同居始めた修行中の狐犬に振り回されています。

羽月☆

文字の大きさ
10 / 20

10 思った通りの大人にはまだまだなれそうにないのです。

しおりを挟む
次の日。何となく気分が悪い気がする。
二日酔いじゃなくて、それ以外。

まずナナオに謝った。隅で大人しく丸くなってる。

「ナナオ、ゴメンね。帰ってきてすぐいつもは出してあげるのに。」


「大丈夫。自分で出れるし。ほら、デートの準備しなきゃだろ。」


「ナナオ、一緒に行くよね。」


「・・・・・行ってもいい。」

「じゃあ、行こう。」

元気を出した。
美味しいものを食べたいし、気分転換もしたい。
他にも自分の買い物と家族へのお土産と。そんな事もある。
デートと言われたら、食事と言い直す。
昨日話をしなかった分なのかちょろちょろと後をついてきて、見上げながら何か言いたげなナナオ。
そのあたりはペットみたいに。

準備OKと言ったらいつもの変化で転がった。
ポケットがない・・・・・。まあいいか、バッグに入れた。
いつもみたいにファスナーがついてるわけじゃないし、狭くも暗くもないだろう。

携帯をもう一度確認して出かけた。
やっぱりリリカちゃんから連絡はなかった。

電車の中で聞いてみた。

『リリカちゃん、昨日大丈夫だったよね?』

しばらくしたら返事が来た。

『大丈夫だったよ。高森君がコーヒー奢ってくれて、駅前で酔いをさましてから帰りました。そんなに危なそうだったかな?』

『大丈夫そうだとは思ったけど。でも良かった。安心した。じゃあまた月曜日だね。』

『デートだよね。行ってらっしゃい。』

月曜日もキラキラした目で聞かれそうだ。
食事だってば・・・・・・。
こんな気持ちになるなら、やっぱり今日だけにしよう。
こんな半分しか楽しくない気持ちで奢ってもらうのも失礼だと思うし、今日も半分出したいと思ってる。

待ち合わせの場所に立っていた。
バッグを覗き込んでナナオに声をかけた。
静かに目を閉じてたらしい。

「ずっとそこでいい?」

「いい。」

ナナオもつまらなそうで、ついて来たくなかったのかなと思った。
一人で部屋で留守番なんてしたことないだろうに。
だって、何するの?

「千早ちゃん、お待たせ。」

そう声をかけられてビックリした。

「こんにちは。矢上さん。」

まじまじと全体を見られた気がした。

「お休みの日もかわいいね。」

そう言われて恥ずかしくなる。

「予約してないんだ。何食べたい?」

「野菜も食べたいです。でもお肉も食べたいです。」

「じゃあ、適当にウロウロして入りたいところがあったら入ろう。」

そう言って駅ビルのレストランの看板を見て数件候補をあげてから上に登った。


「昨日のお友達は大丈夫だったかな?」

「はい。コーヒー飲んでから帰ったみたいです。」

「高森は送らなかったんだ。」

「どうでしょうか?多分大丈夫だったみたいですけど。」

「なんだ、せっかくいい感じだったからチャンスをあげたのに、残念。」

・・・・そうだった?やっぱりそう見えた?
それは高森君が?リリカちゃんが?それとも両方?

もしかして今日約束したかもしれない、明日かもしれない。
コーヒー飲みながら話をしただろうから。
それは教えてもらわないと私は知らないし、多分自分からは聞かないと思う。


「千早ちゃん、ここだよ。」

そう言われた。入り口のメニュー表を見る。
お肉と野菜。よし。


「他のところも見ますか?」

「そうだね、一応。」

残り二件も見て私が決めた。

「昨日新人は放っとかれましたが、いつもあんな感じですか?」

「今年は男女二人づつで四人いたし、仲良くしゃべるだろうって思われたんじゃないの?さすがに1人だけポツンとしてる時は一緒に喋るよ。」

「そうですね。四人と矢上さんでした。」

「そうそう。せっかくだから。早めに意思表示はしないと取られちゃうからね。」

声もなく笑った。
いい人かもしれないけど、他の人より一緒にいたいと思うかと聞かれたらどうなんだろう。
そう考えてる時点で、多分違うと思う。

大きなお皿にお肉と緑のお野菜と、ゴロゴロと大きな根菜がのっていた。

美味しそうな匂いにお腹がすく。

「矢上さん、朝何か食べましたか?」

「食べてないよ。コーヒー飲んだだけ。」

「私もです。お腹空きました。」

モリモリと食べたいけど、少しは大人しく食べた。

お母さんは料理が上手で、週末は時々張り切ってお菓子を作ってくれるくらいだった。
妹は手伝いも楽しんでやっていた。
ママはどうだったんだろう?
料理は上手だったんだろうか?
本当に何も覚えてない。
パパに聞きたいと思うのに、二人になったら時々聞いてたけど、パパはちょっと悲しそうな顔をする。
それは覚えてない私にじゃないと分かってるのに、やっぱり私がごめんねって思ってしまうから、なかなか聞けない。
おじいちゃんとおばあちゃんにだったら聞けるかもしれない。
連休に帰ったら聞きたいことを聞こう。
とっくにパパには話をしてある。
高森君に電車の乗り換えを聞いて、ナナオと一緒に行こう。

「千早ちゃん、どうかした?」

あ・・・・。

「いえ、ちょっとぼうっとしてました?」

「昨日も遅かったから疲れてるかな?」

「ぐっすり眠れたんですが、そうかもしれません。仕事も緊張します。」

「そうだね。」

「矢上さん、営業は楽しいですか?」

「そうだね、楽しいよ。皆仲がいいし、仕事自体にもあんまりストレスはないかもね。」

「会社の人と皆で出かけたりはするんですか?」

「それはイベントの時は手伝うしね、その後打ち上げしたり、最初だけ様子を見に行ってついでに遊んだりは何回かあるね。」

「そうなんですね。」


「楽しみ?」

そう聞かれて、思い浮かんだのは高森君と近くの遊園地に行ってる自分だった。
多分他の二人もいるんだと思う、きっとジュースを買いに行ってるか、トイレに行ってるんだと思う。
そんな意味のない設定の言い訳をした。

仕事の話が多かったかもしれない。
そんな話をしながら食事をして、結局ご馳走になって下のフロアまで降りた。

来た道を歩きながら、ちょっと話もして。

ビックリした。
気がついたら目の前にナナオがいた。
私と目が合ったら人ごみに紛れるようにいなくなって慌てた。

「ナナオ!」

いきなり名前を呼んだ私に矢上さんもビックリしたと思う。

「待って!!」

そう言ったのに止まらない。迷子になるのに。

「どうしたの?千早ちゃん・・・・。」

「すみません、本当にごめんなさい、失礼します。」

それだけ急いで言って走り出した。

人が多くて、微かに見える尻尾を追いかける。
誰も何も言わない。みんな見えてないみたい。
どうして私だけに見えるんだろう?
時々敏感な犬にほえられたくらい。
何で飛び出したの?どこに行くの?

何とか追いついたのは結構な距離を追いかけた後だった。

「ナナオ。」

人がいないちょっとした場所に来て立ち止まったナナオ。

これでただの野良犬だったら何だったのかとも思う。
バッグの中を確認したらナナオはいなかった。
間違いもしない。
だって誰もビックリしなかった。
足元をすり抜けるように犬が走って行ったのに、誰も気がつかなかったから。

「ナナオ、どうしたの?」

立ち止まって見上げられた。
何も言わない。

「何か怒ってる?」

「携帯耳に当てた方がいいよ。独り言だと思われるよ。」

冷静にそう言われた。
言われた通りに耳に当てた。

「どうして?なにかした?何か気に入らない?」

「違うよ。なんだか無性に走り出したくなった。」

そう言って空を見たナナオ。本当に?


「ナナオ、帰りたい?あの森に帰りたいんじゃないの?」

「帰りたかったら帰れるから、大丈夫だよ。」

「明日走れるところに行く?どこか探そうか?」

「いい。思いっきり走ったから満足。」

「本当?いいのに。あと少しでお休みだから、そうしたらあそこに行くから、一緒に行こう。」

「それは楽しみにしてる。エンヤも一緒に行きたいって言ってったよね。」


「それは、タイミングが合ったらね。」

そう言ったら困った顔で見られた。

「高森君にも見えればいいのに。話は出来なくても見えればいいのに。」

「見えるよ、あそこで会ったことはあるよ。ちなみに千早のおじいちゃんとおばあちゃんは廊下にもあげてくれて撫でてくれて、友達だよ。」

「だって・・・・喋るの?」

「さすがにそれはない。ビックリして腰が抜けるよ。」

「そうだね。」

「どこかの飼い犬のフリしてた。ご飯ももらわないし、大人しく寝転んでるだけだし、行儀がいいって言われてるんだよ。」

「帰ったら聞いてみる。変な犬って思ってるかもしれないよ。」

「そんな事はない。可愛がってくれてるんだから。」

「ありがとう。じゃあ寂しくないね。」



「戻ろう。」

「思いっきり走ってスッキリした。」

そう言って変化して、私の手の平に乗った。

こっちは必死で追いかけたのに・・・・、そう言いたいけど言わなかった。
携帯をバッグにしまい、ナナオを手に包み込んで駅に戻った。

色んな事はすっきりしたと思おう。


次の日少しだけ服を買った。
少しづつ自分らしさを出していく、そんな時期だった。
パソコンで駅の名前を入れたらすぐに案内画面が出てくる便利な時代。
駅からはタクシーになりそうだけど電車の乗り換えも何とかなる。
少ない本数を上手くつないであそこに行こう。

ナナオと画面を見ながらそう言い合った。


月曜日いつもより電車が混んでいた。
駅から出てため息をつく。
ほっとするより・・・違う感じ。

会社を見上げて混んだエレベーターに乗り込む。

降りたときもやっぱりため息が出た。


「おはよう、千早ちゃん。心配かけてごめんね。」

元気に挨拶してきたリリカちゃん。

「うん、大丈夫で良かった。」

「いつもはもっと大丈夫なのに、疲れてたのかな?」

「そうじゃない?」

「千早ちゃんは?土曜日楽しかった?」

土曜日・・・・・・。
そういえば忘れていた、急いで携帯を出してみる。
そう、あれから矢上さんから連絡は来てなかったから、つい、私もしなかった。

急いで謝罪の連絡をした。
顔を合わせることがあったらきちんと謝ろう。
あの時はナナオが迷子になる心配をしたけど、よく考えたら一人でうちまで来たんだから、そんな心配はなかったのに。
ビックリしてパニック気味になってしまった。

すぐに返事が来た。

『おはよう。探してた人に会えたのなら良かったね。またね。』

そんな言葉だった。

どう思っただろう。
わざとだったとは思わなかったと思う、あの後別れるつもりだったけど嘘はつかないで買い物をしたいと正直に言うつもりだった。


「千早ちゃん?」

「ああ、ごめんね。今週もよろしくね。」

「うん。」

今週まで三葉さんと一緒にヒヨコ状態で来週からバラバラになるといわれた。

ちょっとだけ二人で視線を合わせて不安を分け合った。

いろんな人の名前も覚えた。周りの人皆が大人に見える。
きちんと仕事をしてる大人に見える。

早く自分が想像していた大人になりたいと思った。
おじいちゃんとおばあちゃんに会うときには間に合わないけど、せめて楽しく仕事が出来てるって安心してもらいたいくらいには。


金曜日、最後の二人の日。

営業の人と打ち合わせもあったけど新人二人はいなかった。
矢上さんもいなかった。
結局偶然会うことも無くて、謝れてなかった。



仕事が終ったら飲みにいく予定通り。
でも葉山君が他の男の子に誘われて、結果二人男子が増えたといわれて、急いで私が愛瑠ちゃんと奏美ちゃんに連絡を取って四人が八人になった。


「かんぱ~い。」

予約を取ったお店にお願いして席を増やしてもらったら思いっきり隅っこだったけどそれはそれでいい。
お酒も飲み放題がついていてメニューも勝手に運ばれてくる。

偶然なんだろうか?

リリカちゃんの正面にいるのが高森君だった。
私とリリカちゃんの間には奏美ちゃんがいた。

私は久しぶりだった愛瑠ちゃんと話をしたから反対を向いていた。
その向かいにはあんまり知らない男子、稲田君がいた。
そういえば愛瑠ちゃんと石井君はどうなったんだろう?

まさか今は聞けない。

お互いに仕事の話をして、初めてのお給料の話をして、連休の話をして。
稲田君はすごく楽しい人だった。
ほとんど稲田君がしゃべって、私と愛瑠ちゃんが笑って。
稲田君と仲がいいらしい品川君も楽しい人だった。
二人のやり取りはリズムがいい。

「ねえ、すごくいいコンビだね。」

「偶然なんだけど、同級生なんだ。中学と高校が一緒で高校のときはクラスが一緒だったこともあるんだ。」

品川君が言った。

「そうなんだよ、大学は違ったのに、また一緒になるなんて思わないよな。面接会場でお互い指さしてびっくりしたからね。」

稲田君が続けた。

「他にも受けたのに、二人ともここに来たんだ。」

「そうなんだよね。別に決まるまでは連絡取ってなかったのにさ。」

そんな偶然もあるらしい。
あんな偶然もあったんだから、そんな偶然も不思議じゃない。

今日もポケットにはナナオがいる。
相変わらず一人で留守番をすることもなく一緒に通勤してる状態。
あれからは廊下で変化を解く事もなく、本当に大人しいお守りみたいになっていた。

ただ、最近一緒に寝室に入って、近くで丸くなるようになった。

便利なもので毛が抜けるなんて心配もないからベッドの中でもいいくらいだけど。
それは断られた。

『蹴飛ばすつもりじゃないだろうな?』

『そんなつもりはないけど、保証もない。』

冗談で言ったら断られた。

きっかけは目覚ましを止めた後に二度寝してしまい、いつもより五分遅く起きた朝の事だった。
朝の五分は貴重だ。
遅刻はしないけど、気は焦る。

バタバタと準備する私を見て提案された。

『一緒に寝て、朝、ちゃんと起こしてやる。』

『ありがとう。』

化粧をしながらも適当にお礼を言った。

ただ、お礼を言ったからその夜からそうなった。

電気を消しても名前を呼べば暗がりに光る目を見ることができる。
普通のペットがどうだかは分からないけど、ほの青くきれいに光っていた。
普通の昼に見ても青い目ということはないのに。
すごく不思議だった、きれいだった。
その光が見たくて、少し暗がりで話しかけたりしてる。
眠るまでのちょっとの間。
不思議に浮かんだ瞳の色はすごくきれいなのに、どこかすごく懐かしい気さえした。

やっぱりただのペットじゃない。
ナナオの研修がどのくらい進んでるのか、聞いてもごまかされて少しもわからない。

いつまで一緒にいてくれるんだろう。
時々そう思うことがある。


「千早ちゃん、気分悪い?」

愛瑠ちゃんに聞かれた。

「ううん、大丈夫。」

ついポケットのナナオを見て下を向いていた。

「あ、新しいお守り?」

「うん。」

「何のご利益があるんだろう?」

「私もよくは分からない。」

「そうなの?」

「うん。」


気がついたら正面の二人はトイレに行っていた。
いついなくなったのか知らない。

やばい。失礼じゃない・・・・。


「ねえ、愛瑠ちゃん、いい事あった?」

「え・・・・・、ごめんね、千早ちゃん。」

「なんで?あ、あのこと?」

「うん・・・・・・。」

「別にいいよ。全然。もしかして気にしてたの?」


「そんなわけじゃないけど。」

「大丈夫。気にしにないで。もしかして今もそんな感じでいい感じ?」

うれしくなって笑顔になった。

「うん、内緒にして。」

「もちろん。良かったね。じゃあ、今日誘って悪かった?」

小声で会話してる二人。

「大丈夫。千早ちゃんに誘われたって言ってる。」

女子会って思ってるってことだろうか?
まあ、いい。私が内緒で誘ったことにしてもいい。

「いいなあ。羨ましい。」

「千早ちゃんはどう?」

「全然。何も。」

そう答えたら首を倒された。
何も隠してないよ・・・・ブンブンと首を振った。

「応援する。何かあったら相談して。石井君も協力してくれるかも。」

さらに小声になった。

「ありがとう。」

「リリカちゃんはどうなんだろう。高森君と話してるね。」

愛瑠ちゃんが反対端の方を見る。そう言われてちらりとそちらを見た。
前みたいに楽しそうに笑う高森君の笑顔は見れた。

「そうだね。二人とも楽しそう。」

「リリカちゃんからは何も聞いてないの?」

「うん。」

二人が戻ってきた。
今度は正面に稲田君が座った。
品川君も普通に残った端の席に座って、又にぎやかになった。

「四人は仲がいいの?」

稲田君に聞かれた。

「最初の研修のときに隣と前に座ってた愛瑠ちゃんと奏美ちゃんと一緒にいることがほとんどだったの。リリカちゃんとの四人は初めてだよ。」

「そうなんだ。じゃあ、葉山君高森君との四人で仲がいいんだ。」

首を倒す。
そういうわけじゃない。

「新人歓迎会が合同だったの。しかも本当に新人四人固められて放っとかれたから、そのときに飲みに行こうねって話になったの。それからは今日が初めて。」

「僕も誘われたいなあ。」

「葉山君が一番飲みたそうだから、お願いすれば葉山君が誘ってくれるんじゃない?」

「そうかな。日疋さんも参加してくれるなら絶対参加したい。」

そう言った稲田君が品川君にどつかれて、私は愛瑠ちゃんに太腿をつんつんとされた。


ん?

「私も誘われたら行く、と思うけど。」

「じゃあ、僕も連絡先交換していい?皆で交換しようよ。」

携帯を出してお互いに交換し合った。

「ねえ、なんで二人とも同じ写真なの?」

「この間遊びにいったんだよ。偶然だよ。」

「すごい気が合うんだね。」

二人のアイコンの写真が同じモチーフだったのだ。

「これ東京タワー?」

「そう。空いてるかなって思ったのに、結構一杯だった。展望チケットもすごく並んだし。」

「そうなんだ。」

「外人さんもいっぱいいたよ。」

そう言えばナナオは観光したいだろうか?
私が遠出してないとナナオもほとんど駅とスーパーと部屋の中だ。
まったく思いつかなかったけど、行きたいだろうか?

「連れて行きたいなあ。」

ついそんな事を考えてつぶやいた。

「誰を?」

あ・・・・。
声に出てたらしくて愛瑠ちゃんに聞かれた。

「あ・・・妹。ずいぶん年が離れてるから動物園とかテーマパークは一緒に行ったんだけどね。」

「いくつなの?」

「中学生になったの。」


「ああ、それは年が離れてるんだね。可愛がりそうだね。年の近い弟なんてただ生意気なだけだから。僕も妹のほうが良かったなあ。」

稲田君が言った。
弟がいるらしい。賑やかなんだろうか?
それからお互いの家族の話になったりして、少し個人的な話をした。
稲田君は鉄道クラブで品川君が演劇部だったらしい。

「あ、鉄道って変なイメージ持たないよね。」

「大丈夫。最近は可愛い女の子も増えてるみたいじゃない。出会ったりしないの?」

愛瑠ちゃんがグイグイと聞く。

「ない。まったくなかった。大学のときもメンバーは男のみ。本当にいるのかな?」

聞かれても私はよく知らない。

「稲田君なら乗り合わせたりしたらすぐ友達になれそうじゃない?」

簡単に想像できて、そう言ってみた。

「そんなことないよ。これでもデリケートなんです。」


「見えな~い。」

数秒の間の後、愛瑠ちゃんと声をそろえた。
いつの間にかデザートになっていた。

最後まで半分の四人としゃべった感じだった。
奏美ちゃんともあんまりしゃべれてないくらいに。

幹事が葉山くんでお会計をお願いした。

外で待つ間、初めて高森君に話しかけられた。

「楽しそうだったね。」

最初自分に言ってるとは分からなかったくらい。
少し距離がある斜め後ろから聞こえた声だった。

振り向いた高森君の視線が葉山君と稲田君を見た。
今、二人はレジの前で話をしている。

「高森君も、この間も今日もすごく楽しそうだったよ。私だけじゃなくて、そう思ってる人はいるよ。」

そう小さく言ったら少し嫌な顔をされた。
別に責めてないし、リリカちゃんは可愛いし、いいんじゃないって思ってる。

ポケットの中のナナオに触れる。

「この間、矢上さんががっかりしてた。」

「約束通り普通に食事しただけだよ。」


「普通って言うのが何だか分からないけど。」

「『普通』です。」


「本当にそう思ってるの?それだけ?」

高森君が低い声でそう言った。
その声は小さかったはずなのに、すごく尖ってる気がした。

何で?責められてるの?
だって、一番関係ないのに。
まだ葉山君に言われるなら分かるけど、何よ。

「別に・・・・高森君には関係ないと思うけど。」

そう言ってしまった。
私の声もすごく冷たい声だったと思う。
誰かが聞いてたらびっくりするくらい。
柔らかく甘いリリカちゃんとの会話の後なら特にそう響いただろう。


お互い無言になった。

「そうだね。」

普通の声でそう言って、離れていった高森君。
私もすぐに視線をそらした。


明日は実家に帰る。
皆が楽しみにしてくれてる。
ナナオを紹介することは出来ないけど、いつもとは違う場所を二人・・・・一人とナナオと歩く。
別に観光地でもないし、案内する場所もないけど。

明日は楽しい日。

今日はちょっとだけざらっとした気分になったけど明日は楽しい日になる予定。
お土産を買って元気に帰ろう。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。 エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。 ※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

処理中です...