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2 自慢の姉は不器用を克服しても、ちょっとだけ残念なお一人様。

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大好きな姉、小さいころからずっと近くにいてくれた。
体が弱くて、よく寝込んでいたらしい弟の自分のすぐそばに。

熱が出たら額のタオルをぎゅっと絞って乗せてくれたり・・・・それが子供の力だときちんと絞れなくて顔が水浸しで、布団まで濡れて母親の仕事が増えた。
『アイスノン』や『冷えピタシート』なんて物を使うようになって、濡れタオルはいらないと姉が理解してくれたのを一番喜んだのは母親だろう。

毎日着替えを手伝ってもらって大人しくしていた。 
そう、毎日なのに、・・・・・ファスナーを力任せに上げて、首が締まり過ぎたり、グーで顎を殴られたり、ファスナーに顎の肉を挟まれたり、あれは涙が出るくらい痛い。
毎回そうなるから顎をあげてるのに何度も繰り返された。
自分が出来るようになった時は真っ先に披露した、お役御免ですと、事故はもう起きないだろうと。

「ジュースを飲ませてくれようとコップに注いでくれるのに、そのまま溢れさせて、こぼして、掃除ばかりじゃなくて着替えが必要になったりするくらいだったわ。」

なにかと世話を焼こうとして、余計な手間をかけさせてくれたと懐かしい話のように母親に言われていたことがある。
本当にそうだったと思う。
いつも被害にあう自分は何で?って思ってた。
よく考えると・・・あれ?って。
自分でできるようになると優しく見守ってくれるようになり、事故は減った、確実に減った。
姉より器用だった自分、そういうことかもしれない。
本人含めて誰もが思うより実は不器用だった姉。


そして友達と遊んでいるときに姉が通ったりすると、誰かが姉のことを悪く言った。
『でかい女だ。』
自分はすぐに姉だと分かっても、友達は分からなくて、単純な感想で、悪口のつもりじゃなったかもしれない。ただ自分はそれに敏感に反応していた。
そして口とちょっとした手が出た喧嘩になりあっさり負けて、半泣きで悔しそうに帰る自分を見つけると、勢い込んで仕返しに行った姉。
半分以上自分のほうが悪いのに。
せっかく遊んでくれていた友達がさすがに恐れるようになった。
その内に自分と大きな姉のペアが皆に刷り込まれて行って、その内誰も何も言わなくなった。大きなシルエットに怯えるように、視線を逸らすようになった。
結果、言いがかりとも言えそうな仕返しに走った姉が一番悪く言われてたんだから、申し訳ない。

今でも強くて、すっかり不器用も克服できたしっかり者で、美人で、スタイルもよくて。
自慢の姉なのに何故かまだ残念なお一人様らしくて。
付き合わされる買い物先でも、仲良く食事をする姿も、自分は年下の彼氏に思われてると思う。
むしろ姉もそれを楽しんでる気もする。

ちい、弟で満足してどうするんだよ・・・。


今日も買い物につき合ってる最中だった。
ジーンズにTシャツ、羽織のシャツ、そんなシンプルな姿でも、たまらなくかっこいいと思うのに。
服を買いに付き合い、ご褒美に春の服を買ってくれると言われ、まずはちいの分からと、意見を出し合い買い物をしていた。
男女子供の分まであるお店だった。レディースが終わったら僕のメンズを見る予定だった。

姉が自分用の服なのに、弟の僕に服をあてて考えるのもいつものこと。
カップルに見えるのは仕方ないと思う。
でも、まさか、自分が彼女で姉が彼氏に思われていたとは。

明らかに身長の差があるからだろう。

後ろで「かっこいいし綺麗。」と囁くような声を聞いて、姉の良さを見てくれる人がいると思った。『そうなんですけどね、世の中の男は見る目がないんです、困ってます。』なんてゆるゆると思ってた。

「もうもの凄く彼女のことが可愛いんだろうね、自分の好きな服を着せたいとか。素直に着てくれそうだしね。」

「本当に身長高いしスラっとしてる。男の人もきれいだよね。」

ゆっくり顔を伏せ気味にして周りを見る。
誰もふたり組、カップルはいない、背の高い人も。
自分たち、背の高い男、自分じゃないだろう!

・・・・まさかそんな間違いを?

離れたところに行った姉を見ながら、自分もメンズの服を選ぶ振りで離れた。

化粧もちょっとしてるし、胸だってある、普通には。
あとは、ショートカットとシンプルなアクセサリー。

まあ、いい、姉は。
まさか、自分も!

今度からせめて『男らしく』見える服を考えよう。
色も柄も、買ってもらったものは明るめな色柄ばかり。
もう少し暗めにするべきなのか?
あとは自分こそ平らな胸を出すべきだ。

結局あの時、姉が選んだのが小花柄だった。
『遠くからじゃ分からないよ。似合うよ、絶対。』
そう言って押し切られ、反抗するようにもう一枚男らしいシンプルな黒いタンクトップを買ってもらった。



そしてまた、今日も付き合わされて、ここにいる。
せっかくこの間の反省を踏まえて、男っぽさを前面にと考え、この間の黒をインナーに着て、上にはブルーのシャツを羽織ってるだけ。
胸はペタンコだって分かるはずだ。男だと分かるはずだ。
ただ、むしろそれが災いした日。
何で、今日はここ?

女性用の下着売り場、荷物を持ち正面のベンチに座ってる自分。
いっそ、今日は、今日こそは花柄でも良かったのに。・・・・恥ずかしい。
待つだけならいい、お店に背中を向けて、終わったよと言われるのを待てばいい。

「ツムギ~、これは?どう?」

売り場からわざわざ声をかけるちい。
手元に広げたものは、明らかに相談に応じれないもの。
顔を上げてうなずかないと、しつこいから。
・・・・罰ゲームの様だ。恥ずかしい。

何でそんな見えない所だけ気合を入れた女仕様なんだか。
シンプルな格好の下にあんな派手な色とデザインがあるとは思わない。
誰かに見せる予定があるなら、まだ納得もするけど。
予定・・・ある?
そんなことを隠す方だろうか?
今までちらりとも感じたことがないけど。

全く分からない、だからなかったと勝手に思ってる。



幸い何度か呼ばれて、何度かうなずいただけで済んだ。
レジに向かってくれて、今日の山場は終わったらしい。

ホッとした。恥ずかしい汗も引いた。

こっちに向かいながらも目の前でふるふると商品の入った袋を振る。

「ツムギ、楽しみ?」

「何で!」

「またまたぁ~。」

冗談にもほどがある。
そんなのは遠いかもしれない未来、他の誰かとやってほしい。

「じゃあ、ご飯にしよっ!」

肩を組まれて歩き出す。ご機嫌らしい。
勝負のための一枚でもゲット出来たか、もしくは勝負を挑みたい相手ができたか。

「いい人出来た?」

ご機嫌な笑顔に聞いてみた。

「出来ません。」

残念、やっぱり自己満足か。

その後はいつものようにご褒美に食事をご馳走になった。
ただ、そろそろ誰か他の人に代わってもらいたい役目だ。
弟を揶揄うしかないさっきの出来事に、気の毒さを覚えてしまった。

ホントもったいないよ、ちい。
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