優しいマッチョ先輩とみたらし

羽月☆

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5 びっくりですが閉店時間となりました

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「続きを話していい?」

「何の・・・でしょうか?」

「恋活中の続きって話だけど忘れた?もう一回言う必要がある?」

「大丈夫です。どうぞ。先輩に今・・・・彼女がいないのは分かりました。」

「そうだね。今この瞬間はまだいない。この後、返事次第だな・・・・。」


返事待ち・・・・そういうこと。時々週末リア充って。
だったら何で、こんなところでまったりお酒なんて飲んでるのよ。

幸せな夜はもうすぐ終わる。お店の閉店を待たず、終電を待たず。
時計を見る。あと少しだけ、あと少ししたら駅に行く。
これを飲んで酔いを醒まして。
やっぱり恋活は社外ですべき!!とこぶしをあげて帰ってやる。
部屋には週末飲みセットが待っている。
まだまだ飲めるもん。全然余裕。
酔って酔いつぶれて、ちょっと悲しい愚痴も言って、明日には忘れる。
夢のような時間は夢だったと思えるように、忘れる。

でも電車に乗って、部屋に帰って、また脱ぎ散らして寝てしまうんだろう。
勝手に心ががっかりして。

「ずっと見てたんだけど、本当に何も気が付かなかった?」

「はい?」

「だから、ずっと鴻島さんを見てたから。新田さんが気が付くくらいに情報を盗み取って、頭が疲れた時も、一息ついたときも、ずっと見てたんだけど。なんで気が付かないかなあ?」

「・・・はい?」

「だから恋活中で、今、告白中、この後鴻島さんの返事待ち・・・予定。」

言われたことは分かってるし、思わず見つめてしまったけど真剣な顔で、揶揄ってるとかじゃない?

首を傾げられて苦笑いされた。

「返事はもらえないの?」

返事・・・・・。でも、なんで?何で私。
いつから?全然知らない。むしろどうしたの急に?って思う。

「いい返事しか受け付けない。それ以外は聞きたくないけど。・・・・俺の勘違い?」

俺???? 誰・・・・?

ゆっくり首を振る。
すぐに返事をしたらしい自分に驚く。

大きな手のひらが頬に当てられた。

「言葉で聞かせてほしい。」

「私・・・・起きてます?」

ちょっとがっかりされた気がする。

思いっきり当てられた手で頬をつままれた。

「痛いっ。」

結構痛い。容赦なくない?

「寝てるとしたら起きてくれる?だいたいいつから寝てるって言うの?やっぱり最初から言い直しする?」

「だって・・・・。」

「新田さんは何か言ってなかった?もう随分前から気が付いてたみたいだけど。」

思い返してみる。
三日に一回くらいは話題に出たかも。でもさり気ないニュース。
今日も飲み会に来ることは直前に聞いた。ちらりと。
本当に特別というより他のニュースに紛れ込ませて、ついでみたいに。
他の人の名前も出るし、気が付かなかった。
同期だって知ってるから、仲がいいのも当たり前だろうと思ってた。

「さっき勘違いじゃないよねって・・・・あの言葉はなんですか?」

もしかと思うけど、もしかなの?

「なんとなく、気が付いた。新田さんも俺の事より先に気が付いてたみたいで。」

バレてたの?二人に?いつ?というか、それならもっと私の方に協力してくれても良くない?
百合先輩、やる気を出すタイミング間違ってると思います。

「ね、まだ恋活するの?おしまいでよくない?」

返事次第だって事、分かった。
でもちゃんと言って欲しい。
私の方こそ勘違いじゃないって分かるように。
見上げて、精一杯視線にお願いをのせてみた。


「じゃあ、おしまいね。」

そう言われて勝手に決められた。

欲しくて、お願いしたのは言葉だったのに、唇に軽く触れるキスをされた。
言葉はあきらめた。・・・・・今のところは。

ゆっくり顔が離れたらつい周囲を見渡してしまった。
焦る、お店の中です。
笑われた、にっこりというよりニヤリと。
ちょっとエロいと思うくらいの唇の角度で。
悔しくなって、聞きたくもないのに聞いてしまった。

「この場所は、そういう時のための場所に決めてるんですか?初めてじゃないんですよね。」

ムキになった口調が我ながら可愛げがない。

「何?早速焼きもち焼いてくれる?でも二人掛けの席は今日初めてだよ。後は友達とあっちのグループ席だから。」

そんなに近くでささやかなくても聞こえるのに。耳元で言われた。

近くにあった両肩を押し返す。距離を取ろう。
ドキドキの心音を聞かれそう。
それに、なんだか言い方が意地悪で。
顔を見るとさっきの笑い顔と同じ顔で。
何だか、違う。もっと優しい感じだと思ってるのに。
含みのある甘さ・・・というかい怪しいまでに妖しいような。


「なんだか・・・嫌な笑い方してます。会社で見る優しい笑顔とは違うような。」

「本当?だってほらやっと一歩進んだからね。有効な時間にしようね。」

やはり笑顔が・・・・。うかがう様にその笑顔を上目遣いで見てしまう。
怪訝な表情になってるかもしれない。


「だから、そんな顔しないの。はいはい。」

腰を引き寄せられて近寄った体。
危ない!テーブルに足が当たる…と思いきや見事に足は置いてけぼりに斜め使いのソファ。

優しいいマッチョ・・・・、どこ? 
ちょっと強引な気がするし、強気で攻めてきそうな。
優しいという感じが消える・・・?

「うれしいね。だから飲んでいいって。何を愚痴るのかな?」

「多分?、松田先輩のことを言います、今なら。」

「なんて言うの?」

不思議そうな顔をする。
自覚無し?

そう言った顔は普通で。
さっきの怪しい妖しさはなく。見慣れた顔にホッとする。
でも腰の手はそのままで。
意外に実力行使派だったらしい。
筋肉が役に立ってるみたい。


「あの、近いです。」

「だってそのためにこの店ずっとキープしてたから。絶対連れてこようと思って。いい店だって言ってくれたよね。素敵にリラックスだったっけ?」

またちょっとニヤリと笑う。
なんだか百合先輩の腹黒と共通する雰囲気。

私の毒舌なんて、もしかして子ザルの威嚇ほどもないくらい?

相変わらず体から力が抜けない。

「松田先輩。・・・・ちゃんと聞きたいです。」

結局聞きたくなった。

「私が勘違いしてませんか?」

「じゃあちゃんと答えてくれるの?」

頷いた。

「ずっと好きだったから恋活終わりにして。これからの相手は俺にして。」

「終わりにします。先輩が好きでした。ずっと前から。勘違いじゃないです。」

「・・・・でしょう。そうだと思ったんだ。ね、良かったね。」

さっきからおでこがくっつくほど、近い。
少しどちらかが動けば・・・・・。
目を閉じた。おでこじゃなくてもちょっとずらせば唇が重なって。
少し音がする。

大丈夫?お店だってば・・・・。

でも周りは騒がしいグループのおかげで多分誰も気が付いてない、そう思いたい。
だから安心して何度もキスをした。
目を開けて息をつく。
むしろお店でよかったと、今思った。
きっと二人きりだったら、もっとかぶさるように重なってたかもしれないから。
何とか自分にブレーキをかけて。
お酒はちょっとオーバーしたけど、こっちはちゃんと理性で我慢した。

それからも何杯か飲んだ。安心して。
一向に記憶は失われず。幸せの余韻に浸り、腰に置かれた手を感じて。
もう、もたれる様にくっついて。

お店の人が来たときは寝たふりしてたけど、明らかに頼んだお酒が減ってるし・・・・。
恥ずかしい。

もしかして少し眠ったの?
あっという間に閉店近くの時間になってビックリ。
先輩の時計でそれに気が付いて、思わず時計を自分に向けた。

「先輩、朝。」

「そうだね、眠い?」

「割と平気そう。私、寝てました?」

「いや、起きてたと思うけど、ずっと話してたよね。」

「・・・・なんだかふわふわと記憶が曖昧で。もうキャパオーバーみたい。」

「俺はいい抱き枕だったの?」

そう言われて自分の姿を見ると、結構なポーズで抱きついてた。
もたれてるとは思ってたけど、がっつり足がのって。怖い、本能。
シュミレート無しでもこんなことできる自分にびっくり。
手はガッツリ体に巻き付いて・・・・。


急いで離れた。
やっぱり寝てたのかもしれない、記憶がない。こんなに巻き付いてた記憶・・・・。
もしやコアラの呪縛?
百合先が抱きついてると癒されるって、毎日のように言ってるから・・・・・・。
そんな言葉が影響した?


「先輩、・・・・私、何か言いましたか?変な事、言いましたか?」

「ううん、変なことは言ってないよ。でも新田さんには内緒にしてあげる。」

嘘・・・・。

「違います、大好きで憧れの先輩です。文句言ってもちょっとした恨み言です、今は感謝してます。本当に、大好きで尊敬してます。」

何を言った?
まさかコアラの餌にでもなれ!とか、勝手に抱きついてろ!!とか?
そして私が抱きついた?

「ああ、新田さんの文句は言ってないよ。大丈夫だよ。」

ホッとした。
何ですか、もう。びっくりした。
でも言いそうな気分だったかも、最後には感謝したとしても。
でもじゃあ、何?何を内緒にするの?


「まさか肉食女子並みに口説かれるなんて、うれしい・・・・寝言?」

何?

「やっぱり外では3杯までね。まさか毒舌魔と思って楽しみにしてたら、抱きつき魔のほうだったとは。うれしい驚き。」

それは・・・そうなんだろう。不必要にくっついてた気がする。
数時間まではただの先輩だったのに。

「あの・・・口説かれたって・・・。」

「内緒。ちゃんと気持ちは聞いたから。飲むと正直になるんだね。隠し事できないね。」

それはそうなんでしょう。だから愚痴も言うんでしょう。
反対の事も。
でも怒らせるような内容でも、呆れられる内容でもなかったようで。
それでも内緒にしたい内容とは?・・・・・やはり3杯まで。そうしよう。
一体何杯飲んだのか、レシートが怖いくらい。

帰ってちゃんと考えよう。反省会もしよう。
靴を履いて、頭はまだ思考停止のままで、手をつながれたままお会計をした先輩についてお店を出る。
外に出てお金を払おうとした。やはり結構な金額だったから。

「いいよ。俺が誘ったし。面白かった。」

面白い・・・・・。
ああ~、自分の顔が情けなくなるのが分かる。
もう何が恥ずかしいのか分からない。何を喜んでいいのかも。

「ね、俺んち来る?」

「な、な、何でですか。帰ります。もう朝です!」

「帰って何するの?」

「寝ます。いろいろリセットしたいです。」

「それ自分の部屋じゃなきゃダメなの?」

「ダメです。」

がっかりした表情だけどこのまま誘われたりはしない。

「じゃあ、夕方は?」

「そんな約束したら気になって眠れません。無理です。お願いです。一人静かに考えたいです。」

「そんなに一緒にいるの嫌がられるの?あんなに熱烈アピールしてきたのに。」

「だから酔ってるときは知りませんって言ったじゃないですか。責任もてないとも言いました。だからそんな事言っても無理です。」

手をつないだままぐずるカップル、変です。恥ずかしいです。

「じゃあ日曜日は?」

「・・・大丈夫です。空いてます。」もちろんです。

「分かった、じゃあ、夜に電話する。寝ててもいいけど、起きたら連絡してね。」

「はい。」

「一人で帰れる?送って行って泊まってあげようか?」

は?今までの話はどこへ。
顔を見るとニヤリと笑われた。

「結構です。ちゃんと目は覚めてます。おかげ様です。」

「何、抱き枕が良くて気持ち良く眠れたって事?」

小声で話さないでください。耳元で。

「お酒が美味しくて気分がいいということです。」

改札まで送ってもらい別れた。

思ったようなしっとり落ち着いた関係じゃないかも。
何だか意地悪なくらい揶揄ってくる。
そんな人だったの?
もしかして百合先輩も見誤ってる?
来週聞いてみよう。
今日の事知ってるの?報告するの?聞かれるの?

取りあえず、今はもういっぱいいっぱい。
先ずは寝る。後はそれから。

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