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第3章 仲間ではいられない(3日目)

3ー9 隠る

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 ひとりになりたい。
 言ってナラヤンやアッバースから離れた。
 それは本音だったが姿を隠すのにも都合が良かった。

 人が寄らない火葬室の前でスティーブンは思考する。
 この中に非業の死を遂げた友人たちを送るのを自分は手伝わなかった。
 穢れには触らない。浄くあるべしというのはクリスチャンでもムスリムでもヒンドゥーでもどの宗教でも同じだろう。
 では何故アッバースやナラヤンならやってもいいと任せていたのか。ラジューは忙しく働きルチアーノが手伝っていたのも自分は見ている。
 彼らとは「違う」から。
 使用人は「違う」から。
 それは何故だ? 「違う」側がどう思うかお前は考えていたか。
 全ての民を等しく愛してくださる神はそれを許したもうか?
 我らの神は怒り、裁く。

 共和国憲法は差別を禁ずる。
 それでも指定カーストや部族へ今も残る社会の仕打ちは合理性も思いやりもないと怒りを覚えていた。
『どの面してー』
 ルチアーノの糾弾は胸を貫いたままだ。

 振り子時計の下を過ぎ広間を横断して火葬室とは反対の隅へ足を向ける。洗濯機の並ぶ前で会ったラジューに、2階シャワーに何か詰まっているようなので手が空いたら見てくれと伝える。
 乾燥機から出した衣類を畳む手を止めてすぐ確認に行くだろうとはわかっていた。使用人とはそういうものだ。
(………)
 その背に話しかける。
「ラジュー。お前に……君に僕が失礼なことをしていたなら謝る」
「いえ、そんなことはありません。とんでもないです」
 合掌してそそくさと去る彼にまた痛みを覚える。
 シャワーに細工をしたのは自分だ。すぐに直せるだろう。

 彼が去り辺りに人がいないのを見計らって突き当たりの柱の陰に入る。他の人に見られるなとは切り札の指示でもあった。
 足元に出ている突起を下からつま先で蹴り上げる。反応がない。二度目は力を入れて蹴るとぱかりと反応があり、壁にかかっていた何の変哲もない森の写真を貼ったプレートの四隅が赤く光る。もう一度四方を注意してから自分のキーをかざし、ランプが緑になれば壁はすっと左に滑り開く。暗い通路に入りすぐさまドアを閉める。これも指示通りだ。
 暗闇の中で右手で壁を探る。
『肩から頭あたりの高さにスイッチがあります。それをあげて照明を点けてからは好きなように行動して結構です』
 明かりが点き、
(ほお)
 スティーブンは狭い通路に目を凝らした。

 彼の切り札は
「三日目の十七時以降、隠し部屋に入る権利」
 だった。
 動揺した今の自分にはいい助けになる。
 通路を進むとすぐ左手に窓があった。
(ここは洗濯機横の鏡だ)
 マジックミラーで外の様子が窺える。
 黄色い壁の横を進むと大きな階段に出た。
 初日に外へ出たサントーシュから話を聞き二階への道を探していたが見つからなかった。ここにあったのか、と飴色の手すりに触れつつ上へ向かう。

 小窓が全て塞がれた二階は右手に男女のトイレ、左手には部屋が二つあった。奥のドアは開いていたのでそちらから回る。
 中は薄緑のカーペット敷きで映画の重役会議で出てきそうなテーブルと椅子の部屋だった。
 手前の部屋のドア横にはいつものキープレートがある。解除して部屋に入り真っ先に目が止まったのは右奥に重ねられた白い板だった。会議室で使われているものと同じか、と中へ進みかけた時、左で何か動いた。
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