内緒ですが、最初のきっかけは昔の彼の記憶でした。(仮)

羽月☆

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12 二度目の終わり、二度目で終わり。

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前回と同じ席に案内された。
ライブが始まるまでお酒を頼み、料理を頼み。

ただ昨日も飲んだし、あまりすすまない。
料理に至っては夜中に吐き戻してる。
大人しく少しずつ食べる。
せっかく美味しいのに。

時間になってライブが始まる。
始まったら、本当にあとは終わるだけ。

1stステージが終わったあともお酒は頼まずに。グラスにはぬるくなったお酒が残ってる。
私もだけど石神君も。

どうしたんだろうと横顔を見る。
眼鏡のない顔を。

ああ、そうか・・・・。
そうだね、明日もあるもんね。
ちょっとだけ忘れてたけど、思い出した。

手をあげてお店の人におかわりを頼む。
私は明日寝てられる。
今夜が終わったら、トイレで戻そうが、寝坊しようが、二日酔いになろうが、構わないから。
食べるものはしょうがないから諦めて飲む。
この間と違って無言の二人。
誰もいない空のステージを見ている。
楽しみにしてたのに・・・・・。
2ndステージが始まるギリギリにもう一杯注文した。

照明が落とされてステージだけが明るくなる。

楽しそうに演奏する人たち。
のれない・・・ごめんなさい。
今日は、ちょっと無理です。
見てるようで見てない、聞いてるようで聞いてない。
自分の中がとても静かな気がする。

「最後の曲は・・・・。」

ラスト。もうすぐ終わる。
始まるとあっという間だって分かってる。

それでも会話もなく。
変に思ってない石神君。
心ここにあらず?

アンコールの拍手に応えて・・・・終わった。

約束の予定は、これで終わり。

会計での列が短くなる間に、テーブルで清算をしてもらう。
お酒のお金は覚えてる。
大体を渡す。後は予約してもらったから、それでいいと言って財布をしまう。
足りないことはないだろう。

列が短くなったところで立ち上がり歩き出す。

外に出て見上げる空は半端に明るい。
都会の明かりは空まで届いてるかのようだった。

この間の様に段差にびっくりすることもなく、会計を終えて上ってくる石神君を待つ。

「石神君。」

顔を見て笑う。
ちょっとびっくりした顔をしてる。

「石神君、ありがとう。もう、誘わないから。楽しかった。明日も・・・楽しんできてね。じゃあ、こっちから帰るから。」

通りの向こうにある駅を指してくるりと回って走った。
全然関係ない路線に向かう。
でもきちんと最後の思い出には出来た。
お礼も言えた。

最後までびっくりしたのか声もなかった。
びっくり・・・まさか、今安堵してるなんて思いたくはない。

改札に入る前に考えて橋の方へ歩いて行く。

お酒を控えていたし、多分まっすぐ帰ってるだろう。
そう思って一人でこの間一緒に行った噴水のところに行く。

やっぱりポツポツと人がいた。

コーヒーを持ってテーブルに座った。
クッションカバーの袋を抱きしめて顎を乗せる。

明日どこに行くんだろう?
昼に会ってご飯を食べて・・・・どこかへ。
可愛く笑う梓さんの顔が浮かんで、同じようにいつもの笑みを返すだろう石神君も浮かんで。
彼女はとても分かりやすい。
見た通りの反応、自分の思いに素直にまっすぐに。
とっても分かりやすい。私とは違う。


いつか石神君のトランペットを聴くことがあるかもしれない。
私が思い描いた姿で想像以上に上手に演奏するのを。


動かない姿勢のままコーヒーには手も付けず。
誰かが近くに来た。
顔をあげると知らない人だった。
ちょっとだけ期待したかもしれない、・・・・期待してた。
ここなら、もう一回会えるかもしれないって。
そんな自分の心の奥の奥の気持ちを今の一瞬で見て、知って・・・・。

「お一人ですか?」

顔をあげたまま誰だか考える。知らない気がする。
見つめ合ったまま動かない。
本当に知らない人でいいんだよね?

「ごめんね、遅くなっちゃった。」

急いで駆けつけた足音がして、声がした。

今度は石神君だった。

「どうかした?」

「あ・・・いえ、薄暗くて・・・・人違いでした。」

そう答えて知らない人はいなくなった。
空いた椅子が隣に引き寄せられた。
すぐ隣に。

「舞さん、何してるの?」

舞さん?・・・・初めて呼ばれた。
昨日さんざん知念君には呼ばれたけど。
ぼんやりと、今度は石神君を見る。
驚いて顎もクッションカバーから上がった。

石神君こそ何してるのよ、そう言いたいけどここは彼のお気に入りの場所だった。
紛れ込んでるのは私の方。

「そんな顔してる舞さんを1人では帰せないから。送るよ。」

首を振る。

「じゃあ、せめてもっと暖かい所に行かない?その格好だと夜は冷えそうだし、具合悪かったんだよね。」

膝に置いていた荷物を持って、立ち上がった石神君。
それでも動かない私。

「話がしたいんだけど。」

「いいのに、私なんて放っておいてくれても。知らない人について行ったりしないから。」

そこまで冒険する勇気はない。


そう言ったのにコーヒーカップまでもたれた。
全然減ってないし。
のんびり待つつもりなのか、立ったまま私のコーヒーに口をつける石神君。

1人の部屋には帰りたくないのに。
しょうがないから立ち上がった。

後ろついて行こうと思ったのに手にコーヒーを持たされて、空いた手をつながれた。
そのまま先に歩くので手は振りほどくように離した。

呆れたようにため息をつかれたような気がする。
先を歩くのについて行く。

しばらく歩くとさっきとは違う駅が見えてきた。
自分の部屋に続く駅の入り口。

「ちゃんと帰れるから大丈夫。早く帰ったほうがいいよ。明日、最初っから寝坊なんてしたら嫌われるから。」

「さっきも明日の事言われたけど、何かあるの?」

「日曜日です。」

「そうだよ。」

当たり前ですみたいな顔で。土曜日の次が日曜日なのは当たり前だけど。
それでも特別でしょう?

「梓さんとデートの約束してたじゃない。」

「誰?梓さん?」

「同期の、この間ずっと向かいに座ってた。私がいなくなった隙にあの席に座ってた。」

「ああ、・・・・思い出した。で、・・・・ああ、分かった。聞こえてたの?遠くにいたのに。あれは違うよ。」

そう言って面白そうに笑う石神君。

「多分誰かに聞かせたかったんだよ。すぐ後で小さく『あ、ダメだった。』って僕だけに聞こえるように言ってキャンセルされました。おしまい。」

キャンセル?

「とりあえず明日は何も予定無いよ。勝手にそう思ってたの?」

「だってさっき、お酒も飲んでなかったし。」

「話をしたかったから、本当にすごく怒られたんだから。周りもびっくりするくらい怒られたから。」

誰に何を?

急に立ち止まる。
駅はもう目の前。
どこがいいかなあ。そう言って上を見て考えてる。

「まだ部屋には帰りたくない、放っとけないって言うなら・・・・一緒にいて。」

「もちろん、まだ話があるって。どこがいいかな?」

「・・・・部屋に連れてって。」

「うん・・・それは実家だから難しい。」

「そんなの・・・・分かってる、違う部屋に連れてって。」



「・・・・疲れたから、横になりたい。」


しばらく見下ろされてたと思う。
どう思った?
私もどうなりたいと思ってるの?自分でもよく分からない。
ただ、今は一緒にいて欲しい。


ポケットから携帯を出して操作する石神君。
タクシーを止めて一緒に乗り込む。
どこに行くかはわからない。
大きな駅を言って、そこに向かってもらう様にタクシーの運転手さんに伝える。

実家ではない。

じゃあ、どこに。

自分で言ったのに、気になる。

車中では無言のまま。
さすがに運転手さんも話しかけてこず。
1人で窓越しに外を見ている。

遅い時間は大人の時間。
1人でも、ふたりでも、それ以上でも。
いろんな人がまだまだ遊んでる時間。

明日の予定はすぐにキャンセルされたって、じゃあ他の日に?
だって最後まで仲良くしゃべってたんだよね。
普通のペースでお酒を飲みながら、いつものお世話係なんて全くしないで、楽しそうにしゃべってたんじゃないの?

タクシーが駅のロータリーを回る。
きっと駅だから電車とか思ったんだろう。

降りたところから歩く。
駅とは逆の方へ。

「少し歩くけど。」

上り坂をゆっくりと無言で上り大きな建物に入った。

「ここで待ってて。」

フロントに行って手続きをしてる石神君。
どうしてここだったんだろう。
すごくいいホテル。

終わったらしい。こっちに歩いてくる。
顔を見れずに手元が目に入った。
手には二枚のカードキー。
そうか。

話があったんだから、ゆっくり部屋で話をして、お休みって。

『ゆっくり横になりたいから部屋に行きたい。』
そう言ったわがままを叶えてくれた。
『僕に期待しないでね。』
またそう言われたみたいで。
優しいから言ったことにはちゃんと答えてくれて、友達の一人の突然のわがままにも最善の対応をしてくれた。


二人でエレベーターに乗り目当ての階で降りる。
後をついて行った。
止まった部屋の前でドアを開けられて。

こっちはどっちの部屋?
まだどっちでもいいのか。

ベッドがあってそこに横になる。

「大丈夫?」
「お水買って来ようか?」


「いらない。ありがとう。もう、自分の部屋に戻っていいよ。」

手にはもう一枚しっかりとカードキーが握られてる。

クッションカバーの入った荷物を置かれて扉の方へ引き返す音がする。
電気を消されて閉まる音を聞いて遠ざかる足音も聞いた。

暗い中起き上がりゆっくり扉に向かう。
隣の部屋かもしれないって思ったけど音はしなかった。

違うのかもしれない。

急だったから並びの部屋は空いてなかったのかも。

入り口の場所に座り込んだ。
真っ暗だった。
『お休み。』もなく電気まで消されて。
明日起きた後、勝手に帰っていいのよね。
私が寝坊して起きる前に、いっそ先に帰ってもらいたい。

そうしたらもう二度と会えない。
連絡もなくて、友達でもなくなって。ただの同期より遠い。
今までだってほとんど会ってなかったし、同期会に行かなければ会うこともないから。

すごく短い間の友達。

勝手に期待して困らせて、だからただの友達でもなくなった。

単純な引き算。2-1は1。友達は浅井さんだけになった。
結果だけは教えよう。
もう友達でもなくなったと。
悪いのは自分だとちゃんとそこは言うつもり。
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