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一線を越える夜
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「先生? どうしたんですか?」
頭を抱えて座っている先生の雰囲気がなんだか、とても怖くて僕は声をかけた。
酷く何かに思いつめたような感じがする。
英先生はハッとした表情をしてから、すぐにいつもの穏やかな顔に戻った。
「明日は学校に行けるか? 行くなら、ワイシャツを洗っておく」
先生がテーブルに手をついて、立ちあがった。
「あ、ああ。行くつもり……だけど」
小暮に会わない一日だといいけど。
「わかった。朝には着られるように洗っておく。それと……いや、何でもない」
先生が何かを言いかけて、口を閉じた。言いにくそうに口元に手をあてて、僕に背を向けた。
「先生?」
「何でもない。ただ、無理して学校に行く必要はないと言いたくて」
「教師が、学校を休んでいいなんて言うなんて。信じられないな」
あはは、と僕は声を出して笑った。
先生は「そうだな」と小さく呟いて、洗面所へと向かった。
学校に行かなくて良いなら、行きたくない。でもここで学校に背を向けてしまったら、もう二度と学校に行く気持ちになれないような気がしてならない。
だから学校には行かなくちゃいけないんだ。どんなに辛いって思っても、僕は学校には行く。そう決めてるんだ。
小暮のアレを咥えるなんて、二度としたくないけど。学校には背を向けたくない。
洗濯機の音がし出すと、先生が戻ってきた。学校では見せることのないラフな格好の先生だ。
Tシャツに短パンで、部屋を歩く姿が格好良く見えるのは、僕の目の錯覚ではないと思う。
小暮なんかとは大違いだ。
スポーツジムにでも通っているのだろうか。鍛え抜かれた身体をしている。
スーツではわからない筋肉美が、Tシャツからは窺える。
マズイ。先生の前で、エロいことを考えるなんて。
僕は頭を振ると、煩悩を追い払った。
先生は冷蔵庫からビールを持ってくると、部屋の窓を少しばかり開けた。
テーブルの上に乗っている煙草とライターを手に取ると、窓際の床にどかっと座った。
煙草に火をつけると、煙を窓へと吐きだす。
「伊坂。平気か?」
「は? 何が!?」
「傷だ」
「ああ。これ? そのうち治るよ」
「違う。心の傷だ」
プシュっと先生が缶ビールのプルドックを開けた。
「……それは……そのうちってことで」
「俺は耐えられなかった」
「先生?」
英先生が、窓に目をやったまま、煙草を灰皿において、ビールを飲んだ。
「教師だから、平常を保とうと努力した……が、耐えられなかった。責任をとって辞めたって響きは、格好良く言えるが、実際は逃げ出したようなもんだ。自分が受け持っていたクラスを最後まで見届けられなかったのが、今さらだが悔しく思う。でもあの時は、あの現状に耐えられなかった」
「……先生……」
英先生が、まだ大して吸ってもない煙草の火を、灰皿に押し付けて消した。
最後の煙を口から吐きだすと、先生は静かに窓を閉めた。
「伊坂が言っていた通り、教師はイメージが大事だ。それが崩れたときの生徒と保護者からの冷たい視線ほどキツいものは無い」
「先生はその生徒を愛してたの?」
先生は首を振った。
「どの生徒も平等に扱っていた。特別視をした子は一人もいなかった……はずなんだが」
「え? それじゃあ。僕が聞いた先生の話って嘘、なの?」
「嘘じゃない。ただそういう噂が流れて、俺は前の学校を辞めた。事実は、違う。俺は誰も手を出してない。信じるかどうかは、伊坂次第だ」
「信じるよ。僕は先生を信じる。僕は先生に何度も助けてもらってるから」
先生はビールを持って立ちあがると、ベッドに移動した。
「伊坂も、心に傷を負ってる。立ち直るまでには、辛い日々もあるだろう。だからって無理はするな」
先生はビールをテーブルに置くと、足を広げてベッドに腰を下ろした。
「先生」と僕は、振り返る。
「ん? なんだ」
「今、無性にキスしたい」
「駄目だ」
「でも……したいんだ。キスがしたい。先生とキスをしたい」
僕は膝をつくと、先生の唇に向かって身体を寄せた。
頭を抱えて座っている先生の雰囲気がなんだか、とても怖くて僕は声をかけた。
酷く何かに思いつめたような感じがする。
英先生はハッとした表情をしてから、すぐにいつもの穏やかな顔に戻った。
「明日は学校に行けるか? 行くなら、ワイシャツを洗っておく」
先生がテーブルに手をついて、立ちあがった。
「あ、ああ。行くつもり……だけど」
小暮に会わない一日だといいけど。
「わかった。朝には着られるように洗っておく。それと……いや、何でもない」
先生が何かを言いかけて、口を閉じた。言いにくそうに口元に手をあてて、僕に背を向けた。
「先生?」
「何でもない。ただ、無理して学校に行く必要はないと言いたくて」
「教師が、学校を休んでいいなんて言うなんて。信じられないな」
あはは、と僕は声を出して笑った。
先生は「そうだな」と小さく呟いて、洗面所へと向かった。
学校に行かなくて良いなら、行きたくない。でもここで学校に背を向けてしまったら、もう二度と学校に行く気持ちになれないような気がしてならない。
だから学校には行かなくちゃいけないんだ。どんなに辛いって思っても、僕は学校には行く。そう決めてるんだ。
小暮のアレを咥えるなんて、二度としたくないけど。学校には背を向けたくない。
洗濯機の音がし出すと、先生が戻ってきた。学校では見せることのないラフな格好の先生だ。
Tシャツに短パンで、部屋を歩く姿が格好良く見えるのは、僕の目の錯覚ではないと思う。
小暮なんかとは大違いだ。
スポーツジムにでも通っているのだろうか。鍛え抜かれた身体をしている。
スーツではわからない筋肉美が、Tシャツからは窺える。
マズイ。先生の前で、エロいことを考えるなんて。
僕は頭を振ると、煩悩を追い払った。
先生は冷蔵庫からビールを持ってくると、部屋の窓を少しばかり開けた。
テーブルの上に乗っている煙草とライターを手に取ると、窓際の床にどかっと座った。
煙草に火をつけると、煙を窓へと吐きだす。
「伊坂。平気か?」
「は? 何が!?」
「傷だ」
「ああ。これ? そのうち治るよ」
「違う。心の傷だ」
プシュっと先生が缶ビールのプルドックを開けた。
「……それは……そのうちってことで」
「俺は耐えられなかった」
「先生?」
英先生が、窓に目をやったまま、煙草を灰皿において、ビールを飲んだ。
「教師だから、平常を保とうと努力した……が、耐えられなかった。責任をとって辞めたって響きは、格好良く言えるが、実際は逃げ出したようなもんだ。自分が受け持っていたクラスを最後まで見届けられなかったのが、今さらだが悔しく思う。でもあの時は、あの現状に耐えられなかった」
「……先生……」
英先生が、まだ大して吸ってもない煙草の火を、灰皿に押し付けて消した。
最後の煙を口から吐きだすと、先生は静かに窓を閉めた。
「伊坂が言っていた通り、教師はイメージが大事だ。それが崩れたときの生徒と保護者からの冷たい視線ほどキツいものは無い」
「先生はその生徒を愛してたの?」
先生は首を振った。
「どの生徒も平等に扱っていた。特別視をした子は一人もいなかった……はずなんだが」
「え? それじゃあ。僕が聞いた先生の話って嘘、なの?」
「嘘じゃない。ただそういう噂が流れて、俺は前の学校を辞めた。事実は、違う。俺は誰も手を出してない。信じるかどうかは、伊坂次第だ」
「信じるよ。僕は先生を信じる。僕は先生に何度も助けてもらってるから」
先生はビールを持って立ちあがると、ベッドに移動した。
「伊坂も、心に傷を負ってる。立ち直るまでには、辛い日々もあるだろう。だからって無理はするな」
先生はビールをテーブルに置くと、足を広げてベッドに腰を下ろした。
「先生」と僕は、振り返る。
「ん? なんだ」
「今、無性にキスしたい」
「駄目だ」
「でも……したいんだ。キスがしたい。先生とキスをしたい」
僕は膝をつくと、先生の唇に向かって身体を寄せた。
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