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10 本当に隠せずに、話しの端っこだけは披露しました。
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連絡が来たのにも気がつかなかったらしく、朝になって携帯が光っているのに気がついた。
『お邪魔しました。ありがとう。また来週会えるのを楽しみにしてます。』
返事がないから寝たのかと思っただろう。
しばらくしてお休みの挨拶がつぶやかれてた。
『おはようございます。早めに寝てて気がつかなくてすみませんでした。』
『良かった。つい癖で荷物を開けてしまったから、煙が出て竜宮城から一気に現実に戻ったのかと思った。すぐ閉めたから間に合ったみたい。おじいさんにはなってません。』
開けたらしい。
下着は下に押し込んだし、直ぐに閉めたんならいい、許す。
『良かったです。勝手に老け込むと大変ですから、それには触れない方がいいですよ。』
『大丈夫、週末のあれこれでちょっと若返ったくらい。有希さんもお肌はりはりでしょう?良かったよね。』
なんだと・・・。
『仕事に行きます。』
そう返して終わりにした。
その後ポケットで震えてたけど、見てない。
満員電車で揺られながら思う。
そんなに変わってない。別に驚くほどでもなかった、いつもと同じ。
『はりはり』って何?いつもそうです、まだ十分『はりはり』です!!
会社について携帯を見た。
『若返ったはずなのに、体が痛い。あちこちに痣が出来てる。やっぱり疲れて眠り過ぎてる間に何かがあったのかも。バイオレンス体験は夢の中で終わったらしい。』
嘘、私がつけたの?
何度か首に、まあ、そんな事もあったけど、今朝まで残るほどのものあった?
自分の体を感じる。
特に痛いところはないし、痣も気にしてなかった、あった?
反省するのは少し、多分これも藤井さんの冗談だろう。
そう思うことにした。
「おはよう、有希、朝からトラブル?」
嬉しそうに声をかけてきた。
携帯を手にしてる時点で仕事じゃないとは分かるだろう。
その表情を見る、いつもより明るいだろうか。
また少しだけ礼二を思い出した。
「なつみ、二次会行ったんでしょう?楽しかったの?」
「まあまあね。他に週末予定がなくてとことん盛り上がりたかったんだけど、まあまあだったかな。」
「そのまあまあな誰かの連絡先を手に入れたの?」
「ううん、別に。伊佐木も彼女と帰って行ってバラバラとした感じのつながりだし、個人的には声をかけず、かけられず。お金を使って楽しんで終わりだった。」
「そうなんだ。」
礼二は今一つだったんだろう。
気取り屋はなつみもダメだから、まあ、そうか。
「まっすぐ帰ったの?」
「そう。友達から連絡来る約束があって、大人しく部屋に戻りました。」
「そうなんだ。」
なんだかじっと見られてる気がする。
嘘は言ってない。
友達以上に他人だったけど、そういうと変だし、友達でいいよね、あの時点では。
「有希の前の席の人も二次会行かなかったけど。」
「そうなの?誰が行ったかもよくわからない。店の前で解散してそのままだったし。」
なつみの視線が私を見てる、すごく見てる。
あああ・・・・なるほど。
「もしかしてその人と帰ったと思ったの?」
「残念ながら、ない。顔も名前も、ついでに話してた内容もあまり覚えてない。でもいい人だったみたいで、トイレが長いって心配してくれて、紅茶を頼んでてくれたけど、コーヒーと取り替えてもいいよって。親切だった。」
「お前、その親切をただの親切だと思った時点で、恋愛は諦めろ!」
後ろから声がした。
伊佐木が来たらしい。
「そうだよね、明らかに有希を気に入ってたよね。」
「ええっ、知らない。まったく感じてない。気のせいだよ。」
「誘われなかった?」
「別に。何も。」
「お前がさっさと帰るって言ったんだろう。さすがにダメだなって思ったらしい。」
思ったらしいって、何か聞いたの?
「まあ、今回は諦めるらしい。お前もつくづく残念な女だな。せっかく心の広い、視界の広い、的の広い男が目の前に現れたのに。」
「あ~あ。」
なつみまでもがもう終わったと言うような顔をする。
しょうがない、何も知らない。
やっぱり気になって、いつもよりは控えてたし。
「しょうがない。また声をかけてやるよ。」
「伊佐木は彼女と二人でデートすればいいでしょう。」
「俺も彼女も心優しくて、周りの幸薄い人に手を差し伸べたいタイプなんだよ。」
彼女の友達二人も可愛かったから、別にいらなくない?
「有希、週末何してたの?」
ドキッとした。なつみの視線が今日は怖い。
本当にいつもより『はりはり』してるかな?
「普通に外で食事して、テレビ見て、だらだら。」
嘘は言ってない。一人じゃなかった時間が多すぎて、すぐ隣に誰かがいた時間が長かったけど、嘘はついてない。ただまだ隠したいだけ。
「やっぱ寂しい週末だったのか?また慈善事業するから、声かけるよ。」
「暇だったら行く。」
のこのこと飲み会に誘われたなんて知ったらまた嫌味攻撃されそうだ。
それは鬱陶しい。
何とか断る方向で。
「私は有希と違って、暇だから行くよ。」
なつみ、なんとなく今日は・・・・違う?
ニヤリとした顔を見てそう思った。
なんだろう・・・・・嫌な予感・・・でも、バレるわけないはず。
とりあえず携帯をポケットに入れて、パソコンを立ち上げた。
仕事仕事。
外回りがない今日。
戦闘モードへの切り替えがうまくいかないのは、いつもと違うはちゃめちゃにかき乱された週末を過ごしたせいだと思う。ちょっと自分のペースが狂ってるだけだと思う。
ランチタイム、引きたてられるようになつみに誘われて外に行った。
内緒話に最適なお店を数件キープしてある。
そのうちの一つに滑り込むように空いてる席に収まって、注文を済ませるとすぐに身を乗り出してきたなつみ。
何?
「あの飲み会の時に参加者外の誰かと仲良く話をしてたらしいじゃない。」
なつみの表情は確信的で、何かを期待してる感じだし、少しは明らかにしないと納得しないだろう。
でも惚けるようにちょっとだけ思い出すふりをする。
普通の表情を心がけて口を開く。正直に、そこは真実を。
「前に一度だけ会った人よ、私は思い出せもしなかったのに、名前を呼ばれて話をしたの。久しぶりですねって、ちょっと近況を教えただけよ。」
そう違いはないはず。
「花積さんが元カレだったりしてって笑ってたけど。帰って来てからもソワソワしながらご機嫌だったらしいじゃない。」
「ソワソワ?・・・・それはその人がそう言ったの?」
礼二の奴、何が元カレだ。覚えてろ~!!
そんなセリフは情報源ごと削除実行。
「見かけたのは花積さん、帰って来てからの様子は斜めに座ってた人からの情報。」
覚えてない・・・思い出せないから、覚えてない。
だいたいそっちは本当に見ないようにしてたし。
出来るだけ正面か、真横の女の子の方を見てた。
知らない女の子だったけど。
「元カレなんかじゃない。本当にちょっとしたご縁で短い間近くにいたから少しだけ話した人。その後は忘れてたくらいで、あそこで名前を呼ばれてびっくりしたし。」
「それなのに、再会の約束をして会ったんだ。」
せっかく真実を伝えてたから普通に誤魔化せてたのに・・・・。
なんでバレてるの?
思いっきり顔に出た・・・・らしい。
ニヤリと笑ったなつみ。もう今日何度目かの表情。
『隠せると思うの?さあ、全部吐きだして楽になればいいから。』
その目がそう言ってる。
「確かに約束をしました。次の日ランチをしようと言われました。だって軽く誘われたんだもん。せっかく会えたんだから、話しでもしたいねって感じで。だから簡単に受けたの。」
「それで?」
「次の日、ランチをして、話をして、また今度食事に行こうって言われた。」
そうあの日の経過を途中まで正直に言ったら、やっと前のめりはやめてくれたらしい。
「で?」
「連絡があったら、まあ、考えると思う。」
「でも待ってるんだ。せっかくの伊佐木の慈善事業を断ろうと思うくらいには、待ってるんだ。」
「なんだか向いてないと思ったの。最近、こう・・・・・普通の駆け引きというか、やりとりが面倒で、普通に出来ない感じで。だからまあ軽く楽しそうに誘われたら行ってもいいなあって。」
「何なの、その手ごたえのない感じ。どんな人なの?」
「なんだか面白い、話をしてても退屈する暇がない。全然緊張しない感じで楽な相手なの。同僚にいたら便利なタイプ。」
まあ、褒めてやった。説明は難しい・・・・変な感性の人だし。
「今日はいやに晴れ晴れだけど?」
「昨日も少し電話で話をしたりしたし。ちょっと楽しめそうかなって、そんな感じ。別に隠すほどでもないし、披露するほどでもない、中途半端な感じなんだもん。」
言い切ってみた。
こんなのを聞かれたら『ぷんぷん』とわざわざ声を出して怒りそうで、ずんずんと言い訳を塞がれて、責められそう。
そんな感じは想像できる。
別に楽しみにしてるわけじゃない。
多分・・・・違う。面倒だと思う。そこまで私も『変』にはなってない。
「なんだか満足げな感じなんだけど。まあ、そのくらいで許します。進展があったら教えること。」
「分かった。隠せないと思うし。」
「分かればいい。」
もう、本当に油断ならない。
それに・・・やっぱり礼二め・・・・・天誅だ!
「なつみは食事に誘いたい人いなかった?」
「まあ、まだわからない。時間が合えば会うかも。」
「あのメンバーに?」
「まあ、ね。」
嘘・・・・。違うよね、違う人よね??
軽く笑ったなつみに一層何も言えなくなった。
頼むから・・・違う人だと言って欲しい・・・・。
幹事の伊佐木が役に立たないんだから、聞くのは私しかいないのに・・・・。
「ねえ、なつみ・・・・隠したくないから言うけど・・・・。」
「何?」
「あの中に知ってる人がいたの。昔ちょっと何度か、食事したりした人。」
驚いて体をひいたなつみ。
声も出さないけど・・・・・。
罪悪感が・・・・・。
「それって、もしかして花積さん?」
なんで当たるの?あいつが何か他にも言ったの?
すぐには否定しなかった。
それは正解だと言ってるようなものだ。
「ああ・・・・単純な消去法だけど。さっきの話を花積さんがした時には何とも思わなかったけど、よく考えたら、話しもしてない有希の事をよくわかったなあって思ったの。そういう意味だったのか・・・・・。」
「なるほどなるほど・・・・それで私がもし気に入ったら何かと気まずいかなって事だったんだ~。」
それも正解です。
「残念でした~。まったく違う。お互いに、それはない。私のタイプじゃないと思う。」
「そうだと思う。あいつは本当に気取り屋だから、なつみも嫌いだと思う。」
思いっきり悪態をつきたくて吐き出すように言った。
「さっきからそれを言いたかったんだ。眉間にしわ寄せてるなあって思ったんだ。」
楽しそうに笑うなつみ。
ホッとした。やっぱり違った。
だから気取り屋は私達には合わないんだから。
「わたしはまだまだ週末を有効に使っていい人を見つけるから。有希はそっちの線を頑張ってみて。」
そっちの線・・・・スパイ気取りとの駆け引きらしい。
「まあ、そうする。」
良かった。とりあえずは良かった。
伊佐木の誘いも他の子を誘ってくれるだろう。
一安心。
まさか伊佐木には言わないよね。
「でも伊佐木もすごいね、まさかまさかの危ういダブルブッキングもどき。きわどいすれ違い。伊佐木は花積さんと知り合いだったってことも知らないんでしょう?」
「もちろん、知らない。本当にびっくりして、がっかりしたくらい。まさかあの人の前で他の人に誘われたりしたら、何を思われるかって。」
「だから端の席に行ったんだ。てっきり目の前の人にアプローチ掛けるためだと思うじゃない。」
「そんなこと考えてもなかった。とりあえず離れたかっただけ。向こうもやりにくいだろうし。」
「まあね。」
「あああ・・・・・教えたいなあ。花積さんのことはどうでもいいけど、偶然をプロデュースしてたんだよって、教えたい!」
「それはやめて欲しい。まだ分からないし。」
とりあえずそう言った。
「了解。」
話しが一通り落ち着いたころにはランチタイムも随分すぎ、食事も食べごろを過ぎていた。
黙々とランチを食べて、会社に戻った。
「写真ないの?」
「ない。だから、まだそんなだってば。」
「じゃあ、早く撮ってきて。隠し撮りでいいし。毎日眺めたら愛着もわくでしょう?」
まさか・・・だよ。
毎日ぐちぐちと文句を言ってそう。
うっとりと眺める自分なんてまったく想像できないし。
「有希の趣味は分からない。花積さんはイケメングループだね。今までとも違うじゃない。」
まあまあ過去の人たちを知ってる。
写真は見せてないけど雰囲気やタイプは伝えてた。
いろんなエピソードと一緒に伝えてた。
礼二は気取り屋だけあって、まあまあかも。
そう思ったら藤井さんの噛みつくような顔が思い出された。
勝手に出てこなくてもいいのに。
そんなに自信がないタイプじゃないだろう。
多分、そこそこあるだろう。
気取り屋まではいかなくても、そこそこには。
「もしも~し、何考えてますか~?」
ハッとして我に返る。
今日は礼二と藤井さんの顔が交互に出てきて、消すのが忙しい。
「帰るよ。思い出し笑いは仕事が終わった後一人でどうぞ。」
思い出し笑い?
笑ってた?
うそ・・・・。なつみもちょっと大げさだから、多分冗談だろう。
それでも表情を引き締めた。
『お邪魔しました。ありがとう。また来週会えるのを楽しみにしてます。』
返事がないから寝たのかと思っただろう。
しばらくしてお休みの挨拶がつぶやかれてた。
『おはようございます。早めに寝てて気がつかなくてすみませんでした。』
『良かった。つい癖で荷物を開けてしまったから、煙が出て竜宮城から一気に現実に戻ったのかと思った。すぐ閉めたから間に合ったみたい。おじいさんにはなってません。』
開けたらしい。
下着は下に押し込んだし、直ぐに閉めたんならいい、許す。
『良かったです。勝手に老け込むと大変ですから、それには触れない方がいいですよ。』
『大丈夫、週末のあれこれでちょっと若返ったくらい。有希さんもお肌はりはりでしょう?良かったよね。』
なんだと・・・。
『仕事に行きます。』
そう返して終わりにした。
その後ポケットで震えてたけど、見てない。
満員電車で揺られながら思う。
そんなに変わってない。別に驚くほどでもなかった、いつもと同じ。
『はりはり』って何?いつもそうです、まだ十分『はりはり』です!!
会社について携帯を見た。
『若返ったはずなのに、体が痛い。あちこちに痣が出来てる。やっぱり疲れて眠り過ぎてる間に何かがあったのかも。バイオレンス体験は夢の中で終わったらしい。』
嘘、私がつけたの?
何度か首に、まあ、そんな事もあったけど、今朝まで残るほどのものあった?
自分の体を感じる。
特に痛いところはないし、痣も気にしてなかった、あった?
反省するのは少し、多分これも藤井さんの冗談だろう。
そう思うことにした。
「おはよう、有希、朝からトラブル?」
嬉しそうに声をかけてきた。
携帯を手にしてる時点で仕事じゃないとは分かるだろう。
その表情を見る、いつもより明るいだろうか。
また少しだけ礼二を思い出した。
「なつみ、二次会行ったんでしょう?楽しかったの?」
「まあまあね。他に週末予定がなくてとことん盛り上がりたかったんだけど、まあまあだったかな。」
「そのまあまあな誰かの連絡先を手に入れたの?」
「ううん、別に。伊佐木も彼女と帰って行ってバラバラとした感じのつながりだし、個人的には声をかけず、かけられず。お金を使って楽しんで終わりだった。」
「そうなんだ。」
礼二は今一つだったんだろう。
気取り屋はなつみもダメだから、まあ、そうか。
「まっすぐ帰ったの?」
「そう。友達から連絡来る約束があって、大人しく部屋に戻りました。」
「そうなんだ。」
なんだかじっと見られてる気がする。
嘘は言ってない。
友達以上に他人だったけど、そういうと変だし、友達でいいよね、あの時点では。
「有希の前の席の人も二次会行かなかったけど。」
「そうなの?誰が行ったかもよくわからない。店の前で解散してそのままだったし。」
なつみの視線が私を見てる、すごく見てる。
あああ・・・・なるほど。
「もしかしてその人と帰ったと思ったの?」
「残念ながら、ない。顔も名前も、ついでに話してた内容もあまり覚えてない。でもいい人だったみたいで、トイレが長いって心配してくれて、紅茶を頼んでてくれたけど、コーヒーと取り替えてもいいよって。親切だった。」
「お前、その親切をただの親切だと思った時点で、恋愛は諦めろ!」
後ろから声がした。
伊佐木が来たらしい。
「そうだよね、明らかに有希を気に入ってたよね。」
「ええっ、知らない。まったく感じてない。気のせいだよ。」
「誘われなかった?」
「別に。何も。」
「お前がさっさと帰るって言ったんだろう。さすがにダメだなって思ったらしい。」
思ったらしいって、何か聞いたの?
「まあ、今回は諦めるらしい。お前もつくづく残念な女だな。せっかく心の広い、視界の広い、的の広い男が目の前に現れたのに。」
「あ~あ。」
なつみまでもがもう終わったと言うような顔をする。
しょうがない、何も知らない。
やっぱり気になって、いつもよりは控えてたし。
「しょうがない。また声をかけてやるよ。」
「伊佐木は彼女と二人でデートすればいいでしょう。」
「俺も彼女も心優しくて、周りの幸薄い人に手を差し伸べたいタイプなんだよ。」
彼女の友達二人も可愛かったから、別にいらなくない?
「有希、週末何してたの?」
ドキッとした。なつみの視線が今日は怖い。
本当にいつもより『はりはり』してるかな?
「普通に外で食事して、テレビ見て、だらだら。」
嘘は言ってない。一人じゃなかった時間が多すぎて、すぐ隣に誰かがいた時間が長かったけど、嘘はついてない。ただまだ隠したいだけ。
「やっぱ寂しい週末だったのか?また慈善事業するから、声かけるよ。」
「暇だったら行く。」
のこのこと飲み会に誘われたなんて知ったらまた嫌味攻撃されそうだ。
それは鬱陶しい。
何とか断る方向で。
「私は有希と違って、暇だから行くよ。」
なつみ、なんとなく今日は・・・・違う?
ニヤリとした顔を見てそう思った。
なんだろう・・・・・嫌な予感・・・でも、バレるわけないはず。
とりあえず携帯をポケットに入れて、パソコンを立ち上げた。
仕事仕事。
外回りがない今日。
戦闘モードへの切り替えがうまくいかないのは、いつもと違うはちゃめちゃにかき乱された週末を過ごしたせいだと思う。ちょっと自分のペースが狂ってるだけだと思う。
ランチタイム、引きたてられるようになつみに誘われて外に行った。
内緒話に最適なお店を数件キープしてある。
そのうちの一つに滑り込むように空いてる席に収まって、注文を済ませるとすぐに身を乗り出してきたなつみ。
何?
「あの飲み会の時に参加者外の誰かと仲良く話をしてたらしいじゃない。」
なつみの表情は確信的で、何かを期待してる感じだし、少しは明らかにしないと納得しないだろう。
でも惚けるようにちょっとだけ思い出すふりをする。
普通の表情を心がけて口を開く。正直に、そこは真実を。
「前に一度だけ会った人よ、私は思い出せもしなかったのに、名前を呼ばれて話をしたの。久しぶりですねって、ちょっと近況を教えただけよ。」
そう違いはないはず。
「花積さんが元カレだったりしてって笑ってたけど。帰って来てからもソワソワしながらご機嫌だったらしいじゃない。」
「ソワソワ?・・・・それはその人がそう言ったの?」
礼二の奴、何が元カレだ。覚えてろ~!!
そんなセリフは情報源ごと削除実行。
「見かけたのは花積さん、帰って来てからの様子は斜めに座ってた人からの情報。」
覚えてない・・・思い出せないから、覚えてない。
だいたいそっちは本当に見ないようにしてたし。
出来るだけ正面か、真横の女の子の方を見てた。
知らない女の子だったけど。
「元カレなんかじゃない。本当にちょっとしたご縁で短い間近くにいたから少しだけ話した人。その後は忘れてたくらいで、あそこで名前を呼ばれてびっくりしたし。」
「それなのに、再会の約束をして会ったんだ。」
せっかく真実を伝えてたから普通に誤魔化せてたのに・・・・。
なんでバレてるの?
思いっきり顔に出た・・・・らしい。
ニヤリと笑ったなつみ。もう今日何度目かの表情。
『隠せると思うの?さあ、全部吐きだして楽になればいいから。』
その目がそう言ってる。
「確かに約束をしました。次の日ランチをしようと言われました。だって軽く誘われたんだもん。せっかく会えたんだから、話しでもしたいねって感じで。だから簡単に受けたの。」
「それで?」
「次の日、ランチをして、話をして、また今度食事に行こうって言われた。」
そうあの日の経過を途中まで正直に言ったら、やっと前のめりはやめてくれたらしい。
「で?」
「連絡があったら、まあ、考えると思う。」
「でも待ってるんだ。せっかくの伊佐木の慈善事業を断ろうと思うくらいには、待ってるんだ。」
「なんだか向いてないと思ったの。最近、こう・・・・・普通の駆け引きというか、やりとりが面倒で、普通に出来ない感じで。だからまあ軽く楽しそうに誘われたら行ってもいいなあって。」
「何なの、その手ごたえのない感じ。どんな人なの?」
「なんだか面白い、話をしてても退屈する暇がない。全然緊張しない感じで楽な相手なの。同僚にいたら便利なタイプ。」
まあ、褒めてやった。説明は難しい・・・・変な感性の人だし。
「今日はいやに晴れ晴れだけど?」
「昨日も少し電話で話をしたりしたし。ちょっと楽しめそうかなって、そんな感じ。別に隠すほどでもないし、披露するほどでもない、中途半端な感じなんだもん。」
言い切ってみた。
こんなのを聞かれたら『ぷんぷん』とわざわざ声を出して怒りそうで、ずんずんと言い訳を塞がれて、責められそう。
そんな感じは想像できる。
別に楽しみにしてるわけじゃない。
多分・・・・違う。面倒だと思う。そこまで私も『変』にはなってない。
「なんだか満足げな感じなんだけど。まあ、そのくらいで許します。進展があったら教えること。」
「分かった。隠せないと思うし。」
「分かればいい。」
もう、本当に油断ならない。
それに・・・やっぱり礼二め・・・・・天誅だ!
「なつみは食事に誘いたい人いなかった?」
「まあ、まだわからない。時間が合えば会うかも。」
「あのメンバーに?」
「まあ、ね。」
嘘・・・・。違うよね、違う人よね??
軽く笑ったなつみに一層何も言えなくなった。
頼むから・・・違う人だと言って欲しい・・・・。
幹事の伊佐木が役に立たないんだから、聞くのは私しかいないのに・・・・。
「ねえ、なつみ・・・・隠したくないから言うけど・・・・。」
「何?」
「あの中に知ってる人がいたの。昔ちょっと何度か、食事したりした人。」
驚いて体をひいたなつみ。
声も出さないけど・・・・・。
罪悪感が・・・・・。
「それって、もしかして花積さん?」
なんで当たるの?あいつが何か他にも言ったの?
すぐには否定しなかった。
それは正解だと言ってるようなものだ。
「ああ・・・・単純な消去法だけど。さっきの話を花積さんがした時には何とも思わなかったけど、よく考えたら、話しもしてない有希の事をよくわかったなあって思ったの。そういう意味だったのか・・・・・。」
「なるほどなるほど・・・・それで私がもし気に入ったら何かと気まずいかなって事だったんだ~。」
それも正解です。
「残念でした~。まったく違う。お互いに、それはない。私のタイプじゃないと思う。」
「そうだと思う。あいつは本当に気取り屋だから、なつみも嫌いだと思う。」
思いっきり悪態をつきたくて吐き出すように言った。
「さっきからそれを言いたかったんだ。眉間にしわ寄せてるなあって思ったんだ。」
楽しそうに笑うなつみ。
ホッとした。やっぱり違った。
だから気取り屋は私達には合わないんだから。
「わたしはまだまだ週末を有効に使っていい人を見つけるから。有希はそっちの線を頑張ってみて。」
そっちの線・・・・スパイ気取りとの駆け引きらしい。
「まあ、そうする。」
良かった。とりあえずは良かった。
伊佐木の誘いも他の子を誘ってくれるだろう。
一安心。
まさか伊佐木には言わないよね。
「でも伊佐木もすごいね、まさかまさかの危ういダブルブッキングもどき。きわどいすれ違い。伊佐木は花積さんと知り合いだったってことも知らないんでしょう?」
「もちろん、知らない。本当にびっくりして、がっかりしたくらい。まさかあの人の前で他の人に誘われたりしたら、何を思われるかって。」
「だから端の席に行ったんだ。てっきり目の前の人にアプローチ掛けるためだと思うじゃない。」
「そんなこと考えてもなかった。とりあえず離れたかっただけ。向こうもやりにくいだろうし。」
「まあね。」
「あああ・・・・・教えたいなあ。花積さんのことはどうでもいいけど、偶然をプロデュースしてたんだよって、教えたい!」
「それはやめて欲しい。まだ分からないし。」
とりあえずそう言った。
「了解。」
話しが一通り落ち着いたころにはランチタイムも随分すぎ、食事も食べごろを過ぎていた。
黙々とランチを食べて、会社に戻った。
「写真ないの?」
「ない。だから、まだそんなだってば。」
「じゃあ、早く撮ってきて。隠し撮りでいいし。毎日眺めたら愛着もわくでしょう?」
まさか・・・だよ。
毎日ぐちぐちと文句を言ってそう。
うっとりと眺める自分なんてまったく想像できないし。
「有希の趣味は分からない。花積さんはイケメングループだね。今までとも違うじゃない。」
まあまあ過去の人たちを知ってる。
写真は見せてないけど雰囲気やタイプは伝えてた。
いろんなエピソードと一緒に伝えてた。
礼二は気取り屋だけあって、まあまあかも。
そう思ったら藤井さんの噛みつくような顔が思い出された。
勝手に出てこなくてもいいのに。
そんなに自信がないタイプじゃないだろう。
多分、そこそこあるだろう。
気取り屋まではいかなくても、そこそこには。
「もしも~し、何考えてますか~?」
ハッとして我に返る。
今日は礼二と藤井さんの顔が交互に出てきて、消すのが忙しい。
「帰るよ。思い出し笑いは仕事が終わった後一人でどうぞ。」
思い出し笑い?
笑ってた?
うそ・・・・。なつみもちょっと大げさだから、多分冗談だろう。
それでも表情を引き締めた。
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