内緒ですが、最初のきっかけは昔の彼の記憶でした。(仮)

羽月☆

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19 ずっと知らずにいた事。

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今日はもともと涼太に用事があって、会えないと言われていた。
一人で兄の家に来ていた。

一度一人で来ないかと言われてたのだ。
この間も涼太と2人で面倒を見て、すっかりくつろいでた自分たちを見て、優美さんが嬉しそうだった。
太ももの上に載せて繭をおもちゃで遊ばせていた涼太。

優美さんと涼太が話をしているのを見ながら、私に対して兄はちょっとうれしそうじゃない表情をしたのを見逃さなかった。考えられるのは娘を膝に乗せた涼太に対して、もしくは妻と楽しそうに話す涼太に対して。
どっちも涼太・・・・。

そんなこと思う?

その後は普通の表情だった。
もやもやした思い。

そのあとメッセージが来た。

『舞、今日はありがとう。本当に助かってる。繭はかわいいけど、少しは母親じゃない優美と一緒にいたいし、自由な時間を作ってあげたい。本当に助かってる。付き合ってくれてる涼太君にも感謝してる。一度話がしたいんだ。一人で来てほしい。いつでもいい。急ぐ話じゃないから、無理せずに時間の空いたときにでも。』

あの表情に気が付いてなかったらすぐに電話したと思う。
何か相談があるのか?困ったことがあるのか?と。
でも、もし優美さんに聞かせたくない話なら外で会おうと言うだろう。
じゃあ、本当に涼太だけの話なのかも。

初めて嫌な気持ちになった。
あの場所はちょっとした・・・理想的な空間だった。
兄と優美さんと繭。
誰からも祝福されてる、本当のところはいろいろあると思うけど、幸せそうな兄の様子がうらやましくて。
自分も分けてもらいたい幸せ、涼太と一緒にちょっとだけ先を見れたりする場所。

涼太はどうなんだろう?
子どもが好きなのは分かった。
あとどのくらい付き合うとそんな話をしてもいいのだろうか?
相変わらず誘うのも提案するのも私、ほとんど私ばっかり。

よくわからない。

兄にはわかったと返事をした。

なかなか行きたいとは思わない自分。

そんな時に涼太が珍しく先に予定を教えてくれた。


『舞、来週の土曜日は野暮用が出来てしまって。夜も遅くなりそうだから。ごめんね。』

会えないと言うことだ。
早めに教えてくれたんだろう。

「そうなんだ。つまんないから繭に会いに行こうかな?」

『舞、どうしてもおばさんって呼ばれたくないんでしょう。』

「もちろん。私がおばさんだったら涼太もおじさんだよ。嫌でしょう?」

『・・・そうだね。』

そんな深い意味はなかったのに、涼太が返事に詰まったので自分が何を言ったのか分かった。
ただ同じ年だからおばさんに対してはおじさんになると言いたかっただけなのに。
気が付かないふりを続ける。
そして兄に本当に呼ばれていることを思い出した。

『土曜日の夜、もしくは日曜日起きたら連絡するから。日曜日は会えると思う。』

「うん、わかった。」

電話を切って兄に連絡を入れた。珍しく電話をした。

『舞、お疲れ。』

「お疲れ様、今週の土曜日一人でお邪魔していい?話があるんでしょう?」

『ああ、・・・。』

「ねえ、電話じゃすまない事なんだよね。」

『まあ、出来たら会って話したい。』

いい話か、良くない話か聞こうと思ったけど聞くまでもないみたいで。

「じゃあ、お昼食べてから行く。繭と優美さんはいてもいいの?」

『ああ、もちろん。』

「分かった、デザート買っていくよ。」

『ああ、ありがとう。悪いな。』

本当に、憂鬱だよ。

「うん、じゃあ土曜日の昼過ぎね。優美さんと繭によろしく。」

『分かった伝えとく。』


週末の予定は決まった。
せめて美味しいケーキを買って行こう。


土曜日、ゆっくり起きだして準備をする。
何度かため息をついて家を出た。
途中駅中のお店でお土産を買って訪ねた。

いつものように迎えてくれる優美さんと腕の中の繭。
つい探るような表情になってしまう。
特に変わらない。
リビングに座って爪を切っていた兄。
思ったより緊張感が無い。気のせいだったかな?

ケーキを優美さんに預ける。
繭も食べれるようにプリンも入れてある。

爪を切り終えた兄がのんびり片づけをするのを見ていた。
その後デザートを食べながらお互いの仕事の話とか繭の成長とかの話をする。
保育所にも問題なく行けてるらしい。
優美さんも仕事との両立は何とかなるみたい。
そんな明るい話が続く。


「ちょっと耐えられないんだけど、兄さん、言いにくい話なの?・・・優美さんごめんなさい。」

ちょっと悲しそうな顔をした優美さん。

何?

優美さんがささっと立ち、お茶を入れ直してくれるらしい。

「舞、今日涼太君は?」

「なんだか用事があってダメだって言われてたから。」

「詳しくは知らないんだ。」

「うん、まあね。」

何よ、他の子と浮気してるとか言うの?

「今日はお前の会社の親会社の創立記念日だけど。」

「へ?そうなの?知らない。だって今の会社でも創立祭はしないし。ボーナスみたいに商品券が配られるだけ。」

いえいえ、それが何よりです。
変なイベントはいりません。

「って何?何の話してるのよ。」

「だから、涼太君の話だよ、お前の彼氏の話だよ。」

「涼太の用は知らないわよ。」

「じゃあ、何を知ってる?彼の何を知ってるんだ?」

「・・・・何って・・・・もしかして反対なの?何か気に入らないの?繭のことだってすごく可愛がってくれてるのに。」

「だからだよ。何を知ってる?答えろよ。」

揶揄ってるわけではないのは、その表情からも分かる。

「都内で実家暮らし、最寄り駅はすごくいい所、もしかしたらなかなかいい所にお家があるのかも。年の離れたお兄さんがいて一人暮らしの独身。お父さんと一緒の仕事をしてるみたい、同じ会社かも。社長かも。お父さんに勧められて今の会社に入ったかも、お母さんはきちんとしてそう。いつもアイロンかかった服にきれいな靴で、朝ごはんも休みの日でもちゃんとした時間に食べてる。トランペットのいいのを大切にしてて、今でも練習はしてるみたい。趣味の一つ。音楽にはお金を惜しまないかも。優しくて、一人でいる時はたいてい部屋で音楽を聴きながら本を見てるみたい。」

それくらいかも。
あとは・・・・・。

兄がパソコンを開いて操作してこっちに向けた。

親会社のホームページ。
会長の挨拶が載っていた。

何?

「気が付かないのか?」

「何?」

「俺はいろんな会社にスポンサーになってもらいたくてあれこれ考えてる。
お前の会社の親会社もその中の一つだ。俺だけが選んだわけじゃないぞ。」

パソコンを一度引き寄せて違うページを表示させる。
今度は社長のページだった。
写真と挨拶がある。

見せられた。
だから何?
眉間にしわが寄る。

「いい加減にしてよ、何が言いたいの?」

「お前、涼太君の名前は何だよ。」

「石神涼太よ。だから涼太が何なの?」

「社長の名前を見ろ。」

見た。
一つ戻って会長のページになった。
名前を見た・・・・・・。

『舞先輩達の中に身内が一人いるって聞きましたけど。』

確かに聞かれた。噂があったみたい。
会社経営者の親族が同期に一人いるらしいと。
自分はそんな話は聞いたことがなかった。
もしかして友達がいないから知らないのかと思った。
でもゆかりも何も言わない。
筒井さんも・・・・言わないか・・・・。

考えたくなくて逃避してるのは分かる。
名前が半分一緒なだけ。
それ以外確かなことはない。
そんな私の気持ちをちゃんと言ってくれた優美さん。

コーヒーを目の前に置いてくれて、さりげなく背中に触れてくれる。

「保、どのくらい確実な話なの?全然関係なかったら・・・ねえ。」

私を見る優美さん。
でもきっとこの会話は2人の時にされたんだと思う。
今、私が信じないから、信じたくないだろうからと、わざと言ってくれたんだと思う。

そして兄は自信があるみたいで。

そう言えば、前にもさりげなく涼太にいろいろ聞いていた。
妹の彼氏だからと思ってた。
涼太にも謝った。
涼太は全然気にしてなかった。
今考えればちょっと変だった?質問がちょっと変わってたかも?
分からない。

「いつ、そう思ったの?」

「たまたま代表二人の名前を知ってたから、同じ名前だなあって思ってたんだよ。それでも珍しいって訳じゃないし、まさかと思って。」

さっきのページをスクロールされた。
年齢はあってるかも。
涼太に聞いたお兄さんの年齢が分かる誕生年。

またパソコンを操作して違うページに飛んだらしい。

ちょっと古い写真があった。10年以上前の写真みたい。
それでもよくわかる。
会長と今の社長の若い時、もう一人の男の子。
はっきり面影がある。涼太に間違いない。
お母さんを見ると涼太のお母さんだと分かる。
お母さん似だったらしい。

写真には名前があった。
確かに・・・・。
完全にそうだと分かった。
同姓同名、似たような顔があって同じ年、しかも子会社の社員。
・・・・じゃあ、決まりだろう。

なんで、本社じゃなくて、子会社に?
誰が知ってるの?
部長以上の人は知ってるの?

いずれは親会社に行くの?
それとも今の会社でトップに行くの?

今何を考えればいい?

教えてくれなかったことを怒る?
先がないだろうことをがっかりする?
だって、簡単にわかる。そんな一般人との付き合いは許されなさそう。
本人同士の話だけじゃすまないから。


「今日は本社の創立記念日だから、ホテルでイベントが開催されてる。そこに行ったんじゃないのか?さすがに呼ばれるぞ。彼女とデートしてる場合じゃないから。」


写真を見る。

あったこともない親会社の会長、社長。
涼太のお父さんとお兄さん。
写真の背景には確かに音楽好きだと分かる大きなスピーカーがあった。
その大きさからリビングの広さが分かる。

もしかして庭が広くてトランペット用の練習部屋があるとか?
最近も割とよく練習してると言ってた。
カラオケとか、河原とかスタジオじゃなくて・・・・自宅だったの?

「聞けないかな?やっぱり何も言われてないよね。」

優美さんが背中を撫でながら言う。

「知らない。何も知らない。あんまり家族の話はしない。うちの家族の事を仲がいいねって。お兄さんとも仲がいいよねって羨ましそうに言ってた。年が離れてたからそんな関係じゃないって。親の敷いたレールに乗ってるほうが楽だから、転職を決断した兄さんのこともすごい勇気があるって褒めてた。」

「涼太君は・・・・本当に舞の事が好きだとは思うぞ。ただ、ここで二人でいる姿を見て、やっぱり少しは覚悟した方がいいかなって。嬉しそうに繭を可愛がってくれてるのも分かってる。舞に子供が生まれて父親が涼太君だったら、そんな風だろうって思えるけど。ただ、二人だけじゃどうにもできない事ってあるから。そんな話したか?」

首を振る。
そう、子供って話も、おじさんおばさんって話も、どこか切り離したような感じでもあった。
単に意識して困ってると思ってた。でも違うかもしれない。
それは無理だよって、諦めた思いがあったのかもしれない。

ボロッと涙が出てきた。

下を向いて目を閉じるけど。

兄がパソコンを片付ける。
優美さんがそばに来て背中をさすってくれた。


「諦めないでね。お互い好きなら。だって凄く自然だし、似合ってるし。保が決めることでも私が決めることでもない。2人が答えを出すことだから。ね、まだいいの。好きでいていいのよ。」

「優美・・・・・。」

兄がきっと悲しそうな目で優美さんを見てると思う。
あんまり期待させるなと。

「ね。」

それでも負けない優美さん。
兄の背中を押して転職を応援した強さで、私のことも応援してくれるのが分かる。

その肩にもたれて泣いた。

まだ諦めきれない。
ちゃんと話をされるまでは。


ただ、誰にも言ってなかったことがある。
ちょっと前からなんとなく不思議なことがあった。

家に帰る時に視線を感じたり、写真を取られたりした気がするような。
そして涼太と2人でいた時にも、なんとなく同じ人と同じ場所にいたような。

ちょっとだけ怖かった。
ストーカーとか・・・そんな思いがあった。
郵便物は外からはのぞけない。
マンションはオートロックだし、駅からも人通りのある道をちょっとだけ入ったところで、一人で遅くに帰ってもそんなに不安はない。
でも急ぎ足で帰った。
気がついてない振りをしながらも。

電話や手紙などの被害はない。
部屋の物もきちんと置き場を決めて、特に下着も。
後は戸締りは窓を開けることはしないで、洗濯物も留守の時には干さない。

どうしようと思ってもなかなか誰にも相談できなかった。

もしかして身上調査されてた?

だって涼太が毎週のように外泊してるのはすぐ気が付くと思う。
朝ごはんの席にいないだけで。
そして行先は、一回でも後をつけたらすぐに分かる。

会社では知られてないのが幸いしてるのかもしれない。

でも上の上の上司からどんな社員か問い合わせはあったかも。
人事部に行けば実家のことも分かる。

言うべき?

兄が泣きだした繭を連れて寝室に行った。

「優美さん、・・・・ちょっと前から誰かに後をつけられてるって思ったことがあったの。涼太が一緒の時と一人の時。いたずら電話とか手紙は一切ないけど。写真を撮られた気がしてた。2週間くらいの間で終わった気がする。今はないと思う。もしかしたら・・・・調べられたかも。息子が付き合ってる彼女を調べたかも。毎週涼太は私の部屋に泊まりに来るから。涼太は気が付いてないし、知らないと思う。」


「怖かったでしょう?そんな事。ストーカーとかあるから、もし調査員だとしたら、それはそれで嫌だけど終わってると思いたい。ストーカーよりは、まだ・・・・。」

うなずく。


「全然気が付かなくてごめんね。相談して、絶対、何でも、どんな小さなことでも。頼りにしてるのよ、舞ちゃんの事。だからもっと私たちを頼ってもいいから。」

また、うなずいた。

「涼太は自分は期待されてないって言ってた。誰にも期待されてないって。だから私が好きになって何度誘っても全然で。私にも最初は期待しないでって、自分にそんな価値はないって意味で。今は少し変わってきたと思ってた。出会った頃より少し大人になって自分のこともちゃんと考えてるって思ってた。それでもいつも何をするか、どこに行くかは私が決めてる。私のやりたいこと、行きたいとこ、考えた通りでいいって。」

「それは全然気にしないでいいと思う。優しそうだし、一緒にいるだけで楽しそうだし、舞ちゃんが楽しければって。だからここにも来てくれたんだと思うよ。それは大丈夫。全然、そんな男の人多いんじゃない?」

そうなのかどうかは・・・・・あんまりわからない。

「はっきり聞くのがいいのか、どうなのか。私にも保にもわからない。そこは、ごめんね。」

「私も分からない・・・・でも隠せないと思う。」

涼太は気が付く。すぐに元気がないねって。

「きっとどうしたのって聞いてくると思う。そして隠すのが辛くて、自分から言ってしまうと思う。だから明日が最後になるかも。どうしよう。反対されたんだって困る涼太と、それでも一緒にいたいって思う私と、もっと困る涼太と・・・・・。喧嘩になって、疲れて、最後には二人とも諦めるかも、仕事もなくなるかも。他の子会社に回されたり。」

経理なんてどこの会社にでもある部署だから。
何て便利な社員。
出世と引き換えに私は別の会社に行くのかも。

涼太が結婚したって話は届かないかも、知らない内に幸せになってるかも。
そっくりな子供を膝にのせてるかも。
そして私は自分の子供を見て時々思い出すかも。



思いっきり泣いて、兄にははっきりしない調査員の事は内緒にしてとこっそりお願いして。
部屋に帰った。
携帯は電源を落とした。
明日まで、入れたくない。
明日の朝起きたら入れるから、今日は本当にひとりで考えたい。
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