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第五章:新婚
幸せな日常
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侯爵夫人としての生活が始まった。
朝は、エドワールの腕の中で目を覚ます。仕事がどんなに忙しくても、夜は必ず帰ってきてくれた。
外交でしょっちゅう出張だと結婚前は屋敷を開けていたのに、今は全くその気配はない。それにもし出張が入った場合は、これからは私も連れていくからと宣言されている。
離れたくないと言われてしまったら、私も嬉しくてつい「ついていきます」なんて勢いよく答えていた。
朝食も、夕食も、一緒に取る。たまに昼食も――。仕事が詰まってなければ、一度帰宅してくれるのだ。
エドワールは仕事の話をしてくれるようになった。外交機密に関することは口にはしないけれど、仕事場であった面白い話を教えてくれる。
「レティシアの意見を聞きたい」
エドワールがよくそう言って、私の考えを尊重してくれる。
社交界にも、一緒に出席するようになった。エドワールが必ず隣にいてくれる。他の男性がただ挨拶目的で近づいてきても、すぐに腰に手を回してまるで「俺のだ」と言わんばかりに睨みを利かせていた。
その光景を目撃されるたびに、「嫉妬深い夫はすぐに嫌われるわよ」と、ミリエルに嗜められていた。
一時期は二人の関係を勘違いしていた私だったが、ミリエルとは友人になった。お茶会に招かれは、時間も忘れてミリエルと話し込んでしまう。夕方になると、エドワールが迎えにきて帰る――というのが今では通常の流れになっている。
「エドワールったら、レティシアのことばかり話すのよ」
ミリエルが笑いながら言う。
「可愛いって、綺麗だって、愛おしいって。もう、聞いているこっちが恥ずかしいわ」
頬が熱くなる。エドワールは、私のことをそんなふうに話しているのか。
「お恥ずかしいです」
「幸せそうで、良かったわ」
ミリエルが優しく微笑んだ。
「あなたたち、本当にお似合いよ」
(嬉しい)
ミリエルの言葉に、私はにっこりと微笑んだ。
「あの――ミリエル様は秘密の恋をしてるって聞いたのですが」
恐る恐る尋ねると、ミリエルは満面の笑みで「秘密にしているつもりはないのよ」と言い、振り返って背後に立つ男性を愛おしそうに見つめた。
「騎士のリカルドよ」
凛々しい顔つきの青年だった。リカルドは私と視線が合うと、軽く頭を低くして挨拶をする。私も会釈を送る。
「か、格好いいですね」
「惚れちゃ駄目よ?」
「惚れません。私はエドワールが好きですから」
ミリエルと目を合わせて、笑い合った。
「そろそろ嫉妬深いおじさんがお迎えに来る頃じゃないかしら」
冗談めいた言葉でミリエルが言うと、私は窓に視線を送る。外はもう夕闇に包まれ始めている。遠くから馬車の音が聞こえてきて、ミリエルの予想が当たりすぎていて声をあげて笑った。
夜になると、エドワールに抱かれる。毎晩、愛を確かめ合うのが日課だ。優しく、時には激しく。エドワールの溺愛ぶりは、日に日に増していく気がする。
『もっと触れたい』
『もっと君を感じたい』
『君のこと、離したくない』
囁きながら、何度も求めてくる。
とくに今夜は激しかった。帰り際にミリエルに揶揄われたのを、気にしているのだろうか。
『嫉妬深いと、可愛い奥さんに飽きられるわよ』
なんて、ミリエルが楽しそうに弄っていた。
(私、エドワール以外に興味なんてないのに)
ダンスだって、エドワール以外とは踊ったことはない。話しかけられても、素っ気ない態度をとってきたつもりだ。
それでもエドワールが不安に思うらしい。
今夜も激しく抱き合い、ベッドでくっついて眠りにつく。
「エドワール、ミリエル様に言われたこと気にしているの?」
「――気にしないと言えば嘘になる……けど、レティシアが俺を愛してくれてるのは伝わってるよ」
エドワールの甘いキスが降りてきた。
十一年越しの恋は、こうして実を結んだ。七歳で出会い、十八歳で結ばれた。長い間のすれ違いと、深い誤解があった。乗り越えたからこそ、今は素直に愛し合えている。
エドワールの腕の中で、私は幸せを噛みしめた。
(これからも私たちは一緒にいられる)
窓の外では、月が優しく輝いていた――。
了
朝は、エドワールの腕の中で目を覚ます。仕事がどんなに忙しくても、夜は必ず帰ってきてくれた。
外交でしょっちゅう出張だと結婚前は屋敷を開けていたのに、今は全くその気配はない。それにもし出張が入った場合は、これからは私も連れていくからと宣言されている。
離れたくないと言われてしまったら、私も嬉しくてつい「ついていきます」なんて勢いよく答えていた。
朝食も、夕食も、一緒に取る。たまに昼食も――。仕事が詰まってなければ、一度帰宅してくれるのだ。
エドワールは仕事の話をしてくれるようになった。外交機密に関することは口にはしないけれど、仕事場であった面白い話を教えてくれる。
「レティシアの意見を聞きたい」
エドワールがよくそう言って、私の考えを尊重してくれる。
社交界にも、一緒に出席するようになった。エドワールが必ず隣にいてくれる。他の男性がただ挨拶目的で近づいてきても、すぐに腰に手を回してまるで「俺のだ」と言わんばかりに睨みを利かせていた。
その光景を目撃されるたびに、「嫉妬深い夫はすぐに嫌われるわよ」と、ミリエルに嗜められていた。
一時期は二人の関係を勘違いしていた私だったが、ミリエルとは友人になった。お茶会に招かれは、時間も忘れてミリエルと話し込んでしまう。夕方になると、エドワールが迎えにきて帰る――というのが今では通常の流れになっている。
「エドワールったら、レティシアのことばかり話すのよ」
ミリエルが笑いながら言う。
「可愛いって、綺麗だって、愛おしいって。もう、聞いているこっちが恥ずかしいわ」
頬が熱くなる。エドワールは、私のことをそんなふうに話しているのか。
「お恥ずかしいです」
「幸せそうで、良かったわ」
ミリエルが優しく微笑んだ。
「あなたたち、本当にお似合いよ」
(嬉しい)
ミリエルの言葉に、私はにっこりと微笑んだ。
「あの――ミリエル様は秘密の恋をしてるって聞いたのですが」
恐る恐る尋ねると、ミリエルは満面の笑みで「秘密にしているつもりはないのよ」と言い、振り返って背後に立つ男性を愛おしそうに見つめた。
「騎士のリカルドよ」
凛々しい顔つきの青年だった。リカルドは私と視線が合うと、軽く頭を低くして挨拶をする。私も会釈を送る。
「か、格好いいですね」
「惚れちゃ駄目よ?」
「惚れません。私はエドワールが好きですから」
ミリエルと目を合わせて、笑い合った。
「そろそろ嫉妬深いおじさんがお迎えに来る頃じゃないかしら」
冗談めいた言葉でミリエルが言うと、私は窓に視線を送る。外はもう夕闇に包まれ始めている。遠くから馬車の音が聞こえてきて、ミリエルの予想が当たりすぎていて声をあげて笑った。
夜になると、エドワールに抱かれる。毎晩、愛を確かめ合うのが日課だ。優しく、時には激しく。エドワールの溺愛ぶりは、日に日に増していく気がする。
『もっと触れたい』
『もっと君を感じたい』
『君のこと、離したくない』
囁きながら、何度も求めてくる。
とくに今夜は激しかった。帰り際にミリエルに揶揄われたのを、気にしているのだろうか。
『嫉妬深いと、可愛い奥さんに飽きられるわよ』
なんて、ミリエルが楽しそうに弄っていた。
(私、エドワール以外に興味なんてないのに)
ダンスだって、エドワール以外とは踊ったことはない。話しかけられても、素っ気ない態度をとってきたつもりだ。
それでもエドワールが不安に思うらしい。
今夜も激しく抱き合い、ベッドでくっついて眠りにつく。
「エドワール、ミリエル様に言われたこと気にしているの?」
「――気にしないと言えば嘘になる……けど、レティシアが俺を愛してくれてるのは伝わってるよ」
エドワールの甘いキスが降りてきた。
十一年越しの恋は、こうして実を結んだ。七歳で出会い、十八歳で結ばれた。長い間のすれ違いと、深い誤解があった。乗り越えたからこそ、今は素直に愛し合えている。
エドワールの腕の中で、私は幸せを噛みしめた。
(これからも私たちは一緒にいられる)
窓の外では、月が優しく輝いていた――。
了
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