関係者の皆様、私が立派な大人になれるその日まで、あと少しだけお待ちください。

羽月☆

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25 自分がずらした時間。

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「あら、太郎君、一人?珍しいわね。どうしたの?」

「この間送ったものが役にたってるか、ちょっとついでがあって確認ついでに来ました。」

そう言ったのに少し疑うような視線を返された。
元より子供のころから知られてる。
母親と同様だし、子供の心のプロでもある。
適当な嘘はお見通しかもしれない。

巣穴に帰るように、あの部屋から逃げてここにきたのだから。
今朝の彼女の顔を見て反省した。
あの後何のフォローもできなかった自分に。
ただ、自分でもよく分からないから、説明しろと言われても、『衝動』としか言えないのかもしれない。

朝陽が今頃何か聞き出しているだろうか?

本当のことを言うとは思えないが。

誤魔化せるとも思えない。



「佐原君は、喜んでくれてました?」

「勿論、太郎君の読みは、園の物の被害は少なくなるだろうということだったけど、あの子の周りに分解に目覚めた弟子が集まって。もしかしたら、逆に変な種をまいたのかも・・・・。」

「ああ・・・、それは想定外です。」

「あの中にゲームもあるし、動くようになったら、ますます尊敬されて弟子が増えそうよ。きちんと元に戻す技術も教えてくれることを祈るだけね。」

「僕にも責任がありますね。」

「でも本当にありがとう。社員の皆様にもお礼を伝えてて。」

「はい。」

「それで、今日は?」

「だからちょっと顔を見にって。」

「そうしたいならそれでいいわ。ここを思い出してくれたんだったらうれしいから。」

やはりうっすらとバレているらしい。

「この間、結城さんのところに預けた太刀野さんに挨拶してきましたよ。しっかりした顔つきになってました。周りの先輩とも変に自分を変えることなく、それなりにうまくやれてるらしいです。安心していいって、本人にも、結城さんにも言われました。」

「そう。良かったわ。人はつながるわね。自分の手を離れてもそうやって、ここから伸びた糸の先にいてくれてると本当にうれしいし、安心する。隠したいって思うこともあるだろううけどね。」

そう言われて、改めて思う。
自分は隠したいんだろうか?

仕事としてお世話をしていても、ここの事は朝陽以外には言わないし、自分も同じ立場だとは言ってない。下の社員たちはどう思ってるだろうか。
ここには今日みたいに個人的に訪ねる時もあるが、妙な経費は計上してない。
この間の配送も自分で手配して、上に上がってきてもらった業者に自分で対応した。万事そうしてる。
仕事とはきっちり分けてる。
隠してるんだろうか?

ついこの間彼女に出身を聞かれた時も曖昧な返事だったかもしれない。
元は神奈川だった、ここの住所は東京で、場所はとても近いから、少しだけ環境を変えようと大人が取り計らってくれて、県堺をまたいだ。

長く住んだから、出身は東京でいいだろう。
もっと詳しく聞かれたら、この最寄りの駅名を答えただろうし。
ここの事を思い出していた。
それ以上家族の事とか聞かれたら、どうやって答えていただろうか?
冷静な今でもどう答えるか、迷う。


「大丈夫?疲れてるの?」

「そうですね。」

隠さずにそう言ってしまった。

「昔っから一人で我慢して、一人で解決しようとしてたから、気を許せるあの人にでも相談したら?逆に頼られないと悲しいかもよ。」

「朝陽の事ですよね?頼ってますよ。もう全部お任せです。今更個人的な悩み事を相談したら、面倒掛けるなと叱られますよ、自分で解決しろって。」

「やっぱり悩み事あるんじゃない。」

「なんとなくここに来てホッとすると、それだけでいいんです。でもそろそろ仕事に戻ります。」

「また何時でも来てね。私はここからいなくなることはないから。」

「ありがとうございます。また来ます。」



会社に戻った。こんなに堂々とさぼったのも珍しいことだった。
行先を言わなくても見当がついただろうか?

一応今から戻る事だけは連絡した。

頼りにはしてる、でも、言えない事はあるのだ。



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