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9 ちょっとだけ何かを後悔した夜。
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部屋に帰って早速忘れないうちにナナオをポケットから出した。
しばらく変化を解かないナナオをじっと睨んでたら、やっとゴロンと転がりいつもの姿に戻った。
「ねえ、絶対何か企んだでしょう?」
「同居人の借金をなしにしてあげようと思っただけ。」
「そんなはずないよね。」
「あるある。ないことない。」
「ねえ、高森君があそこの家の子だって知ってたんでしょう?すっごく近所じゃん。神様のお使いの途中見かけたりしたんじゃないの?知ってたんだよね。」
無言。
「知ってたんだよね。」
ちょっと優しく言ってみたら上目遣いに見上げてきた。
「知ってはいたけど別に一緒に来たわけじゃない。ちゃんと一人で来たし、机の上で寝転んでた時に隣に座った顔を見て驚いたから。ちょっとよく見て確かめようとごろごろ転がっただけで。」
「ふ~ん、それでペンケースから勝手に転がって高森君の方に確かめに行ったんだ。」
「まあ、そう。」
「驚きだよね。」
「偶然ってあるんだね。」
「こんな事ならあいつの荷物に紛れて来ればよかった、なんて思ったけど。」
何だか怪しさ満載。
「今日風を起こして私を転ばせたのもわざとなんだよね。」
「千早が疲れた顔してぼんやり歩いてたんじゃないの?ちょっと退屈だったから元に戻っただけだし。」
「今全く風は起こらなかったのに、なんであの時だけ風を起こしたのよ。」
「ちょっと広い所だったから。」
「ねえ、ナナオの研修って私をあの場所に連れて行くことなんでしょう?連休に行くつもりだよ。もし、そこに私が行ったら研修は終わり?」
「そんなゴールじゃないよ。まだまだ社会勉強もしないといけないし、千早だって全然まだだろう。」
まだと言われれば全然まだだ。でもそれが何の関係が?
「本当に違うの?」
「違うよ。」
「じゃあ、連休にあそこに一緒に帰ったら・・・・二度とここには帰ってこないとかじゃない?」
そう聞いたらちょっと口が開いたナナオ。
ヘラッと笑い顔になって、その瞬間後悔した。
もっと聞き方もあったかもしれないのに。
「大丈夫だって、ほら、まだまだ未熟者の千早にはお手伝いが必要だろうから。成長あるのみだよな。早く大人にならなきゃ。」
笑ってそういう。
「老犬に言われたくない。」
「お風呂に入る。」
そう言って立ち上がり寝室に行った。
後でお父さんに連絡しよう。
週末には毎週連絡してる。
元気で頑張ってる、仕事も少しづつ慣れてるって。
でも懐かしい友達に再会したことは言わないと思う。
月曜日、研修の部屋に集められて配属を告げられる。
『お告げタイム。』
隣に座ったのはリリカちゃん。
「ねぇ、千早ちゃん、やっぱり企画は喜ばない?」
「えっと、そんなことないかな?」
「やっぱり私だけだったみたい。先輩がそう言ってたの。千早ちゃんが一緒だったら嬉しいなぁ。」
また、そう言われた。
「楽しかったけどそんなに自分じゃいい企画考えられなさそう。」
「同じイベントでも毎年ちょっとは変えていくって。そんなアイデアでもいいって言ってたよ。」
「リリカちゃんいつの間にそんなこと聞いてたの?」
「だって千早ちゃん、トイレに行くって言って、なかなか帰って来なかったから、先輩が心配して来てくれたの。そのときに聞いたの。」
廊下で転びそうになり、トイレでナナオに文句を言ってたとき。
確かに長いトイレだったかも。
斜め二列前に高森くんはいる。
他の男の子と話をしてる。一人は営業研修で一緒になった葉山君。
部屋の中も賑やかなのは大分皆が仲良くなれたからだろう。
静かにドアが開いて、いつものスーツの人が入ってきた。
あああ・・・・。
「良かった、千早ちゃん!」
隣で喜んでくれてるリリカちゃん。
リリカちゃんは第一希望通り、私はとりあえず研修先に選んだ企画課に二人でいる。
「よろしくね!」
「うん、よろしくね。」
ちなみに高森君と葉山君は営業に行けた。
一緒だったらよろしくと言われたけどそうはならなかった。
「二人とも先週に引き続きよろしくね。ついでに私がそのまま指導担当です。可愛い女の子二人でみんな喜んでるから。」
引き続き指導してくれることになった三葉さん。
「早速だけど、今週金曜日歓迎会やりたいんだけど、どう?」
「大丈夫です。」「私も。」
二人で答える。
とりあえずは最優先です。
この間高森くんがまた金曜日にご飯食べないって言ってくれてたけど、きっと営業も歓迎会だと思うし。そうじゃなくても葉山君と同期の飲み会とか、するよね。
ぼんやりした言葉で約束とまでは言えないものだった。
「じゃあ詳しい事はまたね。」
先週に引き続いてだとやりやすいとまで言われて、歓迎された気分だった。
二人で先輩についてひよこのように行動を追うように。
外に行くことはないけど、会議室で他の課の人と打ち合わせしたりもする。
一度だけ営業の人とも打ち合わせをした。
そこに葉山君はいたけど高森君はいなかった。
その夜に高森君には連絡していた。
『金曜日歓迎会があるみたい。高森君は?』
ちょっと緊張したけど早く伝えなきゃってずっと思ってた。
しばらくしたら返事が来た。
『まだ本決まりじゃないけど、そうかも。いっそ一緒にやれたらいいのに。』
そう言われた。
それは変かもしれない。
そして本決まりになり、そのまま約束もどきは消えた。
先輩たちは皆優しい、意地悪な人はいないし、隣でリリカちゃんが楽しそうなのを見てたら、私も楽しく働けそうな気がしてきていたし。
でも一緒に会議室にいた他の課の先輩も皆優しそうで、会議室の雰囲気も良かった。
最近すっかり大人しいナナオ。
相変わらずポケットに入ってる。
時々一人の時はポケットから出してあげてる。
頭を撫でたり、あごの下をくいくいとやったり。
なんとなく表情が変わってる気もするのは気のせいじゃないと思う。
なかなか一人になることはないから、話しかけることはない。
「ねえすごく大切にしてるの?」
ポケットから顔を出してるナナオの顔を指さされた。
「あ・・・うん。なんとなく気に入ってるの。お守りみたいにつれて歩いてる。」
「誰かからのプレゼント?」
そう言ってリリカちゃんにいたずらそうな笑顔を向けられた。
その笑顔もすごく可愛いと思った。
「ううん、そんな感じじゃないよ。」
「かわいいね。犬好きなの?」
やっぱり犬・・・。
ナナオががっかりしたのが分かる。
リリカちゃんが可愛いから怒らないだろうけど、多分がっかりしてると思う。
「う~ん、この子が特別に気に入ったかな。リリカちゃんはそんなのない?」
「え~、ないなあ。」
上を向いて考えた後言われた。
「部屋にある特別なぬいぐるみとか。」
「ないよ。」
あっさり言われた。
お部屋はちょっとキャラクターとかもふもふ柔らかいものがあったりするんじゃないかと勝手に思ってたのに。
その辺は大人趣味なんだろうか?
金曜日の午後。
今までのイベントの資料を見て二人でいろんな意見を出し合うように言われた。
見てるのは毎年の恒例のもの。
新しく気がついたことがあったら言うようにと。
そんなことを期待されても困る。
二人で見ながら、画像も見ながら。
『楽しそうだね。』『すごいね。』『今年は行ってみたい。』
そんな感想だけだった。
夕方は歓迎会があるから、それまでの自由時間だった。
そして先輩の仕事が終って、私たちも続きはまたと言われた。
企画部の皆で異動する。
近くのレストランと言われてた。
本当に小さいレストランだったけど二階の部屋に通された。
今日営業も歓迎会になったと高森君からの連絡で知ってた。
次の約束もないし、その他の話は続かなかった。
週末は買い物もしたいし、ナナオとおしゃべりしながらおやつ食べたりするのもいいかなって思ってた。実家にも帰る予定を立てて、妹にお土産を選びたいとも思ってた。
週末はそれなりにすることがあるからって思ってもいた。
特別にお互い連絡もとってもいなくて。
それなのに。
ドアを開いた先には既に何人かがいて、その中の真ん中に葉山君と高森君がいた。
それに研修でお世話になった先輩達の顔。
営業の人たちだった。
当然私とリリカちゃんも真ん中に案内された。
先輩に促されて真ん中に並んで四人固まった新人。
高森君はびっくりしてなかった。
当たり前だ。
テーブルの片方に営業の人が固まって、半分の席がきれいに空いてるんだから。
合同ですか?と聞いただろう。
私が驚いた顔をしたのを見て、笑って『びっくりしたよね。』って顔をした。
葉山君と高森君にも挨拶した。
営業の見覚えのある先輩が音頭を取って乾杯をした。
大皿で料理が運ばれてきて、四人で話をしながら食べる、飲む。
リリカちゃんがうれしそうに話をするのを聞いてた。
話しかけられてるのは向かいに座ってる高森君が多いかも。
そして高森君も楽しそうに答えてた。
そんな二人の様子を見てたら葉山君に話しかけられた。
「営業希望してたんだよね。週末の手伝いもあって体力がいるから男子のほうがいいって話にはなったみたいなんだ。」
「そうなんだ・・・・。そうか。」
「企画も楽しそうだよね。一緒にやることが多いみたいだから、飲み会も合同が多いって言ってたよ。」
「そう。よろしくね。」
「うん、こちらこそ。」
確かに男性社員が多い。
企画は男女同じくらいの割合だ。
周りを見てそう思ってた。
「でももうお給料日だよね。来週だよ。高森君と飲みに行こうといってるんだ。」
「そうなんだ。何だか早かった気がする。じたばたして一ヶ月たったんだね。」
「ねえ、一緒に飲みに行かない?」
そう誘われた。前の時はダメになった飲み会。
「四人で?」
「うん、四人で。」
そう言われて隣を見たら、うれしそうに行きたいと言ったリリカちゃん。
聞こえたらしい。
「どこがいいかな?女子が入るなら二人だけよりはいいトコにしよう。」
葉山君が張り切る。
それにリリカちゃんが答える。
斜めに会話が始まって、そっと高森君を見たら目が合った。
さっきからずっと笑顔で楽しそうだった。
お酒を飲んで顔もちょっとだけ赤い。
さっきおかわりしていたのを見ていた。
リリカちゃんがグラスを満たしてあげて、次にリリカちゃんのグラスにも注いでいた。
本当にうれしそうだったし、楽しそうだった。
少し見つめあった後、視線をそらした。
ポケットの中でナナオを叩いた。
おでこを人差し指でバシバシと。
それはモヤモヤのやつあたりとも言うかもしれないけど。
いつの間にか先輩たちは席替えをしていて、グループが出来てるように固まって盛り上がっていた。
歓迎会なのに・・・・。
「千早ちゃん。」
そう呼ばれた。営業のときに隣にいて少しだけ話をした先輩だった。
「お疲れ様です。矢上先輩。」
「千早ちゃんが営業に来てくれると思って楽しみにしてたのに、残念だった。」
「はい、企画になりましたけど、今度ご一緒するときはよろしくお願いします。いろいろ教えてください。」
「もちろん。」
そう言って新しいグラスを持たされて、お酒を注がれた。
お返しに先輩のグラスにも注ぎ返した。
普通に。普通の笑顔で、よろしくお願いしますの笑顔で。
「ねえ、千早ちゃん、週末は何するの?」
「今週はいろいろと買い物をしたり、実家のお土産を買ったりです。お給料があると思うとなんだか買い物も楽しくなりそうです。」
「どっちかのお昼、一緒に食事しない?」
「・・・・週末ですか?」
「うん。先輩だからおごります。就職祝い。」
「そんな親戚のお兄さんじゃないんですから、変です。」
そう言った。
「デートしよう。好きな人いる?」
相変わらずの笑顔で聞かれた、さらりと。
「今はいませんけど。」
「じゃあ、決まりでいい?」
そういって携帯を出して、つられるように私も出して連絡先を交換した。
「矢上さん、紹介して欲しいとか言いながら、さっさと自分でアプローチしてるじゃないですか。」
「だって楽しそうでなかなか紹介してくれなそうだから。隣の特等席が空いてたから、来ちゃった。」
「日疋さん、矢上さんがずっと日疋さんを紹介して欲しいってうるさくて。いい人らしいよ。他の先輩にも聞いたけど悪い評判はないよ。」
葉山君がそう言った。
そんなこと、知らない。
「あ、無理やりだったかな?本当に食事して、買い物があれば荷物もちでもするし、一人が良かったらそこでバイバイでもいいよ。」
そう言われて、目が合って、うなずいてしまった。
うれしそうな笑顔を見せてくれた矢上さん。
食事だけなら、いいよね。
色んな話が出来たらいい。
先輩だからいろんな話が聞けるし。
「やった~、今日参加した目的は達成できた。」
「楽しそうですね。」
葉山君が楽しそうに言う。
葉山君は仲がいいらしい。
「羨ましいだろう。」
「とりあえず良かったです。僕は後は自由でいいですよね。」
「いいよ。」
「千早ちゃん、好き嫌いは?」
「ないです。」
「じゃあ、僕が勝手にレストラン予約していい?」
「そんな、予約するようなところじゃなくて、普通に空いてるお店でいいです。」
「そう?そのほうがいい。」
当たり前です。
「はい。そのほうが楽です。」
「分かった、夜に打ち合わせしようね。」
そうなるの?
ここで二人の約束を決めるのもおかしい。
でも、何でこうなった?
グラスを持って、こっそりとお酒を見るふりをして俯いてナナオをみたら、冷たい目が見上げてる気がした。
でも多分気のせいだろう。
顔を上げて高森君を見たら、合ったはずの視線はすぐにそらされた。
不自然なくらいに反対を向かれた。
さっきまでうれしそうにしていたのに。
リリカちゃんと葉山君がお店を決めたらしい。
高森君が聞かれてる。
表情はまた楽しそうに戻ってた。
明日と来週金曜日の予定は決まった。
矢上先輩はそのまま近くにいた。先輩なのに私たちの分まで料理を取りわけてくれたり、お酒をグラスに注いでくれたり。
すごく器用でマメな人らしい。
どんどん注がれたみたいで、ちょっと眠くなる。
お酒はやめたほうがいいと思うくらいには飲んだかもしれない。
途中トイレに行って鏡を見た。
ぼんやりした目と少し赤い顔と向き合った。
お酒は終わりにしよう。
ポケットからナナオを出した。
クルクルと棒を回す。
目が回るんだろうか?
何の抗議もなく。
ただされるがまま回ってるナナオ。
話しかけるのも変なのでまたポケットに戻した。
トイレから出たら矢上先輩がいた。
顔をあげてそこにいたから思わず悲鳴が出た。
「きゃっ。」
立ち止まって見上げた。
「ごめんね。ビックリさせた?気分悪そうだったからちょっと心配だったんだけど、大丈夫?」
「はい、大丈夫です。」
「良かった。ちょっと思いっきり注いだから責任感じるし。」
「大丈夫です。でももうやめておきます。初めての飲み会で伝説を作りたくないですし。」
「なんなら送っていくよ。」
「いえ、本当に大丈夫ですよ。」
そんな話を立ち止まってしていた。部屋の隅のトイレで、植物があって目隠しになっていた。いきなり高森君がそこから出てきて、矢上さんの後ろを通ってトイレに行った。
ゆっくり歩きだして、部屋に戻った。
相変わらず新人はポツンと真ん中にいた。
それでも今は二人になっていた。
矢上先輩もそのまま四人席の空いた隣に加わったまま。
「リリカちゃん、結構飲めるの?」
ちょっと赤い顔が可愛い感じでいいかもしれない。
「普通だと思う。」
「千早ちゃんは?」
「私も普通。でも今日はもういい。結構飲んだみたい。」
「じゃあウーロン茶でも頼む?ジュースがいい?」
隣から矢上先輩がメニュー表をひらいて渡してくれた。
「矢上さん、素晴らしく気が利いてます。そんな評判は聞いてませんでしたが。」
「それは、おかしいなあ。」
ジュースが届くころになって高森君も帰ってきた。
リリカちゃんがお酒の事を聞いている。
「僕も普通だと思うよ。」
「じゃあ、来週たくさん飲もうね。楽しみにしてるね。」
声だけで笑顔が浮かぶくらい。
うなずくような高森君の笑顔も浮かびそう。
そっちは見なかった。
ぼんやりと葉山君の方を見ていた。
「千早ちゃん、どこに住んでるの?一人暮らしなんだよね。」
「はい。就職して一人暮らしをしました。妹に部屋を譲ろうとも思ったんです。」
「いくつ下なの?」
「中学生になりました。大分離れてるんです。」
「そうだね。でも千早ちゃんの妹なら可愛いだろうね。」
「似てませんよ。」
「そうなの?」
「はい。」
半分しか血はつながってない。私はママに似ていると思う。
妹はパパとお母さんの二人に似ている。
だから私とは似てない。
その後もほとんど放っとかれた四人と矢上さん。
終わりまでそんな感じだった。
そのまま解散で駅までぞろぞろと歩いて別れた。
リリカちゃんを支えながら前を見て、歩いた。
ご機嫌に仕上がったみたいだった。
「高森、送った方がよくないか?」
矢上さんが高森君に言ったのも当然だと思う。
「大丈夫です。駅でコーヒー飲んで電車に乗ればすぐです。」
一応はちゃんと歩いてるし、大丈夫だとは思うけど。
私は何も言えない。
駅について二人を残して改札に入った。
隣に矢上さんがいた。
葉山君は違う方向に歩いて行った。
「バイバイ。」
リリカちゃんに手を振られた。
そんなリリカちゃんには手を振った。
「気を付けてね。お休み。」
そう言って別れた。
その後すぐに矢上さんと別れて。
すっかり酔いが醒めた私は大人しく部屋までまっすぐ帰った。
ぼんやりしてたら携帯が鳴ってビックリした。
登録したばかりの矢上さんだった。
『明日お昼に待ち合わせてもいい?』
ぼんやりとそのメッセージを見る。
『はい。』
そうとしか言えない。
何であの時に断らなかったんだろうと今は思う。
やっぱり疲れた一週間であっという間に眠れた。
リリカちゃんに連絡すらせずに寝た。
ナナオ・・・・。忘れていたけど、勝手にポケットから出ただろう。
話をしない夜なんて初めてだ。
「お休み、ナナオ。」
ベッドの上でそう言ったけど、返事はなかった。
しばらく変化を解かないナナオをじっと睨んでたら、やっとゴロンと転がりいつもの姿に戻った。
「ねえ、絶対何か企んだでしょう?」
「同居人の借金をなしにしてあげようと思っただけ。」
「そんなはずないよね。」
「あるある。ないことない。」
「ねえ、高森君があそこの家の子だって知ってたんでしょう?すっごく近所じゃん。神様のお使いの途中見かけたりしたんじゃないの?知ってたんだよね。」
無言。
「知ってたんだよね。」
ちょっと優しく言ってみたら上目遣いに見上げてきた。
「知ってはいたけど別に一緒に来たわけじゃない。ちゃんと一人で来たし、机の上で寝転んでた時に隣に座った顔を見て驚いたから。ちょっとよく見て確かめようとごろごろ転がっただけで。」
「ふ~ん、それでペンケースから勝手に転がって高森君の方に確かめに行ったんだ。」
「まあ、そう。」
「驚きだよね。」
「偶然ってあるんだね。」
「こんな事ならあいつの荷物に紛れて来ればよかった、なんて思ったけど。」
何だか怪しさ満載。
「今日風を起こして私を転ばせたのもわざとなんだよね。」
「千早が疲れた顔してぼんやり歩いてたんじゃないの?ちょっと退屈だったから元に戻っただけだし。」
「今全く風は起こらなかったのに、なんであの時だけ風を起こしたのよ。」
「ちょっと広い所だったから。」
「ねえ、ナナオの研修って私をあの場所に連れて行くことなんでしょう?連休に行くつもりだよ。もし、そこに私が行ったら研修は終わり?」
「そんなゴールじゃないよ。まだまだ社会勉強もしないといけないし、千早だって全然まだだろう。」
まだと言われれば全然まだだ。でもそれが何の関係が?
「本当に違うの?」
「違うよ。」
「じゃあ、連休にあそこに一緒に帰ったら・・・・二度とここには帰ってこないとかじゃない?」
そう聞いたらちょっと口が開いたナナオ。
ヘラッと笑い顔になって、その瞬間後悔した。
もっと聞き方もあったかもしれないのに。
「大丈夫だって、ほら、まだまだ未熟者の千早にはお手伝いが必要だろうから。成長あるのみだよな。早く大人にならなきゃ。」
笑ってそういう。
「老犬に言われたくない。」
「お風呂に入る。」
そう言って立ち上がり寝室に行った。
後でお父さんに連絡しよう。
週末には毎週連絡してる。
元気で頑張ってる、仕事も少しづつ慣れてるって。
でも懐かしい友達に再会したことは言わないと思う。
月曜日、研修の部屋に集められて配属を告げられる。
『お告げタイム。』
隣に座ったのはリリカちゃん。
「ねぇ、千早ちゃん、やっぱり企画は喜ばない?」
「えっと、そんなことないかな?」
「やっぱり私だけだったみたい。先輩がそう言ってたの。千早ちゃんが一緒だったら嬉しいなぁ。」
また、そう言われた。
「楽しかったけどそんなに自分じゃいい企画考えられなさそう。」
「同じイベントでも毎年ちょっとは変えていくって。そんなアイデアでもいいって言ってたよ。」
「リリカちゃんいつの間にそんなこと聞いてたの?」
「だって千早ちゃん、トイレに行くって言って、なかなか帰って来なかったから、先輩が心配して来てくれたの。そのときに聞いたの。」
廊下で転びそうになり、トイレでナナオに文句を言ってたとき。
確かに長いトイレだったかも。
斜め二列前に高森くんはいる。
他の男の子と話をしてる。一人は営業研修で一緒になった葉山君。
部屋の中も賑やかなのは大分皆が仲良くなれたからだろう。
静かにドアが開いて、いつものスーツの人が入ってきた。
あああ・・・・。
「良かった、千早ちゃん!」
隣で喜んでくれてるリリカちゃん。
リリカちゃんは第一希望通り、私はとりあえず研修先に選んだ企画課に二人でいる。
「よろしくね!」
「うん、よろしくね。」
ちなみに高森君と葉山君は営業に行けた。
一緒だったらよろしくと言われたけどそうはならなかった。
「二人とも先週に引き続きよろしくね。ついでに私がそのまま指導担当です。可愛い女の子二人でみんな喜んでるから。」
引き続き指導してくれることになった三葉さん。
「早速だけど、今週金曜日歓迎会やりたいんだけど、どう?」
「大丈夫です。」「私も。」
二人で答える。
とりあえずは最優先です。
この間高森くんがまた金曜日にご飯食べないって言ってくれてたけど、きっと営業も歓迎会だと思うし。そうじゃなくても葉山君と同期の飲み会とか、するよね。
ぼんやりした言葉で約束とまでは言えないものだった。
「じゃあ詳しい事はまたね。」
先週に引き続いてだとやりやすいとまで言われて、歓迎された気分だった。
二人で先輩についてひよこのように行動を追うように。
外に行くことはないけど、会議室で他の課の人と打ち合わせしたりもする。
一度だけ営業の人とも打ち合わせをした。
そこに葉山君はいたけど高森君はいなかった。
その夜に高森君には連絡していた。
『金曜日歓迎会があるみたい。高森君は?』
ちょっと緊張したけど早く伝えなきゃってずっと思ってた。
しばらくしたら返事が来た。
『まだ本決まりじゃないけど、そうかも。いっそ一緒にやれたらいいのに。』
そう言われた。
それは変かもしれない。
そして本決まりになり、そのまま約束もどきは消えた。
先輩たちは皆優しい、意地悪な人はいないし、隣でリリカちゃんが楽しそうなのを見てたら、私も楽しく働けそうな気がしてきていたし。
でも一緒に会議室にいた他の課の先輩も皆優しそうで、会議室の雰囲気も良かった。
最近すっかり大人しいナナオ。
相変わらずポケットに入ってる。
時々一人の時はポケットから出してあげてる。
頭を撫でたり、あごの下をくいくいとやったり。
なんとなく表情が変わってる気もするのは気のせいじゃないと思う。
なかなか一人になることはないから、話しかけることはない。
「ねえすごく大切にしてるの?」
ポケットから顔を出してるナナオの顔を指さされた。
「あ・・・うん。なんとなく気に入ってるの。お守りみたいにつれて歩いてる。」
「誰かからのプレゼント?」
そう言ってリリカちゃんにいたずらそうな笑顔を向けられた。
その笑顔もすごく可愛いと思った。
「ううん、そんな感じじゃないよ。」
「かわいいね。犬好きなの?」
やっぱり犬・・・。
ナナオががっかりしたのが分かる。
リリカちゃんが可愛いから怒らないだろうけど、多分がっかりしてると思う。
「う~ん、この子が特別に気に入ったかな。リリカちゃんはそんなのない?」
「え~、ないなあ。」
上を向いて考えた後言われた。
「部屋にある特別なぬいぐるみとか。」
「ないよ。」
あっさり言われた。
お部屋はちょっとキャラクターとかもふもふ柔らかいものがあったりするんじゃないかと勝手に思ってたのに。
その辺は大人趣味なんだろうか?
金曜日の午後。
今までのイベントの資料を見て二人でいろんな意見を出し合うように言われた。
見てるのは毎年の恒例のもの。
新しく気がついたことがあったら言うようにと。
そんなことを期待されても困る。
二人で見ながら、画像も見ながら。
『楽しそうだね。』『すごいね。』『今年は行ってみたい。』
そんな感想だけだった。
夕方は歓迎会があるから、それまでの自由時間だった。
そして先輩の仕事が終って、私たちも続きはまたと言われた。
企画部の皆で異動する。
近くのレストランと言われてた。
本当に小さいレストランだったけど二階の部屋に通された。
今日営業も歓迎会になったと高森君からの連絡で知ってた。
次の約束もないし、その他の話は続かなかった。
週末は買い物もしたいし、ナナオとおしゃべりしながらおやつ食べたりするのもいいかなって思ってた。実家にも帰る予定を立てて、妹にお土産を選びたいとも思ってた。
週末はそれなりにすることがあるからって思ってもいた。
特別にお互い連絡もとってもいなくて。
それなのに。
ドアを開いた先には既に何人かがいて、その中の真ん中に葉山君と高森君がいた。
それに研修でお世話になった先輩達の顔。
営業の人たちだった。
当然私とリリカちゃんも真ん中に案内された。
先輩に促されて真ん中に並んで四人固まった新人。
高森君はびっくりしてなかった。
当たり前だ。
テーブルの片方に営業の人が固まって、半分の席がきれいに空いてるんだから。
合同ですか?と聞いただろう。
私が驚いた顔をしたのを見て、笑って『びっくりしたよね。』って顔をした。
葉山君と高森君にも挨拶した。
営業の見覚えのある先輩が音頭を取って乾杯をした。
大皿で料理が運ばれてきて、四人で話をしながら食べる、飲む。
リリカちゃんがうれしそうに話をするのを聞いてた。
話しかけられてるのは向かいに座ってる高森君が多いかも。
そして高森君も楽しそうに答えてた。
そんな二人の様子を見てたら葉山君に話しかけられた。
「営業希望してたんだよね。週末の手伝いもあって体力がいるから男子のほうがいいって話にはなったみたいなんだ。」
「そうなんだ・・・・。そうか。」
「企画も楽しそうだよね。一緒にやることが多いみたいだから、飲み会も合同が多いって言ってたよ。」
「そう。よろしくね。」
「うん、こちらこそ。」
確かに男性社員が多い。
企画は男女同じくらいの割合だ。
周りを見てそう思ってた。
「でももうお給料日だよね。来週だよ。高森君と飲みに行こうといってるんだ。」
「そうなんだ。何だか早かった気がする。じたばたして一ヶ月たったんだね。」
「ねえ、一緒に飲みに行かない?」
そう誘われた。前の時はダメになった飲み会。
「四人で?」
「うん、四人で。」
そう言われて隣を見たら、うれしそうに行きたいと言ったリリカちゃん。
聞こえたらしい。
「どこがいいかな?女子が入るなら二人だけよりはいいトコにしよう。」
葉山君が張り切る。
それにリリカちゃんが答える。
斜めに会話が始まって、そっと高森君を見たら目が合った。
さっきからずっと笑顔で楽しそうだった。
お酒を飲んで顔もちょっとだけ赤い。
さっきおかわりしていたのを見ていた。
リリカちゃんがグラスを満たしてあげて、次にリリカちゃんのグラスにも注いでいた。
本当にうれしそうだったし、楽しそうだった。
少し見つめあった後、視線をそらした。
ポケットの中でナナオを叩いた。
おでこを人差し指でバシバシと。
それはモヤモヤのやつあたりとも言うかもしれないけど。
いつの間にか先輩たちは席替えをしていて、グループが出来てるように固まって盛り上がっていた。
歓迎会なのに・・・・。
「千早ちゃん。」
そう呼ばれた。営業のときに隣にいて少しだけ話をした先輩だった。
「お疲れ様です。矢上先輩。」
「千早ちゃんが営業に来てくれると思って楽しみにしてたのに、残念だった。」
「はい、企画になりましたけど、今度ご一緒するときはよろしくお願いします。いろいろ教えてください。」
「もちろん。」
そう言って新しいグラスを持たされて、お酒を注がれた。
お返しに先輩のグラスにも注ぎ返した。
普通に。普通の笑顔で、よろしくお願いしますの笑顔で。
「ねえ、千早ちゃん、週末は何するの?」
「今週はいろいろと買い物をしたり、実家のお土産を買ったりです。お給料があると思うとなんだか買い物も楽しくなりそうです。」
「どっちかのお昼、一緒に食事しない?」
「・・・・週末ですか?」
「うん。先輩だからおごります。就職祝い。」
「そんな親戚のお兄さんじゃないんですから、変です。」
そう言った。
「デートしよう。好きな人いる?」
相変わらずの笑顔で聞かれた、さらりと。
「今はいませんけど。」
「じゃあ、決まりでいい?」
そういって携帯を出して、つられるように私も出して連絡先を交換した。
「矢上さん、紹介して欲しいとか言いながら、さっさと自分でアプローチしてるじゃないですか。」
「だって楽しそうでなかなか紹介してくれなそうだから。隣の特等席が空いてたから、来ちゃった。」
「日疋さん、矢上さんがずっと日疋さんを紹介して欲しいってうるさくて。いい人らしいよ。他の先輩にも聞いたけど悪い評判はないよ。」
葉山君がそう言った。
そんなこと、知らない。
「あ、無理やりだったかな?本当に食事して、買い物があれば荷物もちでもするし、一人が良かったらそこでバイバイでもいいよ。」
そう言われて、目が合って、うなずいてしまった。
うれしそうな笑顔を見せてくれた矢上さん。
食事だけなら、いいよね。
色んな話が出来たらいい。
先輩だからいろんな話が聞けるし。
「やった~、今日参加した目的は達成できた。」
「楽しそうですね。」
葉山君が楽しそうに言う。
葉山君は仲がいいらしい。
「羨ましいだろう。」
「とりあえず良かったです。僕は後は自由でいいですよね。」
「いいよ。」
「千早ちゃん、好き嫌いは?」
「ないです。」
「じゃあ、僕が勝手にレストラン予約していい?」
「そんな、予約するようなところじゃなくて、普通に空いてるお店でいいです。」
「そう?そのほうがいい。」
当たり前です。
「はい。そのほうが楽です。」
「分かった、夜に打ち合わせしようね。」
そうなるの?
ここで二人の約束を決めるのもおかしい。
でも、何でこうなった?
グラスを持って、こっそりとお酒を見るふりをして俯いてナナオをみたら、冷たい目が見上げてる気がした。
でも多分気のせいだろう。
顔を上げて高森君を見たら、合ったはずの視線はすぐにそらされた。
不自然なくらいに反対を向かれた。
さっきまでうれしそうにしていたのに。
リリカちゃんと葉山君がお店を決めたらしい。
高森君が聞かれてる。
表情はまた楽しそうに戻ってた。
明日と来週金曜日の予定は決まった。
矢上先輩はそのまま近くにいた。先輩なのに私たちの分まで料理を取りわけてくれたり、お酒をグラスに注いでくれたり。
すごく器用でマメな人らしい。
どんどん注がれたみたいで、ちょっと眠くなる。
お酒はやめたほうがいいと思うくらいには飲んだかもしれない。
途中トイレに行って鏡を見た。
ぼんやりした目と少し赤い顔と向き合った。
お酒は終わりにしよう。
ポケットからナナオを出した。
クルクルと棒を回す。
目が回るんだろうか?
何の抗議もなく。
ただされるがまま回ってるナナオ。
話しかけるのも変なのでまたポケットに戻した。
トイレから出たら矢上先輩がいた。
顔をあげてそこにいたから思わず悲鳴が出た。
「きゃっ。」
立ち止まって見上げた。
「ごめんね。ビックリさせた?気分悪そうだったからちょっと心配だったんだけど、大丈夫?」
「はい、大丈夫です。」
「良かった。ちょっと思いっきり注いだから責任感じるし。」
「大丈夫です。でももうやめておきます。初めての飲み会で伝説を作りたくないですし。」
「なんなら送っていくよ。」
「いえ、本当に大丈夫ですよ。」
そんな話を立ち止まってしていた。部屋の隅のトイレで、植物があって目隠しになっていた。いきなり高森君がそこから出てきて、矢上さんの後ろを通ってトイレに行った。
ゆっくり歩きだして、部屋に戻った。
相変わらず新人はポツンと真ん中にいた。
それでも今は二人になっていた。
矢上先輩もそのまま四人席の空いた隣に加わったまま。
「リリカちゃん、結構飲めるの?」
ちょっと赤い顔が可愛い感じでいいかもしれない。
「普通だと思う。」
「千早ちゃんは?」
「私も普通。でも今日はもういい。結構飲んだみたい。」
「じゃあウーロン茶でも頼む?ジュースがいい?」
隣から矢上先輩がメニュー表をひらいて渡してくれた。
「矢上さん、素晴らしく気が利いてます。そんな評判は聞いてませんでしたが。」
「それは、おかしいなあ。」
ジュースが届くころになって高森君も帰ってきた。
リリカちゃんがお酒の事を聞いている。
「僕も普通だと思うよ。」
「じゃあ、来週たくさん飲もうね。楽しみにしてるね。」
声だけで笑顔が浮かぶくらい。
うなずくような高森君の笑顔も浮かびそう。
そっちは見なかった。
ぼんやりと葉山君の方を見ていた。
「千早ちゃん、どこに住んでるの?一人暮らしなんだよね。」
「はい。就職して一人暮らしをしました。妹に部屋を譲ろうとも思ったんです。」
「いくつ下なの?」
「中学生になりました。大分離れてるんです。」
「そうだね。でも千早ちゃんの妹なら可愛いだろうね。」
「似てませんよ。」
「そうなの?」
「はい。」
半分しか血はつながってない。私はママに似ていると思う。
妹はパパとお母さんの二人に似ている。
だから私とは似てない。
その後もほとんど放っとかれた四人と矢上さん。
終わりまでそんな感じだった。
そのまま解散で駅までぞろぞろと歩いて別れた。
リリカちゃんを支えながら前を見て、歩いた。
ご機嫌に仕上がったみたいだった。
「高森、送った方がよくないか?」
矢上さんが高森君に言ったのも当然だと思う。
「大丈夫です。駅でコーヒー飲んで電車に乗ればすぐです。」
一応はちゃんと歩いてるし、大丈夫だとは思うけど。
私は何も言えない。
駅について二人を残して改札に入った。
隣に矢上さんがいた。
葉山君は違う方向に歩いて行った。
「バイバイ。」
リリカちゃんに手を振られた。
そんなリリカちゃんには手を振った。
「気を付けてね。お休み。」
そう言って別れた。
その後すぐに矢上さんと別れて。
すっかり酔いが醒めた私は大人しく部屋までまっすぐ帰った。
ぼんやりしてたら携帯が鳴ってビックリした。
登録したばかりの矢上さんだった。
『明日お昼に待ち合わせてもいい?』
ぼんやりとそのメッセージを見る。
『はい。』
そうとしか言えない。
何であの時に断らなかったんだろうと今は思う。
やっぱり疲れた一週間であっという間に眠れた。
リリカちゃんに連絡すらせずに寝た。
ナナオ・・・・。忘れていたけど、勝手にポケットから出ただろう。
話をしない夜なんて初めてだ。
「お休み、ナナオ。」
ベッドの上でそう言ったけど、返事はなかった。
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