悪女の取り扱いには注意してください。

羽月☆

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17 私の取り戻した日常。

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寝室の外で音がした。
歩く音、立ち止まる音、また歩き出して玄関のドアが閉まる音。

きっと顔も洗わずに出て行ったのだろう。
その顔は少しは反省してくれただろうか?
怒ってるとは思っただろう、自分が怒らせたんだと思っただろう。
そうでなければただの失礼な女だ。

だいたい噂の中の真実は林から聞いてるはずだ。
ただ揶揄われたのだろうか?

しばらくして寝室を出た。

リビングは酒臭い匂いがしてる気がして、窓を開け放った。

冷蔵庫を開けて朝ごはんの準備をする。ソーセージを転がして、卵を炒めて、ヨーグルトにドライフルーツを入れる。

二日続けて飲んでるから主食はやめた。
今食べても、きっとおいしくないだろう。

無心に食べてる振りしても、なかなか苛々が収まらない。
噛み砕くようにソーセージを噛んで飲み込んだ。

すっかり煮詰まったようなコーヒーで油を流す。


空気の入れ替えも終わり、もう少し化粧を足してでかけた。


本当なら宿代にランチくらいおごってくれてもいいのに、とは言っても食べることに興味を持てないのはよくわかってる。
もう、そんな事も気にしない。

今日の予定はもともと何もなくて、スーパーに買い物に行くくらいしかなかった。


月曜日からまた元通りの日々が戻ってくる。

笑いながら両隣とふざけ合い、賑やかな空間で仕事をして、疲れたら休んで、残業があっても気分転換に席を離れてのんびり外を見たりして。

終わった後はまた隣とふざけたことを言い合いながら別れる。

そして一日が終わり、次の日も同じような一日を繰り返す。

それが私に馴染んだ日常だし。



さっさと必要なものを買って部屋に戻った。


テレビを見ながらソファでカップ麺をズルズルとすすりながら、残っていたビールを昼間からあおり、色気のない日曜日を過ごした。



そして月曜日、私の日常をとり戻そう。

もう七面鳥の夢を見ることはないだろう。
夢の中では美味しそうだった丸ごと鶏料理。
でも、しばらくは見るのも嫌だ。


自分の席に行く。

隣の席に林が座った。


「何か事件が起きた?」

「何?」

「週末、楽しくなかった?」

「別に。」



「おはよう、亜弓。お金大丈夫だった?」

「大丈夫だった。」

語りたくもない夜だから、何でもいい。

「林君、楽しかったよね?」

「ああ、初めてあんなに酔ったのを見た。」

「何?あれからそんなに酔っぱらったの?」

私は知らないふりをして、続く会話には入らないようにした。

「ああ、何だかどんどん無表情が崩れてきて、すごく素直な顔をチラチラ見せてて、面白かった。」

「本当?見たい。どうしても無口で愛想のない印象だもんね。残念だった~。また今度に期待しよう。」

「普段を知ってるから分かって驚くくらいで、普通と言えば普通かも。」


あれが普通だとするなら林も終わりだよ。

「亜弓、どうだった?」

「さあ、途中までひたすら眠そうだったけど。」

眠そうだった恩人を放り出した、酷い奴。むしろその方がいい。

「じゃあ、途中の後半は?」

「さあ、帰ったから。」

ちゃんと朝一人で歩いて帰ったし。

会話は終わった。




昼は外に出た。

食欲はないのに。
でも会社の中にいるのも嫌で、誘われるままに外に出た。


「ねえ、あれからどうなった?何かあった?」

「別になにも、もともと本当に数分飲んだだけだし、携帯の番号しか分かってないと思う。」

「ええ~、事件の方じゃないよ。期間限定の相棒の方だよ。」

佐々木君のほうらしい。

「そっちも別に。」

じっと見られた。何か聞いてるんだろうか?



「酔って眠いを繰り返して本当に歩かなくて、横になりたいって言うからソファを貸しただけ。次の日はペットボトルとともに消えていた。以上。」

「お礼は?」

考えるまでもない、無い。
タクシー代も無い。
歩いてきたと思ってるかもしれない。
タクシーに乗せたと言った気もするけど、起き抜けだっただろうし。

別にいいけど。忘れたから。期間限定というなら本当に終わったことだ。
先輩との方が会話も多くて、仲良くなれたくらいだし。
なんなら先輩となら相棒抜きでも飲みに行けるくらいだ。


「日曜日、ランチもなし?」

「だって食べないでしょう?むしろコーヒーも味わえないかもね。気を遣うから、もう一緒に飲んだり、食べたりすることも無いよ。」

「じゃあ、なんであんなに頑張ったの?」

「仕事です。今日の分って言われて渡されたノルマを処理しただけ。」

つまらなそうに聞いてる。
浩美が聞いてきた話題なのに。



「浩美は週末楽しめた?」

「もちろん。いつものように楽しみました。」


いつものように話し出す浩美。

そうですか、それは良かったことで。

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