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29 ぎこちなさの中にいるはずなのに。
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一緒に会社に行くのも途中までで、電車を降りてからは前後して歩く。
自分の席についてくるりと後ろを向いても彼女はいなかった。
途中コンビニにでも寄ったのだろうか?
安心して前を行き、まったく消えた気配を感じなかった。
うかつすぎた。
いつもの朝の様に次々に繰り返される挨拶。
ギリギリの時間に席に着いた鈴木さん。挨拶も小声だった。
それはまるで『ちょっと遅くなっちゃった・・・・。」みたいな感じで自然で。
でもいつも元気に向けてくれる笑顔はなく。
気のせいじゃなくやはり視線が合うことがない。
でも自分も避けている。
鈴木さんだけじゃなく、出来るだけ彼女の方も見ないようにしている。
それでも微かに気配を感じることはできるもので。
ただそれだけで満足して昼を待つ。
12時のチャイムに席を立つメンバー。
いつものことながら数人は外回りでいない。
携帯と財布を持ち席を立つ。
トイレにも寄らずにコンビニに行く。
タイミングのせいか誘われることもなく外に出ることができた。
コンビニで画像を選び写真を現像した。
さすがにここで実家での写真を選ぶ勇気もなくページに表示させることなく子猫の写真数枚を現像して袋に入れた。
とりあえず今日の言い訳の分の用事は終了。
そのまま急いであのおじいさんマスターのいるお店に向かう。
近道もすっかりマスターしてる。
彼女が先に来ていた。
ドアベルにマスターと彼女の視線がこっちを向いた。
マスターに頭を下げて笑顔で迎えられて、彼女の席へ。
「麻美さん、もう注文したの?」
「はい。どうせ一緒に食べるかと思って。」
「何にした?」
「いつもの卵サンドです。」
「じゃあ、懐かしのミートソースにしてみていい?」
「はい。食べたことないです。」
「そうなの?」
「はい。たいていサンドイッチなので。パスタはうちでも作ることが多いし。」
「あ、そうか。」
マスターに注文してコーヒーもお願いする。
「ねえ、今日、どう?変な感じしてない?」
焦点を外すような質問でも分かったようだ。
「やっぱり・・・、私は見れなくて。」
「僕もそうかも。意識的に二人を見ないようにしてる。」
「・・・・・・・本当に・・・。」
「しょうがないから。今週は様子みよう。多分大丈夫だよ。来週からきっと元に戻れるって言ってた。」
それでも悲しそうな目で見上げられた。
「ごめんね。」
「謝らないでください。もし恨まれるとしても私です。」
「大丈夫、そんな人じゃないと思うよ。」
「じゃあ、もし私だったら?私なら恨むと思いますか?」
「・・・・・おも・・・・わない、し、・・・そんな事は仮定の事としても、あり得ないから。」
無言で見てくる。
「ない。」
もう一度はっきり断言する。
「それはちょっと立場が違うかも。私は最後には感謝します。いい思い出もたくさんあります。笑って過ごせた時間がたくさん。ちょっと違う気がします。」
「ねえ、そんなに思うほどじゃないかもしれないよ。大丈夫だから。もうこの話はおしまいにしよう。勝手に考えても悪いし、せっかくここにいるんだし。」
タイミングよくメニューが運ばれてきた。
半分づつ食べる。そのあと時間を置いてパスタと取り皿が。
「ありがとうございます。わざわざ。」
二人でお礼を言って彼女に食べたい分を取ってもらって一緒に食べ始める。
「懐かしい。外ではめったに食べないなあ。」
「ソースが飛び跳ねないように気を付けてくださいね。」
「うん。」
さっきの話題から一転、笑顔で時間を過ごす。
「お腹空いてたなあ、昨日からなんだかハードだったよね。麻美さん。」
「・・・・・・」
「朝さあ、今日もいい日になる気がしてたんだ。うれしい始まりで。」
「・・・・・。」
「ねえ、ひとりで喜んでるとバカみたいじゃない?」
「・・・・・・お昼ご飯に集中したいです。」
「ふ~ん。・・・・ねえ、写真現像したんだ。でも実家で撮ったのはあそこのコンビニじゃあ無理だった。地元で帰りにやるから。麻美さんの分もする?壁に追加ではってくれる?」
「・・・・・おねがいします。」
「お願いされました。」
「あの日さあ、やっぱり母親も浮かれてたと思うんだ。あんなに小さい頃の話を聞いたことなかったし。父親は余所行きだし。自分の親ながら見てて面白かった。」
「お母さんはいつもあんな感じじゃないんですか?」
「う~んん、もっと、あの時の90パーセントくらいには大人しい。」
「あんまり変わりません。」
「でも、うれしかったんだと思うよ。冗談ばっかりだったけど。だって話題にしたのはもちろん、紹介したのも初めてだったし。」
「いる、いないの話もしたことがなかったんですか?」
「多分ない。気が付いてなければ、ない。自分から白状したことないし。」
「その辺信じられませんが。イベントの時とか年末年始とか自宅で過ごした方じゃないですよね。」
「うん、友達と出かけてたからほとんどいなかったよ。バイトか遊び。でもやっぱり違うって思ってたんじゃない。格好とか、何だろう、ソワソワ感。だからこの間はすぐばれたし。」
「ソワソワしてましたか?」
「逆にバレないようにするのが不自然だったんじゃない。」
今みたいに・・・・。
そう言いそうになったのを飲み込む。
ふと時計を見る。結構時間がたった。
「楽しい時間はあっという間だね。」
お会計をしてもらいお店を出る。
「ねえ、少し太った?」
「えっ?」
顔に手を当て、次にウエストを見る彼女。
「なんだか今朝思ったんだけど、ちょっと柔らかくなったかなあって。」
「なぁっ、・・・・変わりません。」
「そうか、気のせいか?おねだり体質に変化したせいかな?」
「そんなこと真面目な顔で言わないでください。」
「そう?真面目だよ。やっぱり、雰囲気も変わったと思う。そのうち皆も気が付くよ。」
「・・・いいです。仮面の女で。」
「脱いで脱いで、そんなの。」
小声にして言った。
誤解を招くから、余計恥ずかしがらせたかもしれないけど。
能天気な昼を過ごしていた。
午後ものんびりと。
でも相変わらず視線をあげることが少なくて。
ただパソコンを見ていた。
「ちょっといいかな?」
そんなに静かだったわけじゃない、耳を澄ませてたわけじゃないのに聞こえた鈴木さんの声。
方向が、顔をあげなくてもその声の方向は見当がついた。
連れ立つ二人。
気になっても顔をあげることなく、ただ少し心拍が上がった。
気になる。
でも信じてる。そんな恨み節をぶつける人じゃないって。
少しして顔をあげると何人かが廊下の方へ顔を向けていた。
やっぱりその二人が不在。
どうなってるだろう?
気になっても続いて席を立つわけにもいかない。
ただパソコンを見ていた。
しばらくして帰ってきた二人が何事もなかったかのように仕事を再開した。
心配したと思われたくもないだろう。
それは2人ともに悪い気がして。
メッセージを送ることもできない。
そのまま気になったことは未解決のまま、終業となった。
明日は今日キャンセルになった営業先の一つに直行する。
明日の分の資料を持ちバッグに詰める。
パソコンのメールをチェックして特に問題ないことを確認して閉じる。
トイレに立ち、メッセージを送り席に戻り会社を出た。
結局今日は鈴木さんと一度も視線が合うことがなく。
これが今週いっぱい続くのだろうか。
自分も見てないからしょうがないとはいえ、かなり気が重い。
駅に着くころ彼女から返事があった。
いつものようにホームで電車を何本も見送った。
しばらくして声を掛けられた。
「お疲れ様です。町野さん。」
「お疲れ様、小路さん。」
珍しく横に立たれた。
今の彼女はとても自然な笑顔で。
嫌なことはなかったと思いたい。
一緒に電車に乗り、一緒に降りる。
いつものように手をつないで歩きながら聞く。
「どうする?」
「行っていいですか?写真もらう約束です。」
「ああ、コンビニに寄ろう。忘れてた。」
「え~、もう、私は楽しみにしてるんですから、がっかりさせないでください。」
・・・気になる。
そのまま食材も買わずにコンビニで現像だけして帰った。
玄関に入り、そのまま抱きつく。
「ごめん、確認だけしたい。嫌な思いしてないよね。」
「当たり前です。」
腕を離して彼女を見る。
我慢も気遣いもないようで、ホッとした。
「心配してたんですか?」
「うん、だって・・・・やっぱり。」
「お昼にはあんなこと言ったのに。恨みに思うような人じゃないって。」
「そう信じても、でも、もしって思ったよ。」
「あ~、じゃあ、私ももしかして恨むかなって思ってるでしょう?」
「ない。そんな事にはならないって。」
「・・・許します。」
見慣れた笑顔になる。
「でも気になるから話せるところは話してほしい。」
「はい。夕方までは教えない約束でした。」
「え?誰と。」
「もちろん、鈴木さんです。」
「なんで?」
「ちょっとした憂さ晴らしみたいな感じって言ってました。意地悪とも。」
なんなんだ。俺が何をした?
ただただ知らないで、気が付かないでいただけなのに。
しかもそれを嬉しそうに言う彼女。
今の表情を見るに『確かにそうですよね。必要なお仕置きですね。』みたいな顔して同意したような顔。心配してたのに。
リビングに来てもお茶を入れることもせずに、座ることもせずに。
彼女を見る。
「一応事実確認されました。優しいかと聞かれて『優しい。』と。俺様かと聞かれたので『そうでもない』と。エロいかと聞かれて『時々より頻繁に。』と。甘えるかと聞かれて『はい。』と。なんだか面白そうに、ずっと笑って聞かれてしまいました。昨日あれから落ち込んで悲しくて泣いたけど、来週を待たずに気持ちの切り替えが出来そうだと。それまではちょっと居心地悪いかもしれないけど我慢して欲しいと言われました。」
「念のために聞くけど、それはどこで繰り広げられた会話?」
「休憩室です。誰もいなくて良かったです。途中も誰も来ませんでしたよ。」
それでも小声で話したんだと信じたい。
昨日ストレートに聞かれたけど、何でさらに掘り下げて聞かれたんだ?
そんな話別に口止めしなくても会社では知りたくはない。
ふらりとよろけるようにソファに沈む。
「麻美さん、何で正直に答えたの?そんなガールズトーク、鈴木さんとはほとんど話したことないでしょう?」
「はい。2人では初めてです。2人じゃなくても初めてなくらい。でもごまかしたりしたら失礼かなって思って。ちゃんと答えました。少しは無理してると思います。」
手を伸ばす。
彼女が近寄ってソファに座ってもたれてきた。
「分からない、鈴木さんの気持ちが。そんなことに興味があるの?」
「興味じゃないです。はっきりさせて自分でも諦めるきっかけにしたいとか、そういう感じだと思ったんです。」
「・・・・・そう・・・なのかな?」
「多分。」
首にかかる息がくすぐったい。
安心したら何だかおなかも空いた。
「ありがとう。」
「いいえ。」
美味しい唇を食べて心の渇きを潤す。
「今日は帰ります。」
「・・・・・うん。」
「でももっと遅くなってからにします。ちゃんと送ってくださいね。」
「分かった。」
自分の席についてくるりと後ろを向いても彼女はいなかった。
途中コンビニにでも寄ったのだろうか?
安心して前を行き、まったく消えた気配を感じなかった。
うかつすぎた。
いつもの朝の様に次々に繰り返される挨拶。
ギリギリの時間に席に着いた鈴木さん。挨拶も小声だった。
それはまるで『ちょっと遅くなっちゃった・・・・。」みたいな感じで自然で。
でもいつも元気に向けてくれる笑顔はなく。
気のせいじゃなくやはり視線が合うことがない。
でも自分も避けている。
鈴木さんだけじゃなく、出来るだけ彼女の方も見ないようにしている。
それでも微かに気配を感じることはできるもので。
ただそれだけで満足して昼を待つ。
12時のチャイムに席を立つメンバー。
いつものことながら数人は外回りでいない。
携帯と財布を持ち席を立つ。
トイレにも寄らずにコンビニに行く。
タイミングのせいか誘われることもなく外に出ることができた。
コンビニで画像を選び写真を現像した。
さすがにここで実家での写真を選ぶ勇気もなくページに表示させることなく子猫の写真数枚を現像して袋に入れた。
とりあえず今日の言い訳の分の用事は終了。
そのまま急いであのおじいさんマスターのいるお店に向かう。
近道もすっかりマスターしてる。
彼女が先に来ていた。
ドアベルにマスターと彼女の視線がこっちを向いた。
マスターに頭を下げて笑顔で迎えられて、彼女の席へ。
「麻美さん、もう注文したの?」
「はい。どうせ一緒に食べるかと思って。」
「何にした?」
「いつもの卵サンドです。」
「じゃあ、懐かしのミートソースにしてみていい?」
「はい。食べたことないです。」
「そうなの?」
「はい。たいていサンドイッチなので。パスタはうちでも作ることが多いし。」
「あ、そうか。」
マスターに注文してコーヒーもお願いする。
「ねえ、今日、どう?変な感じしてない?」
焦点を外すような質問でも分かったようだ。
「やっぱり・・・、私は見れなくて。」
「僕もそうかも。意識的に二人を見ないようにしてる。」
「・・・・・・・本当に・・・。」
「しょうがないから。今週は様子みよう。多分大丈夫だよ。来週からきっと元に戻れるって言ってた。」
それでも悲しそうな目で見上げられた。
「ごめんね。」
「謝らないでください。もし恨まれるとしても私です。」
「大丈夫、そんな人じゃないと思うよ。」
「じゃあ、もし私だったら?私なら恨むと思いますか?」
「・・・・・おも・・・・わない、し、・・・そんな事は仮定の事としても、あり得ないから。」
無言で見てくる。
「ない。」
もう一度はっきり断言する。
「それはちょっと立場が違うかも。私は最後には感謝します。いい思い出もたくさんあります。笑って過ごせた時間がたくさん。ちょっと違う気がします。」
「ねえ、そんなに思うほどじゃないかもしれないよ。大丈夫だから。もうこの話はおしまいにしよう。勝手に考えても悪いし、せっかくここにいるんだし。」
タイミングよくメニューが運ばれてきた。
半分づつ食べる。そのあと時間を置いてパスタと取り皿が。
「ありがとうございます。わざわざ。」
二人でお礼を言って彼女に食べたい分を取ってもらって一緒に食べ始める。
「懐かしい。外ではめったに食べないなあ。」
「ソースが飛び跳ねないように気を付けてくださいね。」
「うん。」
さっきの話題から一転、笑顔で時間を過ごす。
「お腹空いてたなあ、昨日からなんだかハードだったよね。麻美さん。」
「・・・・・・」
「朝さあ、今日もいい日になる気がしてたんだ。うれしい始まりで。」
「・・・・・。」
「ねえ、ひとりで喜んでるとバカみたいじゃない?」
「・・・・・・お昼ご飯に集中したいです。」
「ふ~ん。・・・・ねえ、写真現像したんだ。でも実家で撮ったのはあそこのコンビニじゃあ無理だった。地元で帰りにやるから。麻美さんの分もする?壁に追加ではってくれる?」
「・・・・・おねがいします。」
「お願いされました。」
「あの日さあ、やっぱり母親も浮かれてたと思うんだ。あんなに小さい頃の話を聞いたことなかったし。父親は余所行きだし。自分の親ながら見てて面白かった。」
「お母さんはいつもあんな感じじゃないんですか?」
「う~んん、もっと、あの時の90パーセントくらいには大人しい。」
「あんまり変わりません。」
「でも、うれしかったんだと思うよ。冗談ばっかりだったけど。だって話題にしたのはもちろん、紹介したのも初めてだったし。」
「いる、いないの話もしたことがなかったんですか?」
「多分ない。気が付いてなければ、ない。自分から白状したことないし。」
「その辺信じられませんが。イベントの時とか年末年始とか自宅で過ごした方じゃないですよね。」
「うん、友達と出かけてたからほとんどいなかったよ。バイトか遊び。でもやっぱり違うって思ってたんじゃない。格好とか、何だろう、ソワソワ感。だからこの間はすぐばれたし。」
「ソワソワしてましたか?」
「逆にバレないようにするのが不自然だったんじゃない。」
今みたいに・・・・。
そう言いそうになったのを飲み込む。
ふと時計を見る。結構時間がたった。
「楽しい時間はあっという間だね。」
お会計をしてもらいお店を出る。
「ねえ、少し太った?」
「えっ?」
顔に手を当て、次にウエストを見る彼女。
「なんだか今朝思ったんだけど、ちょっと柔らかくなったかなあって。」
「なぁっ、・・・・変わりません。」
「そうか、気のせいか?おねだり体質に変化したせいかな?」
「そんなこと真面目な顔で言わないでください。」
「そう?真面目だよ。やっぱり、雰囲気も変わったと思う。そのうち皆も気が付くよ。」
「・・・いいです。仮面の女で。」
「脱いで脱いで、そんなの。」
小声にして言った。
誤解を招くから、余計恥ずかしがらせたかもしれないけど。
能天気な昼を過ごしていた。
午後ものんびりと。
でも相変わらず視線をあげることが少なくて。
ただパソコンを見ていた。
「ちょっといいかな?」
そんなに静かだったわけじゃない、耳を澄ませてたわけじゃないのに聞こえた鈴木さんの声。
方向が、顔をあげなくてもその声の方向は見当がついた。
連れ立つ二人。
気になっても顔をあげることなく、ただ少し心拍が上がった。
気になる。
でも信じてる。そんな恨み節をぶつける人じゃないって。
少しして顔をあげると何人かが廊下の方へ顔を向けていた。
やっぱりその二人が不在。
どうなってるだろう?
気になっても続いて席を立つわけにもいかない。
ただパソコンを見ていた。
しばらくして帰ってきた二人が何事もなかったかのように仕事を再開した。
心配したと思われたくもないだろう。
それは2人ともに悪い気がして。
メッセージを送ることもできない。
そのまま気になったことは未解決のまま、終業となった。
明日は今日キャンセルになった営業先の一つに直行する。
明日の分の資料を持ちバッグに詰める。
パソコンのメールをチェックして特に問題ないことを確認して閉じる。
トイレに立ち、メッセージを送り席に戻り会社を出た。
結局今日は鈴木さんと一度も視線が合うことがなく。
これが今週いっぱい続くのだろうか。
自分も見てないからしょうがないとはいえ、かなり気が重い。
駅に着くころ彼女から返事があった。
いつものようにホームで電車を何本も見送った。
しばらくして声を掛けられた。
「お疲れ様です。町野さん。」
「お疲れ様、小路さん。」
珍しく横に立たれた。
今の彼女はとても自然な笑顔で。
嫌なことはなかったと思いたい。
一緒に電車に乗り、一緒に降りる。
いつものように手をつないで歩きながら聞く。
「どうする?」
「行っていいですか?写真もらう約束です。」
「ああ、コンビニに寄ろう。忘れてた。」
「え~、もう、私は楽しみにしてるんですから、がっかりさせないでください。」
・・・気になる。
そのまま食材も買わずにコンビニで現像だけして帰った。
玄関に入り、そのまま抱きつく。
「ごめん、確認だけしたい。嫌な思いしてないよね。」
「当たり前です。」
腕を離して彼女を見る。
我慢も気遣いもないようで、ホッとした。
「心配してたんですか?」
「うん、だって・・・・やっぱり。」
「お昼にはあんなこと言ったのに。恨みに思うような人じゃないって。」
「そう信じても、でも、もしって思ったよ。」
「あ~、じゃあ、私ももしかして恨むかなって思ってるでしょう?」
「ない。そんな事にはならないって。」
「・・・許します。」
見慣れた笑顔になる。
「でも気になるから話せるところは話してほしい。」
「はい。夕方までは教えない約束でした。」
「え?誰と。」
「もちろん、鈴木さんです。」
「なんで?」
「ちょっとした憂さ晴らしみたいな感じって言ってました。意地悪とも。」
なんなんだ。俺が何をした?
ただただ知らないで、気が付かないでいただけなのに。
しかもそれを嬉しそうに言う彼女。
今の表情を見るに『確かにそうですよね。必要なお仕置きですね。』みたいな顔して同意したような顔。心配してたのに。
リビングに来てもお茶を入れることもせずに、座ることもせずに。
彼女を見る。
「一応事実確認されました。優しいかと聞かれて『優しい。』と。俺様かと聞かれたので『そうでもない』と。エロいかと聞かれて『時々より頻繁に。』と。甘えるかと聞かれて『はい。』と。なんだか面白そうに、ずっと笑って聞かれてしまいました。昨日あれから落ち込んで悲しくて泣いたけど、来週を待たずに気持ちの切り替えが出来そうだと。それまではちょっと居心地悪いかもしれないけど我慢して欲しいと言われました。」
「念のために聞くけど、それはどこで繰り広げられた会話?」
「休憩室です。誰もいなくて良かったです。途中も誰も来ませんでしたよ。」
それでも小声で話したんだと信じたい。
昨日ストレートに聞かれたけど、何でさらに掘り下げて聞かれたんだ?
そんな話別に口止めしなくても会社では知りたくはない。
ふらりとよろけるようにソファに沈む。
「麻美さん、何で正直に答えたの?そんなガールズトーク、鈴木さんとはほとんど話したことないでしょう?」
「はい。2人では初めてです。2人じゃなくても初めてなくらい。でもごまかしたりしたら失礼かなって思って。ちゃんと答えました。少しは無理してると思います。」
手を伸ばす。
彼女が近寄ってソファに座ってもたれてきた。
「分からない、鈴木さんの気持ちが。そんなことに興味があるの?」
「興味じゃないです。はっきりさせて自分でも諦めるきっかけにしたいとか、そういう感じだと思ったんです。」
「・・・・・そう・・・なのかな?」
「多分。」
首にかかる息がくすぐったい。
安心したら何だかおなかも空いた。
「ありがとう。」
「いいえ。」
美味しい唇を食べて心の渇きを潤す。
「今日は帰ります。」
「・・・・・うん。」
「でももっと遅くなってからにします。ちゃんと送ってくださいね。」
「分かった。」
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