内緒ですが、最初のきっかけは昔の彼の記憶でした。(仮)

羽月☆

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18 馴染んだ距離感、ずっと先に見えそうな画。

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二年目が半分過ぎる。
何も変わらない。
同じように数字と、たまに文字に向き合い地味に仕事をしている。

春には後輩が一人出来た。
地味な男の子だったけど真面目そうな子だった。

時々疲れたように首を回してるのに気が付いて、食堂で息抜きを勧めたこともあった。
一所懸命作った書類がパソコンのフリーズで飛んでしまって、泣きそうになってるときは手伝った。
まあ、先輩面することはそれくらい。

本当に真面目だから、途中無駄話なんてしないし、それはお互い様で。
だから休憩室で、一緒になったタイミングに向かいに座って話しかけられたときはびっくりした。

本当に今まで経験もない。
したことも、されたこともなかった。

「お疲れ様です。舞先輩。」

「お疲れ様。浜田君。」

だから・・・特に話題はないんだってば。
話しやすくはない・・・・とは思わないけど、何話すの?

「ねえ、浜田君の年って同期は仲がいいの?」

何とか話題をつないだ。

「はい、まあまあですかね?男だけは何人かで良く集まります。」

「そうなんだ、女子は?」

「それはないです。僕の時は少なかったんです。それに全員彼氏持ちみたいです、今も別れてなければ。」

「本当に?そんな話もしてるってことは仲がいいんだね。」

「最初の研修ですぐに回ってきた情報です。誰かが聞いたんじゃないですか?」

1人だけいないって言えなくて、つい・・・っていう子もいるかも。

「舞先輩達の中に身内が一人いるって聞きましたけど。」

「身内?」

「はい、会社経営者親族みたいな?」

「ええ~、だって本社ならともかく、ここに?」

「なんとなくの話で良くは分かりません。本社採用なのかもしれませんね。」

「そうじゃない。そんな話聞いたことないし。」

ふ~ん、と言いながらじっと見られた気がする。
私じゃないわよ、当たり前ですが。

私が噂に疎いだけかもしれないか。
いるとしたら営業あたり?
本社の経営戦略室とか?

まあ、知らなくてもいい事だ。

時計を見る、そろそろ戻ろう。

「じゃあ、ゆっくりする?」

「いいえ、一緒に戻ります。」

サラリとコーヒーカップを持って一緒に捨ててもらった。

「ありがとう。」

意外にスマートらしい。知らなかった。
並んで仕事に戻る。

「一カ月が早いですよね。」

「そうだね。なんだか月が替わったと思ったのに、またすぐ月末って気分。」

「でも先月は本当に死にそうでした。数字が勝手に動く夢を見ました。」

「大丈夫?あの波は時々やってくるから慣れるけど。年末はもっと恐怖よ。頑張ってね。」

「はい。なんとか。」

笑いながら席に着く。
隣の席なのだ。
前に比べると自分だって随分人と話せるようになっている。
慣れれば話せるようにはなるのだ。
・・・と言っても相変わらず同期で友達と呼べるのはゆかりだけ。
アドレス帳はスカスカです。
・・・・本当に噂が私に届いてないだけかもしれない。

浜田君は数字で言うと『3』
何となくこじんまりとまとまってる。
小さいとか、存在感が薄いとかじゃなくて、すっと馴染む感じのアクのない個性。
無理をしない感じ。
さっきさりげなくサッとコーヒーを持ってくれたタイミングが意外だった。
思ったより女子受けしそう。
友達としてなら絶対って思ってたけど、もっと違うかも。


そんな事を考えていたけど、まったく無駄な感想だと気がついた。
そして気を取り直して、残りの時間も真面目に仕事をする。
そして、いつもと同じようにお疲れさまでしたと声をかけて帰る。

時々兄から繭ちゃんの写真が届く。
仕事も順調みたいで今のところ問題ないらしい。

そして時々遊びに行く。
この間は涼太も連れて行った。

優美さんが美容院に行きたくて、買い物もしたくて、兄も一緒にたまにはランチをと言い出したらしい。
都合を聞かれたうえで頼まれた。

誰もいないなら涼太も呼んで。
涼太の希望で出前を取って一緒に食べて。

テーブルで出前の食事を前に涼太が繭を抱いていて、一緒に食事をしてると思わず錯覚してしまいそうになる。
繭はラッキーにも随分人慣れするタイプらしく涼太に抱かれても、私に抱かれても泣くこともなく。

途中兄には報告をしてゆっくりしていいと言う。

来月から優美さんは職場に復帰するらしい。
預けるところも見つかって短縮勤務から始めるらしい。
その為の美容室と買い物だった。

繭は保育園に預けることになる。
それでも人慣れしてれば安心。

食欲もあってずっしりして丈夫そう。
見るたびに大きくなるのでびっくりする。

涼太は今日もご飯より繭に集中してる気がする。
私の方が先にご飯を食べ終わった。

「涼太、繭はこっちに。ご飯食べて。」

「ああ、忘れてた。」

食べ終わったまま、繭を抱き上げてあやす。

「繭、早くしゃべってね。『舞』よ、『おばさん』なんて付けないでね。」

「繭は誰に似てるのかなあ、ちょっと兄も顔を出してきたかなあ?」

パーツをひとつづつ見ながら考える。

「なんとなくお義姉さんに似てるよね。でも舞にも似てるから、目と眉間当たりは特に。」

私に似てるんじゃない、兄にね。

「美人になるといいね。」

「なるよね、舞と同じくらい。」

兄と・・・だってば。

「舞の子供もきっと美人だね。」

窓の外を繭と見ていた時だった。
私の子供。1人じゃ出来ないけど。
あとの半分は誰に似てるんだろう。

繭を見る。
私も兄も父と母2人に似てる。
繭も兄と義姉、ふたりのいい所を半分づつもらってて。

想像つかない。自分の子供なんて。


ゆっくり後ろを見るとすっかり食事は終わったみたい。

繭をお願いして片づけをしてお茶をいれる。

勝手に使ってるけど、本当に綺麗にしてる。
兄が掃除は担当してるらしい。
マメな奴だったのか・・・・。
兄妹でも知らないことはあるものだ。

出前の器をマンションの外に出す。

玄関から入りリビングに涼太と繭がいるのを見ると本当に錯覚する。
自分の家に帰って来たみたいに。自分の作った家族みたいに。
私と同じくらいくつろいでる気がする涼太。


最初の頃よりは随分印象も変わった。
それはお互い様かもしれない。
私が人慣れしたように、涼太はすこし男らしくなった気がする。
前はもっと控えめだったのに、今はすっかり落ち着いてゆったりと構えてるみたいに。
気が利いてあれこれやってくれるのは変わりないけど、それでもパシリ君の印象なんてどこにもない。
元々なかったのかもしれない。
勝手に私が優しさをそう思ってただけだったのか。
それでも、確かに変わった気がする。


それは社会人二年目になったと言うことなんだろう。




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