悪女の取り扱いには注意してください。

羽月☆

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28 隠さない心は裏がない。

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取りあえず起きるのを待とうと思う。
コーヒーをいれて、テレビのボリュームを絞りぼんやり眺めていた。
随分ゆっくり起きてきた、すっかりお昼だ。


昨日の午後からコーヒーゼリーとシュークリームしか食べてないのに大丈夫だろうか?


コーヒーを飲みながらボリュームを戻したテレビを見て待つ。


洗面台に乾いた下着とTシャツを置いてある。
良く乾いて満足だった。

充電していた携帯が鳴った。
いい予感はしない。
どうしても確かめたくて、我慢できなくて、聞きたくてかけてきそうな裏切り者がもう一人いた。

携帯の着信音が好奇心の音を響かせてる気がする。


しょうがないので見る。
昨日までも、二度ほど返信してない言葉が浮かんでいた。

思った通り浩美からだった。

『どう?』

実にシンプルだ。
林からどこまで聞いたんだか。
駅の改札前で会って2人にしたところまでは報告を受けてるだろう。


『ここにいる。やっと起き出してきた。』
『体力あるけど、さすがに疲れたみたい。昨日から本当にあんまり食べてないのにね。』

『時間をかけて、いろいろ話ができた。』

さすがに最後に付け加えた。
余りにリアルに想像されたら恥ずかしい。
長々と話しをしてる時間を想像して、夜の時間を埋めたと思ってもらってもいい。



『良かった。とりあえず、お手柔らかに。』
『また来週。』

『バレたら大変だね。』

浩美がそう締めくくった。


手加減して欲しいのはこっちだ。
やはり、そこは想像できないらしい。


携帯を置いた。
林にも伝わるだろう。
佐々木君の携帯に連絡が来てるだろうか?
絶対来てるだろう。


余計なことまで言わない事を願う、本当に願う。


さっき起きてきた姿はぼんやりとボサボサで、ちょっとだけコソッとしてた。
腰にバスタオルを巻いた格好だ。
私は着替えをしてる、部屋着とはいえ、普通の服を着ている。
ほとんどスッピンではあるが。



「佐々木君、シャワー使って。洗濯したものも置いてあるから。」

「・・・・ありがとう。」


そう言ってバスルームに歩いて行ったけど。
ジーンズやシャツを持ってない。
バッグはいいとして、それは持って行くべきじゃない?


寝室に入り、部屋の空気を入れ替える。
洗濯をしたいものもたくさん。

取りあえずシーツを剥がすのは諦めた。後にしよう。

部屋を出てキッチンへ行く。

やっと朝ごはんが食べられる。
お腹空いた。


いつもいかに顎を使わない食べ物を食べていたか、実感する。
あるのはヨーグルトと卵と、冷凍のトーストとシリアルくらい。
朝から・・・昼だけど、寝起きのパスタはあり?
ないなあ。


直接聞いてみよう。
いつも朝は何を食べてるんだろう。

野菜スティックを濃いめのソースで食べる方がいいのだろうか?
歯ごたえはある!


洗い立ての下着とTシャツを着て、また寝室に戻って行った。
ほら、やっぱり服が必要だったでしょう?

寝室から出てきた時にはすっかり普通の恰好になっていた。

リビングに来てお礼を言われる。

「お世話になりました。ありがとう。」

自分の恰好を指して言う。

洗濯の事だろう。

「もう帰る?」

バッグも手に持たれていた。
そんな言い方だったし、食事なんて必要ないとしたら、もしかして自分の部屋でのんびりしたいとか。


そう思って聞いたのに、怒った声で「もう少しいます。」と言われた。
憮然とした表情。

別に追い出そうなんて思ってないのに。


「じゃあ、座って。何食べようか?ストックの食料は今一つなの。いつも朝は何食べてるの?」

「ヨーグルトとリンゴとかバナナとか果物が多いかな。」

「ヨーグルトはあるよ。冷凍のブルーベリーとシリアルくらいならあるけど。」

「じゃあ、ブルーベリーを入れて食べたい。ヒンヤリして好きだから。」

「そう?良かった。今度はちゃんと果物買って来た方がいいね。」

自然にそう言った。
そう自然すぎるくらいに。
当たり前で、普通。
ただ、それは、ここで一緒に過ごすことを前提とした話だけど。
驚いた顔をされたから、それが普通じゃないんだと分かった。


「まあ、そんな・・・・必要があれば。」

それには答えてくれなかった。

背中を向けてキッチンで準備をする。
自分で好きなだけ入れればいい。

ヨーグルトを透明なグラスに入れて、ブルーベリーをザザッと容器に開けて、シリアルはパウチのまま持って行く。
シリアルは拘って買っているんだけど、美味しさは伝わらないらしい、残念だ。
歯ごたえもあるザクザク感だけど。

コーヒーをいれたマグと一緒に運ぶ。


話しをしていた場所にぼんやりと立っていたらしい。

手を出されたので途中で渡した。
残りの自分の分を持ちソファへ座る。

すっかり慣れた横並び。

「お腹空いてたの。あと三十分たっても起きなかったら絶対起こしに行ってた。お腹空いたから我慢できなくて、叩いてでも起こしたかも。」

「すごくよく眠れた。」

「うん、良く寝てた。」

自分でも笑顔になってるのが分かる。
あんなに目つきが悪いって言われる自分が、どうした?

「亜弓さん・・・。」

「ん?」

「おはよう。」

そう言われてキスをされた、軽く、一度。

「おはよう。」

言ってなかった?

「食べてみて。シリアルも実は気に入ったお店で買ってるの。ナッツの歯ごたえもあると思う。」


「そうなんだ。」


もう普通に食べ物の話をしてもいいと思う。
考えるより、聞く。
分かってもらえなくても、言う。

私はシリアルを多めに入れた。
冷たい感触を楽しむならブルーベリーをたくさんどうぞと言いたかった。

その思惑通りに多めに入れて冷たいと言いながら食べている。


スッカリ空腹も落ち着いた気分。
まだまだ入るけど、とりあえずはいい。

片づけを手伝ってもらって、またソファに戻る。

一応お代わりのコーヒーをいれてみた。



「佐々木君、あの日、助けてもらった日、本当は呆れた?簡単に騙されて、助けてもらわなかったら酷い目にあってたかもしれなくて、それでも私は気がつかなかったかもしれなくて。会社に戻って来て話をしてる時そんな感じだったし、すごく・・・・・呆れたよって言うような言い方だった。」


「呆れてたかも、本当によりによってって、何やってるんだよって。あの時邪魔しないでいたり、自分が知らない間に何かあったらってずっと思ってた。だから間に合うように必死に追いかけて、信じてもらえるように動画を撮って。ちゃんと僕の方を信じてくれて嬉しかったし、言った通りに動いてくれたのもすごくうれしかった。邪魔しないでとか言われてたら、どうしようもなかったし。」

そんな事言わない。
さすがに・・・・・・。
でも壮大なドッキリかもと何度か思ったりもした。
だってさっきは言葉を選んだけど、はっきりと小馬鹿にするような物言いだった。揶揄うと言うよりはちょっと酷い感じで。


「でもその後は、はっきり言って、過剰防衛のついでに一緒に居たかっただけ。ずっとだと変だから林君も巻き込んだ。」


「本当に無自覚なんだよ。目立つんだから、他の会社の人にも狙われるのに。何も社内だけじゃないから。悪評は女子の間で広がりやすいだろうけど、美人の情報は男の中で広がりやすいんだから。」

「今までだってそんなことないよ、どうかしてる。佐々木君がどうかしてる。別に他の会社の人にいきなり声かけたりされたことなんて全然ないし。」

「それはたまたまだよ。そんな行動力を誰も見せてなかっただけだよ。僕だって他の会社の美人の噂は聞いたことがあるし、何かのきっかけがあれば、絶対利用すると思えるくらいだから。」


「美人は何人くらいいるの?」

「何?」

「噂の美人。何人くらい確かめたの?」

「僕は知らない。噂で一個下の階にいるとか、よく一人でランチしてるとか、ざっくりとした噂の端っこを聞くくらい。」



「興味ないの?」

「ない。」


「・・・・そう。」

「ねえ、もっと嬉しそうにしてもいいのに。」


そう言われたけど顔をそむけた。
嫌だ。絶対そんな顔しない。


「あの時はちょっとしか呆れてはいない、信じてもらえてうれしくて、安心してテンションが変に上がってしまって、ちょっと揶揄ってしまって。ムッとした表情にも気がついたけど、止められなくて、ごめん。」


「いい。本当に助かったから。」


「でしょう?」


うれしそうに笑う顔にきっと裏はない。
ただあんな出来事でも佐々木君にとって何かのきっかけになったことを、単純にありがたいと思ってるんだと、そう思うことにした。
・・・・半笑いの、小馬鹿にした態度も忘れてやろう。



「すごく分かりやすい。」

やっぱり半笑いの顔で言われた。
そう言いながら裏を探ってるのは誰だ。
そっちこそ分かりやすいわ!

「林君からおめでとうってメッセージ来てたんだけど。体力あるんだって褒められてるぞって。何を教えたの?」

「別に、いろいろ話をしたって、やっぱり何も食べないって教えただけ。もちろん浩美にだよ。」


「ふ~ん。」


信じてない時の返事らしい。
心がない。
ちょっとだけ私も誤魔化してる感じだから何も言えない。

浩美・・・・馬鹿。


「林には何を言ったの?」

「『それは褒められてるのかな?しつこいって思われてるかも。』って言ってみた。」

「・・・・・林は何て?」

「『今度聞いとく。』って。」

言うもんか、答えるもんか、話をするもんか!!
恥ずかし奴らめ・・・・自分も含めて・・・・。


「林君の彼女知ってるの?」

「知ってると言うか、話しの中には出てくるって感じ。あいつも浩美も別に隠さないから。堂々と惚気のように週末のことを話してくる。月曜日は2人ともうざい。」


「ふ~ん。」

顔を見た。

何? 仲良しなんだねって、そんな感じ?


二人でソファに座って、正面を見て、

時々話をして。

そんな感じでゆっくり時間は過ぎて行く。


「楽しそうだね、三人も同期がいると。」

随分会話が空いた気がする。


「そうだね。そう言う意味ではラッキーだったかも。二人ともあんまり気を遣わなくていい。噂は面白がるけど、軽蔑しないでいてくれる。」



「僕の先輩達も優しかったんじゃない?」


「そうだね。別に、・・・・・そうだね。」

「せめてフロアが一緒だったら良かったのになあ。」


下の階には本当に少しの課しかない。
あとは、小さな会議室や資料室、倉庫・・・・。
隣の課が人の出入りのあるけど。
そもそも佐々木君があの部屋から出て行ってない気がする。


そして休憩室も上の階にある。
今まで休憩をとってるところ・・・見てないから。
そうなると本当に誰とも親しくなれなそうで、それは寂しいかもしれない。


「たまには上に休憩に来れば?先輩達はさっさと帰ってたけど、いつも最後まで残ってるの?」

「あの時は・・・・特別に残業した。いつもだいたい最後だけど、本当にちょっとだけ。」

「そうなんだ。いつも休憩もせずに真面目にやってるみたいに言われたよね。」

「・・・・。」

「何?違うの?嫌味だったとか・・ないよね?」

「それは・・・・別にいい。」

「そう?」


たまに言葉少なのぶっきらぼうヤローになる。
何を黙りたいのか理解できない所だ。
裏はない裏はない、多分ない。
言いたくないんだろうと思ってあげてる。
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