4 / 13
4『いい奴』が満足すべき二人のバランス。 ~いい奴友成②~
しおりを挟む
課内の先輩仕切りの飲み会が開かれた。
残業無しで頑張って、予定のない人が参加する。
特別がない日だったので隣人に連れられるようにして参加した。
特別誘いあうことはなくても、それなりに話は聞いて相槌は打てる。
聞き手その①でいることも苦痛じゃない。
先輩と後輩の交じり合った話を聞いている。
最近の横の席は会社と同じ隣人がいる。
それはとても落ち着く席並びだったりする。
ご機嫌にさっきから食べ、飲み。
さっさと酔っぱらったらしい。
「そういえば先輩たちは仲良しですよね。タイプとしては気が合いそうにも思えないのに、二人でいるとしっくりきますよ。」
後輩に言われた。
見た目ではタイプも好みもお互い合わなさそうだと、そうはっきり言われた感じだった。
確かにそうだろう。
それを聞いて酔っ払いの隣人がいきなり背中を叩いてきた。
「そうなの、正直最初の最初は『ゲッ、こいつと同じ課なの?』くらいの感想はあったんだけど、今じゃあ切っても切れない仲良し同期なの。やっぱりちゃんと付き合わないと分からないよね。見た目と愛用品で判断したらダメだよね。」
バンバンと背中を叩いてきて、とうとう肩を組まれて男友達のような二人組になった。
しかし、言ってることは結構酷い。
最初にそう思ったなんて、今日初めて聞いたけど。
酔ってつい言ったんだろうか?
しっかり聞いてしまって忘れるのは難しいんだけど。
最初の印象は良くなかったらしいけど、まあそのうち認めてもらえたらしい。
『仲良し同期』になれた。
「友成先輩はどう思ったんですか?」
「どう・・・・かな?最初からきれいで有名だったから、本当にそうだなあって思ったくらいだよ。別に特別に何かを一緒にするわけじゃないし、困ったら相談できるかなって、頼りになりそうだなって思ったくらいだよ。」
半分は正直に言った。
『すごいラッキーなんだろうか?誰かに恨まれそうだけど、仲良くなるのはきっと無理だろうなあ。』最初はそう思った。
それでもすぐに印象は変わった。
そこはお互い様だったんだろう。
「本当にいい奴なの。最高にいい奴。ほら、あの私物を見るとドン引きだけど、それは性格でカバーだよね。誰かいい人いないかなあ?何か言われない?聞かれない?」
「う~ん、あんまり目立つ方じゃないし、よくは・・・・・・。」
後輩も答えるのに困ってると思う。
『確かにドン引きだ。』くらいの感想しかないかもしれない。
「そうか、残念。そんなところも残念なんだけどね。」
そんなところもって・・・・。
本当に酔ってるんだろう、体重をこっちにかけてきてるし重いんだけど。
肩の手はそのまま、時々ゆすられるように動かされたり。おでこをゴンゴンと肩をぶつけて来たり、どんな感情表現なんだか、弟のように扱われてる気もする。
「友成先輩、少しやせましたか?」
「え?・・・・そんな・・・そうかな?」
少しづつ入社の頃から落としてきた。
最近は節約効果もあったし、またちょっとだけ体重は落ちた。
「何?ダイエット?何のため?誰のため?もちろん相手は二次元だよね?」
全く気がついてないのは分かった、隣は近すぎるらしい。
「別に、ちょっと食事より優先したいことがあっただけで、夜が少なかったんだよ。」
節約の二次作用が出てるのだ。
「怪しい。」
顔が正面に来た。近い・・・・。
ジトっとした目で顔はドアップで。
勘弁してほしい。
顔を後ろに引いた。
それでも就職したころに比べるとすごく減ってるんだ。
ちょっとづつだけど日々努力はしたつもりだ。
最初は何度も挫折しそうになり、時々休んだりするけど、長い時間かかったけどずいぶん減った。
何で今までしなかったんだろうって思うくらい。
どうしてか・・・・。
それはやっぱり、ことあるごとに必要なんだなあって思うことがあって。
痩せれば何か変わるだろうかって思うこともあって。
時々その存在を思い出しながら、やる気に変えて、頑張った・・・・・。
ゆっくり、時間がかかったけど頑張った。
全く気付かれてなくても、結果は出てる。
さすがにおとなしくなった隣。
肩の手は落ちて、それでも容赦なくもたれてきている。
後輩も怪しいとか思うこともないんだろう。
恋愛モードオンと失恋モードオンは会社でも隠せてないから、隣じゃなくてもみんな知ってる。
相手にされないのは自分のせいだろう。
少しもザワザワともならない今の二人の距離。
・・・・それは、そんなものなんだ。
「ねえ、友成・・・・。」
「何?」
寝てるわけじゃないらしい。
「私は・・・おもたい?」
今のこの無理な姿勢の事だろうか・・・違う気がして。
「大丈夫。」
一言だけ答えた。
どうしたんだよ、一体。
最高ハッピーな状態のはずなのに。
「飲み過ぎた?食べる前にガンガン飲んだから早めに酔ったんじゃない?」
「そうかな?」
「お水いるならもらってくるよ。」
とりあえずしゃんと起き上がってほしい気もする。
さすがに自分が・・・しんどい。
それでも何も言われず。
「ねえ、もう五年だね。すごく長い付き合いだね。」
五年・・・・。
確かに最初の頃はもっと距離をとられていた。
たった一人の同期が自分で、どうやって付き合おうって思ったのかもしれない。
それでもここまで仲良くなれた。
それは今までにない関係性だ。
お互いに言いたいことを笑顔で言い合えて、それなりに助け合って。
異動もなく・・・・できたらこのまま、何も変らなくてもこのまま。
自分はそう思ってる、心から願ってる。
チラリと見ると目を閉じていた。
どういう状態だろう?
気分は悪くないと思う。
寝てるのだろうか?
安心して、適当な壁扱いで、もしくは弟の肩を借りてる気分で。
静かにグラスを傾ける。
あちこちで酔っ払いが浮かれてる、みんな楽しそうだ。
それなのに静かな隣。
本当にどうしたんだろう?
何かあったんだろうか?
知りたいと思ってしまう自分。
決定的なことはまだないはずだ。
だって知り合ってそんなに経ってないはずだし。
とうとう終わりの時間まで大人しくしていた。
そっと声をかけて起きてもらった。
「ねえ、大丈夫?」
「うん。」
「終わりだって。どこか駅前で休んで酔いを醒ますなら付き合うよ。」
「うん。」
体が離れて、急に体が軽くなった。
顔を見る。
眠そうではあるけど、ただの睡眠不足かもしれない。
会計は終わったらしく、バラバラと席を立っていなくなる皆。
先に立ち上がって手を出した。
「帰ろう。」
ぼんやり見あげて、手を出してきたので引っ張って立たせた。
五年も過ぎるとこんな関係にもなれる。
凄いじゃないか。
荷物を持ってあげて、軽く腕を支えながら歩かせる。
ご機嫌モードはオフだけど、多分眠いんだろう。
休むよりさっさと帰った方がいいだろう。
駅に着きそうな頃、聞いた。
「一人で大丈夫?」
さすがにタクシーに乗せてお金を運転手に渡せるほどの男前さはない。
ちょっとそこは許してほしい。
「送ろうか?」
代りの提案で許してほしい。
駅は途中からは全く違う方向だけど、明日はゆっくりだし、いい。
「ごめん。」
送ることになったらしい。
電車に乗って、さっきよりしっかりと力を入れて支える。
片手は腕をつかんで、もう一方は吊革を持って。
目を閉じてる。
どこまで送るんだろう?
まさかマンションまで?
自分の駅に着いたら目を開けてくれた。
とりあえず電車は降りる。
ついて行って改札の手前で腕を離した。
そのまま改札をくぐりそうな足取りなのに、立ち止まられて。
目が合ったんだけど・・・・・ついて来いって言ってる?
そのまま改札を出る背中に続いた・・・・・・負けた。
せめて駅から歩いて数分の分かりやすく、かつ明るい道であってほしい。
腕に手をやることもなく、言葉も交わさずに後ろからついて行って、暗闇を歩く。
あの・・・・・街灯が寂しいんですが・・・・・。
いつもこんな道を歩いてるんだろうか?
危ないし怖いじゃないか。
「ねえ、この道は危ないよ。もっと明るい道はないの?」
「ある。今日は友成が一緒だし。」
言葉少なに答えたけど、いつもは違う道を通ってるらしい。
それならいいけど、自分ひとりの帰りはどうするんだよ・・・・。
そのまま一軒のマンションについて、オートロックに鍵を差し込むのを見ていた。
もういいよね?
そう思ったのに、半分後ろを向いて扉をあけられて押さえられた。
まだダメらしい。
一緒にエレベーターに乗り、いよいよ玄関の扉の所へ。
鍵はするっと差し込まれて開いた。
さすがにね、もういいよね・・・・帰りたい・・・・それに帰るべきだよね・・・・。
扉をあけるその横顔に訴えた。
「どうぞ。」
その一言で呆気なく部屋に招待されてしまった。
一応入ったけど、ドアを締め切らないまま背中で止めて声をかけた。
「もう寝た方がよくない?気分はどう?」
「コーヒーをご馳走するから、上がって。」
いつもの気遣いをここで返してくれなくても。
しかも一応女性の部屋、夜、お酒の後・・・・。
こっちは慣れてないのに。
廊下を歩く自分の両足のつま先がきゅっと緊張に丸くなるのを感じた。
ゆっくり歩いて、明るくなったリビングのソファの近くに座った。
本当にコーヒーを飲ませてくれるらしい。
電気ケトルはすぐにゴボゴボと音を立てて保温になった。
マグカップに入れてくれたコーヒーを一つ渡される。
「送ってくれてありがとう。」
今お礼を言われた。
もっと改札でも、マンション前でも、玄関前でも良かったけど。
「うん。」
さすがにそうは言えなくて返事だけした。
「痩せた?」
「まあまあ少しだけ。」
「この間來未が言ってた。全然気が付かなかった。」
「毎日見てるから、見てるようで見てないような感じでもあるし。」
「そうだね。」
同意された。どっちだろう?
自分は割りと気が付くのに、いろんな気分のムラに気が付くのに。
コーヒーは飲み終わった。会話の合間に飲んでたらあっという間だった。
隣で欠伸をする気配を感じた。
「もう寝た方がいよ。」
「そうだね。」
そう言われたから立ち上がって、ごちそうさまと言って玄関に向かった。
暗い中だったけど無事に靴まで履けて。
「ちゃんと鍵をしてね。お休み。」
そう言って部屋を出た。
週末前、遅い夜、一人で女性の部屋を出る。
寂しい気持ちを乗せるとそうなる。
送ってきた同僚が無事に部屋にたどり着いたから、お礼のコーヒーを飲んだら帰ろう。
シンプルに言うとそうなる。
暗い道を一人、急ぎ足で引き返した。
それでも心の中からテイッシュ一枚分くらいの存在感の軽い期待が溶けて消えたのが分かった。
疲れた・・・・眠い・・・・。
残業無しで頑張って、予定のない人が参加する。
特別がない日だったので隣人に連れられるようにして参加した。
特別誘いあうことはなくても、それなりに話は聞いて相槌は打てる。
聞き手その①でいることも苦痛じゃない。
先輩と後輩の交じり合った話を聞いている。
最近の横の席は会社と同じ隣人がいる。
それはとても落ち着く席並びだったりする。
ご機嫌にさっきから食べ、飲み。
さっさと酔っぱらったらしい。
「そういえば先輩たちは仲良しですよね。タイプとしては気が合いそうにも思えないのに、二人でいるとしっくりきますよ。」
後輩に言われた。
見た目ではタイプも好みもお互い合わなさそうだと、そうはっきり言われた感じだった。
確かにそうだろう。
それを聞いて酔っ払いの隣人がいきなり背中を叩いてきた。
「そうなの、正直最初の最初は『ゲッ、こいつと同じ課なの?』くらいの感想はあったんだけど、今じゃあ切っても切れない仲良し同期なの。やっぱりちゃんと付き合わないと分からないよね。見た目と愛用品で判断したらダメだよね。」
バンバンと背中を叩いてきて、とうとう肩を組まれて男友達のような二人組になった。
しかし、言ってることは結構酷い。
最初にそう思ったなんて、今日初めて聞いたけど。
酔ってつい言ったんだろうか?
しっかり聞いてしまって忘れるのは難しいんだけど。
最初の印象は良くなかったらしいけど、まあそのうち認めてもらえたらしい。
『仲良し同期』になれた。
「友成先輩はどう思ったんですか?」
「どう・・・・かな?最初からきれいで有名だったから、本当にそうだなあって思ったくらいだよ。別に特別に何かを一緒にするわけじゃないし、困ったら相談できるかなって、頼りになりそうだなって思ったくらいだよ。」
半分は正直に言った。
『すごいラッキーなんだろうか?誰かに恨まれそうだけど、仲良くなるのはきっと無理だろうなあ。』最初はそう思った。
それでもすぐに印象は変わった。
そこはお互い様だったんだろう。
「本当にいい奴なの。最高にいい奴。ほら、あの私物を見るとドン引きだけど、それは性格でカバーだよね。誰かいい人いないかなあ?何か言われない?聞かれない?」
「う~ん、あんまり目立つ方じゃないし、よくは・・・・・・。」
後輩も答えるのに困ってると思う。
『確かにドン引きだ。』くらいの感想しかないかもしれない。
「そうか、残念。そんなところも残念なんだけどね。」
そんなところもって・・・・。
本当に酔ってるんだろう、体重をこっちにかけてきてるし重いんだけど。
肩の手はそのまま、時々ゆすられるように動かされたり。おでこをゴンゴンと肩をぶつけて来たり、どんな感情表現なんだか、弟のように扱われてる気もする。
「友成先輩、少しやせましたか?」
「え?・・・・そんな・・・そうかな?」
少しづつ入社の頃から落としてきた。
最近は節約効果もあったし、またちょっとだけ体重は落ちた。
「何?ダイエット?何のため?誰のため?もちろん相手は二次元だよね?」
全く気がついてないのは分かった、隣は近すぎるらしい。
「別に、ちょっと食事より優先したいことがあっただけで、夜が少なかったんだよ。」
節約の二次作用が出てるのだ。
「怪しい。」
顔が正面に来た。近い・・・・。
ジトっとした目で顔はドアップで。
勘弁してほしい。
顔を後ろに引いた。
それでも就職したころに比べるとすごく減ってるんだ。
ちょっとづつだけど日々努力はしたつもりだ。
最初は何度も挫折しそうになり、時々休んだりするけど、長い時間かかったけどずいぶん減った。
何で今までしなかったんだろうって思うくらい。
どうしてか・・・・。
それはやっぱり、ことあるごとに必要なんだなあって思うことがあって。
痩せれば何か変わるだろうかって思うこともあって。
時々その存在を思い出しながら、やる気に変えて、頑張った・・・・・。
ゆっくり、時間がかかったけど頑張った。
全く気付かれてなくても、結果は出てる。
さすがにおとなしくなった隣。
肩の手は落ちて、それでも容赦なくもたれてきている。
後輩も怪しいとか思うこともないんだろう。
恋愛モードオンと失恋モードオンは会社でも隠せてないから、隣じゃなくてもみんな知ってる。
相手にされないのは自分のせいだろう。
少しもザワザワともならない今の二人の距離。
・・・・それは、そんなものなんだ。
「ねえ、友成・・・・。」
「何?」
寝てるわけじゃないらしい。
「私は・・・おもたい?」
今のこの無理な姿勢の事だろうか・・・違う気がして。
「大丈夫。」
一言だけ答えた。
どうしたんだよ、一体。
最高ハッピーな状態のはずなのに。
「飲み過ぎた?食べる前にガンガン飲んだから早めに酔ったんじゃない?」
「そうかな?」
「お水いるならもらってくるよ。」
とりあえずしゃんと起き上がってほしい気もする。
さすがに自分が・・・しんどい。
それでも何も言われず。
「ねえ、もう五年だね。すごく長い付き合いだね。」
五年・・・・。
確かに最初の頃はもっと距離をとられていた。
たった一人の同期が自分で、どうやって付き合おうって思ったのかもしれない。
それでもここまで仲良くなれた。
それは今までにない関係性だ。
お互いに言いたいことを笑顔で言い合えて、それなりに助け合って。
異動もなく・・・・できたらこのまま、何も変らなくてもこのまま。
自分はそう思ってる、心から願ってる。
チラリと見ると目を閉じていた。
どういう状態だろう?
気分は悪くないと思う。
寝てるのだろうか?
安心して、適当な壁扱いで、もしくは弟の肩を借りてる気分で。
静かにグラスを傾ける。
あちこちで酔っ払いが浮かれてる、みんな楽しそうだ。
それなのに静かな隣。
本当にどうしたんだろう?
何かあったんだろうか?
知りたいと思ってしまう自分。
決定的なことはまだないはずだ。
だって知り合ってそんなに経ってないはずだし。
とうとう終わりの時間まで大人しくしていた。
そっと声をかけて起きてもらった。
「ねえ、大丈夫?」
「うん。」
「終わりだって。どこか駅前で休んで酔いを醒ますなら付き合うよ。」
「うん。」
体が離れて、急に体が軽くなった。
顔を見る。
眠そうではあるけど、ただの睡眠不足かもしれない。
会計は終わったらしく、バラバラと席を立っていなくなる皆。
先に立ち上がって手を出した。
「帰ろう。」
ぼんやり見あげて、手を出してきたので引っ張って立たせた。
五年も過ぎるとこんな関係にもなれる。
凄いじゃないか。
荷物を持ってあげて、軽く腕を支えながら歩かせる。
ご機嫌モードはオフだけど、多分眠いんだろう。
休むよりさっさと帰った方がいいだろう。
駅に着きそうな頃、聞いた。
「一人で大丈夫?」
さすがにタクシーに乗せてお金を運転手に渡せるほどの男前さはない。
ちょっとそこは許してほしい。
「送ろうか?」
代りの提案で許してほしい。
駅は途中からは全く違う方向だけど、明日はゆっくりだし、いい。
「ごめん。」
送ることになったらしい。
電車に乗って、さっきよりしっかりと力を入れて支える。
片手は腕をつかんで、もう一方は吊革を持って。
目を閉じてる。
どこまで送るんだろう?
まさかマンションまで?
自分の駅に着いたら目を開けてくれた。
とりあえず電車は降りる。
ついて行って改札の手前で腕を離した。
そのまま改札をくぐりそうな足取りなのに、立ち止まられて。
目が合ったんだけど・・・・・ついて来いって言ってる?
そのまま改札を出る背中に続いた・・・・・・負けた。
せめて駅から歩いて数分の分かりやすく、かつ明るい道であってほしい。
腕に手をやることもなく、言葉も交わさずに後ろからついて行って、暗闇を歩く。
あの・・・・・街灯が寂しいんですが・・・・・。
いつもこんな道を歩いてるんだろうか?
危ないし怖いじゃないか。
「ねえ、この道は危ないよ。もっと明るい道はないの?」
「ある。今日は友成が一緒だし。」
言葉少なに答えたけど、いつもは違う道を通ってるらしい。
それならいいけど、自分ひとりの帰りはどうするんだよ・・・・。
そのまま一軒のマンションについて、オートロックに鍵を差し込むのを見ていた。
もういいよね?
そう思ったのに、半分後ろを向いて扉をあけられて押さえられた。
まだダメらしい。
一緒にエレベーターに乗り、いよいよ玄関の扉の所へ。
鍵はするっと差し込まれて開いた。
さすがにね、もういいよね・・・・帰りたい・・・・それに帰るべきだよね・・・・。
扉をあけるその横顔に訴えた。
「どうぞ。」
その一言で呆気なく部屋に招待されてしまった。
一応入ったけど、ドアを締め切らないまま背中で止めて声をかけた。
「もう寝た方がよくない?気分はどう?」
「コーヒーをご馳走するから、上がって。」
いつもの気遣いをここで返してくれなくても。
しかも一応女性の部屋、夜、お酒の後・・・・。
こっちは慣れてないのに。
廊下を歩く自分の両足のつま先がきゅっと緊張に丸くなるのを感じた。
ゆっくり歩いて、明るくなったリビングのソファの近くに座った。
本当にコーヒーを飲ませてくれるらしい。
電気ケトルはすぐにゴボゴボと音を立てて保温になった。
マグカップに入れてくれたコーヒーを一つ渡される。
「送ってくれてありがとう。」
今お礼を言われた。
もっと改札でも、マンション前でも、玄関前でも良かったけど。
「うん。」
さすがにそうは言えなくて返事だけした。
「痩せた?」
「まあまあ少しだけ。」
「この間來未が言ってた。全然気が付かなかった。」
「毎日見てるから、見てるようで見てないような感じでもあるし。」
「そうだね。」
同意された。どっちだろう?
自分は割りと気が付くのに、いろんな気分のムラに気が付くのに。
コーヒーは飲み終わった。会話の合間に飲んでたらあっという間だった。
隣で欠伸をする気配を感じた。
「もう寝た方がいよ。」
「そうだね。」
そう言われたから立ち上がって、ごちそうさまと言って玄関に向かった。
暗い中だったけど無事に靴まで履けて。
「ちゃんと鍵をしてね。お休み。」
そう言って部屋を出た。
週末前、遅い夜、一人で女性の部屋を出る。
寂しい気持ちを乗せるとそうなる。
送ってきた同僚が無事に部屋にたどり着いたから、お礼のコーヒーを飲んだら帰ろう。
シンプルに言うとそうなる。
暗い道を一人、急ぎ足で引き返した。
それでも心の中からテイッシュ一枚分くらいの存在感の軽い期待が溶けて消えたのが分かった。
疲れた・・・・眠い・・・・。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる