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第3章 仲間ではいられない(3日目)

3ー8 友達

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「俺が何で怒っているかわかっているか?」
「友達を傷付けたから」
「ああ」
 言うとアッバースも白い壁を見る。
「あいつはわからねえんだ」
 意外な台詞だった。
「あいつの家にはうちの店より広い部屋しかない」
 三人組が互いの家へ遊びに行っているのは知っている。
「君の家のお店ってJOYより大きい?」
 寮生ご用達の雑貨屋の名を挙げる。
「もう少し狭いが奥行はある」
 ならば商店街で典型的な柱間一軒の店だろう。

「家はここの広間のある棟よりも広くてメイドは複数いるみたいだ」
「……」
「おばさん、スティーブンのお母さんは責任の重い仕事をしていて、忙しい時は家中ピリピリしていると思う。そうなってやっと台所に入るんだ、あいつは」
「……」
「俺は台所に入るぞ」
 アッバースは小さく笑った。
「母ちゃんが店への階段で転んで骨折った時とか父ちゃんと遠くに仕入れに行ってる時とかは伯母さんが来てくれるんだけど、都合がつかない時は俺が料理する。一番兄ちゃんだからな」
 下に三人弟がいるという。
「俺は気にしねえんだけど、料理してるっていうと母ちゃんも伯母さんも泣くんだよ。申し訳ないって。キツいだろ? だから普段は台所には入らない」

 自分はわかっていなかった。
 「家」には「家」の事情がある。
 大きな「施設」の「ルール」しか知らない自分には映画や本など外から覚えるしかない概念だ。「家族」や「お母さん」と同じで山ほど外から情報を入力して、やっと薄ぼんやりのイメージとなる。それすら中から把握している人からすれば決定的に間違っているのだろう。
 うなだれる自分にアッバースは続けた。
「あいつは真っ直ぐな奴だ。いつかは気付くだろうしその時には奴らしい解決をすると信じてた」
「…………ごめん」
「謝るのは俺にじゃない」
「うん」

 少しの沈黙の後に口を開いた。
「……さっきも話したけど、スティーブンは施設育ちでみなしごの俺にも最初から全く分けへだてがなかった」
 そういえば。
「後は君だけだったな」
「小学校の時、施設に行ったダチがいたんだ」
 親を事故で亡くした友人が、
「お前みたいに元気にしてたらいいなあ、って思った」
「うん」
「あいつがわからないように、多分俺もお前の背負っているものはわかっていない」
 首を横に振る。たいしたことじゃない。守る翼はごく小さく寄る辺なく、しばしば下に見られるだけだ。経験がなくても想像出来るイメージでおそらく違わない。
 それが深く深く、重いという以外は。


「あいつの中で整理がついたら向こうから寄ってくるだろう。それまでは近づかないでやってくれ!」
 言い置いてアッバースはルチアーノの側から離れた。
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