1 / 12
プロローグ
婚約破棄をしてください
しおりを挟む
窓から差し込む午後の光が、重厚な木製の家具を照らしている。本棚には古い書物が整然と並び、革の匂いが空気に混じっていた。
エドワールが窓辺に立ち、背中を向けたまま外を眺めていた。深藍混じりの銀髪が、光を受けて淡く輝いている。
私は扉の前に立ち、手を握りしめた。爪が掌に食い込み、痛みが走る。
(婚約を解消していただく)
愛されていない相手の隣に立ち続けることは、私には耐えられない。
エドワールと婚約して十一年。ずっと彼だけを見てきたからわかる。彼は私を愛していない。
「レティシア」
エドワールが振り返り、私を捉える。いつもの無表情で、何を考えているのかわからない。一時は、彼の無表情を勇ましくて格好いいと思っていたときもある。
でも今は、見ていて辛いだけ――。
(私を見ていない)
「エドワール様」
私は深く息を吸い込んだ。喉が渇き、声が震えそうになる。言葉を紡ぐために、唇を噛んだ。
「今日、来たのは婚約を……解消していただきたいと思ったからです」
静寂が降りた。
時計の音だけが、規則正しく部屋に響いている。エドワールは動かず、ただ私を見つめていた。表情が読めない。拒絶されるのか、それとも安堵されるのか。心臓が早鐘を打ち、全身に血液が駆け巡っていくのが分かった。
「……どういうことだ、レティシア」
低い声が響いた。
いつもと違う。感情が、声に含まれていた。驚き、動揺、何か別の感情。私は顔を上げ、エドワールを見た。彼の瞳が揺れている。初めて見る表情だった。
「私では、エドワール様にふさわしくありません。もっと、宮廷に相応しい方が……」
「誰だ」
エドワールが一歩、近づいてきた。足音が床を踏む。静かで、重い音。
「誰のことを言っている」
「ミリエル様が、お似合いかと……」
「ふざけるな」
声が低く沈んだ。エドワールがさらに近づいてくる。距離が縮まり、彼の影が私を覆った。見上げると、エドワールの顔が目の前にあった。真っ直ぐ見つめてくる目が私を捉えて離さない。
「十一年だ」
囁きが耳朶を撫でた。
「君が大人になるのを、どれだけ待ったと思っている」
「え……?」
言葉の意味が分からなかった。
(待った? 何を?)
エドワールの手が私の肩を掴み、押した。背中がソファに沈み込む。柔らかい感触が身体を受け止めてくれる。すぐにエドワールが覆い被さってきて、重い身体が私を押さえつけ、逃げられなくなった。
「エドワール、様……?」
「あの日、触れなかったのは……止まれなくなるからだ」
顔が近い。吐息が頬にかかる。心臓が跳ね上がり、息が詰まった。
「触れたら、君を抱いてしまう。まだ子どもの君を、壊してしまう」
唇が重ねられた。
温かく、柔らかい感触。
(キスをされている!)
頭が真っ白になり、何も考えられなくなっていく。今までの、触れるだけの子どもじみたキスとは違う。
唇が強く押し付けられ、舌が唇をなぞる。口を開けるように促してくる。口を開くと、舌が中へと侵入してきた。舌が絡み合い、甘い吐息が漏れる。
「ん……」
声が漏れた。恥ずかしくて慌てて離れようとするが、エドワールが私の手首を掴み、頭上に押さえつけた。逃げられない。キスが深くなり、息が苦しくなる。
「ずっと、ずっと我慢してきたんだ」
キスが首筋に移動し、鎖骨を舐める。熱い舌が肌を這い、身体が震えた。エドワールの手がドレスの胸元に触れ、布を引き下げる。
胸が晒され、冷たい空気が肌に触れた。鳥肌が立ち、羞恥心が込み上げてくる。
「やぁ……」
自然と声が出た。エドワールの手が柔らかい膨らみを包み込む。大きな手が、胸を覆い尽くす。揉みしだかれ、指先が先端を弾いた。
「あっ」
身体が跳ねた。甘い痺れが全身を駆け巡り、腰が浮く。エドワールの唇が胸の先端へと辿り着き、吸い上げた。舌で転がされ、歯で軽く噛まれる。
「ん、あ……」
鼻にかかったような声が勝手に漏れ出て、止められない。エドワールの手がドレスの裾を捲り上げ、太腿に触れた。ゆっくりと撫でられ、熱が集まっていくのが分かる。内側を撫でられ、息が荒くなった。
「レティシア」
名前を呼ばれ、顔を上げた。エドワールが私を見つめている。銀青色の瞳が、熱を帯びていた。今まで見たことのない、激しい感情が瞳に宿っている。
「君を、抱く」
低い声が宣言した。
心臓が激しく脈打ち、全身が熱くなっていく。エドワールの手が、さらに奥へと進んでいった――。
エドワールが窓辺に立ち、背中を向けたまま外を眺めていた。深藍混じりの銀髪が、光を受けて淡く輝いている。
私は扉の前に立ち、手を握りしめた。爪が掌に食い込み、痛みが走る。
(婚約を解消していただく)
愛されていない相手の隣に立ち続けることは、私には耐えられない。
エドワールと婚約して十一年。ずっと彼だけを見てきたからわかる。彼は私を愛していない。
「レティシア」
エドワールが振り返り、私を捉える。いつもの無表情で、何を考えているのかわからない。一時は、彼の無表情を勇ましくて格好いいと思っていたときもある。
でも今は、見ていて辛いだけ――。
(私を見ていない)
「エドワール様」
私は深く息を吸い込んだ。喉が渇き、声が震えそうになる。言葉を紡ぐために、唇を噛んだ。
「今日、来たのは婚約を……解消していただきたいと思ったからです」
静寂が降りた。
時計の音だけが、規則正しく部屋に響いている。エドワールは動かず、ただ私を見つめていた。表情が読めない。拒絶されるのか、それとも安堵されるのか。心臓が早鐘を打ち、全身に血液が駆け巡っていくのが分かった。
「……どういうことだ、レティシア」
低い声が響いた。
いつもと違う。感情が、声に含まれていた。驚き、動揺、何か別の感情。私は顔を上げ、エドワールを見た。彼の瞳が揺れている。初めて見る表情だった。
「私では、エドワール様にふさわしくありません。もっと、宮廷に相応しい方が……」
「誰だ」
エドワールが一歩、近づいてきた。足音が床を踏む。静かで、重い音。
「誰のことを言っている」
「ミリエル様が、お似合いかと……」
「ふざけるな」
声が低く沈んだ。エドワールがさらに近づいてくる。距離が縮まり、彼の影が私を覆った。見上げると、エドワールの顔が目の前にあった。真っ直ぐ見つめてくる目が私を捉えて離さない。
「十一年だ」
囁きが耳朶を撫でた。
「君が大人になるのを、どれだけ待ったと思っている」
「え……?」
言葉の意味が分からなかった。
(待った? 何を?)
エドワールの手が私の肩を掴み、押した。背中がソファに沈み込む。柔らかい感触が身体を受け止めてくれる。すぐにエドワールが覆い被さってきて、重い身体が私を押さえつけ、逃げられなくなった。
「エドワール、様……?」
「あの日、触れなかったのは……止まれなくなるからだ」
顔が近い。吐息が頬にかかる。心臓が跳ね上がり、息が詰まった。
「触れたら、君を抱いてしまう。まだ子どもの君を、壊してしまう」
唇が重ねられた。
温かく、柔らかい感触。
(キスをされている!)
頭が真っ白になり、何も考えられなくなっていく。今までの、触れるだけの子どもじみたキスとは違う。
唇が強く押し付けられ、舌が唇をなぞる。口を開けるように促してくる。口を開くと、舌が中へと侵入してきた。舌が絡み合い、甘い吐息が漏れる。
「ん……」
声が漏れた。恥ずかしくて慌てて離れようとするが、エドワールが私の手首を掴み、頭上に押さえつけた。逃げられない。キスが深くなり、息が苦しくなる。
「ずっと、ずっと我慢してきたんだ」
キスが首筋に移動し、鎖骨を舐める。熱い舌が肌を這い、身体が震えた。エドワールの手がドレスの胸元に触れ、布を引き下げる。
胸が晒され、冷たい空気が肌に触れた。鳥肌が立ち、羞恥心が込み上げてくる。
「やぁ……」
自然と声が出た。エドワールの手が柔らかい膨らみを包み込む。大きな手が、胸を覆い尽くす。揉みしだかれ、指先が先端を弾いた。
「あっ」
身体が跳ねた。甘い痺れが全身を駆け巡り、腰が浮く。エドワールの唇が胸の先端へと辿り着き、吸い上げた。舌で転がされ、歯で軽く噛まれる。
「ん、あ……」
鼻にかかったような声が勝手に漏れ出て、止められない。エドワールの手がドレスの裾を捲り上げ、太腿に触れた。ゆっくりと撫でられ、熱が集まっていくのが分かる。内側を撫でられ、息が荒くなった。
「レティシア」
名前を呼ばれ、顔を上げた。エドワールが私を見つめている。銀青色の瞳が、熱を帯びていた。今まで見たことのない、激しい感情が瞳に宿っている。
「君を、抱く」
低い声が宣言した。
心臓が激しく脈打ち、全身が熱くなっていく。エドワールの手が、さらに奥へと進んでいった――。
126
あなたにおすすめの小説
私を簡単に捨てられるとでも?―君が望んでも、離さない―
喜雨と悲雨
恋愛
私の名前はミラン。街でしがない薬師をしている。
そして恋人は、王宮騎士団長のルイスだった。
二年前、彼は魔物討伐に向けて遠征に出発。
最初は手紙も返ってきていたのに、
いつからか音信不通に。
あんなにうっとうしいほど構ってきた男が――
なぜ突然、私を無視するの?
不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、
突然ルイスが帰還した。
ボロボロの身体。
そして隣には――見知らぬ女。
勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、
私の中で何かが壊れた。
混乱、絶望、そして……再起。
すがりつく女は、みっともないだけ。
私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。
「私を簡単に捨てられるとでも?
――君が望んでも、離さない」
呪いを自ら解き放ち、
彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。
すれ違い、誤解、呪い、執着、
そして狂おしいほどの愛――
二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。
過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。
冷酷王子と逃げたいのに逃げられなかった婚約者
月下 雪華
恋愛
我が国の第2王子ヴァサン・ジェミレアスは「氷の冷酷王子」と呼ばれている。彼はその渾名の通り誰に対しても無反応で、冷たかった。それは、彼の婚約者であるカトリーヌ・ブローニュにでさえ同じであった。そんな彼の前に現れた常識のない女に心を乱したカトリーヌは婚約者の席から逃げる事を思いつく。だが、それを阻止したのはカトリーヌに何も思っていなさそうなヴァサンで……
誰に対しても冷たい反応を取る王子とそんな彼がずっと好きになれない令嬢の話
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
男装騎士団長は密かに副団長を恋慕う
麻麻(あさあさ)
恋愛
亡命して恋したのは騎士団長の彼でした。
(全4話)
3月4日21時、22時と5日21時、22時
2日に分けて公開。
両片思いの2人が幸せになるまでの短編。
女性執事は公爵に一夜の思い出を希う
石里 唯
恋愛
ある日の深夜、フォンド公爵家で女性でありながら執事を務めるアマリーは、涙を堪えながら10年以上暮らした屋敷から出ていこうとしていた。
けれども、たどり着いた出口には立ち塞がるように佇む人影があった。
それは、アマリーが逃げ出したかった相手、フォンド公爵リチャードその人だった。
本編4話、結婚式編10話です。
私の意地悪な旦那様
柴咲もも
恋愛
わたくし、ヴィルジニア・ヴァレンティーノはこの冬結婚したばかり。旦那様はとても紳士で、初夜には優しく愛してくれました。けれど、プロポーズのときのあの言葉がどうにも気になって仕方がないのです。
――《嗜虐趣味》って、なんですの?
※お嬢様な新妻が性的嗜好に問題ありのイケメン夫に新年早々色々されちゃうお話
※ムーンライトノベルズからの転載です
最強魔術師の歪んだ初恋
黒瀬るい
恋愛
伯爵家の養子であるアリスは親戚のおじさまが大好きだ。
けれどアリスに妹が産まれ、アリスは虐げれるようになる。そのまま成長したアリスは、男爵家のおじさんの元に嫁ぐことになるが、初夜で破瓜の血が流れず……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる