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9 そして計画された飲みの席へ
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すっかり新しい髪型に慣れてしまった。
楽。
それでもつい手を後ろにやって払いのけそうになる。スカッとした何もない肩の上。
春斗が指を絡めて遊んでたり、片側に寄せて首筋にキスしてくれたり。
そんな思い出の付属品はあの日、私から切り離されて、ただのゴミになった。
すっきり!って思ってもまだ寂しい。
元気にはなったけど、まだ忘れてはいない、思い出してしまう。
春斗は先は見えないって言った。私は見えてるつもりだった。
どうなの?
未希と哲也はそんなに深く考えたんだろうか?
どんなに考えても、途中イロイロあるカップルはいるのに。
私の両親は仲がいい。そんな二人が理想的と思えるほどに。
そんなに難しいことなのかな?
しかたない。もう終わった。
今週になってやっと未希に教えた。
しばらくして返事が来た。
『いつでも飲もう!』
『そりゃ、いつでも会った時は飲んでるじゃん。』って返したけど。
『大分元気になったよ。』
『連休が寂しくなったな。完璧な計画立てたのに。』
『裕介空いてるかも。』
勝手に決められてる。
『もう。勝手に振られてるみたいじゃん。可哀想だからやめてあげて。』
『そだね。帰ってきたらいいよ。』
『また、連絡する。』
『了解。』
月曜日。
驚かれたけど褒められたからいいじゃない。
「元気になった?」
葵が聞いてくる。
「うん。元気。ありがとう。」
「飲み会役に立った。」
「うん、すごく。珍しく楽だった。」
「それにしても、何でそんなにあの子は邪魔したい?ずっと気にしてたよ。」
濃沼・・・・さんだろう。
「そうなの?」困る・・・変な誤解は困る。
「チラチラ見てた。」
ため息が出る。
「それはちょっと寂しい。さすがにそこまで嫌われたいわけじゃない。」
「宇佐美さん、いい人らしいよ。楽しそうだったし、また誘うから。」
期待した目、曖昧に笑うしかない。
「連休、どこかいく?もし、行きたいところあったら付き合うから連絡して。楽しそうなとこ見つけてたよね。」
「うん、ありがとう。」
そうは言っても葵もデートするだろうし。
「髪の毛、思い切ったね。びっくりした!新鮮。似合ってる。」
「ありがとう。こんな短いことなかったかも。楽でいい。朝の準備が15分は短縮出来る。」
「いつもそんなにかけてるの?」
「小一時間。メイクと髪と服とアクセサリー。」
「長い。春斗君がお泊りした朝も。」
「うん、そのくらい。」
じっと顔を見られた。
「スッピンもそんなには変わらないよね。もしかしてパックとかマッサージとかしてる?」
「うん、時々、少し。でも、ながらだよ。」
食べながら、歯磨きしながら、服を選びながら、とか。
「朝から疲れる。」
「そう言う葵はどのくらい?」
「その半分あればほとんど終わる。服は前の日に選ぶし、アクセも。単純に顔だけなら10分。」
「髪の毛は?」
「寝癖直しでちゃちゃっと。」
今度は私がじっと見る。
「器用だね。」
そういう結論になった。
笑われた。
喋っていてもランチは完食。素晴らしい。
葵と別れてトイレに行った。
扉の向こうの先客に、ゲッ、と思っても顔に出さず。
「お疲れ様。」
通常装備の中でもまあまあの笑顔で。
驚いたみたい。もちろん髪型に。
「短くなったのね。」
「うん、失恋したんだ。だから気分転換。」
内緒にするつもりだったけど言った。
「似合うと思う。可愛いじゃん。」
すごく驚いた。褒めた、今?
「ありがとう。」
今度はなかなかの笑顔で。
「また飲み会メンバーに復活?」
どういう意味か、つい探ってしまう。
「もう少ししたら、誘われたら、その時の気分で。この間はわざわざ一人にしないようにって開いてくれたみたい。人の中にいたほうがいい時だったから、助かった。」
「そう。元気になったらまた飲もう!」
「うん。」
驚き三連発。
もしや、すごくいい人なの?
判断保留。でも、嫌な気はしない。
そして午後はまた少し元気になった。
ひっそりとしっとりと。
思い出しても首を降れば消えるくらいに春斗の笑顔が遠くなり。
「どうしたの?」
後ろから声をかけられた。休憩中だった。
「小愛ちゃん、髪の毛切ったって聞いたけど、似合ってる。」
佐久間さんだった。
「ありがとうございます。」
「この間楽しかった?」
「金曜日ですよね、楽しかったです。初めてだったけど宇佐美さんがずっと相手してくれました。美味しくてもりもりとご飯も食べて、お酒も飲んでしまいました。しばらく粗食です。」
「元気になれたなら良かった。」
「元気ですよ。」
「そう。宇佐美は役に立った。」
「もちろんです。逆に宇佐美さんも他の人とは話ができなかったかもしれません。」
「大丈夫。小愛ちゃんが楽しかったなら、連れて行った甲斐があった。また飲もうね。」
「はい。また誘ってください。」
笑顔をキープ。
はぁ、どうせ振られたとバレてるんだろうに。もう。
その後宇佐美さんにも会った。
やっと標準装備の私になれたけど、違和感を感じてませんように。
笑顔を見る限りはまあまあ大丈夫だったかも、よし。
髪型も褒められた。
本当に毎日少しづつ元気になってるよ、大丈夫だよ、春斗。
ゴールデンウィークはほぼ目前。なんとなく浮かれた人達、残念、少しも浮かれ気分に乗れない。
金曜日、葵に誘われた。
どうせぼんやり暇だって知ってるから、断ることもなく。
誰が来るかも聞かず。当日決定なんて誰が来るの?
自分と同じ寂しい女子だろうか?
仕事が終わり一緒にお店に行く。私はついて行くのみ。
「お腹すいた!何食べれるの?」
「メンバーよりそっち?」
「まあねぇ。」
「美味しいお肉。」
「そうなんだ。」
想像してたよりおしゃれなお店だった。
適当な賑わい。
席に案内されたら、四人席!
少なっ。
当日だとこんなものなのね。
みんなリア充なんだ、彼氏いるんだ。
いいね。
だって見渡してもカップルが多いし。
「そろそろ欲しくなった?」
「ううん、なんだか連休前に現実見た感じ。いっそ休日出勤したいくらい。寝坊してよくて美味しいご飯がついてたらやるのに。」
「一緒に出かけるって。」
「彼氏に悪い。」
「それが連休じゃないかもって。」
「そうなの?」
「うん、まだわからないけど。・・・・あ、来た来た。」
そっちを見ると佐久間さんと宇佐美さんがいた。
「同期の女子じゃなかったの?」
「そんなこと言ってないよ。誰が来るのとも聞かれなかったけど。」
確かに。
まあ、いいけど。
「お疲れ様です。」
宇佐美さんが向かいの席に座った。
じっと顔を見られてる気がした。
「お疲れ様です。」
もう一度言ってニッコリ。
「やっぱりその髪型、似合うね。」
いきなり褒められたら素で照れますから。
「なんで挨拶の次にそれ?」
隣で普通に驚いてる佐久間さん。
私もそう思います。
「なんとなく、そう思ったから。」
しーん。
はい、そうなります。
「でも、似合ってるよ。大分短くなったよね。」
「はい、少し大人女子を目指してみました!でも誰もそうは言ってくれないです。一人くらい大人っぽくなったみたいって言って欲しかったです。担当の美容師さんが言ってくれたのが幻聴だった気がします。」
「大人っぽくかあ、どう、宇佐美。」
「まあ、・・・・・・まあな。」
ガクッと来る反応。もっと言いようがあるのに。
さっきストレートだっただけに、真実の感想だろう。
まあまあなんだろう。あとは中身が伴えばと。
お酒が来て、それぞれ手にして乾杯。
「そういえばこの間は結構飲んでた?」
「そうなんです。ちょっと4杯くらい飲んでも大丈夫かもしれません。日々成長です。」
「良かったね。どんどん訓練に付き合うから。目指せ酒豪!」
「おう!ってそこまではいきませんよ。確実に寝るか、具合が悪くなりそうです。」
「寝たことある?」
「まさか、ないです。」首を振る。髪は少ししか揺れない。
「佐久間さんはあるんですか?」
「もちろん。寝る姿勢で飲むから、学生のころだなあ、友達の家で雑魚寝してたよ。」
「宇佐美もあるだろう。」
「ない・・・・とは言わない。」
「あるんですね。」
全てを忘れて笑顔を返す。
「本当に残念だね、飲めないとしたら、いろいろと。」
「その代わりに食べますから。」
「ダイエット中じゃなかったの?」
宇佐美さん・・・・・今ですか?
「・・・・あれから大分経ちました。メリハリをつけて、たまにはお休みです。たまたま今日がその日です。」
「ダイエットしてたの?必要ないよ。ふたりとも必要ない。」
「佐久間さん、男性と女性の目は違うんです。」
「それでも女性の感覚はおかしいよね?」
「そんな事言って、佐久間さんの彼女はとてもスタイルがいいと聞いてますが。」
葵が言う。
「・・・・やだなあ、誰が言うのさ。」
「自分ですよ、惚気なんて何度も聞いてます。出会いから、告白まで、丸ごとストーリーを私が語れるくらいですから。」
「じゃあ、自叙伝書くときはよろしくね。」
そうなんだ。スタイルのいい彼女か。
きっと美人なんだろうなあ。
失恋してもほとんど痩せなかった気がする。おかしい?
頼んだサラダに続いてお肉が来た。
本当にお肉を食べるところらしく、固まりが4種類くらい、お肉の盛り合わせということで木のボードにドーン。
美味しそう。
「そういえばバイトしてたからって宇佐美さんがこの間素晴らしい手つきで、きれいに切り分けてくれたんです。葵見たいよね?」
「そうなの?見たいです。是非お願いします。」
「お願いします。」私。
「お願いします。」佐久間さんまで。
皆の視線を浴びた宇佐美さん。
「気持ち悪いな。」もちろん佐久間さんに向かって言った。
「しかし、大人しく二人で飲んでると思ったら、そんなテクニックでアピールしてたんだな。」
「みんなが食べないからです。料理が減らないと申し訳ないじゃないですか。ダイエット中なのにせっせと宇佐美さんと食べたんです。佐久間さんも宇佐美さんに切ってもらいたいんですね。宇佐美さん佐久間さんに一番おいしい所を、一番最初にあげましょう。」
宇佐美さんが立ち上がり上から肉を見てナイフをいれる。
「ありがとう。小愛ちゃん、今日も優しいね。」
「はい。年上を敬います。」
「敬老精神ともいう。」葵が言う。
「『老』ってなんか違う気がするよ。」
筋を見てきれいに切り分けてくれた宇佐美さん。
冗談でお願いした通り佐久間さんに一番に。
美味しい。やっぱり食欲完全復活・・・・再確認。
話がバイトの話になり。
佐久間さんが家庭教師と便利屋の仕事を語る。
「人生何事も経験だよね。便利屋って本当に大変。よっぽど器用じゃないと看板掲げられないよ。なんの依頼が来るか分からないから。」
「断ったら次から来ないかもしれませんしね。」
「うん、口コミが一番だよね。」
「佐久間さんは何をしたんですか?」
「いろいろやったよ。犬の散歩から年寄りのお世話と、庭掃除や草むしりから、ちょっとした大工仕事から、電気関係も。」
「変わった仕事はなかったんですか?」
「留守番のイグアナの世話と、彼氏役で友達に会う。」
「確かに極端です。」
「彼氏を頼んできたのはどんな人ですか?」
「うん、それがきれいな女の人だったから、すぐに本当の彼氏できただろうなあ。」
「紹介された女性はどんな反応だったんですか?」
「驚いてた。喜んでくれるパターンで良かった。これで嫌味の応酬とか、ののしり合いとか、もっとギリギリのだまし合いとかだったら疲れたと思うけど。」
「なんだか、それって女性同士が恋人で、相手のために身を引く理由にされたとか?」
「ん?どういうこと?」
「だからそう言うことです。実はノーマルだと気が付いて女性相手の恋愛は錯覚だったから、無理なの、ごめんねって感じです。」
「なななっ・・・・そう思う?」
何と言う解釈。ビックリする。
ただ、ついついた嘘のために紹介する羽目になったとかじゃなくて?
便利屋さんの年齢が今一つだったらどうしたんだろう?
学生で代用できるってことは依頼人も若い年齢だよね。
本当に便利・・・・・。思いもしない使い方。
肉体労働だけとは限らないなんて。
「小愛ちゃんは、どんなバイトしてたの?」
葵のバイトの話が終わり、私へ。
「私は・・・個人のとんかつ屋さんです。娘さんが一階でカフェをやっていて、二階でご両親がとんかつ屋さんで。とんかつ屋さん時々カフェでした。」
「とんかつ屋さんのスタイルってどんなの?」
「自由でした。エプロンだけ自分のを持って行ってました。後は私服です。」
「三角巾とかは?」葵が聞く。
「ない。長かったから髪の毛は結んでただけ。」
「賄いつき?」
「もちろん。普通にいろんなご飯作って食べさせてもらいました。ほぼ毎日ってくらい。あとは、時々カフェにも友達連れていって、もちろんとんかつ屋さんにも。」
「今も行くの?」宇佐美さん。
「大学の方向とはもう逆になって、全然行かなくなってしまいました。」
「きれいになってビックリするんじゃない?」
まさにそこが一番行けない理由です。
変わったなって思われると思う。
地元と同じくらい楽な感じだったのに、そんな自分でいられるところだったのに。
友達を連れて行ったのも二年になるころまで。後は行ってない。
バイトも二年目の途中でやめた。
元気かなオジサンおばさん、って辞めて3年くらいしか経ってないけど。
すっかりお酒は4杯を超えていたらしい。
宇佐美さんに追加を聞かれた。
「もう、飲み過ぎました。あとちょっと・・・ってところでやめます。」
それにもう、デザートの時間。
注文したものはほとんど食べつくした。
葵と一緒にメニュー表を見て決める。
先輩2人はいらないと言う。
「宇佐美んさん、この間食べてたのに食べないんですか?」
「うん、結構食べたからいいや。」
同じ量食べてますが・・・・・。
葵と顔を見合わせたけど、そうだねって事にはならない。
ちゃんと頼んだ。
デザートを待つ間にトイレへ。
荷物を持って歩いて行く。
お酒は美味しかったけど、まだまだ酔いません。
しっかり歩いて意識はクリアです。
戻ると住んでる場所の話になっていた。
葵は知ってる。
会社へは30分電車に乗るくらいが適当なところ。
後は駅から10分くらい。
だいたい、皆小一時間かかる。
「宇佐美は小愛ちゃんと途中まで同じ電車じゃん。」
「宇佐美さん、どこですか?」
確かに途中までは一緒、でも本当に少しです。
「乗りかえが面倒ですよね。」
「まあね。結構駅の中で歩くんだよね。」
春斗の部屋に行く時に使ってた路線。
しばらく乗ることもないだろう・・・・・。
デザートを食べて、少しだけ先輩2人が味見した。
コーヒーを飲んで。
お開き。
「美味しかったですね。」
「二人とも見た目より食べるよね。」
「佐久間さん、褒められてる気がしないです。」
「褒めてるよ、それでもスタイルキープできてるんだから。」
「脱いだら凄いかもしれませんよ。可愛らしいミシュランもどきかも。」
「別に気にしないよ。」
「佐久間さんの彼女が立派なミシュランだったら信じます。」
「残念。」
「ほらっ。」
二人は仲がいい。
何でなのかは知らない。
お互い彼氏彼女がいるから、単純に飲み友達の先輩後輩。
よっぽど気が合うんだろう。
「宇佐美さん、結局私たちより食べる量少なくなかったですか?」
「そうでもないよ。話を聞きながらもマイペースで食べてたし。」
「そうですか?なら良かったです。」
最後に笑顔で言う。
本当にいろいろ復活しました。
楽。
それでもつい手を後ろにやって払いのけそうになる。スカッとした何もない肩の上。
春斗が指を絡めて遊んでたり、片側に寄せて首筋にキスしてくれたり。
そんな思い出の付属品はあの日、私から切り離されて、ただのゴミになった。
すっきり!って思ってもまだ寂しい。
元気にはなったけど、まだ忘れてはいない、思い出してしまう。
春斗は先は見えないって言った。私は見えてるつもりだった。
どうなの?
未希と哲也はそんなに深く考えたんだろうか?
どんなに考えても、途中イロイロあるカップルはいるのに。
私の両親は仲がいい。そんな二人が理想的と思えるほどに。
そんなに難しいことなのかな?
しかたない。もう終わった。
今週になってやっと未希に教えた。
しばらくして返事が来た。
『いつでも飲もう!』
『そりゃ、いつでも会った時は飲んでるじゃん。』って返したけど。
『大分元気になったよ。』
『連休が寂しくなったな。完璧な計画立てたのに。』
『裕介空いてるかも。』
勝手に決められてる。
『もう。勝手に振られてるみたいじゃん。可哀想だからやめてあげて。』
『そだね。帰ってきたらいいよ。』
『また、連絡する。』
『了解。』
月曜日。
驚かれたけど褒められたからいいじゃない。
「元気になった?」
葵が聞いてくる。
「うん。元気。ありがとう。」
「飲み会役に立った。」
「うん、すごく。珍しく楽だった。」
「それにしても、何でそんなにあの子は邪魔したい?ずっと気にしてたよ。」
濃沼・・・・さんだろう。
「そうなの?」困る・・・変な誤解は困る。
「チラチラ見てた。」
ため息が出る。
「それはちょっと寂しい。さすがにそこまで嫌われたいわけじゃない。」
「宇佐美さん、いい人らしいよ。楽しそうだったし、また誘うから。」
期待した目、曖昧に笑うしかない。
「連休、どこかいく?もし、行きたいところあったら付き合うから連絡して。楽しそうなとこ見つけてたよね。」
「うん、ありがとう。」
そうは言っても葵もデートするだろうし。
「髪の毛、思い切ったね。びっくりした!新鮮。似合ってる。」
「ありがとう。こんな短いことなかったかも。楽でいい。朝の準備が15分は短縮出来る。」
「いつもそんなにかけてるの?」
「小一時間。メイクと髪と服とアクセサリー。」
「長い。春斗君がお泊りした朝も。」
「うん、そのくらい。」
じっと顔を見られた。
「スッピンもそんなには変わらないよね。もしかしてパックとかマッサージとかしてる?」
「うん、時々、少し。でも、ながらだよ。」
食べながら、歯磨きしながら、服を選びながら、とか。
「朝から疲れる。」
「そう言う葵はどのくらい?」
「その半分あればほとんど終わる。服は前の日に選ぶし、アクセも。単純に顔だけなら10分。」
「髪の毛は?」
「寝癖直しでちゃちゃっと。」
今度は私がじっと見る。
「器用だね。」
そういう結論になった。
笑われた。
喋っていてもランチは完食。素晴らしい。
葵と別れてトイレに行った。
扉の向こうの先客に、ゲッ、と思っても顔に出さず。
「お疲れ様。」
通常装備の中でもまあまあの笑顔で。
驚いたみたい。もちろん髪型に。
「短くなったのね。」
「うん、失恋したんだ。だから気分転換。」
内緒にするつもりだったけど言った。
「似合うと思う。可愛いじゃん。」
すごく驚いた。褒めた、今?
「ありがとう。」
今度はなかなかの笑顔で。
「また飲み会メンバーに復活?」
どういう意味か、つい探ってしまう。
「もう少ししたら、誘われたら、その時の気分で。この間はわざわざ一人にしないようにって開いてくれたみたい。人の中にいたほうがいい時だったから、助かった。」
「そう。元気になったらまた飲もう!」
「うん。」
驚き三連発。
もしや、すごくいい人なの?
判断保留。でも、嫌な気はしない。
そして午後はまた少し元気になった。
ひっそりとしっとりと。
思い出しても首を降れば消えるくらいに春斗の笑顔が遠くなり。
「どうしたの?」
後ろから声をかけられた。休憩中だった。
「小愛ちゃん、髪の毛切ったって聞いたけど、似合ってる。」
佐久間さんだった。
「ありがとうございます。」
「この間楽しかった?」
「金曜日ですよね、楽しかったです。初めてだったけど宇佐美さんがずっと相手してくれました。美味しくてもりもりとご飯も食べて、お酒も飲んでしまいました。しばらく粗食です。」
「元気になれたなら良かった。」
「元気ですよ。」
「そう。宇佐美は役に立った。」
「もちろんです。逆に宇佐美さんも他の人とは話ができなかったかもしれません。」
「大丈夫。小愛ちゃんが楽しかったなら、連れて行った甲斐があった。また飲もうね。」
「はい。また誘ってください。」
笑顔をキープ。
はぁ、どうせ振られたとバレてるんだろうに。もう。
その後宇佐美さんにも会った。
やっと標準装備の私になれたけど、違和感を感じてませんように。
笑顔を見る限りはまあまあ大丈夫だったかも、よし。
髪型も褒められた。
本当に毎日少しづつ元気になってるよ、大丈夫だよ、春斗。
ゴールデンウィークはほぼ目前。なんとなく浮かれた人達、残念、少しも浮かれ気分に乗れない。
金曜日、葵に誘われた。
どうせぼんやり暇だって知ってるから、断ることもなく。
誰が来るかも聞かず。当日決定なんて誰が来るの?
自分と同じ寂しい女子だろうか?
仕事が終わり一緒にお店に行く。私はついて行くのみ。
「お腹すいた!何食べれるの?」
「メンバーよりそっち?」
「まあねぇ。」
「美味しいお肉。」
「そうなんだ。」
想像してたよりおしゃれなお店だった。
適当な賑わい。
席に案内されたら、四人席!
少なっ。
当日だとこんなものなのね。
みんなリア充なんだ、彼氏いるんだ。
いいね。
だって見渡してもカップルが多いし。
「そろそろ欲しくなった?」
「ううん、なんだか連休前に現実見た感じ。いっそ休日出勤したいくらい。寝坊してよくて美味しいご飯がついてたらやるのに。」
「一緒に出かけるって。」
「彼氏に悪い。」
「それが連休じゃないかもって。」
「そうなの?」
「うん、まだわからないけど。・・・・あ、来た来た。」
そっちを見ると佐久間さんと宇佐美さんがいた。
「同期の女子じゃなかったの?」
「そんなこと言ってないよ。誰が来るのとも聞かれなかったけど。」
確かに。
まあ、いいけど。
「お疲れ様です。」
宇佐美さんが向かいの席に座った。
じっと顔を見られてる気がした。
「お疲れ様です。」
もう一度言ってニッコリ。
「やっぱりその髪型、似合うね。」
いきなり褒められたら素で照れますから。
「なんで挨拶の次にそれ?」
隣で普通に驚いてる佐久間さん。
私もそう思います。
「なんとなく、そう思ったから。」
しーん。
はい、そうなります。
「でも、似合ってるよ。大分短くなったよね。」
「はい、少し大人女子を目指してみました!でも誰もそうは言ってくれないです。一人くらい大人っぽくなったみたいって言って欲しかったです。担当の美容師さんが言ってくれたのが幻聴だった気がします。」
「大人っぽくかあ、どう、宇佐美。」
「まあ、・・・・・・まあな。」
ガクッと来る反応。もっと言いようがあるのに。
さっきストレートだっただけに、真実の感想だろう。
まあまあなんだろう。あとは中身が伴えばと。
お酒が来て、それぞれ手にして乾杯。
「そういえばこの間は結構飲んでた?」
「そうなんです。ちょっと4杯くらい飲んでも大丈夫かもしれません。日々成長です。」
「良かったね。どんどん訓練に付き合うから。目指せ酒豪!」
「おう!ってそこまではいきませんよ。確実に寝るか、具合が悪くなりそうです。」
「寝たことある?」
「まさか、ないです。」首を振る。髪は少ししか揺れない。
「佐久間さんはあるんですか?」
「もちろん。寝る姿勢で飲むから、学生のころだなあ、友達の家で雑魚寝してたよ。」
「宇佐美もあるだろう。」
「ない・・・・とは言わない。」
「あるんですね。」
全てを忘れて笑顔を返す。
「本当に残念だね、飲めないとしたら、いろいろと。」
「その代わりに食べますから。」
「ダイエット中じゃなかったの?」
宇佐美さん・・・・・今ですか?
「・・・・あれから大分経ちました。メリハリをつけて、たまにはお休みです。たまたま今日がその日です。」
「ダイエットしてたの?必要ないよ。ふたりとも必要ない。」
「佐久間さん、男性と女性の目は違うんです。」
「それでも女性の感覚はおかしいよね?」
「そんな事言って、佐久間さんの彼女はとてもスタイルがいいと聞いてますが。」
葵が言う。
「・・・・やだなあ、誰が言うのさ。」
「自分ですよ、惚気なんて何度も聞いてます。出会いから、告白まで、丸ごとストーリーを私が語れるくらいですから。」
「じゃあ、自叙伝書くときはよろしくね。」
そうなんだ。スタイルのいい彼女か。
きっと美人なんだろうなあ。
失恋してもほとんど痩せなかった気がする。おかしい?
頼んだサラダに続いてお肉が来た。
本当にお肉を食べるところらしく、固まりが4種類くらい、お肉の盛り合わせということで木のボードにドーン。
美味しそう。
「そういえばバイトしてたからって宇佐美さんがこの間素晴らしい手つきで、きれいに切り分けてくれたんです。葵見たいよね?」
「そうなの?見たいです。是非お願いします。」
「お願いします。」私。
「お願いします。」佐久間さんまで。
皆の視線を浴びた宇佐美さん。
「気持ち悪いな。」もちろん佐久間さんに向かって言った。
「しかし、大人しく二人で飲んでると思ったら、そんなテクニックでアピールしてたんだな。」
「みんなが食べないからです。料理が減らないと申し訳ないじゃないですか。ダイエット中なのにせっせと宇佐美さんと食べたんです。佐久間さんも宇佐美さんに切ってもらいたいんですね。宇佐美さん佐久間さんに一番おいしい所を、一番最初にあげましょう。」
宇佐美さんが立ち上がり上から肉を見てナイフをいれる。
「ありがとう。小愛ちゃん、今日も優しいね。」
「はい。年上を敬います。」
「敬老精神ともいう。」葵が言う。
「『老』ってなんか違う気がするよ。」
筋を見てきれいに切り分けてくれた宇佐美さん。
冗談でお願いした通り佐久間さんに一番に。
美味しい。やっぱり食欲完全復活・・・・再確認。
話がバイトの話になり。
佐久間さんが家庭教師と便利屋の仕事を語る。
「人生何事も経験だよね。便利屋って本当に大変。よっぽど器用じゃないと看板掲げられないよ。なんの依頼が来るか分からないから。」
「断ったら次から来ないかもしれませんしね。」
「うん、口コミが一番だよね。」
「佐久間さんは何をしたんですか?」
「いろいろやったよ。犬の散歩から年寄りのお世話と、庭掃除や草むしりから、ちょっとした大工仕事から、電気関係も。」
「変わった仕事はなかったんですか?」
「留守番のイグアナの世話と、彼氏役で友達に会う。」
「確かに極端です。」
「彼氏を頼んできたのはどんな人ですか?」
「うん、それがきれいな女の人だったから、すぐに本当の彼氏できただろうなあ。」
「紹介された女性はどんな反応だったんですか?」
「驚いてた。喜んでくれるパターンで良かった。これで嫌味の応酬とか、ののしり合いとか、もっとギリギリのだまし合いとかだったら疲れたと思うけど。」
「なんだか、それって女性同士が恋人で、相手のために身を引く理由にされたとか?」
「ん?どういうこと?」
「だからそう言うことです。実はノーマルだと気が付いて女性相手の恋愛は錯覚だったから、無理なの、ごめんねって感じです。」
「なななっ・・・・そう思う?」
何と言う解釈。ビックリする。
ただ、ついついた嘘のために紹介する羽目になったとかじゃなくて?
便利屋さんの年齢が今一つだったらどうしたんだろう?
学生で代用できるってことは依頼人も若い年齢だよね。
本当に便利・・・・・。思いもしない使い方。
肉体労働だけとは限らないなんて。
「小愛ちゃんは、どんなバイトしてたの?」
葵のバイトの話が終わり、私へ。
「私は・・・個人のとんかつ屋さんです。娘さんが一階でカフェをやっていて、二階でご両親がとんかつ屋さんで。とんかつ屋さん時々カフェでした。」
「とんかつ屋さんのスタイルってどんなの?」
「自由でした。エプロンだけ自分のを持って行ってました。後は私服です。」
「三角巾とかは?」葵が聞く。
「ない。長かったから髪の毛は結んでただけ。」
「賄いつき?」
「もちろん。普通にいろんなご飯作って食べさせてもらいました。ほぼ毎日ってくらい。あとは、時々カフェにも友達連れていって、もちろんとんかつ屋さんにも。」
「今も行くの?」宇佐美さん。
「大学の方向とはもう逆になって、全然行かなくなってしまいました。」
「きれいになってビックリするんじゃない?」
まさにそこが一番行けない理由です。
変わったなって思われると思う。
地元と同じくらい楽な感じだったのに、そんな自分でいられるところだったのに。
友達を連れて行ったのも二年になるころまで。後は行ってない。
バイトも二年目の途中でやめた。
元気かなオジサンおばさん、って辞めて3年くらいしか経ってないけど。
すっかりお酒は4杯を超えていたらしい。
宇佐美さんに追加を聞かれた。
「もう、飲み過ぎました。あとちょっと・・・ってところでやめます。」
それにもう、デザートの時間。
注文したものはほとんど食べつくした。
葵と一緒にメニュー表を見て決める。
先輩2人はいらないと言う。
「宇佐美んさん、この間食べてたのに食べないんですか?」
「うん、結構食べたからいいや。」
同じ量食べてますが・・・・・。
葵と顔を見合わせたけど、そうだねって事にはならない。
ちゃんと頼んだ。
デザートを待つ間にトイレへ。
荷物を持って歩いて行く。
お酒は美味しかったけど、まだまだ酔いません。
しっかり歩いて意識はクリアです。
戻ると住んでる場所の話になっていた。
葵は知ってる。
会社へは30分電車に乗るくらいが適当なところ。
後は駅から10分くらい。
だいたい、皆小一時間かかる。
「宇佐美は小愛ちゃんと途中まで同じ電車じゃん。」
「宇佐美さん、どこですか?」
確かに途中までは一緒、でも本当に少しです。
「乗りかえが面倒ですよね。」
「まあね。結構駅の中で歩くんだよね。」
春斗の部屋に行く時に使ってた路線。
しばらく乗ることもないだろう・・・・・。
デザートを食べて、少しだけ先輩2人が味見した。
コーヒーを飲んで。
お開き。
「美味しかったですね。」
「二人とも見た目より食べるよね。」
「佐久間さん、褒められてる気がしないです。」
「褒めてるよ、それでもスタイルキープできてるんだから。」
「脱いだら凄いかもしれませんよ。可愛らしいミシュランもどきかも。」
「別に気にしないよ。」
「佐久間さんの彼女が立派なミシュランだったら信じます。」
「残念。」
「ほらっ。」
二人は仲がいい。
何でなのかは知らない。
お互い彼氏彼女がいるから、単純に飲み友達の先輩後輩。
よっぽど気が合うんだろう。
「宇佐美さん、結局私たちより食べる量少なくなかったですか?」
「そうでもないよ。話を聞きながらもマイペースで食べてたし。」
「そうですか?なら良かったです。」
最後に笑顔で言う。
本当にいろいろ復活しました。
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