支配者の刻印〜愛を知らない獣が、借金オメガを溺愛する〜

ひなた翠

文字の大きさ
1 / 17
第一章:運命という名の牢獄

幸福の絶頂

しおりを挟む
 スマホの画面に表示された「合格」の二文字を見つめながら、僕は何度も瞬きを繰り返した。信じられない気持ちと、じわじわと込み上げてくる喜びが胸を満たしていって、思わず声が漏れた。第一志望の国立大学に合格した事実が、まだ夢のように感じられて現実味がない。

 リビングのソファに座ったまま、僕はスマホを握りしめた。画面が揺れて見えるのは、手が震えているからだと気づき、深呼吸をする。冷たい空気が肺を満たし、ゆっくりと吐き出すと少しだけ落ち着いた気がして、もう一度画面を確認した。

(合格してる。見間違いじゃない)

 鼓動が早鐘のように打ち、頬の筋肉が勝手に緩んでいくのがわかる。嬉しさが全身を駆け巡り、涙が溢れそうになって慌てて目元を押さえた。

(そうだ! 篤志に連絡しなくちゃ)

 メッセージアプリを開いて、メッセージを送る。里見篤志は同じクラスのクラスメートであり、高校三年間苦楽を共にし、そして僕の初恋の相手である。

『合格したよ!』

 返信は驚くほど早く届いた。僕の第一志望の大学の合否が今日だと知っていて、待っていてくれたのかもしれない。

 篤志は昨年の十一月には推薦で、私立大学への進学が決まっていた。もう勉強しなくていいのに、僕の受験勉強に親身に付き合ってくれたいい奴だ。

『おめでとう、柊。すごいじゃないか』

 篤志からの祝福の言葉に、胸が熱くなる。通う大学は違うが、四月から同じ大学生になれるのだと思うと嬉しかった。

 さらにメッセージには続きがあると気づいて、僕は視線を下にする。

『実は、ずっと言いたかったことがあるんだ』
 数秒ほどしてから、画面に新しいメッセージが表示されて、僕の目が大きく見開いた。

『柊のことが好きだ。付き合ってほしい』
 篤志からの告白に頭が真っ白になる。

『柊の大学が決まったら、すぐに告白するって決めてた。返事は急がないから』

 ずっと片想いをしていた相手から、まさか告白されるなんて思ってもみなくて、現実感がない。合格の喜びと告白の驚きが一度に押し寄せてきて、呼吸困難になりそうだ。

『僕も篤志が好き。付き合いたい』
 そう返事を返すと、篤志からハートマークのついている嬉しそうなスタンプが送られてきた。

 スマホを胸に抱きしめたまま、僕はソファに倒れ込んだ。

(僕たち――両想いだったんだ)

 天井の白い壁を眺めながら、全身が温かくなっていくのを感じる。大学合格と、初めての恋人。人生でここまで満たされた瞬間があるなんて、想像もしていなかった。


     ◇◇◇


 翌朝、目覚まし時計の音で目が覚めた。いつもより早く目覚めたのは、昨夜の興奮がまだ残っているせいだろう。ベッドから起き上がって伸びをすると、身体が軽くて気分がいい。

 顔を洗って髪を整え、制服に着替えるとキッチンへと向かう。朝食の準備を始めると、程なくして弟が部屋から出てきた。

「おはよう、お兄ちゃん」

 弟の歩が眠そうな顔で現れて、椅子に座る。十歳の弟は小さな身体をしていて、同年代よりも少し身体が小さい。僕と同じオメガだ。

 華奢で儚げな容姿は、父によく似ていた。僕はどちらかと言うと、父よりも産みの親であるアルファの男性に似ていると言われる。

 名前は知らない。会ったこともない。つかず離れずな関係を何度も繰り返し、僕と弟の歩を産んだ。今も連絡を取り合っているのかさえも、わからない。

「おはよう。よく眠れた?」
「うん」

 短く答えて、歩は大きなあくびをした。僕はトーストを焼きながら、フライパンで目玉焼きを作る。歩の分の牛乳をコップに注ぎ、テーブルに運んだ。

「今日は何の授業があるの?」
「算数と国語と、体育」

 歩が眠そうに答えて、牛乳を一口飲む。僕はトーストが焼けたのを確認して、バターを塗ってから歩の皿に乗せた。目玉焼きも添えて、自分の分も用意する。

「体育は好き?」
「まあまあ。でもサッカーは楽しい」

 歩が少し表情を明るくして、トーストを齧った。僕も自分の朝食を食べながら、弟の様子を眺める。父がいない朝は静かで、二人だけの穏やかな時間が流れていった。

 父は夜の仕事をしているから、朝はいつも不在だった。ホストとして働いている父の生活リズムは、僕たちとは真逆で、朝に顔を合わせることはない。僕たちが学校に登校した後に帰宅して、時間が合えば一緒に夕食を食べてから出勤している。

 親子らしい会話や、外出は少ないがそれでも僕たちを育てていくために、一生懸命に働いている父の姿は誇らしい。

「お兄ちゃん、大学受かったんでしょ?」
 歩が突然言って、僕の顔を覗き込んだ。

「うん。受かったよ」
「すごいね」

 歩が口角を上げて、僕も釣られて笑ってしまった。

「ありがとう」
「お父さんに言った?」
「メッセージだけ送ったよ。今日、帰ってきたらちゃんと話すつもり」

 朝食を食べ終えると、歩は歯を磨きに洗面所へ向かった。僕は食器を洗って片付け、歩のランドセルが玄関に置いてあるのを確認する。

 歩が準備を終えて玄関に来ると、僕はランドセルを背負う背中を眺めた。

「行ってきます」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」

 歩が元気よく玄関を出て行くのを見送った。


     ◇◇◇


 高校に着くと、職員室に向かった。久しぶりの登校は、胸を弾ませる。特に今日は、嬉しい報告を担任にしにいくと思うと、足取りも軽くなる。
 先生に声をかけると、書類を睨めっこしていた担任が顔をあげた。

「柚木か。どうした?」
「合格の報告に来ました」

 そう告げると、教員は満面の笑みを浮かべて僕の肩を叩いた。

「おめでとう! 第一志望だったな」
「はい、ありがとうございます」

 他の教員たちも祝福の言葉をかけてくれて、胸の奥が温もりで満たされた。何人かの教員と話をしてから職員室を出ると、教室に向かう。

 三年生は自由登校期間に入っていて、教室は誰もいなかった。静まり返った廊下を歩いていると、自分の足音だけが響いて妙に大きく聞こえた。

 教室の扉を開けると、一人だけ座っている人影が見えて僕は驚いた。窓際の席に座って、こちらに視線を向けている篤志がいて、胸の鼓動が速くなった。

「篤志……」

 名前を呼ぶと、篤志が立ち上がってこちらに歩いてきた。明るい茶髪が朝日に照らされて、優しい茶色の瞳が僕を捉えている。

「合格の報告に来ると思って、待ってたんだ」

 篤志がそう言って微笑み、僕は顔が火照るのを感じた。昨日告白されたことを思い出し、心臓が激しく鳴り出した。

(会えるなんて思ってなかったから……緊張する)

 恋人同士になってから初めて顔を合わせる瞬間に、緊張で手のひらが汗ばんだ。

「ありがとう」

 声が少し上擦ってしまう。篤志が微笑むと、席を立って僕に近づいてきた。吐息がかかるほどの距離に立ち、見上げると篤志の顔がすぐ近くにあった。

(格好いいなあ)

「柊」

 名前を呼ばれて、返事をする前に唇が塞がれた。柔らかくて温かい感触に、目を見開く。篤志が僕にキスをしている。

 生まれて初めてのキスに、頭が真っ白になった。

 ほんの数秒だったと思うが、やけに長く感じられた。篤志が僕の顔を覗き込んで、少し心配そうな表情を浮かべている。

「ごめん。驚いた?」
「う、うん……」

 正直に頷くと、篤志が優しく笑った。

「初めて?」
「……うん」

 耳の奥まで熱くなって、顔全体が燃えているような気がする。篤志が僕の頬に手を添えて、親指で優しく撫でてくれた。

「俺も初めて」

 篤志がそう言って、少し照れたような表情を浮かべる。二人とも初めてのキスで、お互いに緊張していたのだと思うと、少しだけ気持ちが楽になった。

「一緒に帰ろうか」
「うん」

 短く答えて、僕は篤志と並んで教室を出た。廊下を歩きながら、時々篤志の手が僕の手に触れて、その度に電流が走ったような感覚がある。誰もいない廊下で、二人の足音だけが響いていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

オメガの復讐

riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。 しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。 とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

処理中です...