

「舞さんはどこの出身?」

いきなり下の名前で呼ばれてびっくりした。
表現力がすごく豊か。自然の中で育ってきたって感じがあるかも。
話もしやすい。

「私は神奈川です。」

「あ、海。ごめん。悪気はないから。もしかして海沿いの出身?」

「大丈夫です。すごく山の方です。」

「良かった。たまに怒る人がいるから。」

「湘南とか、ブランドっぽい価値もあるので。確かに海は自慢してますよね。」

「花火とか、海水浴とか行ってた?」

「湘南ですか?いいえ、苦手です。やっぱりちょっと匂いがしますよね。」

「うん、ちょっと臭いって思うんだ・・・・大きな声で言うと本当に怒られるけど。」

小声になって顔を寄せる。

「分かります。」

「でも神奈川はすごくいいよね、海も山も、街も田舎も温泉もみたいな感じで。」

「はい、私も大好きです。」

「帰ってる?」

「・・・・いいえ。」

そう言うとまた笑われた。

「正直だね。言い訳は?」

「ありません。」

「やっぱり面白い、かわいいね。」

笑いながらさらっと言う。

「何だよ、ふたりで盛り上がってるなあ。」

瀬野尾君が加わる。

「うん、舞さん、面白い。知らなかったなあ。楽しいよ、話をしてても。」

舞さん・・・・。
ちょっとだけ静かになった場。

「カズミ、バーベキュー計画してるんだ、週末の昼だけど来るよな?」

「おお、もちろん。」

やっぱりおおらかな人なんだろう。
のびのび育ちました系。
ちょっと羨ましい。

「知念君、兄弟は?」

「妹二人だよ。」

「にぎやかそうだね。」

「うん、もう結婚して子供もいるんだ。」

「へ?いくつ?」

「20歳と21歳。」

早くないですか?

「割と早いんだ、あっちは。俺の同級生も半分くらいはしてる。」

へえ~、もう子供も・・・・・。

「ほら、何だか開放感ある空だし、海だし、人々だし。子供はたくさんできるよね。」

思わず赤くなる。そうなの?

「俺はこっちに来てすでに行き遅れ感ありあり。彼女もいないなんて。」

「いずれは帰るの?」

「どうだろうね。妹たちが家族を増やしてくれれば、そう寂しくはないんだろうけど。」

「う~ん。」

「一緒に沖縄に行く?」

「え、いつ?」

「永久に。」

ん?

「なんてね。やっぱり環境が違うなあ。こっちにいると自分も窮屈に感じるし、向こうに都会の人が行くと逆に不安になるかも。価値観て大事だよね。」

そうだね。そう、つぶやく。

「ねえ、趣味が合うって価値観が合うって思える?」

さっきとは違ってしんみりモードのついでにちょっと小声で聞いてみる。

「そうだね。それがどのくらいフリーな時間の幸福度を占めてるかによるよね。一人でできるものもあるし、一緒に出来るものもあるし、それによっても違うし。例えば絵が好きでも観るほうか、描くほうか、買って飾るほうか、それでも違うし、ジャンルもあるしね。ゴルフとかだったら長い時間一緒にいて出来るよね。ドライブとラウンドとほぼ一日。でも子供が出来たら女性は無理で、男性だけ行くと怒られそうだよね。ずっと一日いないなんていうのも。だから本当に難しいよね。」


「・・・・なるほど、すごく納得できた。」


「で、その人とは合うの?」

えっ、声にもならない。顔が赤くなる。なんで?

「今すごくうらやましいな。そいつが。」

首を振る。
そんなんじゃないって言われてるから。
ちょっとだけ合って喜んでも、それだけ。

「なに?そんな悲しそうな顔をされたら頑張ろうかな~、なんて思うよ。」

顔をあげた。
本当にストレートに伝えてくれる。
きっと好きになったら楽なんだろうなあ。
悩んだら聞けばいいって思える。
ちゃんと答えてくれるって思うから。
しばらく見つめ合ったかも。

「何だか邪魔したい雰囲気ですが。」

後ろから瀬野尾君の声がしてハッとした。
勝手に相手に期待してる、都合のいい反応を。

「そうだよ、いい所だったのに、邪魔するなよ。」

「けっ、絶対全力で邪魔する。皆で邪魔する。」

「うざいなあ。バーべキュー、いい所あった?」

「ああ、人数によるけど。」

「如月さんは?」

首を振る。

「え~、舞さん、さっきの会話の続きがあるのに。当日までしつこく誘うよ。」

ニコニコしながら知念君が言う。
多分すぐにひいてくれると思う。言ってるだけだと思う。
そういう人は助かる、思いやりがあると思う。
知念君が誘うって言えば、瀬野尾君はそうは誘ってこないだろうから。
多分そう思ってる・・・・と思いたい。

いろいろ教えてもらったけど、何課?

「知念君今更だけど、所属はどこなの?」

「ええ~、興味持ってくれた?営業一課です。」

「・・・・ピッタリだね。自己紹介も同じ?」

「あ、バレた?でも今度から褒められたエピソードもつける。印象的で絵のタイトルにありそうで素敵だって褒められたって。」

「良く覚えてる・・・・。」

「だって舞さんに褒められたんだから、うれしい。」

大きく笑った。
子どもっぽい感じの笑い顔。そのまま大人になったような。
だから裏がないって思える。

だから楽なのかも。


思ったより楽しく過ごせて、元の自分の席を確認してなかった。
空いてる・・・・。
でももう終わりの時間みたい。
デザートが来た。

今日は割と残りは少ない。
みんなちゃんと食べたみたい。

ティラミスは同じ。

中にブルーベリーのジャムが入っていた。
季節で変わるらしい。
単調な味にアクセントが美味しい。
コーヒーも運ばれてきて静かに時間が過ぎる。

隣では大人しく知念君も食べている。

「知念君、甘いの好きなの?」

「ああ、何でもいけます。」

「ハブ酒は?」

「小さい頃から見てました。作成経過もばっちり見てます。でもまだあの域には達しない。」

「そうなんだ。なんだか逞しいよね。ハブ酒。すごくエネルギーでそう。」

「うん、老人が元気だよ。ハブ酒のおかげだね。」

「蛇は好き?」

「無理、食べない。ミミガーなら・・・工夫すれば食べれるかも。」

「蛇はあんまり沖縄でも食べないよ。見る方だよ。」

「蛇を見る?」

「爬虫類、イグアナとか蛇とか、ワニとか。」

「餌食べてるところ見たら失神するかも。」

「コオロギから鶏まで。幅広いね。ダメか、やっぱり。」

「普通ダメでしょう?」

「そうでもないみたい。カメレオンはかわいいペットだよね。」

「・・・・スタンダードなペットでいいです。犬猫ハムスターあたりで満足です。」

「じゃあ、犬派猫派?」

「猫です。絶対的猫派です。」

「そんな感じだね。・・・ツンデレっぽい。実際はすごく甘え上手とか?」

「・・・・知りません。」

「知りたいなあ。」

「嫌です。」

「ねえ、答を言ってるようなもんだよね。否定してないよね。」

下を向いてティラミスに集中する。
美味しい。本当においしい、満足。
ちょっと食べ過ぎた。お腹が苦しい。
何も考えたくない、日曜日の石神君の予定なんて・・・・。
今まで忘れてたのに、突然思い出した。

「ごめん。失礼だったかな。デリカシーなくて。舞さん、ごめんね。」

顔をあげた。なんだったっけ?
ああ・・・・。

「ううん、ちょっとデザートに集中してただけ、全然。忘れてた。」

「それも悲しいんだけど。本当に忘れてたよね。」

はい、その通り。

「知念君にはやっぱり青空の似合う人が合う。簡単に想像つく。」

「今遠回しに圏外の宣告を受けてるの?」

真面目な顔で言われた。
冗談のような話のテンポだったし。

「誘うよ。」

誘われないから、違う人を誘ってるよ、きっと。

「今は無理でも、すごく悲しい顔を見たら誘う、チャンスだって思って誘う。」

首を振れない。
今以上に悲しい顔なんてしなきゃいけないの?
視線をそらしてティラミスに戻す。
コーヒーを飲んで。口に残った甘さを中和する。

幹事の瀬野尾君がお金を徴収する。
1人5000円。

明日の打ち合わせをするつもりだった。
また同じように橋の上だとしても、確認して楽しみだねって聞きたかった。
だけど席は遠い。

バッグを置いてトイレに行けばあのままあそこにいれたのかも。
なんでバッグごと持って行ったんだろう。

知りたくなかったのに、拾った会話。

沖縄の風がビュンと吹いて慰められたような気もするけど、やっぱり風が吹いたのは一瞬で。
明日・・・・きっとまた文字で伝え合うんだろう。
しょうがない。

お開きになった。

「舞さん、元気を出して。」

やばい。

「ちょっと食べ過ぎただけですから。」

何も言われなかったけど困った顔で笑われた。
無理してもしょうがないよって言われたような気もするけど。

二次会に行く人と別れた。
知念君も元気に手を振って行った。
手を振り返した。
いい人。海の人で空の人。


全然タイプは違う。
しっとりと薄暗い感じが似合う。
古いレコードを聞いてソファに沈んでいそうだし。
でも電気をいきなりつけても怒らない。
明るく笑ってくれうと思う。

・・・・何?今の、なんの想像?


梓さんは結局二次会に行ったらしい。集団の中にいた。

半分くらいが行かない人々。
そして、それぞれ駅に向かう。

バッグを持って、そう言えばお気に入りの服だった・・・・なんて思いながら駅に向かう。
自己満足。

浅井さんに挨拶もしなかった。
後でメッセージを送ろう。
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