悪女の取り扱いには注意してください。

羽月☆

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32 『もちろん』の使い方について考える。

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30分の残業を終えて帰り支度をする間も返事はなかった。

『週末遊びに行かない?食事でも、飲みでもいいけど。』

さっき自分が送った文章のまま、何も後に吹き出されない。

たった一文だった。
まさかそんなあっさりした会話だとは。
改めて反省してしまいそうだ。
仲のいい友達レベルの会話、少しも色気がないのは分かる。


そんなテキストの文字に色気なんてどうしても出せないけど、これはなかなかだ。媚びも甘えもない。

ついでに返事もないのを確認して席を立った。


意味ありげに見られた浩美の視線に首を振る。
伝わっただろうか。


今日も直帰というのは自分が可哀想だから、どこかで食事でもしようか。


駅に向かいながらそう思っていた。
どこの駅に向かおうかと、頭の中のリストを捲る。

駅の改札の前に来た時に声をかけられて。
そこにコウヨーがいて。

いきなり?


「佐々木君、お疲れさま。」

同僚のふりで。

「お疲れ。林君から連絡があったんだ。」

「何?」

「そろそろだぞって。」

「何が?」

「仕事終わったみたいだって、そろそろ帰るぞって。」


「・・・・・。」

何で?そんなの前もって言ってくれれば教えるし。
何で林を巻き込むの?

「私も連絡は入れておいたけど、見てくれた?」

「ああ、週末のことなら、もちろん見たよ。」

見て、返事はないんかい!

『もちろん』の使い方、変。

そうは思っても裏はない、裏はない・・・・・唱えて、こらえる


「ちょっと飲みに行かない?・・・良かったら。」

「もちろん、いいよ。」

それが正しい『もちろん』の使い方だ!!



そう言って先に改札をくぐられて、そのままついて行く。

そのまま私の使う電車に乗り込んで。


「どこで飲むの?」

「駅前、いろいろとあったよね。」

回り道になるのに。

まあ、いいならどうでもいいです。異存はない。


駅を降りて、お店を選ぶ前にちょっと待ってて、そう言って買い物をするコウヨー。なぜ今?

敢えて聞かずに外で大人しく待っていた。
『待て』と言われたから。

その間に私がお店を選んた。

お酒とちょっとだけアラカルト。

まだまだ平日の、週の真ん中だから。
お酒も控えめに。


珍しく美味しそうな顔をしてる。
何やら気に入ったらしい。
良かった思う。

頼んだものを改めてよく見てみるけど・・・・特に普通。
お酒が良かったのかもしれない。


「いいね。」

「そうだね。気に入った?」

「何?」

「お店でしょう?」

カウンターだし、違うと否定されても困る。
店員さんに聞こえる・・・。

「違うよ。こうやって平日に飲むのもいいねって思って。」

ああ、否定された。

「林とは平日には飲んでなかったの?」

そう聞いたら、シラッとした顔をされた。

「何?」

何だろう?
またしてもかみ合わない感じの会話?

「いい、後で。」

鈍い。

確かにそうつぶやかれた気がした。


どの口がそう言うんじゃあ~。思わずその顎を掴みたくもなるけど、あの呪文を二回繰り返せば、そんな衝動はやり過ごせる。
『裏無し裏無し表だけ。』

天然レベルに何でも許されるらしい。
羨ましい。
何も許されないで、どう動いても非難される私とは正反対だ、そうなんだ、本当に許されないんだから。


「何怒ってるの?」

横から聞かれた。

思わず眉間にしわが寄ってたのかもしれない。

「ちょっとした理不尽な世の中に。」

「そう。」

たいして興味なさそうに言う。

なんだか気が抜けるやり取り。

本当に少し酔ってみればどうですか?
少しは可愛くなるのに。


「いつもは平日はどのくらい飲む?」

「う~ん、5杯は超えないようにしてる。次の日にバナナも美味しくなくなる。」

文字通りにはとれない。
食べる気がしないと言うことだろうか?


「今日は控えめだね。」

そう言われた。

「まあ、平日はこんなもの。一、二杯くらいにしておく。気にしなくていいよ。」

飲んで飲んで、いっそその方が話しやすい。

「何か企んでる?」

何?
バレた?

「別に、私は食べる方でいい、コウヨーは飲んでもいい。ああ、もちろん『眠い』の連発は困るけどね。」

「もちろん。頼まれてもそこまでは行かない。」

頼むわけないじゃない。
あの時も頼んでないし。


「あのあと、先輩達と食事してるの?」

「うん、週二回は仲よくしようのランチとか言われて連れ出されるようになってる。」

「いいじゃない。楽しそう。混ぜて欲しいくらい。浩美がお休みの時は誘われたいなあ。」

「本気で言ってる?質問の嵐だと思うけど耐えられるなら、どうぞ。」

「何?別に・・・もしかして下の人の事とか?」

「あれは未遂で被害件数にカウントされてないんじゃない?何かプロがたずねたりしてきた?」

「ううん、ない。それはお陰様で。でも、じゃあ、何?」

「いろいろだよ。知らない方がいいよ。」

なんだろうか?
本当に知らない方がいいと言うなら、話しに出さないで欲しいけど。
でも、仲良く誘ってくれて、大人しくついて行ってるならいいじゃない。
あの閉ざされた世界で一人って、寂しいから。

だからそう聞いて、満足だった。

ちゃんと笑顔で話をしてると思いたい。
美味しいと笑顔で食べることは無理でも。

コウヨーがちゃんちゃんとお代わりをして、私は食べて。

4杯くらいは飲んだよね。もういいよね。

少しは表情も緩んでるから、そのくらいにしよう。

行き過ぎるとろくなことはないから。

そろそろ・・・・と口を開こうとしたら。

「林君が時々様子を報告してくれてたけど、最近は前みたいな評判が鳴りを潜めて、大人しいって、残念そうに言ってたよ。」

「普通です。」

「そうなの?じゃあ、なんであんなに敵が多いんだろうねって先輩達も言ってたよ。まあ、しょうがないかって笑われてたけど。」


何~。
いつの話?私のヘルプ明けの話?
ちょっといろいろ気になる。

「勝手に話題に出されてるの?何でよ。たかだか二週間弱しかいなかったのに。」

そう言ったら困った顔をされた。

「だから言ったじゃない。」

「何を。」

そう言ったら口が閉じた。



「話をしてて、よく『何』『何』って聞かれる気がする。何でわからないんだろうって思う。」

・・・・それこそ何?

分かりにくい話し方をするんじゃない。
しょうがないじゃない。
もっと分かりやすく、はっきりと言って欲しいのに。
あと時間差攻撃止めて欲しい。

と、言いたいけど、もういいや。

つい、今までどうだったの?と聞いてしまいそうになる。

そのセリフはここぞと言う時に出してやる・・・・なんて意地悪なことも考えてる。


「そろそろ終わりにしようかな。ちょっとぼんやりしてきた。」

「そうね。」

呂律が怪しいまではないし、目もしっかり起きている。
よし。

「僕が出すよ。宿代。」

宿代?週末の先払い?
義理堅いのか、次回は奢る気はないと言うことなのか、まさかの二回払い?
そんな大したおもてなしなんてしませんよ。


お店の人にごちそうさまでしたとお礼を言って先に出た。


お店の人にも私たち二人が出来立てカップルには見えないだろう。
普通の同僚ってところだろう。
まさか『先週初恋を実らせてちょっとだけ舞い上がってた男』には見えないだろう。
私にも見えない。
本当に先週は二人揃って変なキノコでも食べたがための幻覚、リアルさはあったが幻覚・・・。

本当にただの同僚みたいな感じ。ちょっとあっさりとした感じ。

さて、どっちが悪い?


駅に向かう私の腕をつかんで引き寄せる。

何?

「どこ行くの?」

「駅まで送るよ?」

「泊まりたい。」

・・・・・・宿代・・・・・。

当日予約・・・いや、アポなし、当日払い。

手にしたものを軽く目の前に動かされる。

「そのつもりで。付き合ってもくれたし、何も言われないから分かってるのかと思ってた。」

分かるかっ。

普通買う前に聞くよね、いや、駅前で飲みに誘う時に聞くよね、もっと先にいくらでも時間もチャンスもあったよね。何でそこだけ抜かしてのんびり飲めたんだ?

眉間が大きく縦のシワを作る。
きっと川の字くらいにはなってるだろう。
深い川、長い川。

「ごめん、無理なら、帰る。そんなに飲んでないし。」

そう言われると別に無理でもないのだが・・・と思ってしまう自分の人の良さ。
顔を見ると思ったより真面目な顔をしていて。


「いいよ。ちょっと話がしたい。帰ろう。」

そう言って歩き出した。

一歩遅れてついてくる。
そのうち並ぶのもいつものパターン。

ゆっくりため息をつく。

はいはい、出来立てカップルなら喜ぶところです。
連絡がないなあなんて思ってた私がアホみたいだし。

そこんとこ、話し合おうじゃないか。
私の普通とあなたの普通。


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