がさつと言われた私の言い分は。

羽月☆

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5 憧れた人に向かって進むドラゴン。

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昔から文字が苦手だった。文字というか言葉が苦手で。

小さいときの算数は数字より問題文が面倒だと思った。
そのうち数学になると文字がなくなりもっと数字が目立ってきた。
答えは一つしかない。
その一点に向かって数字の羅列をほぐしていくと目当ての「解」が得られる。
すごくスッキリする。

それに比べて国語の難解なこと。
作者の気持ちとか登場人物の気持ちを想像しろなんて。
本当にそれが正解なのか、誰がそう決めたんだろうと、納得も出来なかった。


英文読解、国語の感想文。
文章が長くなると焦点がボケる。
要約にいたってはあまり必要性を感じない。
書いてることそのままだと思うのに。
完全にまとめたと思ってもいい点が貰えず。

どうやら完全に向いてないと分かった。

高校生のとき担任が化学の先生でちょっと変わってたけど、実験室に入り浸っていろいろと楽しい話をしてもらった。
今は化学も楽しむものらしく、有名な先生がテレビに出て派手なパフォーマンスをしてくれている。
あそこまでではなかったが、もっと安全な遊びのような実験を見せてくれてすごく興味が湧いた。
説明を聞く自分に熱心に説明してくれる先生。
今では仕事にも出来てる。
気楽な実験とは違うけど、多分自分には向いている。
本当にあの先生に感謝したいくらい。
同窓会があったらって思ってるのになかなかなくて。


ああ・・・・。
言葉は本当に難しい。
何でこうなったんだろう。

週末金曜日。一人で時間をずらしてランチに出かけた。
実験の区切りのいいところで出かけるので、そんな事はまあよくあることで。
適当に駅のほうへ行きサラリーマンや私服の若者に混ざって安い定食を食べる。

この間、初めて先輩である高田さんに誘われて飲み会に参加した。
その少し前に一緒に蕎麦屋に行った時に、偶然隣の区切られた席にいた皐月先輩の失恋話を聞いて反応したから。

前からよく高田さんのところに顔を出してるのを見かけてはいた。
美人の先輩だと思っていた。
他の人が名前を呼んでいたからフルネームを知ることは簡単で。
そんなことを繰り返してるうちに、皐月先輩が来た声に反射的に顔を上げてしまうようになって。

本当に美人だし、話し方もかっこいい、はっきりと物をいい、高田さんをやっつけてるやり取りなんてコントの様でもあるけど、キリリと睨む顔が綺麗で。
なんだかんだと一番気になる先輩だった。
高田さんと同期だとすると多分5個くらい年上の先輩だ。

他に誰も気になる存在もいない自分。
一番であり、唯一でもあった。

ほとんど飲み会にも顔を出さず、たまに出ても知り合いもいない、端で大人しくしてる、実験室にこもっていて会社の人とすら接点がないから。


皐月先輩に彼氏がいるのは高田さんとの話の内容で知っていた。
長続きせずに別れるのも聞いていた、何度か・・・・。
それでもまたすぐに新しい彼氏の話が出てくる先輩。

そのたびに笑顔と般若のような顔を交互に高田さんに見せてる。

廊下や、会社の行き帰りに時々見かけることはある。
そんなときはそこまで感情がもれてないから、相変わらずしっかりした綺麗な先輩だった。
高田さんにだけ見せる顔、彼女がいるとは分かってても特別なのかな?
同期だと言うのは知っているけど、もしかして・・・・。



そしてあの日、蕎麦屋で皐月先輩とその友達がいなくなって・・・・。
目の前を向くと先輩に聞かれた。

「やっぱ、あれか?あいつがいいのか?」

ぼかした聞き方だったけど、いつの間にバレてたのか?
うなずくことはせず、まっすぐその目を見てた。

「その気があるならチャンスだな。あいつはすぐに次の誰かを見つけるんだから。」

はっきりバレた、そう思った。

チャンスといわれても存在さえ認識されてない。
どこから、どう近寄れというのか、今までそんなこと想像もできずにいた。

「今度飲み会に連れて行くから、向かいの席に座って自分をアピールしろ。」

そう言われて素直にうなずいた自分。
顔は赤かっただろう。
自分が興奮してるのが分かった。

ちょっと頑張りたい、いや、ちょっとと言わず、全力で、今。

そうしてしばらくして金曜日に飲み会が開かれた。
本当に向かいの席に座れたけど。
明らかに他は先輩方で。
名前も知らない人々ばかり。
高田さんはずっと向こう。
自分からは誰にも話しかけることもできず。

なんだか皐月先輩の隣の先輩の視線がチラチラとこっちを向く。

他は皆顔見知りなのだろう、自己紹介もなく、皐月先輩しか名前は分からない。
ただ斜めの先輩は『はるか』さんらしい。

途中からやっと皐月先輩と話が出来るようになった。
もちろん先輩から話しかけてくれたから。
自分も大分お酒を飲んでいたし、ほろ酔い気分だった。
うれしくてうれしくて。
でもしっかり会話がしたくて。

緊張の波が全身に行きわたる。

いきなり話しかけられたときは心の準備すら出来てなくて、本当にびっくりしてしまった。
適当に始められた会話だったと思う。

一緒にお酒を追加して乾杯して。
何故か隣の『はるかさん』の視線はこっちに向くこともなくなって。
もしかして・・・・・。


名前を教えた。皐月先輩と呼んでいたから下の名前を教えた。
『竜です。』と。
かっこいいと言われてうれしくて。

まさか蕎麦屋で自分が聞き耳を立ててて、先輩の振られた原因を知ってるなんて思ってもないだろう。
さりげなく自分の弱点をさらけ出してる。
よっぽど気にしてるらしい。
それに自分が真面目という話の流れになり、几帳面と思われてるようだ。
普通だとは思っているのだが。

高田さんに聞いたけど本当に何度となく付き合ってる彼氏に呆れられて振られてるらしい皐月先輩。

むしろまったくそうは見えない。
何がその『ズボラ』といわれるところなのか。
想像だけが膨らむ。

そして今回連続で三人目。そう高田さんが言っていた。
さすがに反省するだろう。
そこで反省して努力するのが普通だと思う。
だか蕎麦屋での話では矯正不能と諦めてるみたいで、逆に笑って許してくれてる人を探したいと言っていた。
ますます興味が湧く。
どんな部屋で、どんだけズボラなのか。


でも今見てもお化粧も綺麗で服もきちんとアイロンがかかってる気がするし、爪や髪の手入れも全然・・・・本当に綺麗で。見とれるくらい綺麗で。


思わずにっこりされてしまって、照れるほどで。

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