がさつと言われた私の言い分は。

羽月☆

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20 突然の行動で迷路に誘われそうになったドラゴン。

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マンションの前に立ち、灯りのついた部屋を見つめる。
皐月さんの部屋だ。
勿論招待されたわけじゃない。
あんなに拒否されていたから、来ていいよ!なんて言ってもらってはいない。

今まで駅名は知っていた、他にもいろいろ話の中で漠然と想像していた。
窓からは何が見えると、周囲の建物、環境、部屋の位置。
どれも僕には大切な情報で、ちゃんと覚えていた。

ちょっと前に一緒に買い物に行った。
皐月さんが友達に誕生日プレゼントを買って送りたいと言ったのに付き合ったのだ。
皐月さんは知らないだろうけど、その伝票に書かれた住所は簡単で覚えやすくて。
やっぱり間違ってないと思う。
ポストでも確認した。
後はオートロックを開けてもらって部屋に上げてもらうだけ。

荷物は、仕事仕様でバッグの中は着替えのシャツと下着だ。
泊めてもらう気で来た。

どうだろうか?
部屋に入れてくれるだろうか?

ぼんやりと部屋の明かりを見上げる。
ストーカーのようかもしれない。
怪しまれてしまう。

意を決して、部屋番号を押してみた。

ガチャっと音がして、皐月さんの声が聞こえた。
きっと自分の姿も見えてるだろう。

「皐月さん、・・・・・お疲れ様です。リュウです。」

「どうしたの?」

「話がしたくて。・・・急にすみません。」


「・・・・・どうぞ。」

ロックが外れた。

部屋には入れてもらえるらしい。
どんな顔をされるのかはわからない。
ルール違反だと思われるだろうか?


部屋の前に立ちドアベルを押そうと思ったらドアが開いた。
少し俯いたまま立ち尽くしてしまう自分。

「リュウ?」

その声に顔をあげた。
連絡もしないで、約束もなしで・・・・・でも、そんな嫌そうな表情には見えない。

「どうしたの?とりあえず、入って。」

そう言われてドアノブに力を込めて開いて、入る。

玄関には仕事用のヒールが一足。
楽そうなサンダルが一足。

一歩引いた皐月さんと目が合う。

「皐月さん、突然すみません。本当に、いきなり、連絡もしなくて。」

「うん、そうだね。・・・・ちょっとびっくりした。何で知ってたのかなあ?とか。」

「この間荷物を送る時の伝票を見ました。後、会話の中でヒントもたくさんあったので、見つけやすかったです。」

「どうしたの?」

上がってとは言われない。

「僕は・・・・やっぱり高田さんには敵いません。高田さんのように皐月さんの横に並ぶことはできないと思います。多分、この先、しばらくは、あるいはずっと。」

「・・・・そう。高田ね・・・・。」

「はい、多分、・・・・・無理です。」

「そう、・・・・・リュウが、そう決めて、それでいいなら、私は何も言わない。楽しかった。ありがとう。」


一歩引いて壁にもたれた皐月さん。


あれ?
今何かが終わったような・・・・。
楽しかったって・・・・なんで?


顔をあげると視線を天井に向けてぼんやりしてる皐月さんがいて。


「皐月さん・・・・?」

「うん、大丈夫。気を遣わせてごめんね。」

そう言って、また一歩後ろに下がる。

「皐月さん、僕は、ただ、高田さんみたいにはなれないって言ったんです。」

「うん、ならなくていいと思うけど。別に高田に横にいて欲しいなんて思ってもないし。リュウこそ何か誤解してるの?でも違うって思うなら、離れた方がいいと思う。リュウには、可愛い子が似合うと思うよ。すごく男らしくなったよ。時々最初の頃の可愛い感じが懐かしいくらい。きっと大丈夫だから。私も大丈夫だし。」

そしてまた一歩離れた。

自分は何を間違ったんだろう?
ただ、どうしても、高田さんより自分の方を向いてほしくて。
僕の方を向いてって言って欲しいだけなのに。

ゆっくり靴を脱いで上がった。
荷物はそこに置いた。
シャツも下着も入ってる。
別れ話してるつもりなんてないのに。
だって、ここに泊るつもりなのに。
やっぱり勝手に勘違いして話を進めたの?

それでも少しも悲しい顔をせずに、大人の顔で、あっさりと別れを認めてくれた皐月さん。

本当にそんな存在なのかって・・・・・・。

皐月さんの目の前に立つ。
狭い廊下で向き合う二人。
見ろした皐月さんの目が少しは潤んでるような気がする。

「皐月さん、何で別れ話してるんですか?また勝手に誤解しましたよね。」

腕をつかんで力を込めた。

「リュウ・・・・、何・・・・・?」

少し眉間にしわが寄った皐月さんに気が付いて、少し力を抜く。

「すごく悲しいです。怒ってます。勝手に誤解したのはいいです、僕の言い方が悪かったとして。でも、そんなに簡単に諦められる存在なんだって。全然、縋りつく言葉も、確かめる言葉もなく、僕なんて、あっさりと手放していい存在なんだって、そう分かって・・・・。」



「そんなに軽い存在ですか?あってもなくてもいいような、おまけのような存在ですか?」

「僕にとって皐月さんは、そんなに簡単に手放せる存在じゃないです。みっともないって言われても、縋りついて行かないでって言いますよ。まさか『分かった。』なんて一言で片づけられるなんて。」

「まさか、最後の最後に大丈夫だから自信もって次に行きなさいなんて・・・まるで子供を送り出す母親じゃないですか?」


「リュウ・・・・何が言いたいの?何を言いたかったの?」

「だから、僕は僕です。高田さんみたいじゃないですが、それでも僕なりに皐月さんの近くにいたいんです。今夜はここに泊めてください。何も・・・・隠さないでください。」

「隠してない。何を隠すの?高田が何か言ったの?」

「高田さんはここに来たことがあるんですよね。」

「ええっ、ないよ。なんで?あるわけないじゃない。」

「高田さんが『カオス見学には行ったのか?』って前に聞いてきました。高田さんは皐月さんの部屋を見たことないんですか?」

「カオス・・・・って、同期の子が言ったのよ。失礼なって言いたいけど、しょうがない、その通り。でも高田は来てない。なんでそんなに気にするの?普通に同期だからよく話をして、仲が良く見えるけど、出会う前からあいつには彼女がいるし、私も、別にそんなつもりは全くない。リュウが何を気にしてるのか・・・分からないくらい。」

「なんで、さっきはあんなにあっさり・・・・・。」

ゴン。

皐月さんの両腕をつかみながら、もたれるようにしたのに、先についたのは壁と自分のおでこだった。

「全然分かってないのは、リュウも同じ。平気なわけないでしょう。手を伸ばさないように少しずつ離れてたのに。突然来て、あんなこと言われて。何かあったって思うし。まったく部屋に上がろうともしないじゃない。言いたいことだけ行って帰ると思ってた。全然、余分でも、おまけでもないよ。そんな訳ないじゃない。何でわからないの?本当はかわいい子の隣になんて絶対行かせたくないから・・・・。」

「・・・・そばにいて。」

その声が震えていて、顔を覗き込んだ。
目がはっきり潤んでる。

見つめ合ってる間にほろりとこぼれた。

「すみません。高田さんに、やきもちを焼いてしまいました。休憩室での話も何だか意味ありげで、すごく楽しそうで。絶対混ざれないって思って、引き返したんです。」

「リュウが来たら、高田が消えてくれるから。今度からすぐに来て。」

「ごめんなさい。」

「いいよ。」





そのまま部屋に入った。
すぐに皐月さんが言い訳した。

「これでも頑張って捨てたし、最近はちゃんと片付けるようにしてるけど。無理なところもある。」

そう言って照明を落とした。

「皐月さん、暗い。」

「いい、テレビをつけるから。」

テレビが暗い部屋でいろんな色を放つ。

クッションの横に座った皐月さんの横に座る。

「皐月さん、泊っていいですか?」

「いいよ。暗いけど。」

電気はつけたくないらしいが、別に構わない。

「いいですよ。ちゃんと着替えも持ってきてます。泊まるつもりでした。まさか別れ話をしに来たと思われるなんて、本当に勝手に勘違いするなんて酷いです。」

「リュウの言い方が悪いのよ。もっとわかりやすく言えばいいのに。」

「皐月さん、パジャマを持って来てないです・・・どうしよう、でも元カレのは嫌ですよ。」

「あるわけないでしょう。」

「じゃあ、バスタオル貸してください。こんな暗い中でテレビ見たら目が悪くなりますよ。ササっと済ませますので、違う部屋に案内してください。」

テレビの光に顔が照らされる。
いろんな色と映像が肌に映りこんで、ちょっと怖いくらい。

手を取って立ち上がり、バスルームに案内してもらう。

結局カオスはあんまり確認できなかった。
さほどでもなかった気がするけど。


ガサツというなら、元カレと寝たベッドで抱き合う自分たちも、そうかも。
気にしてもしょうがない。
でももっともっと、声と汗と何かがしみこめばいいと思った。
元カレの気配なんて吹き飛ぶくらいに、激しく声を出してもらって、愛した。
今朝のあわただしい抱き合い方なんて、あんなんじゃ物足りない。
何度も何度も、我慢できるだけ我慢して、皐月さんを追い込んで。
随分その辺はコントロールできるようになった自分。
最後の最後に吐き出した時は自分が悲鳴に近い声をあげて震えていたけど。

少し休んでもまだまだ足りなくて。
くっついた。

「皐月さん。もっと縋りついて。」

「リュウこそ、もっと、・・・・我慢しないで。」



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