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31 許された二人の時間の使い方。
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すっかり下の階で働くのに慣れていた。
上の階にはもう随分顔を見せていない。
必要なものは、すべて今座ってる席にあったし、ロッカーももらえていた。
朝陽さんと会うこともない。
本当にない。
春日さんがどう話したのか分からない。
もしかして内緒なのかどうか、あえて聞いてないから。
そしてランチは誰かと外に行って、週に一回は飲みに誘われて。
お母さんにはちゃんと言うようにしている。
時々、早く終わった春日さんとも食事をするから、その時はそう言ってる。
嘘はついてないし、無断で部屋に泊まることもない。
食事をしたらそのまま駅で別れて帰る。
週末もきちんと言ってデートに行く。
部屋に行くこともあるけど、思ったより外で普通にデートしてもらうことが多かった。
少しだけ大人っぽい恰好をすることにしている。
横にいても似合うように。
お父さんは何も聞かないけど、行ってらっしゃいと言って、気を付けて、と声をかけてくる。
あまりうれしそうな顔は出来ないけど、そんな事は背中でバレてるって言われてる。
お母さんが好きな人が出来たみたいだと教えたらしい。
まさか就職先の社長だとは言ってないと。
あの日、明るい窓辺で生い立ちを教えてもらって、それをお母さんだけには伝えた。
どんな人なのか、すごくよくわかると思ったから。
お母さんもビックリしていた。
私同様、お母さんもそんな知り合いがいなくて、想像できないと言うのが本当のところだ。
『芽衣の好きなように。』
そう言われて反対はされてないし、お願いすれば外泊だっていいと思うけど、春日さんが泊まりにおいでと誘ってくれない。
あの部屋に一人でいる春日さんを想像すると寂しくなる。
きっと夜は明かりもつけずに、あの大きなソファか窓辺からぼんやりと外を見てるんだろうと思えるから。
会社では一切無駄がないのに、部屋では本当に無駄に時間を過ごしていそう。
だったら、一緒にいて、楽しい時間にしてもらえたらって思うのに。
邪魔したらいけない春日さん一人だけの時間とか空間とかがあるんだろうか?
ランチの時に平木さんの彼の話になった。
どのくらい一緒に暮らしてるのかとか、きっかけとか。
「もう二年になりそう。何となく部屋を行き来するのが面倒になって、ほとんど居座ってたから、軽く言ってみたら、すぐに転がり込んできたんだよね。家賃も助かってるし、別れるとしても追い出すだけだから・・・・なんて思って。」
「やっぱり一緒に暮らしてみると違うって思いますか?」
「まあ、それなりに、でもお互いにね。でも最初にいろんなルールを作ったし、一人づつ部屋があるからまだいいの。器用だし、マメだし、あんまり手もかからないから、楽かも。」
羨ましい。一番年が近いと言っても五歳も上だった。
五年後、そんな大人な意見を言えるんだろうか?
『手がかからない』って・・・・。
まだまだお母さんの横で修行中だけど、前より家にいる時間が少なくなって、なかなか家事見習いの方は進んでいない。
先輩達の話を聞きながらそう考えていた。
「芽衣ちゃんは?好きな人とどうなった?」
いきなり平木さんに言われた。
こっそり、平木さんにだけ悩み相談風に教えたのに。
ここで私の事を話題にしなくても・・・。
「・・・はい。まだ、時々一緒に出かけてもらうくらいです。」
嘘じゃない。
顔が赤くなるのが分かる。
昨日は雨が降ってたから、ずっと春日さんの部屋にいた。
分厚い窓に打ち付ける雨を眺めながら、くっついて、違う部屋でも過ごして。
あのソファは本当にいい。
一目ぼれして買ったと言ってた。
あれ以外本当に椅子がない。
見事にテーブルもない。
違う部屋に仕事場にしていた頃の名残で机や椅子などはあるらしいけど、いつも窓辺に座ってぼんやりしてるだけで、あまり必要を感じないらしい。
だから部屋で何かを食べる時には窓辺に運んで足を垂らして食べる。
それはそれで行儀が悪い気もするけど楽しい。
ベンチで食べてる気分だ。
「実家だとお泊りするのも、言わないといけないからね。誤魔化せるの?」
ぼんやり思い出してたら、そう聞かれて、顔が熱くなる。
「分からないです。許してもらえるのか、どうなのか。」
「一人暮らしはしたくないの?」
そう聞かれたら即答できる。
「いいです。無理です。全部やってもらってて、本当に何も知らないんです。だから今、料理も教わってます。お父さんのシャツのアイロンがけも私の仕事になりました。」
春日さんには全く必要とされないみたいだけど。
だってクリーニングだって言ってた。
でもアイロンはあるみたいで、前に私のブラウスとスカートにはきれいにかけてくれたし。
ああ、もう、いろいろ思い出す。
会社で、自宅暮らしは少ない。
ほとんどが30歳以上だから。
さすがに大人だ。
まだまだ私には考えられない。
そして、社内恋愛と不倫は全くないらしい。
確かに少ない人数の中だ。
ちょっとだけ期待してた話題は女子会でもなかなか聞けない・・・・って、待って・・・・・。
一応私はその中の貴重なサンプル?
バレたくないっ!
バレるわけにはいかない!!
「芽衣ちゃん、みんなで暖かく見守って行くから。応援してるからね。」
「いいです。恥ずかしいので忘れてください。」
お願いだから、何も聞かないでください、知りたいなんて思わないでください。
本当にそう思っていた。
春日さんにバレたら何て言われるんだろう?
怒る?
皆はなんて思う?
上の階にはもう随分顔を見せていない。
必要なものは、すべて今座ってる席にあったし、ロッカーももらえていた。
朝陽さんと会うこともない。
本当にない。
春日さんがどう話したのか分からない。
もしかして内緒なのかどうか、あえて聞いてないから。
そしてランチは誰かと外に行って、週に一回は飲みに誘われて。
お母さんにはちゃんと言うようにしている。
時々、早く終わった春日さんとも食事をするから、その時はそう言ってる。
嘘はついてないし、無断で部屋に泊まることもない。
食事をしたらそのまま駅で別れて帰る。
週末もきちんと言ってデートに行く。
部屋に行くこともあるけど、思ったより外で普通にデートしてもらうことが多かった。
少しだけ大人っぽい恰好をすることにしている。
横にいても似合うように。
お父さんは何も聞かないけど、行ってらっしゃいと言って、気を付けて、と声をかけてくる。
あまりうれしそうな顔は出来ないけど、そんな事は背中でバレてるって言われてる。
お母さんが好きな人が出来たみたいだと教えたらしい。
まさか就職先の社長だとは言ってないと。
あの日、明るい窓辺で生い立ちを教えてもらって、それをお母さんだけには伝えた。
どんな人なのか、すごくよくわかると思ったから。
お母さんもビックリしていた。
私同様、お母さんもそんな知り合いがいなくて、想像できないと言うのが本当のところだ。
『芽衣の好きなように。』
そう言われて反対はされてないし、お願いすれば外泊だっていいと思うけど、春日さんが泊まりにおいでと誘ってくれない。
あの部屋に一人でいる春日さんを想像すると寂しくなる。
きっと夜は明かりもつけずに、あの大きなソファか窓辺からぼんやりと外を見てるんだろうと思えるから。
会社では一切無駄がないのに、部屋では本当に無駄に時間を過ごしていそう。
だったら、一緒にいて、楽しい時間にしてもらえたらって思うのに。
邪魔したらいけない春日さん一人だけの時間とか空間とかがあるんだろうか?
ランチの時に平木さんの彼の話になった。
どのくらい一緒に暮らしてるのかとか、きっかけとか。
「もう二年になりそう。何となく部屋を行き来するのが面倒になって、ほとんど居座ってたから、軽く言ってみたら、すぐに転がり込んできたんだよね。家賃も助かってるし、別れるとしても追い出すだけだから・・・・なんて思って。」
「やっぱり一緒に暮らしてみると違うって思いますか?」
「まあ、それなりに、でもお互いにね。でも最初にいろんなルールを作ったし、一人づつ部屋があるからまだいいの。器用だし、マメだし、あんまり手もかからないから、楽かも。」
羨ましい。一番年が近いと言っても五歳も上だった。
五年後、そんな大人な意見を言えるんだろうか?
『手がかからない』って・・・・。
まだまだお母さんの横で修行中だけど、前より家にいる時間が少なくなって、なかなか家事見習いの方は進んでいない。
先輩達の話を聞きながらそう考えていた。
「芽衣ちゃんは?好きな人とどうなった?」
いきなり平木さんに言われた。
こっそり、平木さんにだけ悩み相談風に教えたのに。
ここで私の事を話題にしなくても・・・。
「・・・はい。まだ、時々一緒に出かけてもらうくらいです。」
嘘じゃない。
顔が赤くなるのが分かる。
昨日は雨が降ってたから、ずっと春日さんの部屋にいた。
分厚い窓に打ち付ける雨を眺めながら、くっついて、違う部屋でも過ごして。
あのソファは本当にいい。
一目ぼれして買ったと言ってた。
あれ以外本当に椅子がない。
見事にテーブルもない。
違う部屋に仕事場にしていた頃の名残で机や椅子などはあるらしいけど、いつも窓辺に座ってぼんやりしてるだけで、あまり必要を感じないらしい。
だから部屋で何かを食べる時には窓辺に運んで足を垂らして食べる。
それはそれで行儀が悪い気もするけど楽しい。
ベンチで食べてる気分だ。
「実家だとお泊りするのも、言わないといけないからね。誤魔化せるの?」
ぼんやり思い出してたら、そう聞かれて、顔が熱くなる。
「分からないです。許してもらえるのか、どうなのか。」
「一人暮らしはしたくないの?」
そう聞かれたら即答できる。
「いいです。無理です。全部やってもらってて、本当に何も知らないんです。だから今、料理も教わってます。お父さんのシャツのアイロンがけも私の仕事になりました。」
春日さんには全く必要とされないみたいだけど。
だってクリーニングだって言ってた。
でもアイロンはあるみたいで、前に私のブラウスとスカートにはきれいにかけてくれたし。
ああ、もう、いろいろ思い出す。
会社で、自宅暮らしは少ない。
ほとんどが30歳以上だから。
さすがに大人だ。
まだまだ私には考えられない。
そして、社内恋愛と不倫は全くないらしい。
確かに少ない人数の中だ。
ちょっとだけ期待してた話題は女子会でもなかなか聞けない・・・・って、待って・・・・・。
一応私はその中の貴重なサンプル?
バレたくないっ!
バレるわけにはいかない!!
「芽衣ちゃん、みんなで暖かく見守って行くから。応援してるからね。」
「いいです。恥ずかしいので忘れてください。」
お願いだから、何も聞かないでください、知りたいなんて思わないでください。
本当にそう思っていた。
春日さんにバレたら何て言われるんだろう?
怒る?
皆はなんて思う?
応援ありがとうございます!
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