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3 日頃のお礼を言うつもりでしたが・・・伝わりましたか?
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私が次の主役に向けて鼻息荒くしていた時にはすっかり話題は移り。
「西村、最近どう?」
「僕はまあまあです。」
「えっ、まあまあなの?いつの間に?」
驚いて聞いてしまった。
そんな・・・・仲良し同期と思ってたのにそんな情報少しも相談してくれないじゃない。
恨めしい目で見てしまう。
「まあまあって、別に普通に暮らしてるってことだよ。なんでそんな目で見るの?」
そう言われた。
「本当に抜け駆けしてない?勝手に1人で恋人作ってない?」
「ないない。だから苦手だって言ったじゃない。」
「随分慣れたって言ったじゃない。」
「それは言ったけど、女性に慣れても、その先はまた別だよ。」
「苦手と言いながら愛内ちゃんとは普通じゃん。まあ、あえて何がどうとは言わないけど、そんなタイプもいるじゃん。そんなレアモデルでもないし。」
「先輩、すごく失礼なことを言われてる気がします。私が何だと言うんですか?そんなに巷にあふれる個性なしの凡人ですか?」
「まさか~、そこはほら、ね。」
先輩が穣君に同意を求める。
うっすらと苦笑いしながら同意しそうになってる気がするけど・・・・。
「どうせそんなにフェロモン全開はないでしょうが、特別に目を引く可愛いポイントも見つけてもらえないでしょうが。どうせ・・・・・。」
悲しくなる。
そんなにモテないわけじゃない・・・なかった。
それなりに好きな人が出来て、時々好きになってもらって、ハッピーな時期もあって。
もちろんそれなりに男の人の欲望を刺激したりして、可愛いと言われたこともあって。
なのに・・・・・。
ただ今いないだけなのに。
お酒を飲んだ。グイッと飲んだ。
気がついたら先輩女子は固まりになって楽しそうに笑ってる。
私は自分の席から動いてなかったから周りは穣君と二人の男性先輩との四角にいた。
移動しよう。
グンとつまらないじゃない。
お酒を注文して、女性チームに加わろうとしたのに、席がない。
立木課長が一人でポツンと飲んでいる。
誰も相手にしてくれないの?
私は今日も名前を叫ばれることがなく無事に仕事を終えた。
やっぱり課長は物足りなかった?
元気がないけど。
お酒を受け取って、課長の隣の席に行った。
「お疲れ様です。」
ぼんやりから覚めて、普通に表情が出た課長。
「ああ、お疲れ。」
そう言っても何も言葉が続かなかった。
「課長、本当にお疲れですよ。老け込んでますよ、大丈夫ですか?」
「愛内、随分失礼なことを言ってくれるじゃないか。」
「だって、背中がおじいさんでした。何で一人で飲んでるんですか?魂が抜けてましたよ。」
「お前には分からないだろうが、大人はいろいろあるんだ。」
「いろいろですか?ちなみに私も大人ですのでいろいろありますよ。」
「ほう、聞いてやろうじゃないか。愛内のいろいろ。」
「課長は奥さんにどういうプロポーズをしたんですか?」
さっきの先輩の話を前振りで聞いたら思いっきり吹き出された、お酒を。
慌てて口を押さえる課長。正面の席じゃなくて良かった。私に被害はなかった。
「もう、何してるんですか、大人なのに。」
その辺のお手拭きを渡す。
ネクタイや自分のスペースを拭いてる。
減っているグラスにビールを注ぐ。
「お前が変なことを聞くからだろう。」
「だって気になるじゃないですか。筧先輩のアレを聞いたら、仲良しで有名な立木課長のエピソードはどうなんだろうって。」
「極秘情報だ。教えない。」
そう言ってグラスを手にしてビールを飲む。
照れてもいない感じだ。結婚は随分前だと聞いたことがあるような気がする。
相手についてはよくは聞いたことがない。
仲がいいらしいとしか聞こえてこない。
「じゃあどんな出会いだったんですか?私の恋活の参考になる様に教えてくださいよ。」
じっと見られた。
何だろう?
まさかお前には参考にもならないってそんな感じ?
「参考にします!」
言い切った。視線をそらされてまたビールのグラスを傾けた課長。
無視?
「課長・・・・。せめて何かアドバイスください。大人の男としてのアドバイスです。いつもはいろいろ教えてくれるじゃないですか。」
「そんなに偉そうなことは言えない。」
「偉そうに言わなくていいです。控えめでもいいです。恐る恐るでもいいです。モジモジでもいいです。」
「言い方の問題じゃないだろう。何だよモジモジって。そんなアドバイス聞くか?」
「だって偉そうには言えないって言うから。」
さっきまでのシラッとした表情はなくなった。
私に呆れると元気が出るパターン?
やっぱり私はそんな役割なの?
「立木課長、最近私は成長しましたか?あんまり怒られなくなりました。」
「ああ、まあな。名前を呼びつける回数も随分減ったな。今回中八日くらいだぞ、どうした?調子が悪いのか?」
「何でですか?すこぶる調子がいいんです。それとも課長寂しいですか?何だか物足りないなあとか思ってます?もう、じゃんじゃん呼びつけてください。野暮用でもランチのお誘いでもなんでも、寂しいときはおそばに参りますよ~。」
ああ、酔っぱらってるなあとは思ってた。
言うつもりなんて全然なかった冗談なのに、つい言ってしまった。
案の定課長の眉間に縦ジワが寄った。
「冗談です。課長の『愛内~』がないと先輩が寂しいって言うから。私も最近何だか物足りないと思ってたんです。やっと分かりました。八日もご無沙汰だったなんて。来週はよろしくお願いします。待ってますね。」
ああ、冗談のダメ押し。
そして縦ジワが緩んで呆れた顔をされた。
「お前は平和だなあ。何で怒られるのを待つんだよ。」
「だって指導じゃないですか。自分じゃなかなか完璧には仕上げられないので、アドバイスをいただいてます。課長の赤線を見るとやるぞ~って気になるんです。」
「最初からそのやる気を出してくれたら、俺の仕事もずいぶん楽になるんだけど。」
「もちろん出してます。今度こそ完璧にって。だからこのところ大丈夫じゃないですか。褒めてください!」
手が伸びてきて頭を撫でてもらえると思った。
その手が頭にくるまで大人しくまっすぐして待ったのに。
思ったより低い位置に手が来て、おでこを叩かれた。
ぺちって音がした。さすがに目も閉じた。
あれ?
「課長、そこは頑張ってるなあって頭を撫でてくれるところですよね。なんでデコぺシなんですか?」
「ぺしっと音がするくらい叩いてください!と頼まれてるみたいにおでこ全開じゃないか。いい音がしたなあ。」
「別に叩いてもら為に出してたわけじゃないです。少しでも大人っぽくしたくて美容院の担当さんに相談したんです。」
「相談してそうなったのか?」
「はい。これでも形はいいって褒めてもらったこともあるんです。」
「誰にだ?担当さんにか?」
「まあ、そうです。」・・・あと昔付き合った人にも。
「・・・・まあまあな。」
せっかく自慢のポイントだと思ったのに全く同意されなかった。
「もっとよく見てください。絶対きれいです。」
ダメ押しで言ってみた。
「さっきのは適当な『まあまあな。』でしたよね?」
無言でおでこを見つめられた。
恥ずかしい。このヘアスタイルも長いからいつも見せてるのに。
さすがにそこを褒めると言うのもないかな。
「もういいです。」
恥ずかしくて自分で取り下げした。
「それで課長はどこでプロポーズしたんですか?」
目つきがちょっときつくなった。
踏み込み過ぎだろうか?
あんまりプライベートを話すのは聞いたことがない。
「すみません。別にいいです。どうせ参考になりませんしね。」
そうなのだ。まずプロポーズより先に告白の設定を聞いたほうがいいのだ。
でもそれも聞きづらくなった。もう無理だろう。
「お前もシンデレラ城の前で劇場型のプロポーズをしてもらいタイプだったとはな。」
「まさかです。嫌です、そんなの恥ずかしいです。でも先輩が考えに考えて計画して挑んだんで褒めなきゃダメじゃないですか。もしかしたらそんな感じも涙が出るほど感動するのかもしれませんが、私はまだ想像できません。だから課長にも聞こうと思ったのに。」
そう言ってみても全然教えてくれる気配はない。
「仲がいいって聞いたから聞いてみたのに・・・・・。」
「・・・・そんな事はない。」
否定された。
なに?プロポーズなし?なんとなくゴール?
それとも特別な感動エピソードなしだった?
まさか部屋のソファでサラリと普通の時だったとか?
それはそれで、感動・・・・・はないかもしれないけど・・・・。
「そんなにプロポーズしたいのか?させたいのか?」
「そんな無理やりみたいじゃないですか。私は待つ方です。じりじりしても待つ方です。してもらいたい派です。」
「彼氏はいるのか?」
ぽつりと聞かれた。
ああ、やっぱりプロポーズより出会い編と告白編が先だった。
参考にする情報が先走り過ぎた。
あ、でも恋活の参考とか言った気がする。
「いません。そんなの誰もが知ってます。」
「俺は知らない。」
「既婚者はいいんです。まさか大人のお友達との飲み会をセッティングしてくれるんですか?独身の素敵な大人感のある男性ですよね。課長のお友達だとカッコよくて頭も良くて、なんだか夢に見そうです。」
一回りくらい年上でも人によっては気にならないかも。
まだまだ課長も素敵だし、臭いもないし、変なところからの毛もないし、お腹の辺りも問題ないし、頭も大丈夫。
うん、大丈夫!
思わず笑顔になる。
最大の武器は若さ!もう開き直ってそう思うしかない。
課長の年齢だと存分に若さをキラキラ眩しく見てくれるかも。
「課長~、素敵ですね。」
ああ、もう夢より前に妄想で見てしまう。
眠らなくても見れるし。酔ってても見れるし。
そう思ってたら、おでこの痛みで一気に現実に戻った。
また叩かれたのだ。
「もう、何でですか。今すごい楽しい未来を見てたのに。もう少し妄想劇場を堪能したかったのに。」
「一人の時にしてくれ。大体どんな相手を妄想してたんだよ。」
「それはもちろん課長・・・・・の友達みたいな・・・・・。」
恥ずかしい。思いっきり恥ずかしい。誰だったと言われても顔はなかったから。
普通にスーツを着たすらりと背の高い年上の男性って事で。
だってそんな年上男子は経験がないんだから、しょうがない。
「やっぱり無理なんですね。せっかく若さだけは眩しく魅力的に見てくれると思ったのに。」
一回り以上年上の課長からみたら、色気の欠片もない小娘なのかもしれないと。
「たいだい先輩達も穣君も全然そんな見方をしてくれないんです。そんなに平均以下ですか?これでも人並みには努力してるつもりです。」
そうなのだ、ちょっと上や同じ年にも全くフェロモンを感じてもらえてないんだから、もしかしたら本当に漏れ出してないのかもしれない、そんな残念な女なのかも。
ああ・・・・、考えたくない。落ち込むじゃない。
見たくないけど、認めたくないけど、これが私の現実なの?
「そんな事はないから。なんでそんなに落ち込むんだよ。誰にでもいい所はあるんだし、合う相手もいるから。」
「そんな一般論でくくらないでください。もっと私を見て欲しいです、ちゃんと見て下さい。」
私の良さも引き出してください。そっちもご指導ください。
そう思って見た。
「見てるよ。」
そう言ったはずなのに、顔は向きを変えて、視線を外された。
「見てないじゃないですか。」
これ以上は酔っ払いの絡みかもしれないと反省した。
だいたい女性の先輩に聞いたほうがいい話だった。
ただ、課長が寂しそうで、一人だったし、いつものお礼も兼ねて隣に来ただけだったから。
「ちょっと酔っぱらいました。もう、お酒は止めます。いろいろありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。」
向き直ってもくれない、話しもしてくれない課長に、非礼の謝罪をして。
お礼もして立ち上がり、元の席に戻った。
「西村、最近どう?」
「僕はまあまあです。」
「えっ、まあまあなの?いつの間に?」
驚いて聞いてしまった。
そんな・・・・仲良し同期と思ってたのにそんな情報少しも相談してくれないじゃない。
恨めしい目で見てしまう。
「まあまあって、別に普通に暮らしてるってことだよ。なんでそんな目で見るの?」
そう言われた。
「本当に抜け駆けしてない?勝手に1人で恋人作ってない?」
「ないない。だから苦手だって言ったじゃない。」
「随分慣れたって言ったじゃない。」
「それは言ったけど、女性に慣れても、その先はまた別だよ。」
「苦手と言いながら愛内ちゃんとは普通じゃん。まあ、あえて何がどうとは言わないけど、そんなタイプもいるじゃん。そんなレアモデルでもないし。」
「先輩、すごく失礼なことを言われてる気がします。私が何だと言うんですか?そんなに巷にあふれる個性なしの凡人ですか?」
「まさか~、そこはほら、ね。」
先輩が穣君に同意を求める。
うっすらと苦笑いしながら同意しそうになってる気がするけど・・・・。
「どうせそんなにフェロモン全開はないでしょうが、特別に目を引く可愛いポイントも見つけてもらえないでしょうが。どうせ・・・・・。」
悲しくなる。
そんなにモテないわけじゃない・・・なかった。
それなりに好きな人が出来て、時々好きになってもらって、ハッピーな時期もあって。
もちろんそれなりに男の人の欲望を刺激したりして、可愛いと言われたこともあって。
なのに・・・・・。
ただ今いないだけなのに。
お酒を飲んだ。グイッと飲んだ。
気がついたら先輩女子は固まりになって楽しそうに笑ってる。
私は自分の席から動いてなかったから周りは穣君と二人の男性先輩との四角にいた。
移動しよう。
グンとつまらないじゃない。
お酒を注文して、女性チームに加わろうとしたのに、席がない。
立木課長が一人でポツンと飲んでいる。
誰も相手にしてくれないの?
私は今日も名前を叫ばれることがなく無事に仕事を終えた。
やっぱり課長は物足りなかった?
元気がないけど。
お酒を受け取って、課長の隣の席に行った。
「お疲れ様です。」
ぼんやりから覚めて、普通に表情が出た課長。
「ああ、お疲れ。」
そう言っても何も言葉が続かなかった。
「課長、本当にお疲れですよ。老け込んでますよ、大丈夫ですか?」
「愛内、随分失礼なことを言ってくれるじゃないか。」
「だって、背中がおじいさんでした。何で一人で飲んでるんですか?魂が抜けてましたよ。」
「お前には分からないだろうが、大人はいろいろあるんだ。」
「いろいろですか?ちなみに私も大人ですのでいろいろありますよ。」
「ほう、聞いてやろうじゃないか。愛内のいろいろ。」
「課長は奥さんにどういうプロポーズをしたんですか?」
さっきの先輩の話を前振りで聞いたら思いっきり吹き出された、お酒を。
慌てて口を押さえる課長。正面の席じゃなくて良かった。私に被害はなかった。
「もう、何してるんですか、大人なのに。」
その辺のお手拭きを渡す。
ネクタイや自分のスペースを拭いてる。
減っているグラスにビールを注ぐ。
「お前が変なことを聞くからだろう。」
「だって気になるじゃないですか。筧先輩のアレを聞いたら、仲良しで有名な立木課長のエピソードはどうなんだろうって。」
「極秘情報だ。教えない。」
そう言ってグラスを手にしてビールを飲む。
照れてもいない感じだ。結婚は随分前だと聞いたことがあるような気がする。
相手についてはよくは聞いたことがない。
仲がいいらしいとしか聞こえてこない。
「じゃあどんな出会いだったんですか?私の恋活の参考になる様に教えてくださいよ。」
じっと見られた。
何だろう?
まさかお前には参考にもならないってそんな感じ?
「参考にします!」
言い切った。視線をそらされてまたビールのグラスを傾けた課長。
無視?
「課長・・・・。せめて何かアドバイスください。大人の男としてのアドバイスです。いつもはいろいろ教えてくれるじゃないですか。」
「そんなに偉そうなことは言えない。」
「偉そうに言わなくていいです。控えめでもいいです。恐る恐るでもいいです。モジモジでもいいです。」
「言い方の問題じゃないだろう。何だよモジモジって。そんなアドバイス聞くか?」
「だって偉そうには言えないって言うから。」
さっきまでのシラッとした表情はなくなった。
私に呆れると元気が出るパターン?
やっぱり私はそんな役割なの?
「立木課長、最近私は成長しましたか?あんまり怒られなくなりました。」
「ああ、まあな。名前を呼びつける回数も随分減ったな。今回中八日くらいだぞ、どうした?調子が悪いのか?」
「何でですか?すこぶる調子がいいんです。それとも課長寂しいですか?何だか物足りないなあとか思ってます?もう、じゃんじゃん呼びつけてください。野暮用でもランチのお誘いでもなんでも、寂しいときはおそばに参りますよ~。」
ああ、酔っぱらってるなあとは思ってた。
言うつもりなんて全然なかった冗談なのに、つい言ってしまった。
案の定課長の眉間に縦ジワが寄った。
「冗談です。課長の『愛内~』がないと先輩が寂しいって言うから。私も最近何だか物足りないと思ってたんです。やっと分かりました。八日もご無沙汰だったなんて。来週はよろしくお願いします。待ってますね。」
ああ、冗談のダメ押し。
そして縦ジワが緩んで呆れた顔をされた。
「お前は平和だなあ。何で怒られるのを待つんだよ。」
「だって指導じゃないですか。自分じゃなかなか完璧には仕上げられないので、アドバイスをいただいてます。課長の赤線を見るとやるぞ~って気になるんです。」
「最初からそのやる気を出してくれたら、俺の仕事もずいぶん楽になるんだけど。」
「もちろん出してます。今度こそ完璧にって。だからこのところ大丈夫じゃないですか。褒めてください!」
手が伸びてきて頭を撫でてもらえると思った。
その手が頭にくるまで大人しくまっすぐして待ったのに。
思ったより低い位置に手が来て、おでこを叩かれた。
ぺちって音がした。さすがに目も閉じた。
あれ?
「課長、そこは頑張ってるなあって頭を撫でてくれるところですよね。なんでデコぺシなんですか?」
「ぺしっと音がするくらい叩いてください!と頼まれてるみたいにおでこ全開じゃないか。いい音がしたなあ。」
「別に叩いてもら為に出してたわけじゃないです。少しでも大人っぽくしたくて美容院の担当さんに相談したんです。」
「相談してそうなったのか?」
「はい。これでも形はいいって褒めてもらったこともあるんです。」
「誰にだ?担当さんにか?」
「まあ、そうです。」・・・あと昔付き合った人にも。
「・・・・まあまあな。」
せっかく自慢のポイントだと思ったのに全く同意されなかった。
「もっとよく見てください。絶対きれいです。」
ダメ押しで言ってみた。
「さっきのは適当な『まあまあな。』でしたよね?」
無言でおでこを見つめられた。
恥ずかしい。このヘアスタイルも長いからいつも見せてるのに。
さすがにそこを褒めると言うのもないかな。
「もういいです。」
恥ずかしくて自分で取り下げした。
「それで課長はどこでプロポーズしたんですか?」
目つきがちょっときつくなった。
踏み込み過ぎだろうか?
あんまりプライベートを話すのは聞いたことがない。
「すみません。別にいいです。どうせ参考になりませんしね。」
そうなのだ。まずプロポーズより先に告白の設定を聞いたほうがいいのだ。
でもそれも聞きづらくなった。もう無理だろう。
「お前もシンデレラ城の前で劇場型のプロポーズをしてもらいタイプだったとはな。」
「まさかです。嫌です、そんなの恥ずかしいです。でも先輩が考えに考えて計画して挑んだんで褒めなきゃダメじゃないですか。もしかしたらそんな感じも涙が出るほど感動するのかもしれませんが、私はまだ想像できません。だから課長にも聞こうと思ったのに。」
そう言ってみても全然教えてくれる気配はない。
「仲がいいって聞いたから聞いてみたのに・・・・・。」
「・・・・そんな事はない。」
否定された。
なに?プロポーズなし?なんとなくゴール?
それとも特別な感動エピソードなしだった?
まさか部屋のソファでサラリと普通の時だったとか?
それはそれで、感動・・・・・はないかもしれないけど・・・・。
「そんなにプロポーズしたいのか?させたいのか?」
「そんな無理やりみたいじゃないですか。私は待つ方です。じりじりしても待つ方です。してもらいたい派です。」
「彼氏はいるのか?」
ぽつりと聞かれた。
ああ、やっぱりプロポーズより出会い編と告白編が先だった。
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あ、でも恋活の参考とか言った気がする。
「いません。そんなの誰もが知ってます。」
「俺は知らない。」
「既婚者はいいんです。まさか大人のお友達との飲み会をセッティングしてくれるんですか?独身の素敵な大人感のある男性ですよね。課長のお友達だとカッコよくて頭も良くて、なんだか夢に見そうです。」
一回りくらい年上でも人によっては気にならないかも。
まだまだ課長も素敵だし、臭いもないし、変なところからの毛もないし、お腹の辺りも問題ないし、頭も大丈夫。
うん、大丈夫!
思わず笑顔になる。
最大の武器は若さ!もう開き直ってそう思うしかない。
課長の年齢だと存分に若さをキラキラ眩しく見てくれるかも。
「課長~、素敵ですね。」
ああ、もう夢より前に妄想で見てしまう。
眠らなくても見れるし。酔ってても見れるし。
そう思ってたら、おでこの痛みで一気に現実に戻った。
また叩かれたのだ。
「もう、何でですか。今すごい楽しい未来を見てたのに。もう少し妄想劇場を堪能したかったのに。」
「一人の時にしてくれ。大体どんな相手を妄想してたんだよ。」
「それはもちろん課長・・・・・の友達みたいな・・・・・。」
恥ずかしい。思いっきり恥ずかしい。誰だったと言われても顔はなかったから。
普通にスーツを着たすらりと背の高い年上の男性って事で。
だってそんな年上男子は経験がないんだから、しょうがない。
「やっぱり無理なんですね。せっかく若さだけは眩しく魅力的に見てくれると思ったのに。」
一回り以上年上の課長からみたら、色気の欠片もない小娘なのかもしれないと。
「たいだい先輩達も穣君も全然そんな見方をしてくれないんです。そんなに平均以下ですか?これでも人並みには努力してるつもりです。」
そうなのだ、ちょっと上や同じ年にも全くフェロモンを感じてもらえてないんだから、もしかしたら本当に漏れ出してないのかもしれない、そんな残念な女なのかも。
ああ・・・・、考えたくない。落ち込むじゃない。
見たくないけど、認めたくないけど、これが私の現実なの?
「そんな事はないから。なんでそんなに落ち込むんだよ。誰にでもいい所はあるんだし、合う相手もいるから。」
「そんな一般論でくくらないでください。もっと私を見て欲しいです、ちゃんと見て下さい。」
私の良さも引き出してください。そっちもご指導ください。
そう思って見た。
「見てるよ。」
そう言ったはずなのに、顔は向きを変えて、視線を外された。
「見てないじゃないですか。」
これ以上は酔っ払いの絡みかもしれないと反省した。
だいたい女性の先輩に聞いたほうがいい話だった。
ただ、課長が寂しそうで、一人だったし、いつものお礼も兼ねて隣に来ただけだったから。
「ちょっと酔っぱらいました。もう、お酒は止めます。いろいろありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。」
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