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最初は騙すためだった。軽い気持ちで、ただの詰まらない日々のスパイスみたいな感じだった。友人たちと真面目な教師を、振り回してケラケラ笑いたかった……ただそれだけだったのに。
どんどんと泥沼にハマっていくのが怖かった。足が震えて動けないみたいに……。抱かれるたびに、『好き』という気持ちと、これ以上は近づいてはいけないと歯止めをかける自分がいて……心が引きちぎられそうになってた。
気が付けば、当初の軽い気持ちなんてもうどうでもよくて……どうすればもっと長く一緒に居られるのだろうってそればかり。迷惑かけずに、でも少しでも長く一緒に居たいって。なのに……素直にもなれなくて、強がって……もっと苦しくなってた。
「冬夜と俺の関係はわかったでしょ? 次に知っておくべきなのは……婚約者と言われてる雪ちゃんとの関係だよね? 雪ちゃんと繋がりが強いのは俺かな。最初は俺の婚約者って話だったから。親の顔を立てるために一度は雪ちゃんと向き合おうと努力してみたけど……俺は断った。断る前にすでに冬夜の兄である冬月が身体の関係を持ってたみたい。雪ちゃんと冬月の関係は続いてて……彼女が妊娠をした。冬月には病院の経営のために結婚した妻がいる。だから雪ちゃんを冬夜に押し付けた。で、婚約者ってことに」
「……え? 恋愛……してない、の?」
明夏は東雲のほうに顔を動かした。
「……全くしてない。親族の集まりで彼女の顔を見る程度で、話したことあまりないから」
「東雲一族としては、俺か冬夜か……どちらかの嫁になればいい程度だから。なのに冬月が手を出すとは。ほんとに……あいつは親父の血を引いてるよ。嫌になる……」
「……え?」
明夏の問いかけに、ハッとした南野が慌てて首を振った。
「あーー、これ以上は情報過多で西森の頭が爆発しちゃうだろうから。またの機会に……もしくは、きちんと冬夜の口から説明してもらうといいよ。じゃ、俺はこれで。今夜は家には帰らないから」
「どこに……?」
席を立つ南野に、明夏は顔をあげて口を開く。もしかしてさっきの東雲の言葉を聞いて、気を使っているのだろうか?
「今夜はきちんと冬夜と話をして。俺は仕上げたい作品があるから、知り合いのアトリエに泊まらせてもらうよ。大丈夫、俺の発作を知ってる人だから」
明日、学校で……と言って南野は病院を出ていった。明夏は背中を見送ってから、東雲を見つめる。
「俺の家に泊まりに来て……くれる?」
「……うん」
嬉しそうにはにかんだ東雲が立ち上がると、手を差し伸べてくれる。明夏はその手を握りしめると、腰を持ち上げた。
東雲の車で、彼のアパートに行く。二人で手を繋いで、静かな部屋にあがった。ダイニングを通り越して、すぐに東雲の部屋に入る。シングルのベッドと本棚があるだけのシンプルな部屋だ。本棚には、本だけではなくて、小物置きにもなっていて、びっしりと本が入っているわけじゃない。並んでいる本は、英語のタイトルばかりでなんだか難しそうだった。
(先生って……筋肉バカではなくて……実際はものすごく頭のいい人なのか?)
本棚に並んでいる本を見て、ついそんな考えが通り過ぎていく。南野にも塾に行かなくていいと言えるのは、わからないことは教えられる実力があるということなんじゃないか、と。
「東雲先生って……」
「『冬夜』って呼んで」
「ああ、冬夜って実は……ものすごく頭がいいの?」
「知らない」
「へ?」
「それより……ごめん。具合があまりよくないってわかってるのに」
言いにくそうに言葉を濁しつつ、東雲が下半身を明夏のわき腹にくっつけてきた。硬くなって存在をアピールしている熱を感じると、明夏は耳まで真っ赤になる。
どんどんと泥沼にハマっていくのが怖かった。足が震えて動けないみたいに……。抱かれるたびに、『好き』という気持ちと、これ以上は近づいてはいけないと歯止めをかける自分がいて……心が引きちぎられそうになってた。
気が付けば、当初の軽い気持ちなんてもうどうでもよくて……どうすればもっと長く一緒に居られるのだろうってそればかり。迷惑かけずに、でも少しでも長く一緒に居たいって。なのに……素直にもなれなくて、強がって……もっと苦しくなってた。
「冬夜と俺の関係はわかったでしょ? 次に知っておくべきなのは……婚約者と言われてる雪ちゃんとの関係だよね? 雪ちゃんと繋がりが強いのは俺かな。最初は俺の婚約者って話だったから。親の顔を立てるために一度は雪ちゃんと向き合おうと努力してみたけど……俺は断った。断る前にすでに冬夜の兄である冬月が身体の関係を持ってたみたい。雪ちゃんと冬月の関係は続いてて……彼女が妊娠をした。冬月には病院の経営のために結婚した妻がいる。だから雪ちゃんを冬夜に押し付けた。で、婚約者ってことに」
「……え? 恋愛……してない、の?」
明夏は東雲のほうに顔を動かした。
「……全くしてない。親族の集まりで彼女の顔を見る程度で、話したことあまりないから」
「東雲一族としては、俺か冬夜か……どちらかの嫁になればいい程度だから。なのに冬月が手を出すとは。ほんとに……あいつは親父の血を引いてるよ。嫌になる……」
「……え?」
明夏の問いかけに、ハッとした南野が慌てて首を振った。
「あーー、これ以上は情報過多で西森の頭が爆発しちゃうだろうから。またの機会に……もしくは、きちんと冬夜の口から説明してもらうといいよ。じゃ、俺はこれで。今夜は家には帰らないから」
「どこに……?」
席を立つ南野に、明夏は顔をあげて口を開く。もしかしてさっきの東雲の言葉を聞いて、気を使っているのだろうか?
「今夜はきちんと冬夜と話をして。俺は仕上げたい作品があるから、知り合いのアトリエに泊まらせてもらうよ。大丈夫、俺の発作を知ってる人だから」
明日、学校で……と言って南野は病院を出ていった。明夏は背中を見送ってから、東雲を見つめる。
「俺の家に泊まりに来て……くれる?」
「……うん」
嬉しそうにはにかんだ東雲が立ち上がると、手を差し伸べてくれる。明夏はその手を握りしめると、腰を持ち上げた。
東雲の車で、彼のアパートに行く。二人で手を繋いで、静かな部屋にあがった。ダイニングを通り越して、すぐに東雲の部屋に入る。シングルのベッドと本棚があるだけのシンプルな部屋だ。本棚には、本だけではなくて、小物置きにもなっていて、びっしりと本が入っているわけじゃない。並んでいる本は、英語のタイトルばかりでなんだか難しそうだった。
(先生って……筋肉バカではなくて……実際はものすごく頭のいい人なのか?)
本棚に並んでいる本を見て、ついそんな考えが通り過ぎていく。南野にも塾に行かなくていいと言えるのは、わからないことは教えられる実力があるということなんじゃないか、と。
「東雲先生って……」
「『冬夜』って呼んで」
「ああ、冬夜って実は……ものすごく頭がいいの?」
「知らない」
「へ?」
「それより……ごめん。具合があまりよくないってわかってるのに」
言いにくそうに言葉を濁しつつ、東雲が下半身を明夏のわき腹にくっつけてきた。硬くなって存在をアピールしている熱を感じると、明夏は耳まで真っ赤になる。
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