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11 鏡に映った見慣れない二人。
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あと少しで駅。
コーヒー屋さんをぼーっと見る。
席は空いてる。
帰りたくない。
部屋にいると本当に携帯を見つめてしまう。
まだ人混みの中なら我慢できる、寂しさも。
部屋だとどんどん自分で悲しみを増幅させて、部屋中いっぱいに溢れだしてしまう、満たしてしまう。
「如月さん。」
名前を呼ばれた。
石神君がいた。
向かい合ってどっちも何も言わないまま。
「入る?」
何を指してるのかもちろん分かったけど、指の指す背後を見る。
あと少しだけ・・・・そう思った。
前を向いてうなずく。
注文の品を受け取って席に着く。
奥の方へ行った。
「楽しそうだったね?」
「石神君も。」
私は『全然違う』だったのに、あんな分かりやすい女の子モード全開の梓さんは全然じゃなくないの?やっぱり分かりやすい人が選ばれる・・・・。
だって楽だもん。知念君なら裏を読まなくて、探らなくていいって思った私。
一緒にいると楽だろうなって思ったもん。
分かりやすい人が楽だよね。
「明日・・・・どうする?」
それはキャンセルする?それとも約束通り行く?って聞いてるみたい。
「楽しかった。嫌な事忘れさせてもらえた、悲しい事も。沖縄の人は皆あんなに包み込むような大自然みたいな人が多いのかな?」
俯いて呟く。
「でも楽しみにしてた約束までは忘れてないから。明日のことはずっと、ずっと楽しみにしてたの。だから行きたいの。お願いします。」
約束したよね。
付箋を取って予約を取ってくれたのは石神君だったじゃない。
「もちろん。この間と同じところで同じ時間でいい?」
「はい、お願いします。」
しばらく静かな間があって。
「ね、言った通り、誘われたでしょう?」
顔をあげる。
言った通りでしょうって言う顔。
でもちょっと弱い笑顔で。
「珍しいからだよ、初めて話をして、ちょっとイメージと違ってたからしばらくは優しく、楽しそうにしてくれる。でもその後、たいていの人は離れる。二度目の誘いはない。たまに話しやすい人がいてたくさん話ができると、誘ってくれる人もいて仲良くなることもあるけど。でもほとんどの人はそう長くは続かないから。」
話は続かず。
コーヒーを飲んで空いたカップがテーブルに当たり空っぽだとその音がいう。
おしまい。
「コーヒーありがとう。明日、お願いします。」
もう一度言って席を立つ。
「じゃあ、お先に失礼します。」
そう言って外に出た。
カップを置いたままだった。
後で気が付いた。
つい、普通に食べて飲んで、帰ってからトイレで戻してしまった。
精神的にも疲れてたから。
最後の最後、また悲しい印象で一日が終わった。
逃げるように席を立った失礼な私。
最初に調子に乗り過ぎたのかも。
久しぶりに普通に話が出来たのがうれしくて。
すごく優しくて、笑顔を向けられて、居心地が良くて。
でもそれは勿論私だけじゃなかった。
私の思い違いだったのかな?それとも心変わり?
てっきり佐賀君だと思ったのに、全然違うよ、佐賀君と石神君。
夢の中、頭の中をいろんな色がまわっていた。
青い空青い海、黄色い太陽、ハブやウツボや亀やイルカ。
たくさんの生きてるものたち。
それら全てがカメレオンの肌の色に集約されて、大きく丸い目がぎょろっと動いて目が覚めた。
沖縄の自然を背負う知念君のインパクトが大きすぎた。
絶対倒れこむようなことはないのに、守ってほしいと思う。
それはもう大きな存在感に。
知念君とか、個人じゃなく、大きなものに。
大自然って程大きくなくて包まれるってわけじゃないけど、支えてもらえて、もたれることが出来る安心感。
それで十分だから。私にはそれだけで十分だから。
そう思ったのに。
夢の中では全然それじゃあ足りないって言ってたみたい。
そんなことないと思うのに。
目が覚めたのは、まだ夜中の時間。
窓を開けて空を見る。
真っ暗な空が広がる。
空に光はないのに、地上にはたくさんあって。
携帯を見たらいつの間にか着信があったらしい。
浅井さんから。
『舞、大丈夫?心配してます。ちょっと計算ミスしたみたいで。今度やり直すから。明日は楽しんでね。ちゃんと話をしてね。あと、私で良ければいつでも連絡ください。』
石神君からも。
『明日のことは、僕もずっと楽しみにしてたから。じゃあ、おやすみなさい。』
どこまでも優しいのは、もううれしくないのに。
『明日は約束だから付き合う。』って言い切られた方が諦められるのに。
楽しみなことがある日の前の夜。
明日になって始まってしまったら後はもう、すぐに終わるから。
今の時間が一番ワクワクしてるはず。そのはずなのに。
半分くらいは心が悲しみに沈んだまま。
窓を閉めてまた寝た。
広い自然に包まれる夢じゃなくて、ただ一本の木にもたれて静かに寝ていた気がする。
今度はそれで満足したみたい。
目が覚めた。よく眠れた。
吐いてスッキリしたみたいで胃もなんともない。
ただ食欲はない。
ゆっくり起きて窓を開けた。
夢で見たような青空とまではいかないけど、今日もいい天気だ。
それだけで気分が少し楽になる。
雨が降ったら橋の上の待ち合わせは無理だから。
買って一度も着てない服があった。
上半身はタイトで腰から切り替えで広がるワンピース。
これにしよう。
最後は気合を入れて。
細いシンプルなアクセサリーを首に足して。
ちょっとだけ高さの出る靴を履いて。
小さなバッグと上着を持って。
緑茶を飲みながら準備した洋服を見る。
衝動買いしたものだった。
ディスプレイでマネキンが来ていたのがすごく素敵で。
サイズを探して試着した。
店員さんに褒められるまま買って、着る機会がなかなかなくて死蔵されていた。
良かった、やっと着れる。
やっぱり何も食べる気はなくて。
お茶をひたすら飲む。
お昼まで何杯もお代わりして飲んで。
午後ゆっくり準備を始めた。
気分転換は必要。
もしかしたら明日も同じこと言ってるかもしれないけど。
いつもとは違う駅ビルを順番に見ていく。
最後に・・・・何か・・・・。
1人暮らしじゃないから、一人の部屋に置いたり、使ったりできるものを。
ないなあ、そんなもの。思いつかない。
グルグルと見てても何も見つからずに。
諦めた。
そう言えばもう同期会も行くことはないだろう。
見たくないものまで見えてしまう。
だいたい半分くらいしか集まってないはず。
私一人いなくても気が付く人はいない。たった二回だけの出席。
ここにもあったんだ。
ガラスケースの中には新品の楽器が。
お店も小さいから本当にそれぞれ主なものが二、三本だけ。
トランペットも二本。
聴きたかったなあ。
「何か出しましょうか?」
「いいえ、すみません。吹けないんです。」
「隣に音楽教室があります。楽器を購入いただければ三回の無料チケットが付きますよ。」
「・・・・いいえ、聴くほうが楽しそうです。すみません。」
「いえ、何かありましたら遠慮なくお声がけください。」
そう言っていなくなった店員さん。
毎日毎日部活でやっててもあんまり上手にはならなかった。
週末だけで上達するのか疑問だ。
それにかなりの肺活量がいる。
意外に体力がいるのだ。
楽器を支えるだけでも肩が凝りそう。
「やっぱりここにいたんだ。」
石神君が声をかけてくれた。
笑顔だけど・・・・ちょっと違う感じ、そう。
「眼鏡は?」
「今日はコンタクトにしたんだ。一応バッグに入ってるよ。」
どうしたんだろう?
髪はこの間と同じ。
違う人見たい。明日もこうなのかな?びっくりされるよ。
「眼鏡あった方がいいのかな?」
自信なさそうに聞く。
首を倒す。分からない。個人の好み。
私はメガネの方が好きだけど。
明日の人は分からないから。
ケース内を広く見せるためなのか背面が鏡張りになっている。
楽器を見てるはずなのに、自分の背後の背の高い人を見ている。
見慣れないメガネのない顔。
半分以上自分に重なってるのにドキッとする。
多分前後の距離は大分空いてると思うけど、それは鏡には映らないから。
同じ場所に立ち止まったまま。
「ねえ、如月さん、楽しみにしてくれてたんだよね。」
あっ。
「ごめんなさい。ちょっと体調が悪くて早く寝たから携帯を見たのが夜中の起きた時間になってしまって。返事を・・・・忘れてました。本当に昨日も失礼な態度で。」
最後なのに。
「返事は気にしないで。ただ元気ないかなって思って。体調は?」
「もう大丈夫。ちょっと食べ過ぎたみたい。」
ゆっくり楽器の前から離れる。
「今日もまた違うイメージだね。すごく似合ってる。」
「ありがとう。ずっと前に衝動買いしてしまって。でも着る機会がなくて、今日着れたからすごくうれしい。」
「よかったね。本当に似合う。この間は意外でびっくりだったけど、今日は綺麗すぎてびっくり。」
やっぱり照れることもなくさらりと言う。
最後の思い出に。
まさか二度と着たくないって思ったりしないように、最後まで楽しみたい。
エレベーターで下に降りていく。
時々顔を見る。慣れなくて。
ふと鏡に映った二人が自分と石神君だなんて思えない。
自分も初めて見るスカートに、石神君は眼鏡無し。
知らない二人みたい。
まだ早い時間。
だって待ち合わせの時間までフラフラするつもりだったから。
一時間ぐらい早い待ち合わせになった。
「どこかに入る?」
「出来たら歩いていたい。」
デートみたいに。
座ってしまったら目に入るものも動かなくて、ついつい考えてしまう。
このまま歩きながら目に映るものに足を止めて。
適当なその場の会話を楽しみたい。
「いいよ、付き合う。」
家具のお店の入ったフロアがあった。
「この階を見てもいい?」
「いいよ。」
狭い部屋だけど、ときどき無性に模様替えをしたくなる。
今がその時。
大きなものは無理だけど、クッションとか、ランチョンマットとか、飾り物とか。
小物を中心に見ていく。
クッションカバーが欲しい。
ちょっと厚手の秋冬の新作が並ぶ。
「この間お土産もらったから今度は僕がプレゼントしようか?」
首を振る。
そんなことしたら抱きしめたまま離せない。
「自分で買いたいから、大丈夫。」
「分かった。」
手にした二つを持ってレジに行く。
明るい色。秋色でもオレンジや黄色を使った明るい色を買った。
中身は今度。荷物になっていい時に買おう。
袋に入れてもらい受け取る。
「ぐるっと一周してもいい?」
「いいよ。」
後はサラッと見ていくだけにして、下りのエスカレーターにたどり着いて降りる。
時計を見ると5時になりそう。歩いて橋まで行けばいい時間になりそうだけど・・・行かなくてもいい。
もう出会えてるから、お店に直接行けばいい。
楽しみにしたい夜が始まる。
コーヒー屋さんをぼーっと見る。
席は空いてる。
帰りたくない。
部屋にいると本当に携帯を見つめてしまう。
まだ人混みの中なら我慢できる、寂しさも。
部屋だとどんどん自分で悲しみを増幅させて、部屋中いっぱいに溢れだしてしまう、満たしてしまう。
「如月さん。」
名前を呼ばれた。
石神君がいた。
向かい合ってどっちも何も言わないまま。
「入る?」
何を指してるのかもちろん分かったけど、指の指す背後を見る。
あと少しだけ・・・・そう思った。
前を向いてうなずく。
注文の品を受け取って席に着く。
奥の方へ行った。
「楽しそうだったね?」
「石神君も。」
私は『全然違う』だったのに、あんな分かりやすい女の子モード全開の梓さんは全然じゃなくないの?やっぱり分かりやすい人が選ばれる・・・・。
だって楽だもん。知念君なら裏を読まなくて、探らなくていいって思った私。
一緒にいると楽だろうなって思ったもん。
分かりやすい人が楽だよね。
「明日・・・・どうする?」
それはキャンセルする?それとも約束通り行く?って聞いてるみたい。
「楽しかった。嫌な事忘れさせてもらえた、悲しい事も。沖縄の人は皆あんなに包み込むような大自然みたいな人が多いのかな?」
俯いて呟く。
「でも楽しみにしてた約束までは忘れてないから。明日のことはずっと、ずっと楽しみにしてたの。だから行きたいの。お願いします。」
約束したよね。
付箋を取って予約を取ってくれたのは石神君だったじゃない。
「もちろん。この間と同じところで同じ時間でいい?」
「はい、お願いします。」
しばらく静かな間があって。
「ね、言った通り、誘われたでしょう?」
顔をあげる。
言った通りでしょうって言う顔。
でもちょっと弱い笑顔で。
「珍しいからだよ、初めて話をして、ちょっとイメージと違ってたからしばらくは優しく、楽しそうにしてくれる。でもその後、たいていの人は離れる。二度目の誘いはない。たまに話しやすい人がいてたくさん話ができると、誘ってくれる人もいて仲良くなることもあるけど。でもほとんどの人はそう長くは続かないから。」
話は続かず。
コーヒーを飲んで空いたカップがテーブルに当たり空っぽだとその音がいう。
おしまい。
「コーヒーありがとう。明日、お願いします。」
もう一度言って席を立つ。
「じゃあ、お先に失礼します。」
そう言って外に出た。
カップを置いたままだった。
後で気が付いた。
つい、普通に食べて飲んで、帰ってからトイレで戻してしまった。
精神的にも疲れてたから。
最後の最後、また悲しい印象で一日が終わった。
逃げるように席を立った失礼な私。
最初に調子に乗り過ぎたのかも。
久しぶりに普通に話が出来たのがうれしくて。
すごく優しくて、笑顔を向けられて、居心地が良くて。
でもそれは勿論私だけじゃなかった。
私の思い違いだったのかな?それとも心変わり?
てっきり佐賀君だと思ったのに、全然違うよ、佐賀君と石神君。
夢の中、頭の中をいろんな色がまわっていた。
青い空青い海、黄色い太陽、ハブやウツボや亀やイルカ。
たくさんの生きてるものたち。
それら全てがカメレオンの肌の色に集約されて、大きく丸い目がぎょろっと動いて目が覚めた。
沖縄の自然を背負う知念君のインパクトが大きすぎた。
絶対倒れこむようなことはないのに、守ってほしいと思う。
それはもう大きな存在感に。
知念君とか、個人じゃなく、大きなものに。
大自然って程大きくなくて包まれるってわけじゃないけど、支えてもらえて、もたれることが出来る安心感。
それで十分だから。私にはそれだけで十分だから。
そう思ったのに。
夢の中では全然それじゃあ足りないって言ってたみたい。
そんなことないと思うのに。
目が覚めたのは、まだ夜中の時間。
窓を開けて空を見る。
真っ暗な空が広がる。
空に光はないのに、地上にはたくさんあって。
携帯を見たらいつの間にか着信があったらしい。
浅井さんから。
『舞、大丈夫?心配してます。ちょっと計算ミスしたみたいで。今度やり直すから。明日は楽しんでね。ちゃんと話をしてね。あと、私で良ければいつでも連絡ください。』
石神君からも。
『明日のことは、僕もずっと楽しみにしてたから。じゃあ、おやすみなさい。』
どこまでも優しいのは、もううれしくないのに。
『明日は約束だから付き合う。』って言い切られた方が諦められるのに。
楽しみなことがある日の前の夜。
明日になって始まってしまったら後はもう、すぐに終わるから。
今の時間が一番ワクワクしてるはず。そのはずなのに。
半分くらいは心が悲しみに沈んだまま。
窓を閉めてまた寝た。
広い自然に包まれる夢じゃなくて、ただ一本の木にもたれて静かに寝ていた気がする。
今度はそれで満足したみたい。
目が覚めた。よく眠れた。
吐いてスッキリしたみたいで胃もなんともない。
ただ食欲はない。
ゆっくり起きて窓を開けた。
夢で見たような青空とまではいかないけど、今日もいい天気だ。
それだけで気分が少し楽になる。
雨が降ったら橋の上の待ち合わせは無理だから。
買って一度も着てない服があった。
上半身はタイトで腰から切り替えで広がるワンピース。
これにしよう。
最後は気合を入れて。
細いシンプルなアクセサリーを首に足して。
ちょっとだけ高さの出る靴を履いて。
小さなバッグと上着を持って。
緑茶を飲みながら準備した洋服を見る。
衝動買いしたものだった。
ディスプレイでマネキンが来ていたのがすごく素敵で。
サイズを探して試着した。
店員さんに褒められるまま買って、着る機会がなかなかなくて死蔵されていた。
良かった、やっと着れる。
やっぱり何も食べる気はなくて。
お茶をひたすら飲む。
お昼まで何杯もお代わりして飲んで。
午後ゆっくり準備を始めた。
気分転換は必要。
もしかしたら明日も同じこと言ってるかもしれないけど。
いつもとは違う駅ビルを順番に見ていく。
最後に・・・・何か・・・・。
1人暮らしじゃないから、一人の部屋に置いたり、使ったりできるものを。
ないなあ、そんなもの。思いつかない。
グルグルと見てても何も見つからずに。
諦めた。
そう言えばもう同期会も行くことはないだろう。
見たくないものまで見えてしまう。
だいたい半分くらいしか集まってないはず。
私一人いなくても気が付く人はいない。たった二回だけの出席。
ここにもあったんだ。
ガラスケースの中には新品の楽器が。
お店も小さいから本当にそれぞれ主なものが二、三本だけ。
トランペットも二本。
聴きたかったなあ。
「何か出しましょうか?」
「いいえ、すみません。吹けないんです。」
「隣に音楽教室があります。楽器を購入いただければ三回の無料チケットが付きますよ。」
「・・・・いいえ、聴くほうが楽しそうです。すみません。」
「いえ、何かありましたら遠慮なくお声がけください。」
そう言っていなくなった店員さん。
毎日毎日部活でやっててもあんまり上手にはならなかった。
週末だけで上達するのか疑問だ。
それにかなりの肺活量がいる。
意外に体力がいるのだ。
楽器を支えるだけでも肩が凝りそう。
「やっぱりここにいたんだ。」
石神君が声をかけてくれた。
笑顔だけど・・・・ちょっと違う感じ、そう。
「眼鏡は?」
「今日はコンタクトにしたんだ。一応バッグに入ってるよ。」
どうしたんだろう?
髪はこの間と同じ。
違う人見たい。明日もこうなのかな?びっくりされるよ。
「眼鏡あった方がいいのかな?」
自信なさそうに聞く。
首を倒す。分からない。個人の好み。
私はメガネの方が好きだけど。
明日の人は分からないから。
ケース内を広く見せるためなのか背面が鏡張りになっている。
楽器を見てるはずなのに、自分の背後の背の高い人を見ている。
見慣れないメガネのない顔。
半分以上自分に重なってるのにドキッとする。
多分前後の距離は大分空いてると思うけど、それは鏡には映らないから。
同じ場所に立ち止まったまま。
「ねえ、如月さん、楽しみにしてくれてたんだよね。」
あっ。
「ごめんなさい。ちょっと体調が悪くて早く寝たから携帯を見たのが夜中の起きた時間になってしまって。返事を・・・・忘れてました。本当に昨日も失礼な態度で。」
最後なのに。
「返事は気にしないで。ただ元気ないかなって思って。体調は?」
「もう大丈夫。ちょっと食べ過ぎたみたい。」
ゆっくり楽器の前から離れる。
「今日もまた違うイメージだね。すごく似合ってる。」
「ありがとう。ずっと前に衝動買いしてしまって。でも着る機会がなくて、今日着れたからすごくうれしい。」
「よかったね。本当に似合う。この間は意外でびっくりだったけど、今日は綺麗すぎてびっくり。」
やっぱり照れることもなくさらりと言う。
最後の思い出に。
まさか二度と着たくないって思ったりしないように、最後まで楽しみたい。
エレベーターで下に降りていく。
時々顔を見る。慣れなくて。
ふと鏡に映った二人が自分と石神君だなんて思えない。
自分も初めて見るスカートに、石神君は眼鏡無し。
知らない二人みたい。
まだ早い時間。
だって待ち合わせの時間までフラフラするつもりだったから。
一時間ぐらい早い待ち合わせになった。
「どこかに入る?」
「出来たら歩いていたい。」
デートみたいに。
座ってしまったら目に入るものも動かなくて、ついつい考えてしまう。
このまま歩きながら目に映るものに足を止めて。
適当なその場の会話を楽しみたい。
「いいよ、付き合う。」
家具のお店の入ったフロアがあった。
「この階を見てもいい?」
「いいよ。」
狭い部屋だけど、ときどき無性に模様替えをしたくなる。
今がその時。
大きなものは無理だけど、クッションとか、ランチョンマットとか、飾り物とか。
小物を中心に見ていく。
クッションカバーが欲しい。
ちょっと厚手の秋冬の新作が並ぶ。
「この間お土産もらったから今度は僕がプレゼントしようか?」
首を振る。
そんなことしたら抱きしめたまま離せない。
「自分で買いたいから、大丈夫。」
「分かった。」
手にした二つを持ってレジに行く。
明るい色。秋色でもオレンジや黄色を使った明るい色を買った。
中身は今度。荷物になっていい時に買おう。
袋に入れてもらい受け取る。
「ぐるっと一周してもいい?」
「いいよ。」
後はサラッと見ていくだけにして、下りのエスカレーターにたどり着いて降りる。
時計を見ると5時になりそう。歩いて橋まで行けばいい時間になりそうだけど・・・行かなくてもいい。
もう出会えてるから、お店に直接行けばいい。
楽しみにしたい夜が始まる。
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