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18 相談事が出来たからちょっとだけ寄り道したんです。

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そう思っていたのに、社内にいたらしく、しばらく留守にしていた鞠がゴシゴシと、更に浅田さんにも挨拶をしてきたと言った。

えぇぇ~。

私も挨拶したい、そんなチャンスもうないのに。
せめて明日くらいまでに会えたら声かけれるのに。
しかも、なんで今日は社内にいるの?

「二人でゴシいじりしてきた。」

そう言ってニンマリする。

ゴシいじり?

あぁ、もしかしてもう無理?
普通にお礼は無理?
なんだか恥ずかしいじゃない・・・・。


「浅田さんの席はその隣だったでしょう?」

「ううん、違ったよ。わざわざ来てくれたんだよ。」


えぇぇ~、やっぱりあの時がたまたまだったの?
毎回違う人の席に視線を送ってたなんて、ただのアホじゃない。
それじゃあコジゴシが変に思うか。


ガッカリ、やっぱり私はどこまでも残念な女でした。


「さっきゴシった?慌てて携帯いじってポケットにしまってたよ。明らかに挙動不審だった。」

だから、サッと返事が来ただけだったんだ。
バッドタイミング。無視してくれてもよかったのに。


結局、今週の金曜日にみんなで飲むことになった。
飯田くんが男の子を一人連れて来るという。
誰だろう。知らない人が増えるなら、本当に気を付けて名前を呼ぼうとは思った。 

変に広まったら絶対怒られるし。

まして鞠があんなに新語のように活用してるなんて絶対報告できないし。



私はすぐに志野ちゃんに連絡した。
・・・・『志野った。』、というやつだけど・・・今一つだ。

すぐに返事はきた。

『ありがとう。迷惑じゃないといいな。楽しみにしてます。』

ああ、可愛い、すごく可愛い。
携帯を笑顔で見つめる志野ちゃんが想像できる。
ここは何とかうまくいくことを願いたい。

夜にじっくりと相談したい・・・・・いいのかな?
そんなことまでゴシってしまって。
内緒の内緒でお願いしよう。


仕事を終わりにして帰る。

電車の中でメッセージが届いた。

『終わった?』

『もちろん。電車の中だよ。』

『俺の駅過ぎた?』

『次。』

『降りて、待ってて。』

え~、もうすぐじゃない、なんて思ったけど。
返事もせずにとりあえず降りるのを優先させる。

ホームのベンチに座り待つ。

『降りたよ。ギリギリ間に合いました。ベンチにいます。』

『駅を出て、コーヒー屋で待ってて。急いで帰る。』

そう言われて言うとおりに改札を出て、目の前のカフェで待つ。
ちょうど入り口の席が空いていたから。そこに座る。

そういえば、せっかく楽しい週末を過ごしたのに、先輩は聞いてくれなかった。
せっかく披露できる場所に出かけたのに、誰と一緒とか、友達と行ったのとか聞かれたら・・・・・ごまかしたかもしれないけど。
あ、大人男子の紹介を断るんだった。
忘れてた。

改札の方をぼんやり見てたら、見覚えのある顔が、待っていた姿が。
お店の中からブンブンと手を振ってみた。

気がついたらしく軽く笑ってこっちに向かってくる。

そう言えば、何か用があった?
私はあったからちょうどいいけど。
まさか鞠のゴシいじりの文句を言われるとか?
鞠にバレたって一言も言ってない。
ついでに先輩にもバレて、きっと飯田君にも。うっすら志野ちゃんにも?

目の前に座り、視線が合った。

「飲み終わった?」

そう聞かれてカップをのぞかれた。
もう大して入ってない。


「どうかした?」
少し恐る恐る聞いて見た。

「食事しようかと思って。ここでパンとか食べてたら呆れてしまうところだったけど、それはなかったらしいな。」

「うん、お腹空いたの忘れてた。」

そう言ってコーヒーを飲み終わる。

立ち上がったゴシゴシが片付けてくれて、お店を出た。

先に謝ろう。鞠にいじられた分は私が謝るしかない。

「ごめんね。鞠にはバレたの、すぐに。飯田君にも鞠が教えたかもしれない。」

志野ちゃんに言われたことまで伝えた。

「まあ、いいよ。別に問題ないし。」

噂になるのに、囁かれるのに。
あんまりそんな外野の事は気にしないのだろうか?

「飯田からは面白い事があったんだって?っていう探りが入っただけ。すっかり聞いてるだろうけど、今度吐かされるな。」

それは私がいない時にお願いします。
適当に選んだお店に入り、軽くお酒も飲む、一杯だけ。


メインとサラダを半分づつ食べた。
元々分け合うようなボリュームだったけど、デザートを言い出す前にさっさと会計をお願いしてるゴシゴシ。
そんな・・・・・、別腹はいつでも作れるのに。
そこも半分づつでもいいから、ちょっとくらい・・・・。


さっさとお店を出て、商店街を更に進む。

ハシゴ?

そう思ったのに、商店街も終わり、さすがに違うと気がついた。
途中からは明らかにゴシゴシのお部屋に向かってるし。

じゃあ、せめてデザート買ってくるとか?
コンビニでもいいよ。アイスくらい食べない?

何度か見上げてもまっすぐ見たまま。

前もよくそんな事あった。
ここ二日くらいのサービス笑顔に慣れてすっかり忘れてたのに、そういえばちょっと黙り癖があるんだった。
全く私の視線に気がつかない。

「アイス食べたいかも。」
ちょっと言ってみた。

当然嫌な顔をされたあと、諦めたような顔をされた。

「ねえ、話しがあるんだけど。」

そう言ったら立ち止まった。

「何?」

ここで?

「部屋に向かってるなら、部屋で話をしたい。」

そんな、さすがに往来で友達の恋の応援は頼めない。

コンビニでアイスを買ってもらい、部屋に入った。

テーブルに置かれた袋を開けて、さっそくごそごそと取り出した。

紅茶をお願いして待つ。
ちょっと食べたいだけだから、二つ入った白い丸いアイスを一つづつ。
それで満足するくらいの別腹なんて可愛いものだと思う。

マグカップに紅茶をいれて来てくれたけど、かなりの湯気具合。

「話は何?」

「ああ、ちょっと言っていいのかどうなのか、鞠が話をしに行った時に金曜日の事、何か言われた?」

「別に、予定は大丈夫かって確認されただけで。今のところ大丈夫だし、外回りでも帰ってくるから、少し遅れるぐらいだと思うって答えたけど。そのことじゃなくて?」

「うん、そのことなんだけど、もともとはね・・・・内緒だけど、飯田君と飲んでみたい女の子がいて、ちょっと聞かれたから、じゃあ、一緒に行く?って誘ってみたの。すごく喜んでて、でも邪魔じゃないかとかも気にしてて。」

「鞠には相談していいかって聞いたの、そしたらいいって言われて。ゴシゴシには内緒。なんとか二人がゆっくり話をする時間があったらいいかなって思って。どう?」

「どうって言われても。分からない、相手にもよるし、飯田の反応が良かったら当然協力はするよ。」

「そうだよね。」

男女の温度差がくっきり。
女子なら『ある』気持ちはそのまま応援したいと思うのに、ゴシゴシは相手の飯田君の気持ちを尊重した。そうなのかな?面白がったりもしない、あくまでも飯田君ありき。

「その子と仲いいの?」

「ランチを一緒にとることが多いから、今日も隣にいたから相談されたの。一緒に飲んでたりしてるから、私と飯田君のことをちょっと聞きたかったのかもしれない。」

「まあ、そう思われるのかな?」

「ううん、確認までにって感じ。だって『どちらかというと夏越君だよね』って言われたから。」

「なんて、答えたの?」

「答えてない。」
言葉は何も言ってない。
バレたかもしれないけど。

頭に手を置かれた。

「今更だし。」

何が?

「これで遥が本当に浅田さんとカップルになってたら、俺は間抜けな振られ者だよな。皆がそう思っただろうな。」

「皆って、・・・・・そこまではない。ちょっとだけ近くにいただけだし。」

「別にいいよ。結果オーライ。」

頭の手が肩に降りて少し距離が縮まった。



紅茶をすっかり忘れてたけど、アイスで冷えた口の中はスッカリ温まった。
それ以上に、体から熱くなるくらいに。

志野ちゃんの事を相談しに来たのに、普通のデートみたいになって、それ以上の昨日の続きみたいにもなって。

明るい照明の下で、瞼には明かりを感じてる。

それでもほとんどがゴシゴシの陰になってる気がする。
あの日は全く使われなかったソファ。
でも今日は2人でゆっくりくっついて座った。

体が離れたら、中途半端に乱れた服を直して、駅まで送ってもらった。

「じゃあ、金曜日だな、楽しみにしてる。」

「うん。そうだね。」

「一緒に帰れるよな?」

「・・・・・うん。帰る。」


そんなやり取りがあって、一人の部屋に帰る寂しさを感じてて。
その頃には元々のきっかけの志野ちゃんの事はスッカリ忘れてた。


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