悪女の取り扱いには注意してください。

羽月☆

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34 いつもと違う通勤時間。

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社会人になってからも、一度も寝坊したことはない。
目覚ましをかけ忘れることもないけど、日曜日だって一度はちゃんとした時間に起きる。
ただ、必要がないときは二度寝するけど。
たいていその後はグダグダだけど。

そしてパチッと目が覚めた。
目覚ましより早く。

当然隣に人がいた。
俯くように寝てる顔。

なんであんなに分かりにくいって思ってしまうんだろう?
素直でストレートだと思うのに、私の方が時々ズレてるらしい。

それは性根がねじ曲がってるって事?

いえいえ、いろんな経験をすると自然とそうなるんです。

先に起きようとしたけど、そう言えば・・・・と思い出す。
でもさすがに交代でシャワーを使えた方がいい。
私は先洗濯物も干さないといけないし。

最後にもう一度顔を見る。

七面鳥の面影はもうない。

かわいいフェネックみたい。
良くは知らないけど、小生意気そうな目つきの小さな狐みたいな犬。
ふさふさの尻尾を細い体に巻き付けて眠る狐犬。

「こうよう、大好き。大満足だった。」

恥ずかしくて絶対言えない。
言わされたかもしれないけど、ちょっと言えない感想。

軽くおでこにキスして、そっと起き上がった。

もう少し寝てていいから。


先に洗濯物をのけてシャワーを浴びる。
新しいバスタオルと小さなタオルをそこに置いておく。

ささっと化粧をして。

洗濯物を外に出す。


余分な一人分がある。
いつか近いうちに、またこれを着て、一緒に仕事に行く日があるんだろう。

袖の先を掴んで腕を振るように揺らし、放す。

そんな事をしてる間に寝室からアラームが聞こえて。
目覚めよく起きてきた。

「おはよう。バスルームにタオル置いてあるから。」

「ありがとう。」


そのまま背中を見送り、コーヒーをセットして、寝室の空気を入れ替える。

ベッドは綺麗になっていた。
あとは今夜にしよう。


スーツを選んで、寄せておく。

キッチンに戻り、この間と同じヨーグルトと凍ったブルーベリーを出す。

「亜弓さん、おはよう。よく眠れた。」

後ろから腰に手を回された。
器用にくるりと体を回されて、キスをする。

「勝手に起きた。」

「しょうがないでしょう。仕事の日は無理。」

「分かってる。キスしてくれたからいい。おでこなんて可愛いね。」

ん・・・んんっ???

「・・・・もしかして、先に起きてたの?」

「う~ん、どうだろう?ちょっと遅れたかも。『こうよう、大好き。大満足だった。』には間に合った。」

「・・・・・。」

「どう?他にも何か褒めてくれてた?聞き逃してたら残念だし、おでこ以外もあったんならうれしい。」

「ないです。あれだけです。」

ちゃんと起きてたんなら目を開けてて・・・・でも、見られても困るからいい。
まあ、いい。

気をつけよう。油断ならない。

「ご飯にしないと遅れるよ。」

そう言って背中を押された。

もう用意は出来てるから。
コーヒーを注いだカップを持ってソファに行く。

「後、何分?」

「30分くらい。」

いつもつけてるテレビを見ながらコーヒーを飲み、ヨーグルトを食べる。

ふと気になって横を見るとすぐ近くでこっちを見ていた。
思わず後ろに体をひく。

何?


「本当に、普通だよね。」

誰と比べて普通なんでしょうか?と朝から嫌味も言いたくなるけど。

「あ~あ、分かってないよなあ。噂って本当に無責任だよね。少なからず悪意がある気がしてくる。そんな嫌な思いをまだするの?」

「もうしない。もうそんな事にはならないし。」

「そうだね。」

それくらいでも役に立てるならいいや。
そう言ったと思う。


本当にいい人なの?


「こうよう・・・。」

「何?」

そう聞いてきたのにすっかり気持ちが伝わったらしい。

軽くキスされた。

「名前の呼び方が違う。伸ばさない時は素直だよね。あ~あ、教えたいなあ、皆に、せめて林君にだけでも。」
「やめてっ。」

「当たり前だって。驚いて顎が外れるかもね。もしくは笑い飛ばされるか。」

「何でよ。」

「『なんだよ、普通だな。』って、笑いながら言いそうじゃない?」

「そう・・・かもね。」

ちょっと顎は外してやりたいとも思ったけど。
いろいろ借りもあるし、今回は許そう。


「準備していいよ。片づけはやっとくから。」

「ありがとう。お願い。」

そう言って寝室で着替えて、残りの化粧をする。

小物を揃えて終了。

それでも時間はあと五分くらいはあった。


余裕余裕。

ソファに座る。

「週末のこと話したかったのに、忘れてた。」

「どこ行く?」

また肩に顎を乗せてくる。

「ねえ、それ女の子がする方じゃない?」

「それは『私がする!』って言う宣言?」

「違う。高さが無理。」

「でしょう?だから男の方がするんじゃない?」

そうかな?


「まあ、いいや。行こうか。」

手を取って立ち上がる。

今日は仕事だから。


一緒に玄関を出て、手をつないで駅まで向かう。

いつものような満員電車。

人の間をすり抜けるように真ん中まで行く。

「いつもこんな感じだけど?どう?」

「僕も同じくらい。しょうがないよね。」

いつもはどっしりと足を開いて踏ん張るし、どこか捕まるところを探すけど。
今日は手をつないでいて、コウヨーはもう片方の手で吊革につかまってる。
満員でくっついてるような状態だし、少しくらいぐらついても大丈夫だと思う。

珍しく頼りにしてる、あの時もそれなりにだったけど、今はもっと、近くにいて欲しいと思うくらい、信頼してる。

下から見えるその顔を見上げながら思った。

バランスを崩すこともなく、会社の駅に着いた。

あっという間だった気もする。




「亜弓さん、そんなにヒゲが気になった?やっぱりカミソリでも買った方が良かったかなあ?」

「何で?」

また言ってしまった私。
だってヒゲの話なんてした?

「なんだか電車でずっと顎を見られてた気がする。」

そう言いながらさっきからずっと顎に手をやってる。
別に・・・・。
見てない。気にしてない。

「気になるならコンビニで買えばいいよ。」

ついそう言った。

「べつに自分では気にはならないんだけどね、変?」

「変。」

そう言ってじゃあ先に行くね、と小さく呟いて距離を取った。

いつも先を歩いてるけど、今度は横に並ぶことはないだろう。

ずっとヒゲでも顎でもスリスリしてればいい。



まっすぐに会社に入り、エレベーターを待つ。

「鈴鹿さん、おはよう。」

ビックリした。
追いつかれたの?

しかも挨拶して来てる、シラッと。

「おはよう。佐々木さん。」

見上げる目つきがきつくなるのはしょうがない。

「なんだかすごくよく眠れて、すごくスッキリ目が覚めた日はいい事ありそうだよね。」

「そう。」

さり気なく距離を取る。
エレベーターが開いて乗り込む。
他にも何人か続き、エレベーターはいっぱいになる。

勢いよく乗り込んで振り返るとそこにいた。
しょうがない。
普通に普通に。

「あ、携帯、忘れたかも。」

パタパタとポケットを探す。

私の部屋に?
どこに置いたのよ・・・・。
朝からボケまくり。全然いい事あるような日じゃないんじゃない?

「やっぱりないなあ。困ったなあ。」

もしかして今日も一緒に帰るって事。
明日渡すから、・・・・・それでいいなら。
あんまり携帯に頼って生きてる感じしないじゃん。
どうせ会社では見ないでしょう?

相手にせずに勝手にそう考えたりしてた。


他のフロアで人が降りて行って、先にコウヨーが降りた。
その細い背中を一瞥したけど、すぐ停止階のランプに視線をやって動き出すのを待った。
そのまま一つ上の自分の階へ。
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