同居始めた修行中の狐犬に振り回されています。

羽月☆

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14 変わらない場所、変わらない自分、変わって欲しくない何か。

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高森君はお母さんより私と一緒にいて、ちょっとづつ話しをしてくれた。
このスーパーには一緒に来たことがあると言われた。
そう言われても、全く思い出せない。

車が家に着くまでには少し笑顔も普通に出ていた。
そして懐かしい記憶がじわじわと湧き出てきそうな家と森と空の風景を一緒に見た。

風か吹いた。
森の方から、優しい風が。
ポケットを見たらナナオが顔をあげていた。
ただいま。ナナオも言ったかもしれない。

「日疋さん。」

隣で高森君が荷物を持ってくれた。
スーパーの方の荷物だ。

一緒に玄関に向かった。

「こんにちは。」

そう言った後付け加え・・・言い直した。

「ただいま~。」

あの頃そう言ってただろう、だからそう言った。
『こんにちは。』より『ただいま。』だろうと。

奥から二人が出てきた。

思わず駆け寄って抱きついた。

声が出た。なんでずっと来なかったんだろう。
ママが生まれて育って、私が預けられた家だったのに。
あの頃小さな私を大切に抱きしめてくれただろう体に、すっかり大きくなった私がしがみついた。しばらくそうしていて。
気がついたら高森君はいなかった。
ちゃんとお礼も言ってない。
後で言おう。

通された部屋で小さかった頃からの写真を見る。
綺麗に飾られていた。
ホコリもなく、綺麗に。少し色あせてるのもいい感じに。
また涙が出そう。

ポケットに手を入れたらナナオがいなかった。

落とした!

慌ててバッグを見たり、自分が歩いてきたところを見た。
確かさっき見たから、大丈夫。
落としたとしてもすぐに見つかるはず。

『キュワン。』

廊下の方で鳴き声がして、おじいちゃんの声もした。

「おお~、久しぶりだなあ。元気だったか?」

もしかしてと思っておじいちゃんの方に行ってみたら、やっぱりナナオだった。
いつもの変化をさっさと解いたらしい。
いつの間に・・・・・。

だいたい落としてもそのまま大人しく落とされてるなんてことないのに。
すぐに変化を解いて私にくっつくのに。

それでもほっとしておじいちゃんと並んだ。

「どこの犬?」

「分からんが、時々遊びに来てくれるんだよ。行儀良くてここでのんびり座ってるだけなんだけど。しばらく来てなかったから心配してたんだけど、元気そうで良かった。」

「可愛いね。」

抱きあげて、こっそりにらんだ。

「何て呼んでるの?」

「名前はちゃんとした家で立派なものをもらってるだろうから、別につけてないよ。」

「そうなの?」

それでも可愛がってるらしいし、ナナオもすっかりここでくつろいでるらしい。
何してるの?暇なの?


おばあちゃんがお茶と私のお土産を出してくれた。

「ありがとう、おばあちゃん。」

「お帰り、千早ちゃん。すっかり大人になったね。」

「ずっと来なくてごめんなさい。本当に、お世話になったのに。パパは無理でも私だけでも来ればよかったのに。今度からちゃんと連絡します。高森君が偶然同じ会社だったの。本当は全然覚えてなかったんだけどね。」

「千早ちゃんが帰ってから、あの子が訪ねてきたんだよ。もういないんだよって言ったら泣きそうな顔してたからね。きっと懐かしくてびっくりしただろうね。」

「就職先が決まってそこに千早ちゃんがいるって、嬉しそうに報告に来てくれたんだよ。よろしくお願いねって言ったんだけど、仲良くしてるのね。」

「うん。」

そうしたいと思ったし、大切な友達だと思う。
リリカちゃんと・・・・・・・だとしても。


「ねえ、私はママのことをあんまり覚えてないの。もう本当に記憶がどんどん薄くなっていったの。ごめんなさい。」


「しょうがないわよ。まだ小さかったから。もっと元気な子に育ててあげられれば、今でも一緒にいてくれたんだろうけど、寂しい思いをさせてごめんね。」

首を振る。

「せっかく来たから、ママの事たくさん教えて欲しいの。子供の頃のこととか、パパとのこととか。いろいろ。たくさん知りたいの。」

「もちろんよ。そう言ってくれて本当にうれしい。千早ちゃんはあの子にそっくりだから、一緒にいると自分が若いころに戻ったみたい。」


「かあさん、そりゃないな。」

おじいちゃんが笑って言う。でもその目は光ってた。

「もう、いいじゃないですか。」

そんなやり取りの間もナナオはずっと廊下でぺったりと寝そべって、本当の犬みたいに目を閉じていた。

お菓子を食べながら、お茶を飲んで、私の今の仕事の話をして。

「ねえ、もう一つ懐かしい場所があるの。ちょっと行って来ていい?そのあと高森君にお礼を言ってくる。さっきいなくなってちゃんと言えてないから。夕飯作るの手伝うから帰ってくるまで待っててね。」


「いいわよ。どこに行くの?」

「おばあちゃんと散歩に行った森。鳥居のところ。」

「気をつけていってらっしゃい。」


「はい。一緒に散歩する?」

ナナオにそう言ったら、顔をあげて一鳴きして立ち上がった。

「賢い子でしょう?一緒に行ってくれると安心。行ってらっしゃい。」

「行ってきます。」

携帯を持って、ナナオと一緒に家を出た。
森に向かう道は誰ともすれ違う心配がない。
思いっきり話しかけられる。

「ねえ、犬ぶりが板についてる。本当に犬なんじゃないの?違和感ないけど。」

「あそこでだけだよ、あんな鳴き声をするのも。」

「そうなんだ。でも二人とも元気で良かった。本当に遊びに行ってたんだね。」

「まあ、そう、かな。」


子どもの頃は一人での冒険みたいに思ってたけど、今ナナオと歩いたらあっという間に鳥居にはたどり着いた。

「先に高森君にお礼しとく。」

『高森君、さっきはありがとう。ごめんなさい、ちょっといろいろ思い出して。後で改めてお礼に伺います。お母さんにもよろしく伝えてください。』


そう送って携帯をポケットにしまい、ナナオの後をついて階段を上がった。
ナナオもうれしそうな足取りの気がする。


たどり着いたところは思い出せる景色と少しも変ってなかった。

「わあ・・・・。」

そう言って立ち止まって、端から石の狐さんを見ていく。
指さして名前を呼んでたのも思い出す。
何故かここでの記憶は他の記憶より残っている。

それでも寂しかった想いまで思い出して胸が痛くなる。

すっかり小さいと思えるようになった石に座る。

目の前にナナオがいるのに、横にも『おとうと犬さん』はいた。

「ナナオがいなくても、この子はここにいるんだ。」

「そうみたい。」

「何だろう、不思議。」


「ナナオ、ちゃんと研修報告したの?」

「したよ。」

してた?

「他の狐さんも、変化が出来るの?」

「うん。」

顔はあるんだよね、手もあるんだよね、コケむしたりしてないよね。

ジッと他の狐さんを見る。

優しい風が吹いてきた。
葉擦れの柔らかい音が聞こえた。


「本当に、よくここに座って撫でてたよね。」

「撫でるより、叩いてたと思う。」

「違うよ、撫でてたんだよ。」

「痛いくらい撫でてたんだな。」

知らない。


「でも、エンヤと一緒に帰って来れて良かった。待っててくれるなんていいところあるなあ。」


「高森君は誰にでも優しいのよ。」

「またそんなことを言う。素直じゃないなあ。」

じろっと睨んで黙らせた。

「気になるならちゃんと聞けばいいのに。」

「何を聞くのよ。別に邪魔をする気はないし。」

「それが余計な気遣いかもしれないじゃないか。エンヤはもっと千早と懐かしい話がしたいかもしれないのに。」

「だって覚えてないんだもん。アルバムも見直したけどほとんど写ってなかったし。本当に記憶にないんだもん。懐かしい話って、記憶がないとできない。」

「じゃあ、普通の話でもいいよ。」

「何よ、『普通』って。ナナオの『普通』は私たちと全然違うじゃない。」

つい声がとがる。

さっき『普通』に話しができるようになりそうって、自分でも思ったばかりなのに。

ここにきて急に説教し始めたナナオ。

「ナナオ、ここに来たら偉そうじゃない。相変わらず小さい『おとうと犬』なのに。」

「別にそれは関係ない。せっかくだからちゃんと仲直りした方がいいって言っただけだよ。」


「エンヤだってこの間はすごく言い方が変だったかもって思ってるよ。せっかく話しかけたのに千早が笑顔も見せずに愛想もなかったから、がっかりしてたんだよ。」

「ナナオは何で高森君の事を分かった風に言うの?そんなの本人に聞かなきゃ分からないのに。」

「分かってないのは千早だけだよ。」

「また偉そうに。だいたいナナオが余計なことをしなければ高森君だって言い出さなかったかもしれないのに。絶対わざとでしょう?何がしたいの?それも研修課題なの?」


「千早はそれでよかったの?おじいちゃんとおばあちゃんはエンヤが一緒の会社だって知ってすごく喜んだのに。本当にエンヤにお願いしてたんだよ。千早が困ってたら助けて欲しいって。」



「だから?」

「だから仲良くなりたかっただろうし。」

「じゃあ、なったじゃん。話を聞いて、二人の伝言も聞いて、ここまで帰ってくることも出来て、安心してもらって。もう十分だよ。後は普通の友達でも、これから一緒に働くこともあるんだし。」


「そんな強がり言っても可愛くないよ。素直じゃないんだから。」

「いいじゃない。リリカちゃんが高森君の事を好きなら、高森君がそれに応えても、何でも。それは私は知らないし、何も言えないし。だから友達にはなったんだし、もういいの。」


「だからそれをエンヤに聞けばいいって。」

「何でそんな個人的な事を聞くのよ、おかしいし。」

「絶対おかしくないよ。」

「別に知りたくない。」



「絶対後悔する!!千早、気を遣い過ぎるよ。別に二人から好きになられてもいいんだし、自分も好きなら一緒に出掛けてもいいのに。」

「そんな事言ってないじゃん。」

「十分言ってるよ。隠さなくてもいいよ。千早がなんで家族にも気を遣うんだか分からない。この間だってすごく緊張してた。泊まるつもりがダメになったとか嘘までついて。三人とも千早が可愛いのに、大好きなのに。」

「私も大好きだもん。別に三人とも大好きだもん。家族だし。」

「じゃあ、何で、ため息ついて家に入るんだよ。」

「大切だし、大好きだけど、もし私がいないのに慣れたら、三人はそれでも自然なの。私はちょっとだけ違う子みたいなの。やっぱり違うのよ。顔だって一人だけ似てない。せめてパパに似てたら千加とも似てたかもしれないのに。私はママに似てて良かったと思ってるけど、お母さんはどう思うか分からない。やっぱりいなくてもいいと思う。最初からそうだったって思うくらいそれが当たり前になると思う。」

「思わない。誰も思わないよ。そんなこと思ってるって知ったら、きっと三人ともがっかりするよ。」

「だって、私まであの中に入って当たり前の顔をしたら、ママはどうなるの?」



「千早・・・・。もういいから。ちゃんと千早のママはいるんだから、千早の中にも、パパの中にも、おじいちゃんとおばあちゃんと、こっちにいるたくさんの人の記憶の中にも。そんなに急になくならないんだから。大丈夫だって。」


さっきからナナオの言葉と一緒に優しい風が吹いてる。
自分を緩く取り巻くように吹いてる気がする。


あの頃より酷い、あの頃は我慢してたのに。わがままをここで言って、パパやママや二人には言わないようにって、我慢してたのに。

今は思いっきりナナオに八つ当たりのようにしてる。
全然成長してない。

反省するしかない。


「ナナオ、もう少し側にいてね。まだまだ研修終わらなくていいから。時々はここに帰ってきておじいちゃんとおばあちゃんのところに行ってもいいけど、もう少し一緒にいてね。」


「あいにく、まだまだ研修は課題が山積みだから。終わらないから、あそこにいるしかないんだよ。」

「そう、ナナオが出来の悪い狐で良かった。」

「俺のせいじゃない。むしろ・・・・・。」



目の前にお座りしたナナオの顔を撫でながら、時々優しくつまんだりしたり、グリグリしながら。本当のペットみたいに扱いながら、私の手はまだ甘えてる。


優しい風がびゅっと吹いた。
石段の下の方から強く吹き上げて、ナナオの尻尾の辺りで小さく落ち葉が舞って高く吹き上げられた。




「わあっ。」

声が聞こえた。ナナオじゃなく、私でもない声。

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