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5 いい奴でも怒る事はあるらしい。
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人は毎日会っていても、よくわからない事はある、気が付かないこともある。
だいたい隣の席なんだから、見えるのは机の上の過剰にデフォルメされたパーツの彼女たちばかり。
その持ち主の隣人の事は真横を見ないと見えない。
ランチタイム。
「ねえ、やっぱりどんどん痩せてる気がするんだけど?」
そう言われて頬に手を当てた。
「そう?変わらないと思うよ。」
そんなにいつまでもひきずってない。
さすがに食欲が落ちたのも二日くらいだったし。
むしろ週末をダラダラと過ごしたり、遅くまで食べてて摂取カロリーは増えたと思う。
「違うよ、友成君の事だよ。最初の頃より、ずっと痩せてるよ。」
「さすがに大学生の頃よりは、少なくとも仕事中におやつを食べるなんてしてないからね、残業もあるし、その分は痩せるんじゃない?」
だってインドア派できっとスナック菓子片手に漫画やDVDを見てたりしてただろうし。
「最近の事だよ。今日久しぶりに顔を合わせてみたから気がついたんだけど、ずいぶんイメージ変ったし、見た目の印象もぐっと良くなったと思うよ。」
『ぐっと』と力を込められたところは教えてあげたい。
微妙な顔をするだろう。
「そう?相変わらず・・・・だと思う。」
「もう・・・・・。」
そんな会話を來未とした。
そうなのかな?
この間そんなにだらしない所は見てないなあって思ったけど、昔は・・・・確かにもっと残念な奴だったかもしれない。
そういえばお気に入りアイテムは相変わらずだけど、変な動きや掛け声もないかな?
人はそれなりに大人になるってことだろう。
さすがにあんなに私が言ってるんだから三次元の体温のありがたさに気がついたのかもしれない。
まあ、そんな事はどうでもよくて。
この間來未に誘われた飲み会は本当にいい出会いがあったのだ。
期待以上にいい人で、笑いながら言われた。
『すごく気が強いんだよって念を押されました。』
來未が言ったんだろう。
『そんな女で大丈夫?』って響きになったみたいじゃない。
『ちょっと気が強いのが玉に瑕』くらいで言ったんじゃなかったの?
それでもそれを含んでくれるらしい。
心が広い人らしい。
いいじゃない!
向かい合わせの席で楽しく食事をしてお酒を飲み、さほど探り合うこともせずに遊びに行く約束をした。
それから毎週一日は会ってるし、時々電話をしたり、ちょっとした連絡は日々の事となり。
それでもまだ今一つ関係性を決めるような出来事はない。
何でだろう?
軽く手が触れても、あまり馴れ馴れしくもできず。
でも向けられる笑顔は誤解しそうになる。
今どんな感じの二人なんだろう?
居心地の良さに慣れてしまって、踏み出すこともはっきりと聞くこともできないまま。
微妙なふたりのまま。
そんなある日、課内の飲み会があった。
金曜日の仕事終わり、誰もが残業もせずにお店に向かった。
参加人数は多くなかったらしい。
隣には友成がいて、仕事の席並びと変わらない。
仕事にも小慣れてきてすっかりなじんだ一年目の後輩たち。
同期同士が近くに座るのは私と友成だけじゃない。
やっぱりそこはそうなるんだろう。
友成と二人で話をしたり、先輩や後輩交じりに話をしたり。
後輩に仲良し同期だと言われた。
意外な組み合わせだとも。
まあ似た者同士と言われたら、そこは否定したい。
タイプとしては反対だ。
私は俄然三次元がいい。
それも遠くの世界のイケメンよりはもっと身近な優しいイケメン。
だから誰かが特別に好きでファンクラブに入ったり、日常の細かいつぶやきをファローするなんて、特別な人はいない。
本当に最初の頃はねじの緩んだ世界にいると思って、仲良くなるつもりなんて全くなかった。それなのに何度か話をして、お互い助け合ってるうちに性格がいいのはすぐに分かった。
それが一番、一緒に働く同期だったらそれが一番。
友成は私のちょっとした口の悪さに慣れて、その奥に隠れてちらりと見える優しさを堪能してるだろう。
もう長い付き合いになるけど、ずっとそんな感じで来れている。
相手もそう思ってもらいたいと思ったのに。
私の印象を聞かれた友成はちゃんと私を褒めてくれた。
懐かしい遠くて初々しい時期の事だ。
そして後輩にも聞かれていた。
「友成先輩、痩せましたか?」
そんなに友成の事を見てるの?
そして私も見てしまった。
本人の自覚もちょっとはあるらしい。
まじまじと見たら・・・確かに。
「何?ダイエット?何のため?誰のため?相手は二次元だよね?」
それ以外ダイエットのモチベーションが上がるもの・・・・まさか?
よくわからなかった。
それよりも最近の悩みはグルグルと私の頭の中を巡り、どうしてもモヤモヤがとれずにいたから。明日もデートするだろう。その距離はまたしても微妙なままなんだろう。
目の前のお酒をとりあえず飲み、皿をきれいに片付けて、また飲み。
結構な量を飲んだ。
ちょっとぐらつくくらい。
視線を向けるとそっちに体が傾くくらいに。
正面を向いたらテーブルに肘をつくし、横を向いたら友成の肩に手を置いて体重を預けるし。
やっぱり酔っていた。
よくわからない事を聞いて、話して。
心配もされた。
帰りの電車でも支えてもらった。
具合は悪くない。
ちゃんと歩ける、ただ、ちゃんと歩きたくないって思ってたかもしれない。
部屋にたどり着いて、入ってもらった。
いきなり彼氏でもない他人をあげることもなかった。
酔ってるからって部屋まで送ってもらうってこともなかったし。
それでもため息もつかずに静かに一緒に歩いてくれた。
本当にいい奴なんだ。
コーヒーをご馳走して、沈黙して。
考えるのも嫌になり目を閉じそうになる。
いい奴はいい奴。
それでも部屋で二人きりになると、どう?
それは、どうかなる?
そんな訳ない。
やっぱりいい奴だった。
コーヒーを飲んで、お礼を言って一人で歩いて部屋を出て行った。
鍵を閉めるのを忘れないようにと、そんな心配までしてくれて。
視線もやらなかった。
ただ足音を聞いて、ドアの閉まる音を聞いて、また遠ざかる足音を聞いていた。
遅くなったな。
帰りつくのは明日になるんじゃない?
・・・・・そんなことないか。
知り合って最大級に迷惑をかけたかも。
本当に厄介な女だって思われたかもしれない。
そんな事を思いながらゆっくりと立ち上がり、鍵をして、スーツを脱いでシャワーを浴びた。
適当に肌を整えて髪の毛を乾かしたらベッドの上に転がる。
まだ帰りついてないだろう。
それなのに寝ちゃうなんて申し訳ない。
せめてたどり着くくらいの時間までは寝るべきじゃないだろう。
なんて思っても、それが何?って気分にもなってきて。
「今さらだよね。」
そう呟いて目を閉じた。
次の朝、一番に思ったのは、謝ろうということだった。
月曜日、ちゃんと謝ろう。
そして月曜日。反省点は覚えていた私。
「ああ、珍しいよね。あんなに酔っぱらうのも。ダメな飲み合わせだったのかな?」
隣の席に座りながら、何でもない事のように言う、ザ・いい奴。
お馴染みのお気に入りのマグを持って席を離れた。
全く変わらない。
やっぱりいつものように大切にマグを両手持ちして戻ってきた。
「遅くなったよね?道も暗かったし、ちゃんとすぐに駅に行けた?帰ってからぐったりしなかった?」
「大丈夫だって。」
「そう。」
そんな経験もないくせに、まるで『よくある事だよ、気にしないで。』そう言ってるみたいじゃない。
反省してたのに、あまりにも変わらないいつもの反応につい冗談で返した。
「ねえ、部屋で二人になって、何か感じなかった?」
「・・・・なにを?」
眉間がキュッと寄り、ちょっとイラッとした顔になる。
滅多に見ない表情だった。
「だって、初めてでしょう?女の人の部屋。」
一応小さい声で言ってあげた。
そこまで気遣えるのならよせばいいのに、言ってしまった。
机の手がギュッと握りこぶしを作って力が入ったのが分かった。
「・・・・・・・別に。」
答えはそれだけ。
「そうか。」
すぐに体の向きを変えた。
まっすぐ前を向いて仕事の準備をする。
ああ・・・最悪・・・かな?怒らせたかも。
せっかく反省一番で謝罪から始まったのに、逆に怒らせてどうするの?
冗談にもされなかったあの時間。
そうか・・・・・・。
いつものように軽口を聞くこともなく、女の子たちに心の中で舌をだしたり、指ではじいたりすることもなく、カレンダーを盗み見ることもなく。
まっすぐ前を向いて仕事をした。
週末はいつものようにデートに誘われたけど、なんとなく気分が乗らなくて。
『ちょっと風邪気味なので今週は大人しく部屋で休んでいます。』
『大丈夫?何か買って行こうか?』
『ありがとうございます。そんなにひどくはないです。来週には元気になるつもりで、美味しいものが食べたい!って気分かもしれないです。』
『分かった。じゃあまた来週だね。でも何かあったらいつでも言ってね。』
『ありがとうございます。』
金沢さんだった。
二つ上29歳。大きな会社にお勤めで、來未の彼氏の友達ということだった。
來未の彼氏とは会社が違うけど、何らかの友達なんだろう。
どうして携帯の写真を見せることになったのか。
彼氏が來未の写真を見せるのは分かる、何で私の分まで見せるのよ!!
來未もそんな写真を彼氏と共有するなんて。
そこは文句を言った。
そうしたら元々紹介するつもりだったからと言われた。
そう言うことなら・・・。
その写真の來未は仕上がりがいい状態の時なのは分かる。
それでも私もいい状態の写真だったから、まあ許す。
金沢さんにも実際に会ってどうだったのか、そう聞いた。
『写真のイメージとは違うかもしれませんよ。』
一応控えめに、勝手にイメージを持たれても困ると思って言った。
『最初から隠す気ないくらいに普通だったよね。何度も飲み会には出てるし、それなりに余所行きな顔をする子も多く見てるけど、三木の彼女につられて、そのままだったよね。』
それはそうかも。
あの時点で來未にいろいろ暴露されて、もとよりその彼の三木さんもすべて知ってることだろう。そんな相槌を打たれて爆笑された。
そんな話がメインだった。
それじゃあしおらしい振りなんて無理でしょう。
「最終的に思った通り、聞いてた通りって、そんな感想だったよ。」
どのくらい聞いてたのかは確かめてない。
まあそんな感じで今のところギャップはないんだろうけど。
本人が言ってた通り飲み会にもたくさん出て、たくさん出会って来たんだろう。
いつも慎重なタイプなんだろうか?
そろそろ三か月になりそうなくらいなのに。
たいてい毎週一日は会ってるのに。
紹介だと最初から相手は決まっていたようなもので、一緒に出掛けようと誘われて、それ以外の言葉はない。全くない。聞き逃してもいないと思う。
しかも褒め上手で、いろんなものを褒める。
当然私の事も、すれ違う犬の事も、見かけた子供のことまで。
だから、分からないまま。
やっぱり今一つ気分が乗らなくて、ぼんやりすることが多い一日だった。
隣の気配では仕事終わりのようで、机の上に文房具が揃えられている。
チラリと横目でそれは確認した。
立ち上がる気配、ゆっくりとバッグを持つ気配・・・そしていなくなった。
挨拶もなかった。
そんな事今まであった?
帰る時に隣にお互いがいて声をかけないなんて、そんな事朝も夕も記憶にない。
そんなに怒ってるんだろうか?
酷く迷惑をかけた上にからかってしまった。
迷惑はどうでもいいと言ってくれても、あのからかいは我慢できなかったらしい。
今度は違うことを反省すべきらしい。
明日はそのことを謝罪すべきらしい。
貴重な同期、いい奴を怒らせた罪の大きさを痛いほど実感した。
無視されるのはつらい、いつも隣にいるんだし、それはつらい。
やっぱり集中できなくて、そのまま私も仕事を終わりにした。
だいたい隣の席なんだから、見えるのは机の上の過剰にデフォルメされたパーツの彼女たちばかり。
その持ち主の隣人の事は真横を見ないと見えない。
ランチタイム。
「ねえ、やっぱりどんどん痩せてる気がするんだけど?」
そう言われて頬に手を当てた。
「そう?変わらないと思うよ。」
そんなにいつまでもひきずってない。
さすがに食欲が落ちたのも二日くらいだったし。
むしろ週末をダラダラと過ごしたり、遅くまで食べてて摂取カロリーは増えたと思う。
「違うよ、友成君の事だよ。最初の頃より、ずっと痩せてるよ。」
「さすがに大学生の頃よりは、少なくとも仕事中におやつを食べるなんてしてないからね、残業もあるし、その分は痩せるんじゃない?」
だってインドア派できっとスナック菓子片手に漫画やDVDを見てたりしてただろうし。
「最近の事だよ。今日久しぶりに顔を合わせてみたから気がついたんだけど、ずいぶんイメージ変ったし、見た目の印象もぐっと良くなったと思うよ。」
『ぐっと』と力を込められたところは教えてあげたい。
微妙な顔をするだろう。
「そう?相変わらず・・・・だと思う。」
「もう・・・・・。」
そんな会話を來未とした。
そうなのかな?
この間そんなにだらしない所は見てないなあって思ったけど、昔は・・・・確かにもっと残念な奴だったかもしれない。
そういえばお気に入りアイテムは相変わらずだけど、変な動きや掛け声もないかな?
人はそれなりに大人になるってことだろう。
さすがにあんなに私が言ってるんだから三次元の体温のありがたさに気がついたのかもしれない。
まあ、そんな事はどうでもよくて。
この間來未に誘われた飲み会は本当にいい出会いがあったのだ。
期待以上にいい人で、笑いながら言われた。
『すごく気が強いんだよって念を押されました。』
來未が言ったんだろう。
『そんな女で大丈夫?』って響きになったみたいじゃない。
『ちょっと気が強いのが玉に瑕』くらいで言ったんじゃなかったの?
それでもそれを含んでくれるらしい。
心が広い人らしい。
いいじゃない!
向かい合わせの席で楽しく食事をしてお酒を飲み、さほど探り合うこともせずに遊びに行く約束をした。
それから毎週一日は会ってるし、時々電話をしたり、ちょっとした連絡は日々の事となり。
それでもまだ今一つ関係性を決めるような出来事はない。
何でだろう?
軽く手が触れても、あまり馴れ馴れしくもできず。
でも向けられる笑顔は誤解しそうになる。
今どんな感じの二人なんだろう?
居心地の良さに慣れてしまって、踏み出すこともはっきりと聞くこともできないまま。
微妙なふたりのまま。
そんなある日、課内の飲み会があった。
金曜日の仕事終わり、誰もが残業もせずにお店に向かった。
参加人数は多くなかったらしい。
隣には友成がいて、仕事の席並びと変わらない。
仕事にも小慣れてきてすっかりなじんだ一年目の後輩たち。
同期同士が近くに座るのは私と友成だけじゃない。
やっぱりそこはそうなるんだろう。
友成と二人で話をしたり、先輩や後輩交じりに話をしたり。
後輩に仲良し同期だと言われた。
意外な組み合わせだとも。
まあ似た者同士と言われたら、そこは否定したい。
タイプとしては反対だ。
私は俄然三次元がいい。
それも遠くの世界のイケメンよりはもっと身近な優しいイケメン。
だから誰かが特別に好きでファンクラブに入ったり、日常の細かいつぶやきをファローするなんて、特別な人はいない。
本当に最初の頃はねじの緩んだ世界にいると思って、仲良くなるつもりなんて全くなかった。それなのに何度か話をして、お互い助け合ってるうちに性格がいいのはすぐに分かった。
それが一番、一緒に働く同期だったらそれが一番。
友成は私のちょっとした口の悪さに慣れて、その奥に隠れてちらりと見える優しさを堪能してるだろう。
もう長い付き合いになるけど、ずっとそんな感じで来れている。
相手もそう思ってもらいたいと思ったのに。
私の印象を聞かれた友成はちゃんと私を褒めてくれた。
懐かしい遠くて初々しい時期の事だ。
そして後輩にも聞かれていた。
「友成先輩、痩せましたか?」
そんなに友成の事を見てるの?
そして私も見てしまった。
本人の自覚もちょっとはあるらしい。
まじまじと見たら・・・確かに。
「何?ダイエット?何のため?誰のため?相手は二次元だよね?」
それ以外ダイエットのモチベーションが上がるもの・・・・まさか?
よくわからなかった。
それよりも最近の悩みはグルグルと私の頭の中を巡り、どうしてもモヤモヤがとれずにいたから。明日もデートするだろう。その距離はまたしても微妙なままなんだろう。
目の前のお酒をとりあえず飲み、皿をきれいに片付けて、また飲み。
結構な量を飲んだ。
ちょっとぐらつくくらい。
視線を向けるとそっちに体が傾くくらいに。
正面を向いたらテーブルに肘をつくし、横を向いたら友成の肩に手を置いて体重を預けるし。
やっぱり酔っていた。
よくわからない事を聞いて、話して。
心配もされた。
帰りの電車でも支えてもらった。
具合は悪くない。
ちゃんと歩ける、ただ、ちゃんと歩きたくないって思ってたかもしれない。
部屋にたどり着いて、入ってもらった。
いきなり彼氏でもない他人をあげることもなかった。
酔ってるからって部屋まで送ってもらうってこともなかったし。
それでもため息もつかずに静かに一緒に歩いてくれた。
本当にいい奴なんだ。
コーヒーをご馳走して、沈黙して。
考えるのも嫌になり目を閉じそうになる。
いい奴はいい奴。
それでも部屋で二人きりになると、どう?
それは、どうかなる?
そんな訳ない。
やっぱりいい奴だった。
コーヒーを飲んで、お礼を言って一人で歩いて部屋を出て行った。
鍵を閉めるのを忘れないようにと、そんな心配までしてくれて。
視線もやらなかった。
ただ足音を聞いて、ドアの閉まる音を聞いて、また遠ざかる足音を聞いていた。
遅くなったな。
帰りつくのは明日になるんじゃない?
・・・・・そんなことないか。
知り合って最大級に迷惑をかけたかも。
本当に厄介な女だって思われたかもしれない。
そんな事を思いながらゆっくりと立ち上がり、鍵をして、スーツを脱いでシャワーを浴びた。
適当に肌を整えて髪の毛を乾かしたらベッドの上に転がる。
まだ帰りついてないだろう。
それなのに寝ちゃうなんて申し訳ない。
せめてたどり着くくらいの時間までは寝るべきじゃないだろう。
なんて思っても、それが何?って気分にもなってきて。
「今さらだよね。」
そう呟いて目を閉じた。
次の朝、一番に思ったのは、謝ろうということだった。
月曜日、ちゃんと謝ろう。
そして月曜日。反省点は覚えていた私。
「ああ、珍しいよね。あんなに酔っぱらうのも。ダメな飲み合わせだったのかな?」
隣の席に座りながら、何でもない事のように言う、ザ・いい奴。
お馴染みのお気に入りのマグを持って席を離れた。
全く変わらない。
やっぱりいつものように大切にマグを両手持ちして戻ってきた。
「遅くなったよね?道も暗かったし、ちゃんとすぐに駅に行けた?帰ってからぐったりしなかった?」
「大丈夫だって。」
「そう。」
そんな経験もないくせに、まるで『よくある事だよ、気にしないで。』そう言ってるみたいじゃない。
反省してたのに、あまりにも変わらないいつもの反応につい冗談で返した。
「ねえ、部屋で二人になって、何か感じなかった?」
「・・・・なにを?」
眉間がキュッと寄り、ちょっとイラッとした顔になる。
滅多に見ない表情だった。
「だって、初めてでしょう?女の人の部屋。」
一応小さい声で言ってあげた。
そこまで気遣えるのならよせばいいのに、言ってしまった。
机の手がギュッと握りこぶしを作って力が入ったのが分かった。
「・・・・・・・別に。」
答えはそれだけ。
「そうか。」
すぐに体の向きを変えた。
まっすぐ前を向いて仕事の準備をする。
ああ・・・最悪・・・かな?怒らせたかも。
せっかく反省一番で謝罪から始まったのに、逆に怒らせてどうするの?
冗談にもされなかったあの時間。
そうか・・・・・・。
いつものように軽口を聞くこともなく、女の子たちに心の中で舌をだしたり、指ではじいたりすることもなく、カレンダーを盗み見ることもなく。
まっすぐ前を向いて仕事をした。
週末はいつものようにデートに誘われたけど、なんとなく気分が乗らなくて。
『ちょっと風邪気味なので今週は大人しく部屋で休んでいます。』
『大丈夫?何か買って行こうか?』
『ありがとうございます。そんなにひどくはないです。来週には元気になるつもりで、美味しいものが食べたい!って気分かもしれないです。』
『分かった。じゃあまた来週だね。でも何かあったらいつでも言ってね。』
『ありがとうございます。』
金沢さんだった。
二つ上29歳。大きな会社にお勤めで、來未の彼氏の友達ということだった。
來未の彼氏とは会社が違うけど、何らかの友達なんだろう。
どうして携帯の写真を見せることになったのか。
彼氏が來未の写真を見せるのは分かる、何で私の分まで見せるのよ!!
來未もそんな写真を彼氏と共有するなんて。
そこは文句を言った。
そうしたら元々紹介するつもりだったからと言われた。
そう言うことなら・・・。
その写真の來未は仕上がりがいい状態の時なのは分かる。
それでも私もいい状態の写真だったから、まあ許す。
金沢さんにも実際に会ってどうだったのか、そう聞いた。
『写真のイメージとは違うかもしれませんよ。』
一応控えめに、勝手にイメージを持たれても困ると思って言った。
『最初から隠す気ないくらいに普通だったよね。何度も飲み会には出てるし、それなりに余所行きな顔をする子も多く見てるけど、三木の彼女につられて、そのままだったよね。』
それはそうかも。
あの時点で來未にいろいろ暴露されて、もとよりその彼の三木さんもすべて知ってることだろう。そんな相槌を打たれて爆笑された。
そんな話がメインだった。
それじゃあしおらしい振りなんて無理でしょう。
「最終的に思った通り、聞いてた通りって、そんな感想だったよ。」
どのくらい聞いてたのかは確かめてない。
まあそんな感じで今のところギャップはないんだろうけど。
本人が言ってた通り飲み会にもたくさん出て、たくさん出会って来たんだろう。
いつも慎重なタイプなんだろうか?
そろそろ三か月になりそうなくらいなのに。
たいてい毎週一日は会ってるのに。
紹介だと最初から相手は決まっていたようなもので、一緒に出掛けようと誘われて、それ以外の言葉はない。全くない。聞き逃してもいないと思う。
しかも褒め上手で、いろんなものを褒める。
当然私の事も、すれ違う犬の事も、見かけた子供のことまで。
だから、分からないまま。
やっぱり今一つ気分が乗らなくて、ぼんやりすることが多い一日だった。
隣の気配では仕事終わりのようで、机の上に文房具が揃えられている。
チラリと横目でそれは確認した。
立ち上がる気配、ゆっくりとバッグを持つ気配・・・そしていなくなった。
挨拶もなかった。
そんな事今まであった?
帰る時に隣にお互いがいて声をかけないなんて、そんな事朝も夕も記憶にない。
そんなに怒ってるんだろうか?
酷く迷惑をかけた上にからかってしまった。
迷惑はどうでもいいと言ってくれても、あのからかいは我慢できなかったらしい。
今度は違うことを反省すべきらしい。
明日はそのことを謝罪すべきらしい。
貴重な同期、いい奴を怒らせた罪の大きさを痛いほど実感した。
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