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第11話:敵を知り、己を知れば百戦危うからず(ただし金はかかる)
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「……で、どうすんのよ、社長。あのインテリ眼鏡、絶対また来るわよ」
その日の営業終了後。私たちはスタッフルームで緊急会議を開いていた。 今日の売り上げ(約三十万円)を前にしても、空気は重い。
「あ、あの目……完全に僕を詐欺師だと思ってましたよぉ……」
善さんが頭を抱えてガクブル震えている。まあ、実際詐欺師みたいなもんだけどね。
「チッ、だから私が一発KOして記憶を飛ばしてやれば良かったんだ」
リオが物騒なことを言いながら、プロテインをシェイクしている。
「おやめ。医者に怪我させたら、それこそ警察沙汰だよ」
私はパイプ椅子に座り、腕組みをして唸った。 鏡恭介。K大学病院の外科医。 厄介な敵が現れたもんだ。権藤会長やマダムたちのような「金持ちの一般人」なら、結果さえ出せば喜んで金を払う。 だが、奴は違う。「専門家」だ。自分の知識体系にないものを許せない、頭の固い種族だ。
もし奴が、この店の「非科学的な実態」を暴き、学会やマスコミに発表でもしたら? 店は潰れ、私は「インチキ霊感商法の片棒を担ぐ中学生」として補導され、最悪の場合、その特異な能力を国や裏社会に目をつけられる。
(……それだけは絶対に避けなきゃならない。私の平穏で裕福な老後がかかってるんだ)
逃げるが勝ち、という言葉もある。店を畳んで、また別の場所でやり直すか? いや、ダメだ。せっかく掴んだ太客たちを手放すのは惜しすぎる。それに、逃げたら余計に怪しまれて、執拗に追ってくるかもしれない。
「……戦うしかないね」
私は結論を下した。
「戦うって、どうやってですか!? 裁判とかになったら勝ち目ないですよ!?」
「馬鹿、法廷闘争なんてする金も時間もないよ。搦手(からめて)を使うのさ」
私はニヤリと笑った。八十八年の人生で学んだ、トラブル解決の鉄則。
「敵を知り、己を知れば百戦危うからず。まずは情報収集だ」
私はビシッとリオを指差した。
「リオ。あんた、明日一日、あの医者を尾行しな」
「……はあ? なんで私が。私はガードマンであって探偵じゃないんだけど」
「特別手当を出すよ。日当三万円。どうだい?」
「……喜んで」
現金な女だ。即答だよ。
「善さん、あんたは明日は臨時休業の看板を出して、大人しくしてな。絶対にボロを出すんじゃないよ」
「は、はい! 家で布団かぶって震えてます!」
「さて、リオ。尾行となれば、あんたのその目立つ赤髪と筋肉は邪魔だね」
私は立ち上がり、リオの前に立った。
「仕事用の『装備』を授けてやるよ」
私は意識を集中した。使うのは、異世界でスパイ活動をする際によく使っていた補助魔法だ。
(――【気配遮断(ステルス)】、――【認識阻害(カモフラージュ)】、おまけに――【聴覚超強化(ラビット・イヤー)】!)
私の手から、灰色がかった魔力の霧が放出され、リオの体を包み込んだ。
「……うわっ、何これ。気持ち悪っ」
リオが自分の体を見下ろした。見た目は変わっていない。だが、彼女の存在感が、まるで空気のように希薄になっていた。目の前にいるのに、意識を向けないとそこにいることを忘れてしまいそうな、不思議な感覚だ。
「これで、あんたは誰の記憶にも残らない『通行人A』になれる。ついでに地獄耳にしておいたから、遠くの会話もバッチリ聞こえるはずだよ」
「へえ、便利なもんだな。……で、何を探ってくりゃいいんだ?」
「全部だよ。奴の行動パターン、交友関係、趣味嗜好。そして何より――『弱点』だ」
どんな人間にも、必ず付け入る隙がある。 金か、女か、名誉欲か、あるいは――誰にも言えない秘密か。
「あの鉄仮面みたいな男が、何を抱えているのか。丸裸にしてきな」
「了解。……フフ、面白くなってきたじゃん」
リオがニヤリと笑い、そのまま音もなくスタッフルームを出て行った。 【気配遮断】の効果は抜群だ。ドアが開閉する音がしたのに、誰も出て行かなかったような錯覚に陥るほどだ。
残された私と善さん。
「しゃ、社長……大丈夫でしょうか……」
「心配ないよ。リオはプロだ。それに、私の魔法がかかってる」
私は窓の外の夜景を見下ろした。 ネオンサインが輝く街並み。この光の下で、どれだけの欲望が渦巻いていることか。
(さあて、鏡先生。あんたの化けの皮、剥がさせてもらうよ)
私は空き缶の中の札束を、愛おしそうに撫でた。 この金を守るためなら、私は何だってする。八十八歳のババアを敵に回したことを、後悔させてやるからね。
その日の営業終了後。私たちはスタッフルームで緊急会議を開いていた。 今日の売り上げ(約三十万円)を前にしても、空気は重い。
「あ、あの目……完全に僕を詐欺師だと思ってましたよぉ……」
善さんが頭を抱えてガクブル震えている。まあ、実際詐欺師みたいなもんだけどね。
「チッ、だから私が一発KOして記憶を飛ばしてやれば良かったんだ」
リオが物騒なことを言いながら、プロテインをシェイクしている。
「おやめ。医者に怪我させたら、それこそ警察沙汰だよ」
私はパイプ椅子に座り、腕組みをして唸った。 鏡恭介。K大学病院の外科医。 厄介な敵が現れたもんだ。権藤会長やマダムたちのような「金持ちの一般人」なら、結果さえ出せば喜んで金を払う。 だが、奴は違う。「専門家」だ。自分の知識体系にないものを許せない、頭の固い種族だ。
もし奴が、この店の「非科学的な実態」を暴き、学会やマスコミに発表でもしたら? 店は潰れ、私は「インチキ霊感商法の片棒を担ぐ中学生」として補導され、最悪の場合、その特異な能力を国や裏社会に目をつけられる。
(……それだけは絶対に避けなきゃならない。私の平穏で裕福な老後がかかってるんだ)
逃げるが勝ち、という言葉もある。店を畳んで、また別の場所でやり直すか? いや、ダメだ。せっかく掴んだ太客たちを手放すのは惜しすぎる。それに、逃げたら余計に怪しまれて、執拗に追ってくるかもしれない。
「……戦うしかないね」
私は結論を下した。
「戦うって、どうやってですか!? 裁判とかになったら勝ち目ないですよ!?」
「馬鹿、法廷闘争なんてする金も時間もないよ。搦手(からめて)を使うのさ」
私はニヤリと笑った。八十八年の人生で学んだ、トラブル解決の鉄則。
「敵を知り、己を知れば百戦危うからず。まずは情報収集だ」
私はビシッとリオを指差した。
「リオ。あんた、明日一日、あの医者を尾行しな」
「……はあ? なんで私が。私はガードマンであって探偵じゃないんだけど」
「特別手当を出すよ。日当三万円。どうだい?」
「……喜んで」
現金な女だ。即答だよ。
「善さん、あんたは明日は臨時休業の看板を出して、大人しくしてな。絶対にボロを出すんじゃないよ」
「は、はい! 家で布団かぶって震えてます!」
「さて、リオ。尾行となれば、あんたのその目立つ赤髪と筋肉は邪魔だね」
私は立ち上がり、リオの前に立った。
「仕事用の『装備』を授けてやるよ」
私は意識を集中した。使うのは、異世界でスパイ活動をする際によく使っていた補助魔法だ。
(――【気配遮断(ステルス)】、――【認識阻害(カモフラージュ)】、おまけに――【聴覚超強化(ラビット・イヤー)】!)
私の手から、灰色がかった魔力の霧が放出され、リオの体を包み込んだ。
「……うわっ、何これ。気持ち悪っ」
リオが自分の体を見下ろした。見た目は変わっていない。だが、彼女の存在感が、まるで空気のように希薄になっていた。目の前にいるのに、意識を向けないとそこにいることを忘れてしまいそうな、不思議な感覚だ。
「これで、あんたは誰の記憶にも残らない『通行人A』になれる。ついでに地獄耳にしておいたから、遠くの会話もバッチリ聞こえるはずだよ」
「へえ、便利なもんだな。……で、何を探ってくりゃいいんだ?」
「全部だよ。奴の行動パターン、交友関係、趣味嗜好。そして何より――『弱点』だ」
どんな人間にも、必ず付け入る隙がある。 金か、女か、名誉欲か、あるいは――誰にも言えない秘密か。
「あの鉄仮面みたいな男が、何を抱えているのか。丸裸にしてきな」
「了解。……フフ、面白くなってきたじゃん」
リオがニヤリと笑い、そのまま音もなくスタッフルームを出て行った。 【気配遮断】の効果は抜群だ。ドアが開閉する音がしたのに、誰も出て行かなかったような錯覚に陥るほどだ。
残された私と善さん。
「しゃ、社長……大丈夫でしょうか……」
「心配ないよ。リオはプロだ。それに、私の魔法がかかってる」
私は窓の外の夜景を見下ろした。 ネオンサインが輝く街並み。この光の下で、どれだけの欲望が渦巻いていることか。
(さあて、鏡先生。あんたの化けの皮、剥がさせてもらうよ)
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