年下幼馴染アルファの執着〜なかったことにはさせない〜

ひなた翠

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第二章:夏休みの再会

ヒートの予兆

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 夜が更けていった。
 時計の針が十一時を回った頃、僕たちは寝室に入った。海斗が客用の布団をベッドの横に敷いて、寝る準備を整えていく。僕はベッドに横たわり、海斗が布団に入るのを見ていた。

「おやすみ、はーちゃん」

 海斗が優しく言った。僕も小さく返事をして、目を閉じる。部屋の明かりが消えて、暗闇が広がった。月明かりが窓から差し込み、カーテン越しに淡い光が部屋を照らしている。

 すぐに海斗の寝息が聞こえてきた。

 規則正しい呼吸。深く、穏やかな眠り。すぐに眠ってしまったようだった。僕は目を開けて、天井を見つめた。眠れなかった。近くにに海斗がいると思うと寝付けない。

 身体が、おかしかった。
 ずっと火照りが続いていた。さっきから、身体の芯が熱い。エアコンをつけているのに、汗が額に滲んでくる。シーツを握りしめると、手のひらが濡れていた。呼吸が浅くなり、心臓が早鐘を打っている。

 海斗の匂いに、敏感になっている。
 アルファ特有のフェロモンが、部屋に充満している。鼻腔を刺激してくる甘い香りに、身体が激しく反応していく。下腹部に熱が集まり、甘い痺れが全身を駆け巡っていく。

 下着が、濡れていくのを感じて、僕は焦った。

(どうして、こんな時に)

 ヒートだ。いつもよりも早い。前回のヒートから、まだ一ヶ月も経っていない。周期が乱れている。海斗が来たせいだろうか。アルファである海斗のフェロモンに反応してしまったのかもしれない。

(こんなはずでは――)

 熱に浮かされる感覚が、全身を支配していく。頭がぼんやりとして、思考が纏まらない。身体が熱くて、喉が渇く。シーツを握りしめる手に力が入らなくなり、指先が震え始めた。

(まずい)

 抑制剤を飲まなければ。このままではヒートが本格的に始まってしまう。海斗に気づかれたら、また迷惑をかけてしまう。

 そっと、ベッドから起き上がった。

 海斗を起こさないように、慎重に動く。足をベッドから下ろして、床に足をつける。立ち上がろうとしたが、足に力が入らなかった。ふらついて、壁に手をついて身体を支える。

 深呼吸をして、寝室を出た。

 リビングを抜けて、キッチンへと向かう。月明かりだけが頼りで、部屋の中は薄暗かった。

 キッチンに入ると、食器棚の引き出しを開けた。

 中から薬箱を取り出す。白いプラスチックの箱が、月明かりに照らされて淡く光っている。蓋を開けて、中を探る。絆創膏、風邪薬、胃薬……抑制剤の箱を見つけて、取り出した。

 錠剤を取り出そうと、箱を開けようとした瞬間――手を掴まれた。

「……っ」

 驚いて振り返ろうとしたが、背後から腕が回されて身体を抱き締められた。大きな身体が、僕の背中に密着してくる。熱い。海斗の体温が、薄い寝間着越しに伝わってくる。首筋に息がかかり、鳥肌が立った。

「何しているの?」

 低い声が、耳元で囁かれた。海斗の声。いつもより低く、掠れている。腕に力が込められて、逃げられないように抱き締めらてしまう。

「薬を飲もうと思って」

 震える声で答えた。海斗の腕の中で、身体が小刻みに震えている。心臓が激しく跳ねて、呼吸が乱れていく。海斗の匂いが濃厚に漂ってきて、意識が溶けそうになった。

「なんで?」

 海斗が尋ねてくる。腕に込められる力が強くなり、身体が密着していく。海斗の心臓の音が、背中越しに伝わってくる。僕の乱れた鼓動とは対照的に力強く鳴っていた。

「薬を飲まないと」

 声が震えてしまう。喉が渇いて、上手く言葉にならない。海斗の腕の中で、身体が熱くなっていく。下腹部の疼きが激しくなり、膝が笑いそうになった。

「ヒートになったから?」

 海斗が囁いた。核心を突く言葉に、息が止まった。

(バレてる)

「気づいて……」

 恥ずかしさで、顔が熱くなる。ヒートで乱れている身体を、海斗に知られてしまう。

「気づくだろ。すごくいい匂いなんだから」

 海斗の声が、甘く蕩けていた。鼻先を僕の首筋に押し付けて、深く息を吸い込んでくる。僕のフェロモンを嗅いでいる。初夏の雨上がりの空気を思わせる、オメガ特有の甘い香りを、貪るように嗅いでいた。

「だから薬を――」
 言葉が途中で途切れた。

 海斗の唇が、首筋に触れた。柔らかく、温かい感触。軽くキスをされて、身体が跳ねる。そのまま、歯が軽く首筋に立てられた。甘噛みの痛みと快楽が混ざり合った感覚が、全身を駆け巡っていく。

「あ、ああっ」

 声が漏れた。身体が痙攣して、膝から力が抜けていく。下腹部から激しい快感が押し寄せてきて、達してしまった。軽く首筋を噛まれただけなのに、下着が白濁の液で濡れてしまう。身体が震えて、立っていられなくなる。

 崩れ落ちそうになった身体を、海斗が支えてくれた。

 腕に力を込めて、僕の身体を抱き上げる。大きな腕が背中と膝の裏に回されて、お姫様抱っこをされる形になった。視界が回転して、天井が見えた。海斗の顔が近くにあり、深い黒瞳が僕を見つめていた。

 寝室へと運ばれていく。
 海斗の体温が心地よくて、抱かれているだけで安心感が広がっていく。
 ベッドにそっと降ろされる。

 柔らかいシーツの感触が背中に伝わる。海斗が僕の上に覆い被さるように乗りかかってきて、両腕で身体を支えている。月明かりが海斗の顔を照らして、影が顔の半分を覆っていた。瞳の色が、いつもより暗く見えた。

「薬を飲まないと」
 か細い声で僕は訴える。海斗の瞳を見上げながら、懇願するように呟いた。

「大丈夫だから」

 海斗が優しく囁いた。顔を近づけてきて、唇が重ねられる。柔らかく、温かいキスだった。思っていたよりも優しい口づけに、目を閉じる。

 キスがだんだんと深くなっていく。
 海斗の舌が唇をなぞり、口を開けるように促してきた。唇を薄く開けると舌が侵入してきて、口内を蹂躙していく。舌が絡み合い、甘い吐息が漏れる。

 甘く蕩けるような濃厚なキスが、何度も繰り返された。

「だめだって」
 キスの合間に、弱々しく抵抗してみる。海斗を拒絶する言葉を口にしながらも、身体は正直だった。

 大好きな海斗に、抗えるはずがない。海斗の匂いに包まれて、海斗の体温を感じて、海斗のキスを受けて、全てが心地よくなっていく。

 海斗の手が、僕の髪を撫でた。

 優しく、慈しむような手つき。額を撫で、頬を撫で、首筋を撫でていく。愛おしいものに触れるような、そんな優しさがあった。キスをしながら、身体を撫でられて、感覚が研ぎ澄まされていく。

 唇が離れて、糸を引く唾液が二人を繋いでいた。海斗が僕の顔を見つめて、微笑んだ。優しい笑顔に目を奪われる。

 また、キスをされる。

 さっきよりも深く、濃厚なキス。舌が絡み合い、唾液が混ざり合っていく。息が苦しくなり、身体が熱くなっていく。下腹部の疼きも激しくなり、もっと欲しいという欲求が湧き上がってきた。

(キスだけじゃ、物足りない)

 もっと触れてほしい。もっと深く繋がりたい。海斗に抱かれたい。身体の奥から、そんな欲求が溢れてくる。理性が奪われていく。

 海斗のキスが止まらない。

 何度も、唇を重ねてくるのに、キスから先に進まない。もっと欲しいのに、もっと触れてほしいのに、海斗は優しくキスをするだけだった。

(我慢できない)

「海ちゃん、抱いて」

 思わず口から、懇願の言葉が零れ落ちた。恥ずかしさも、羞恥心も、何もかも消えていた。ただ、海斗に抱かれたいという欲求だけが、脳と身体を支配している。

 海斗の瞳が見開かれ、熱を帯びた色へと変わっていく。唇が弧を描き、優しく微笑んだ。

「はーちゃんの仰せのままに」
 囁きが、耳朶を撫でた――。
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