なぜか訳ありの恋にハマりました。

羽月☆

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15 珍しく『大人女子』に挑戦してみた日。

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次の日はいい天気だった。
朝は曇りだったけど、ゆっくり晴れてきた。
ただ寒い!!

いっそホワイトクリスマスでもいいくらいに。
ただそこまでは行かないのでただ寒い冬の日。
だったらくっついて暖まりたい日。


丁寧に顔を仕上げて、一枚ずつお気に入り、ここ一番の下着と服をつけていく。
寒いけどちょっと我慢。
暖かそうなコートを羽織って、出来上がり。

鏡の前で満足の笑み。


違う、もっと大人っぽく笑いたいのに、そこまでの成長はなかったかもしれない。


本当に気合という音が響きそうな今日の私。
すぐに気がついてほしいけど、それも恥ずかしい?

待ち合わせの場所に着くまでに何度もガラスに写る自分を横目で見る。
慣れないヒールが大人しい歩きになっている。
落ち着いた感じに見えるだろうか?


自慢のおでこも全開は止めた。
留めることなく、流すだけ。
半分くらいは完全に隠れてる。
美容室の担当者さんにまた相談した。

鬱陶しくないくらいにしてもらって、軽く耳にかける。
それだけで随分と大人に見えると。


そのプロの言葉を信じたい!!


待ち合わせよりは早い時間。
ゆっくりバーゲンの下見をしよう、そう思ったけど『しっとり』と待つ大人の女性でいたいと思った。
完全に今日は大人女性を演じてやりたいと思った。
ちょっと揶揄われても過剰に反応することもなく、サラリと受け流し、微笑むくらいの。

それって楽しい?
でもあれって思ってくれたら、ちょっと違う扱いをしてくれるかもしれない。
そう思った。


バーゲンの下見はこの次の機会に。
毎年お正月には俄然張り切って参加していた。
お店の前に並ぶのも苦痛じゃない。
目当てのお店にダッシュして目当ての商品をつかみ取り、その後ゆっくり他のお店を見ていた。

今年も頑張る予定だ。

新年初めての女性のための一大イベントだから。



待ち合わせの場所に立つ、バーゲンの日の自分とは違う、いつもとも違う大人女子のつもりで。
私の周りで待ち合わせの二人がどんどん手を振り合いいなくなる。

寒くないところで待ってと言われてたけど、テンションは上がって、ドキドキもしてるし、外にいても体温も上がり寒さには負けない気がする。

目の前を小さな犬が通り過ぎた。
まさに今日の為に買ってもらったトナカイの角をつけていた。
ちょこちょこと歩くトナカイの出来上がり。

少し行った先で飼い主がショーウィンドウを見て立ち止まった。
小さなトナカイが視線を感じてか、こっちを振り返った。

丸い目のパグ犬。
ガッチリした体だけど太った白髭のおじいさんを乗せてもトロトロとしか進まなそう。
鼻息だけが荒らそうなトナカイ。
目が合ったけど、飼い主に引っ張られてまた歩いて行った。

明らかにサンタのコスプレした人はいない。
時々通るピザやチキンの配達の人、コンビニの店員さんくらいかもしれない。
夜になると増殖するのだろうか?
それともそれぞれの部屋ではいろんなサンタガールがいるのかもしれない。
大学生の頃に友達の部屋でパーティーをした時に確かに着た。
写真を撮った後寒かった記憶はある。

もしこのコートの中でそんな恰好をしてたら、それはそれで驚いてもらえただろう。
さすがに外で食事なのにそんな恰好をする勇気はないけど。

ああ、明日なら部屋の中でちょっとしても良かった。
部屋のどこかにあったかもしれないのに、持ってきて置いとけばよかった、残念。

呆れながら笑う顔が見られたかもしれないのに。

ちょっと今日演じてる大人女子とは違う一面を!
それはいつもの自分に近いかもしれないけど。


そんな事を考えてたら、まったく予想してなかった方向から声をかけられた。
ビックリして振り向いた。


「お待たせ。里奈。」

「課長、・・・・こっちから来ると思ってたのに。」

「生憎だったな。犬のトナカイに乗りたそうにしてる無謀な女がいると思ったら、知り合いでビックリした。」

「・・・・・いつから見てたんですか?」

「その少し前。気がつかないかとずっと見てたのに犬に勝てなかった。もしくはトナカイに勝てなかった。」

「もう、早く来てたんなら、すぐに声をかけてください。」

「これでも急いできたんだけどな。・・・・じゃあ、行こうか。」



ああ・・・もうもっと褒めてくれないの?
少しも私の恰好を見てくれない。
メイクも髪もいつもと違うのに。
コートを脱いだら驚いてくれる?


先を行こうとする背中にこっそりと心の中で聞いた。


何かを感じたのか振り向いた課長が手を出してきたので、大人しく手を重ねた。
その手の爪だっていつもはつけない深くて濃い色を選んだ。
ワンピースの色と合わせたし。

今のところ全く反応なし。


「もうレストランに行くんですか?」

「いや、まだちょっと早いから。少しお腹を空かしてから行こう。」


会社とは違う駅、いつも買い物する駅ではないけど。
手を引かれて歩く。

建物の中に入った。

写真展があってそこに行きたいらしい。
ヨーロッパのクリスマスマーケットの写真だった。
まさに冬の写真。
白い景色と明るい暖かそうな明かりと、クリスマスの商品が並ぶ。


有名なカメラのメーカーだから、カメラの宣伝を兼ねての写真展らしい。

日本でもあちこちで見られるクリスマスマーケット。
寒さが全然違うかもしれない。
去年、デートで行った。

温かいワインを飲んで、クリスマスのクッキーを買って、ソーセージを食べて。
平日の夜だった。
もちろんクリスマス前のいつかだった。
当日はバイトで無理そうだと言われてたから、だから早めにクリスマス気分を楽しんだつもりだった・・・・・・ああ、思い出さなくてもいい記憶だった・・・・。


「お腹空いてるのか?」

大人しい私にそう言った課長。
違います!!いつもならそう言い返したいけど。

「大丈夫です。」

大人の余裕の微笑みのふり。
上手く出来たと思う。


ゆっくりパネルを見て終わった。

今度は違う通りを通る。
明らかに目的があるように。

少し薄暗くなってきた。

「やっぱりまだ早いな。あとで来た方が綺麗かな。」

上を見る。街路樹に巻かれたライト。
きっときれいにライトアップされた通りになるのだろう。

たくさんのワゴンカーが止まっていた。
あちこちにテーブルセットもあり、飲み物を飲んでる人たち。

「帰りに来よう。」

「はい。」

やはり大人しく答える私に違和感を覚えたのか顔を見られた。

気がついた?
期待を込めて見返した。

「元気だよな。」

ああ・・・・・・、もう。

「元気です。今日はちょっと大人バージョンです。」

結局気づいてもらえないばかりか体調不良を心配されたので自分でバラした。

「そうだな、まあ、いつもといろいろ雰囲気が違うな。」

そうは言ってくれたのに、その後の感想は続かなかった。
やっぱりガッカリ。


あんまり褒めてくれない。
明るい中で褒めてくれることはない。
世代の差ですか?
穣君なら絶対気がついて褒めてくれると思う。
褒めてもらいたい私の気持ちを察して褒めてくれると思う。


そう思ってみる課長もいつもの仕事用のコートじゃない。
ウールのロングコートはやっぱり大人っぽい。
その下は仕事と同じだろうか?
男性ならそれでもいいかもしれない。
ネクタイを少し濃い色にすればいいかもしれない。
首までボタンをかけられてて、マフラーもあって、コートの中がどうなってるのか分からない。

でも私は褒めると思う。
いつもと違う感じだったら素敵だと言いたい、褒めたい。
バッグももちろん違うし、靴も違う。

やっぱり特別な日だし。


ワゴンの横を過ぎながら何を売ってるのか見ていく。
寒い中で暖かそうにカップを両手で持つ人達。
コーヒー屋さんらしいけど、お勧めのホットチョコレートにお酒が入ってるらしい。

手をつないだまま止まったら、当然聞かれる。

「寒い?飲む?」

今ここでホットチョコレートを飲んだら全力でディナーが楽しめないかもしれない。
ああ・・・・捨てがたいけど・・・。

「帰りにも来るけど。」

周りを見て覚えて、諦めた。

「じゃあ、余裕があれば帰りにお願いします。」


「了解。大人女子は我慢強いな。」

「そうですね。」

ゆっくり通りを歩く。

すれ違う犬もサンタの服を着せられてる。
飼い主は普通だった。


「里奈、欲しいものがあったら紙に書く手間を省いて、直接言っていいぞ。家には煙突もないしな。」

プレゼントはないらしい。ガッカリした顔はしない。

「食事をご馳走してください。」

「それはいつもだし。」

「それでも今日は特別です。」

つないだ手に力をこめる。
後はやっぱり褒めて欲しい。そう念を込めて。


随分いろんな道を通り、レストランには時間ちょうどくらいについた。

あちこちを見ながらゆっくり歩いたらそんな時間になってたことにびっくりした。
いつもより確かに大人しかったかも。
キョロキョロと落ち着きはなかったかもしれないけど、ふざけたやり取りはなかった。
大きなツリーの前で一緒に写真を撮ったり、綺麗なショーウィンドウを眺めたり、時々お店の中に入ったり。

やっぱりお腹空いた。

席に案内された。
素敵なお店だった。
誰かと来たんだろうかとちょっと思ったけど、そんな思いは放り投げた。

コートを預かってもらい、椅子を引いてもらい。

ゆっくりと顔をあげたらじっと見られていた。

「メニューは限定コースだから頼んであるんだけど。」

「お任せでいいです。」

課長を見た。
やっぱりジャケットとネクタイだった。
仕事とあまり変わらない。
ネクタイも見た事ある。写真も撮ったし。

「課長、あのコートは仕事用のコートじゃないんですね。すごく似合ってます。かっこいいです。」

「そうか?」

褒められるとは思ってなかっただろうか?
普通にビックリした顔をされた。

「里奈も随分と落ち着いてるな。大人っぽい感じだし。」

あと一声欲しい!
でも続かず。

似合ってるんだろうか?逆に不安になった。

「去年はどうやって過ごすつもりだったんだ?」

「去年ですか?」

「西村と話をしてただろう?」

ああ・・・聞こえてましたか、この間の話。

「別に・・・・どこかのレストランに行くくらいです。もともとダメだって言われてたので友達と約束してましたし。」

「じゃあ、その前の年は?」


「友達と過ごしました。」

「じゃあその前は?」

「同じです。女の子の部屋で集まってました。」

「男子は?」

「時々グループにいました。肝心のそのあたりの日にはいませんでした。」

だから女子だけになる。
今年は結局どうなっただろう。
あの酔っぱらった日からは会ってないからどうなったかは分からない。


ぼんやりしてたら目の前に人が立ちお酒を置かれた。

クリスマスの特別なシャンパンらしい。

グラスの泡が立ち上るのを見る。


「里奈、乾杯。」

「ああ、すみません。すごく綺麗です。」

笑顔になる。ぼんやりはいけない。楽しい夜に乾杯。

「メリークリスマス。」

「メリークリスマス。いただきます。」

カチンと軽くグラスの音がした。

一気に飲めるくらい美味しい。
喉も乾いてたらしい。

周りのテーブルも埋まってくる。
同じくらいのペースで同じ料理が運ばれてくる。
どれも綺麗な盛り付けでやっぱり特別な夜だった。

料理を褒め、お店を褒め、課長の選択を褒め、課長を褒めた。

「今日は何だか違い過ぎて、ちょっと怖いんだけど。」

何でですか!そう怒りながら言いたいのも我慢。

「本当のことです。日頃の感謝も込めてます。」

「そうか?なら良しとしよう。」

料理と一緒にお酒も新しくなり、それがメインまで続いた。
ゆっくり美味しくいただく。
間違いなく最高のクリスマス。


目指していた以上のクリスマス、それは間違いない。

あっという間に食事はデザートになった。
白いお皿に運ばれたのはブッシュドノエルの小さいサイズ。
その周りに二種類のデザートがあった。

「可愛いです。」

「そうだな。」

崩すのがもったいないくらい。
そうは思っても大胆にフォークを入れて口に運んだ。

「さっきお腹いっぱいだなあなんて思ってたのに、普通に手と口が動きます。」

「そこは大人でも女子だからな。」


「大人女子に見えてますか?」

聞いてみた。褒めてはくれないけど、そう思ってくれてるならうれしい。

「見える。いつもと違った大人に見える。」

「似合いますか?」

「ああ、似合ってる。」

じゃあ、満足だ。満足しよう。

心より先に酔った顔が笑ったのも分かった。


紅茶を飲んで、終わり。

お会計をしてもらってお店を出た。
ゆっくりだったけど4種類飲んだ。
どれも美味しかった。


腕を組んで歩く。ほとんど隣の課長に連れられてる感じだった。

頭がふわっとしてて、心地いい感じだった。

どこを通っても光の塊や帯がある。
小さい光がたくさん煌めいてる。

犬の散歩の時間は終わったから、あとは大人の時間だった。
あちこちで立ち止まり写真を撮る人たち。
誰も周りの人を気にしない。
自分達だけが主役のように。


「大丈夫か?まだ歩くか?」

「はい。このまま。それに約束のワゴンに行きたいです。」

「分かった。」

「課長、きれいですね。」

斜め上を見上げながら、歩く。
この道の先にワゴンがいると思う。

人にぶつからないようにゆっくり歩く課長に連れられて歩く。

「課長、写真撮りたいです。」

「後でな。」




「あれだろう?」

そう言われて視線を戻す。
お店を見て思い出す。

「そうです。到着です。」

お腹空いてないけど、さすがに少し冷えてきた。
温かいものを手にしてもいい。

ワゴンの周りは少しだけ人がいる。
その列に加わるように並ぶ。

小さい頃のお祭りの屋台と変わらないワクワク感がある。
あれの大人バージョン。
子どもの頃は一人では出来なかったテイクアウトが今は自由に選んでできる感覚が好きだ。

そして甘いホットチョコレートに少し大人用にお酒のリキュールを入れて。

そんな事を考えてたら課長が注文してくれて、お金も払ってくれた。

渡されたものを持って少し離れる。

「すみません。うれしくて、ぼんやりとしてました。」

「それは器用だな。これで良かったんだろう?」

「はい。」

渡されたカップは思ったほど熱さはない。
程よく飲み頃。

カップの小さな口に顔を近づけると甘い香りがする。


「甘くておいしいです。課長も飲みますか?」

満足そうな顔をしてたと思う。
課長を見上げてカップを差し出した。

「本当に、美味しそうだな。じゃあ、ちょっとだけ。」

そう言われて手首を軽く持たれて、顔が近づいた。

本当に軽く触れた唇。


ビックリした。
そんなタイプじゃないと思ってるし。

手は離された。

「甘い。美味しいな。」

何度もキスはしたけど、部屋の中だったし。
すごく赤くなってると思う。
それを感じたけど、誤魔化すように言った。

「全然味わってないじゃないですか!」

「帰ってからでいい。」

少ししか減ってないカップを両手で持って口をつけた。

「全部飲みますよ。冷えたら残念です。」

「ああ、どうぞ。」

カップから視線をあげて、また光の帯を見る。


あ、写真。


「課長、写真撮りましょう。」

そう言ったらポケットから携帯を出してササッと撮ってくれた。

画面を確認する。
光は後ろの方に少しだけ。

出かけた時の気合を入れた私よりも大人のふりをやめた自分と、見慣れた笑顔の課長がいた。


「課長、あとでくださいね。」

「ああ。」

「課長、疲れました?」

「いや、大丈夫だが。」

「そうですか。じゃあ、あと少しだけ・・・・。」

そう言って少し歩く。

今度は私が課長の手を引くように、でもゆっくり。

どこまでも続くと思えた光の帯もお終いがある。
スッと暗闇に入るように光が届かなくなる。

そこに立ち、振り返る。

「帰ろうか。」

「はい。」


今度はまた手を引かれるように駅を目指して歩いた。

電車の窓ガラスに時々映り込む二人。
年の差と身長の差と、あとは何だろう。

ぼんやりとガラスに映る二人を見ていた。


課長の部屋にたどり着いて、コートを脱いでソファに座る。

同じように隣に来た課長。


「昨日、何で泊まらないんだろうかと、荷物を持って来ればいいのにって思ったけど。」

課長の顔を見る。
ゆっくり顔にかかる髪を払われた。

「自慢のおでこも封印してたんだ。」

「その方が大人っぽくなるって、そう言われたんです。」

「そうだな。『さあ、叩いてください。』って感じじゃないし、今日みたいな雰囲気もたまにはいいな。」

「たまに・・・・ですか?」

すごく努力したのに。
そう言われると残念だった。

「いつもの小憎らしい感じが好きだって言ったじゃないか。今日は随分・・・・控えめだった、大人しいし。」

「課長の隣にいて釣り合うようにって努力したんです。」

「いらないなあ。いつも通りで充分。あえて作らなくても十分だから。」

「それは褒めてますか?」

「最大限に褒めてるけど。」

ため息が出た。
それは安堵か、無駄なことをしたと残念に思ったか。

無理に背伸びして大人ぶることは必要ないと分かった。
危うく最大の魅力の若さを封印してしまうところだったし。





ベッドの上で髪の毛をまた払うようにしておでこを触られる。

「美容師さんになんて言って相談したんだ?」

「好きな人が年上で、隣に並んでしっくりくるような大人っぽい女性になりたいって、相談しました。」

「普通そんな相談するものなのか?」

「ちょうど隣もいない時で、他の人がドライヤーを使ってる時で、そんなタイミングを見て相談したんです。プロのアドバイスの方がいいです。」

何度か生え際を撫でるように髪を触られて、おでこにキスをされた。
クリスマスの夜、大人しくパジャマの二人、おでこにキスで満足すると思ってるんだろうか?
下から斜め上の顔を見上げる。


ペシッ。


「何でですか?」
一瞬だけ目を閉じてしまった。

「なんか、その目で見られると叩きたくなるんだよ。」

さっきは撫でてたのに。

「とっておきのクリスマスの思い出はあるんですか?」

「どうだろう。・・・・・・・来年になったら思い出せるように、作るしかない。」

そう言ってまっすぐ見下ろされた。


「一緒に作ってもいいです。」

「そうなるな。」





クリスマスの翌日、絶対平均寝坊率が上がってると思う。
早起きしてベッドを飛び出すのはサンタクロースを信じてる子供だけだろう。

朝一の発見は大人にはない。
ただ、慣れ親しんだ匂いの中で、見覚えのあるパーツがいきなりドアップで目の前にあることを喜びたい。

ネクタイを忘れずに渡そう。
うっかりして発見されたら恥ずかしい。
女性がクリスマス明けに新しいアクセサリーをしてると、目ざとく見つけられるし、自慢したくもなる。
でも男の人のネクタイが見慣れないものだとして、あんまり気がつく人はいなそうだ。

それはあげた人ともらった本人くらいだ。





課長がさっそくつけてくれてるけど、あまりに他の物を参考にし過ぎたのか馴染み過ぎてるし、そもそもネクタイなんて記号の一つでしかなく、よっぽどな悪目立ちする柄じゃなかったら新しいものだと気がつくこともない。


本人が自慢しない限り誰も注目することはないだろう。


そして自分の首に手が行く。
ブラウスの下につけてるのは新しいネックレス。

ないと思ってたのに、買ってくれていたらしいクリスマスプレゼント。
すごくうれしかった。
あの日持っていたバッグに入っていた。
ずっと手元にあったのに、あの日渡されることがなかったのはなぜだろうか?
あのワンピースだったら綺麗に映えていたと思うのに。
マフラーをしてたから首元にはつけてなかったのに。

ネクタイを出したのと同じくらいのタイミングで渡された。

もちろん開けて手にした私から引き取り、後ろからつけてくれた。

仕事の時はブラウスの中に隠れることが多いと思う。
特に冬は。
だから誰にも気がつかれないだろう。
自慢したいけど出来ない。

気がつくとブラウスの上から手を当てている私。

そこにあると分かってまた手を離す。

もちろん課長も喜んでくれた。

『お店の人と一緒に選んだんです。』

『目に浮かぶ。なんでも周りに相談するんだな。』

『だってプロです。その人に合うイメージで選んでもらいます。』

『また年上の人にって言ったのか?』

『いえ、その時はあぅ・・・・・・・・。』

『何て言ったんだ?』

『写真を見せて、兄ですと。』

『何で兄になるんだ?』

『恥ずかしいじゃないですか?好きな人の写真を見せるなんて。まったく知らない人ですよ。』

『プロだろう?別にいいのに。・・・・まあ・・・・いい。』

『大丈夫でした?』

『ああ、好きな感じだ。ありがとう。』


そう言われて満足した。
隠し撮りした甲斐があった。
大切に扱われるって分かってるからうれしいし。

私だって毎日つけるつもりだ。
大切にするのはもちろんだ。
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