35 / 37
36 今度は本気のオッズがつきます。
しおりを挟むだからといって別に見せつけたいわけじゃない。
電車を降りた会社の駅を出ても手をつないでくる。
何で朝から手つなぎ出勤?
そんなことはしません!
手を振りほどき、自分のバッグを抱きしめる。
そうしたら腰に手を置いてくる。
その手から離れるように急ぎ足になったり、体をねじったり。
くっついたり離れたり、喧嘩中のカップルのような、後は・・・とりあえず変なふたり。
真面目に仕事に向かう人波の中、そんな二人はもしかして目立っていただろうか?
その中に私の悪評を聞いて、顔まで知ってる人がいないことを祈るのみ。
そもそも隣も誰だかは分からなかったのかもしれない。
コウヨーのことはもっと知らないだろう。
何とか他人のふりでエレベーターに乗り、当然別々の階で降りて、席に着いて仕事を始めた。
ランチの後、席で浩美と話をしていたら、早めに戻ってきた林が嬉しそうだった。
「やるなあ、お前と相棒。朝から随分と仲良く出勤してたらしいじゃないか?」
「何?何?」
私の言葉を浩美が代弁。でもそんな喜色を乗せて聞くつもりはない。
「誰かが見てたらしいよ、二人のことを。」
「何?今朝同伴だったの?」
浩美それは違うプロの言い方じゃない?
「なかなか楽しそうないちゃつきぶりだったって。残念だが相手が誰なのかは伝わって来てない。相棒、影薄いなあ。」
「亜弓、やるぅ。そんな噂が昼に広まってるなら、午後の休憩室で続報仕入れてくる。」
「浩美広めないでよ。」
「仕入れて来るだけだよ。拡散具合と尾ひれの確認。」
「聞かれてペラペラと喋りそう。」
「大丈夫だよ。知らないって事で。」
「相手の特定も時間の問題かもな。一気に有名人だよ、相棒。」
「いいらしい。もう・・・・いい。バレた時はその時でいい。」
「ほう、今回はまた、いろいろと違いそうだなあ。」
しょうがない。
隠して不自然に意識するくらいなら自然で、そのままで。
そう言うことになったから。
でもまさか次の日に噂になるなんて、コウヨーのせいだ。
あんなにあからさまで。
「やっぱ、怖いもの知らずなのか?完全にお手つきにしたいのか?初心者の勢い恐るべし。まさかの初恋実らせてパワーアップってところか?」」
「何、初恋なの??」
林がさり気なく『初心者』とかバラしてる。
でも気にしてないみたいな浩美。
でも『初恋』には食いついて来た。
それだとバレそうなんだけど・・・・。
浩美が私を見る。
「私も知りませんでした。」
「ええ~、知りたい、聞きたい、何?本物の初恋だったの?」
偽物はないだろう。
そろそろお昼時間も終わる。
皆がチラチラと帰ってくる。
「だから知らないってば。」
そう言って仕事を始めた。
これ以上は危険。
それでも頭の上で会話は飛んでいた。
「じゃあ、金曜日の夜。」
「OK。言っとく。」
「楽しみ。いろいろ聞き出そう。」
なんだかかなりドラマのような話でも期待してる?
知らない。
あんなちょっとした出来事なんだけどガッカリされない?
全部言ったよ。あれだけだよ。それ以外の展開なんてないから。
『それだけ?』そう聞く浩美の声が今にも聞こえてきそう。
昼が終わり、人が戻ってきて、何となく視線を感じないでもないけど。
気のせいかも。
午後の仕事を真面目にしていた私を置き去りに、一人で休憩に行った浩美が約束通り休憩室で噂の断片を拾ってきた。
拾ってきただけど信じたい。
まさか追加してないよね、余計な口ははさんでないよね。
「面白かった~。ラブラブ同伴出勤って話。悪女が照れて普通の女になっていたらしい。」
「がっかりするだろう?」
「それが、なんか好感度上がってるらしいけど。」
「何でだよ。相棒の方が上がるなら分かるけど。まあ、地を這ってたくらいだから上がるしかないとは思うけど。」
「私が足せる話がないのが惜しい。相手を知らないと言ったから、広める要素もない。」
「やめてくれる、本当にしょうがないとは思っても広めたいわけじゃないから。」
「今度から横に並んで歩いただけで彼氏候補になるよな。俺嫌だなあ、まだ噂の男候補一番らしい。相棒には悪いけど、早くバレて欲しい。」
何っ? 林を見る。
「まあ、当然。いつもそう囁かれてて、ようやくか、とか言われたよ。そこは違うって言っておいたから。あり得ないって。」
「なんだかタイプが違うって話は伝わってて、やっぱり違ったんだって分かってもらえた気もするけど。良かった~、やっとこれで一抜けの希望が見えた。」
毎回そう思われてたって?
何で?知らないし。どう見られてたのよ?
浩美が林におめでとうと言っている。ご苦労とも言っている。
知ってたらしい。なぜ教えてくれなかったの?
「ついでに今回もやるみたい。」
「インサイダーっぽいけど、どうする。」
「自分たちが賭けた方に乗っけられるよね。」
「まあな、名無しじゃ無理だから、意見を分けてみるとか?」
「いいね。いっそ相棒の名前でかけるってのはどうかな?」
「怒らないかな?」
「楽しみつつ、ムキになりそうだよな。ちょっと面白かったりして。」
「でもさすがにね。今回は不参加で傍観しよう。」
「そうしよう。」
何の話だ?
「今回は賭けにはのらないけど、うまくいくことを祈ってる。三ヶ月持たせて皆の期待を裏切ってね。」
賭け・・・・・。
まさかの賭け?
そう言うこと?
今までも????
「それはよくある事なの?」
「まあまあ社内の噂にはほとんどね。亜弓の周りは特に。でもいつも賭けにならないんだよね。今回は特別になりそうな予感がして皆が本気。」
「明日が締め切りだから、ここが判定日ね。」
目の前のカレンダーを手にして勝手にハートマークを書いてる浩美。
ちょっと待った~。
「なんてことしてるのよ。おかしい、ここの人、皆おかしい。」
「お前が言うな。」
林が言った。
「まあ、ちょっとした社内の娯楽だから、気にするな。俺も不参加だからどうでもいいけど、その場合はまた噂が飛ぶな。引き際は美しく、予想を裏切るくらいの素早いフィニッシュとかでもいい。ああ、ハッピーな方な。」
何よそれは?
どうしようもない奴らめ、地獄に落ちろ!
無視した。一切無視した。
集中して仕事をして。
終わってからメッセージを送った。
『噂になった。まだ特定はされてないらしいけど。』
『あと、初めて会った日のエピソード異様に期待されてるよ。』
『もろもろ了解です。金曜日楽しみ。』
『今日は自分の部屋に帰ります。残りのバナナどうぞ。』
あんまり何とも思ってない?
危機感が伝わらないらしい。
0
あなたにおすすめの小説
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
思い出のチョコレートエッグ
ライヒェル
恋愛
失恋傷心旅行に出た花音は、思い出の地、オランダでの出会いをきっかけに、ワーキングホリデー制度を利用し、ドイツの首都、ベルリンに1年限定で住むことを決意する。
慣れない海外生活に戸惑い、異国ならではの苦労もするが、やがて、日々の生活がリズムに乗り始めたころ、とてつもなく魅力的な男性と出会う。
秘密の多い彼との恋愛、彼を取り巻く複雑な人間関係、初めて経験するセレブの世界。
主人公、花音の人生パズルが、紆余曲折を経て、ついに最後のピースがぴったりはまり完成するまでを追う、胸キュン&溺愛系ラブストーリーです。
* ドイツ在住の作者がお届けする、ヨーロッパを舞台にした、喜怒哀楽満載のラブストーリー。
* 外国での生活や、外国人との恋愛の様子をリアルに感じて、主人公の日々を間近に見ているような気分になれる内容となっています。
* 実在する場所と人物を一部モデルにした、リアリティ感の溢れる長編小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる