なぜか訳ありの恋にハマりました。

羽月☆

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4 まだまだ頑張るつもりです、仕事もそれ以外も。

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「ただ今。」

「お帰り。楽しそうだったね。」

穣君に言われたけど。

「別に。」

愛想もなくそう答えた。

周りの先輩2人も酔っぱらってけだるそうだった。

「お水でも頼もうかな。」

「俺も欲しい。」

先輩にそう言われて店員さんにお願いした。

お水が来る間、ちらりと課長の方を見たら相変わらず『大人時間』を過ごしてるみたいだった。
やっぱりつまらなそうじゃない。
そう思ったけど、また行こうとは思わなかった。


お水を飲んでトイレにも行って。

デザートが来てお終いになった。
あんまり食事をした記憶がない。食べた?

「ねえ、穣君、彼女が出来たら教えてね。会社の人なら特に。あんまりランチ誘わないようにするし。」

「なんで?」

「だって一応悪いから。彼女からしたらあんまり馴れ馴れしくされたら嫌かなって思ったから。社外の人だったら穣君が言わない限り大丈夫だからいいけど。」

「別に、愛内さんは・・・いいよ。」

「なんだかそんなセリフはうれしくない。思いっきり傷つく。まったく論外だって言われてるみたいで、別に期待してなくても、傷つく。」

「ごめん、そんな・・・・つもりはないよ。」



「もういい。ちょっと・・・・私も言い方も変だったし、忘れて。」

「うん、ごめん。」


まっすぐ前を見てる。
だらんとした筧先輩の頭を。眠そうに目が閉じそうになってる顔を。
彼女はこんな先輩も可愛いと思うんだろうか?
しょうがないなあって玄関で迎えてお水を飲ませてネクタイを解いてシャツを脱がせて・・・・。


ぼんやりと想像してるのが何なのかわからなくなってきた。

なんだか今日一日ですっかり迷走してしまった。
二ヶ月後、私は主役になれるの?

無理無理。

それに誰も期待してないから。

言い出した先輩だって期待してないから。
自分だって期待してないくらいなんだから。


すっかり忘年会、年末~、なんて雰囲気はない。
まだまだ今年は残ってる、お祭りまでまだ時間はあるはず。



翌日、のんびり起きて携帯片手に片っ端から連絡した。

一応ご無沙汰の挨拶と近況報告をし合い、相手のいない人と共感し合い、飲みに行こうと誘い合うことにした。
この際周りが知らない女性だけで結構、むしろその方がいい。
気を遣うことなく闘士をむき出しにもできる。
・・・どんなに鼻息荒いんだか。

それでも半分くらいはハッピーを満喫してる。
エールを受け、それでも何かあったら誘ってもらえるようにお願いした。

友達関係を一回りして、やり切った気がした。

これで一人寂しく過ごす羽目になったら何だったのと思う。


クローゼットを開けて衣替えをしつつ、自分の姿を鏡に映す。
本当に少しも漏れ出てないのだろうか?
フェロモンも無し、若さもあまり魅力と映らず、じゃあ私の武器は何だろう?

鏡の中で洋服を当てた手が下がる、力なく。

衣替えが終わり、なんとなくスッキリした。
ゴミ袋には出番のなくなった小物や服が詰め込まれた。
去年は大切に思っていたそれらも、一年もたたないうちに価値観が変わってゴミになる。

そんな事は世の中いろいろあるから。
私の時代が来てないだけ、いつか来る、そう近いうちに。
できればそれが来月、年内だと嬉しい。



「愛内~。」

「はい。」
顔をあげた。

名前を呼ばれるのもありがたいご指導じゃない時は分かる。
多分みんなも分かってる。

「ちょっと頼めるか?」

立木課長に呼ばれて席に向かう。

「今、空いてるはずだよな。」

「はい。大丈夫です。」

「悪いがこれを頼めるか?」

書類を渡された。

課内のフォルダに入ってるから、それを綺麗に整理して体裁を整えて、15部コピーとクリッピングまで。

多分大丈夫だろう、そう思った。

「いつまでですか?」

「今日中。時間が足りなかったら、周りに手伝ってもらってくれ。」

「はい、分かりました。とりあえずやってみます。」

あああ、ランチの予定は完全にキャンセル。
先週末の今日、会社の同期にも広く飲み会の誘いをお願いしようと思ってたのに。
まあ、明日でも問題ない。

席について、書類を見ながら教えられたフォルダの書類を見る。

まあ、今日中なら間に合うだろう。


そう思ったのに、ランチも席で取り、食べてない時間を使ってまで頑張ったのに。

まさかのコピー機が不調になった。
紙詰まりをすること三回。トナーの補充が勝手に始まり時間がかかる。
その後出てきたものはインクが濃すぎてやり直しした。
やっときれいにできたと思ったのに、自分の手についていたらしい結構な量のインクで指紋プリントを残してしまい残念、ミスコピーの箱に入れた。

会議室のテーブルに広げて一部づつ重ねてクリッピング。

「あれ?一枚足りない・・・・。」

終わったものを見返して、二枚挟んでいたものを発見。
ほぐしてからクリッピングし直し、終了。

「あ~、終わった。ご苦労様。」

自分に言ってあげた。
時計を見たら残念、30分定時すぎ。

急いで集めて揃えて席に戻る。

課長はまだいた。

「課長、終わりました。」

「ああ、悪かったな。」

「いえ、実際手は空いてましたので。」

記録は伸び続けてる。中九日になった今日。
だって提出する案件がなかったから。
むしろ役に立ったじゃん、私。褒めて欲しい!

「助かった。何もなきゃもう帰っていいぞ。」

一言だけど褒め言葉はあった。
もっと感情をこめて欲しい所だけど、それで満足はした。

「課長はまだかかるんですか?」

「ああ、あと小一時間くらいかな。」

「何か手伝いますか?」

出来ることがあるとすればだけど。

「いや、大丈夫だ。」

半笑いのような顔で言われた。
お前に頼んだら余計仕事が増える、そう思ってますか?

「ありがとう。」

心遣いへのお礼の言葉を言われたから、何も言わなかった。

「じゃあ、お先に失礼します。」

ロッカーから上着を取り出して終わりにした。


課内でも残ってる人は数人。
意外に皆時間内に仕事が終わる。
営業などの課を見るとまだ人が残ってるから、その課によるのだろう。
女性も多いし、結婚しても仕事を続ける人もいる。
子どもを産んでも続ける人もいる。
だから早い人は多い。


何もないけど私もたいてい早い。
穣君も早い。
穣君、仕事後は何してるんだろう?
今度聞いてみよう。
駅中の美味しそうな焼き菓子をふんふんと見ながら、気分がいいしちょっと外で食べようかなあなんて思って気がついた。
携帯がない。

ああ、机の引き出しに入れっぱなしだったかも。
いつもは会社を出る前に確認するのに、忘れてた。
だから机の引き出しの中に入れたままだった。


ないと困るよな・・・・・・。


あああ・・・・。
しょうがない取りに帰ろう。

会社に戻った。
さっきからそんなに時間が経ったとは思ってないけど、一層社内は静かに思える。

自分の席に戻る。

課内も課長だけになっていた。

パソコンは閉じられて仕事は終わったのだろうか?
さすがに一時間はたってないと思う。
椅子がくるりと窓の方へ向いて、ぼんやりしてる影があった。
自分の上だけの照明を残して後は消していた。
薄暗い自分の席だけど、携帯を取り出すだけだから問題ない。

「お疲れ様です。」

静かに挨拶をして部屋に入ったらビックリされたみたいに椅子が音を立てて回転した。

「お疲れ様です。忘れ物をしたので取りに来ました。」

「ああ、そうか。」

「課長、お疲れですか?大丈夫ですか?」

この間の飲み会のぼんやりぶりといい、心配にはなる。

「俺も愛内に心配されるようになるとはな~。」

「だってこの間もぼんやりしてましたし、今も。もうお仕事終わりましたか?」

「ああ、終わったんだ。もしかして、食事にでも誘ってくれるのか?」

「私がですか?逆はあっても私からはなかなか。」

「別に奢れとは言ってないが。逆なら有りか?」

「何がですか?」

「だから俺が誘うから食事に付き合ってくれるか?」


「はい、もちろん。・・・・でも早く帰って休まなくても大丈夫ですか?」

「俺をオヤジ扱いするなよ。体力はあるんだ。」

「そうですか。」

体力より気力を心配してますが。

「じゃあ、行くか?」

「はい。」

それでも表情も普通に戻ってるし、誘われたら奢られたい!!
今日の手伝いのお礼でいいでしょう?

元気よく返事をして、携帯を手にして。
でも見る余裕もなかった。
そうそう大切なお誘いはない。
まして月曜日、さすがに無いよね。

バッグに仕舞い込み、一緒に連れ立って会社の外に出た。
課長と二人きりというのは初めてだ。
ちょっと緊張してしまってるのを必死で隠した。

「お腹空いてるか?」

「すごく空いてますよ。お昼もちょっとしか食べてないで・・・・・す。」

「ああ、悪かったな。別によかったんだがとか言ってもしょうがないか。」

「本当にコピー機さえ素直に動いてくれてれば、もっと時間内には終わったんですが。本当に肝心な時に身勝手に振舞うんです。」

「そんなクレームは聞いたことがないが。相性の問題か?」

「コピー機とですか?そんな機械にも私は好かれてないんですか?もうさすがに自分が可哀想です。」



「ここでいいか?」


知らない間に歩いてきたらしいお店。
全然どこを歩いてたか分からない。

曲がる時にはさりげなく背中を押されたし。
斜め横をついていきながら、喋りながらだったから視線は課長の斜めから見える顔にあった。


「いいか?」

もう一度聞かれた。

「もちろんです。お腹空いてます。何でも美味しく入ります。」

「そうだろうな。」

そうつぶやかれて先にお店に入った課長。
せめて頑張ったなって言って欲しいのに。

褒めて欲しいとこの間言ったのに、酔っ払いのたわごとだと思われただろうか?
本心なのに、酔っていてこそ、本心なのに。





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