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1 始まりは婚約破棄から
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「孤児の癖に筆頭聖女を名乗るとは何様のつもりだ?
お前のような女は、王太子であるこの僕の婚約者として相応しくないっっ!」
シャンデリアが眩しく輝く夜会の会場に不似合いな怒声が響き渡る。
周囲にいた貴族達はピタリとお喋りをやめて、一斉にこちらに注目した。
「筆頭聖女を自ら名乗った事は一度もありませんが……」
コテンと首を傾げると、目の前の男は益々怒気を強めた。
「そんな事はどうでも良い!!」
シンと静まり返った空気の中で響く彼の声は、とても耳障りだ。
私は不快感に目を細めた。
「……はぁ、そうですか」
(アンタが『名乗った』って言ったんだろうが!)
気のない返事を返した私を憎々し気に睨むのは、この国の王太子であるアルフォンス殿下。
彼は聖女である私、ミシェル・シャヴァリエの婚約者だ。
多分、……今の所は、まだ。
そして、その王太子の腕に豊かな胸を押しつける様に、ピッタリと寄り添って……いや、しな垂れ掛かっている、見目だけは美しい女は、ステファニー・レスタンクール公爵令嬢。
彼女も聖女ではあるが、残念ながらあまり実力が高いとは言えない。
この国では、光属性の魔力を持つと判明した者は皆、聖女として認定される。
とは言え光属性を持つ者は非常に少なく、聖女の人数は現在十三人。
私もステファニー嬢も、その中の一人である。
「大体、お前のその格好は何だ!?
痩せ細って、髪や肌の手入れもろくにしていない。
いくら元孤児とは言え、見窄らしいにも程があるぞ。
王太子の婚約者ならば、もっと身なりにも気を使うべきであろう」
「まあ、そうかもしれませんねぇ」
「その上、筆頭聖女と言う肩書きに胡座をかいたお前は、聖女としての大切な勤めを日常的にサボり、他の聖女達に自分の仕事を押し付けていると言うでは無いかっっ!!
そのせいで、一部の結界が脆くなっていると聞く。お前はその責任を取らねばならない」
「は? そのお話、どなたから伺ったのですか?」
流石にイラッとした私は、アルフォンス殿下を問い質した。
「ここにいる、ステファニーだ!
真面目な彼女は、お前の横暴な振る舞いに心を痛めて、僕に相談してくれたのだっっ!!」
「……」
私はステファニーの口元に一瞬だけ浮かんだ底意地の悪い笑みを見逃さなかった。
あまりの馬鹿馬鹿しさに、言葉を失う。
ここ半年程、私に対する事実無根の不穏な噂が社交界で囁かれていたみたいだが、発信源はどうやらステファニーだったらしい。
否定して真実を伝えた所で、ステファニーの胸の谷間をチラチラ見ながら鼻の下を伸ばしている馬鹿王太子は、きっと聞く耳など持たないのだろう。
……と言うか、その馬鹿王太子も、ステファニーに騙されているだけなのか、或いは真実を理解した上で自発的にデマを広めているのか、今の状況では判断がつかない。
どちらにしても、二人共私の敵である事に変わりは無いが。
「どうした? 少しは反省したのか?
謝罪をするなら、ちょっとくらいは罪を軽くしてやらない事も無いぞ」
「いえ結構。……それで?
アルフォンス殿下は、結局何を仰りたいのですか?」
サッサと会話を終わらせたかった私は、慈悲深い(?)王太子の提案を喰い気味に否定して、早く要点を話せと促す。
すると王太子は勝ち誇った様な顔で、私を睨み据えた。
そのドヤ顔が、なんとも鼻につくんだよなぁ。
「ミシェル・シャヴァリエ!!
僕はお前との婚約を破棄し、同時にお前の聖女の任を解く!
そして、新しく筆頭聖女となるステファニーを婚約者とする事を、ここに宣言するっっ!!」
「えっ? ……それは……、本当ですか?」
震える声で問う私を見て、アルフォンス殿下とステファニーは満足そうに微笑んだ。
「ミシェル、可哀想だけど、全ては貴女自身の行いのせいなのよ。
アルフォンス殿下の事は、今後はわたくしがしっかり支えて行きますから、どうか諦めてちょうだい」
ステファニーは慈愛に満ちた表情で私を説得してくるが、その声は弾んでいて、喜びを隠しきれていない。
「そうだぞ、ミシェル。どんなに泣いて縋っても、僕の決意は変わらな、」
「いや、マジかっっ!? じゃあ、私はもう自由なんですね!!」
「えっ? ああ、うん、そうだな……」
「ぃやったーーーーっっ!!!!
ありがとうございます、アルフォンス殿下。
私、今初めて、貴方の事をほんの少しだけ好きになりました。
ホント、ちょびっとだけですけど」
「「はっっ?」」
ああ、こうしちゃいられない。早く王宮を出て逃げなくっちゃね。
「では、私は急ぎますので、お先に失礼致しますね。
あぁ、そうでした。お二人共、ご婚約おめでとうございます!
末永~~~く、お幸せにっ!!」
(きっと無理だと思うけどっ)
私がいなくなったとしても、ステファニーには筆頭聖女になれる程の力は無いしね。
ポカンとした間抜けヅラで固まる二人に背を向けて、重いドレスの裾をたくし上げる。
そして私は、スキップしたくなるくらいに軽やかな気持ちで、煌びやかな会場を出て行った。
お前のような女は、王太子であるこの僕の婚約者として相応しくないっっ!」
シャンデリアが眩しく輝く夜会の会場に不似合いな怒声が響き渡る。
周囲にいた貴族達はピタリとお喋りをやめて、一斉にこちらに注目した。
「筆頭聖女を自ら名乗った事は一度もありませんが……」
コテンと首を傾げると、目の前の男は益々怒気を強めた。
「そんな事はどうでも良い!!」
シンと静まり返った空気の中で響く彼の声は、とても耳障りだ。
私は不快感に目を細めた。
「……はぁ、そうですか」
(アンタが『名乗った』って言ったんだろうが!)
気のない返事を返した私を憎々し気に睨むのは、この国の王太子であるアルフォンス殿下。
彼は聖女である私、ミシェル・シャヴァリエの婚約者だ。
多分、……今の所は、まだ。
そして、その王太子の腕に豊かな胸を押しつける様に、ピッタリと寄り添って……いや、しな垂れ掛かっている、見目だけは美しい女は、ステファニー・レスタンクール公爵令嬢。
彼女も聖女ではあるが、残念ながらあまり実力が高いとは言えない。
この国では、光属性の魔力を持つと判明した者は皆、聖女として認定される。
とは言え光属性を持つ者は非常に少なく、聖女の人数は現在十三人。
私もステファニー嬢も、その中の一人である。
「大体、お前のその格好は何だ!?
痩せ細って、髪や肌の手入れもろくにしていない。
いくら元孤児とは言え、見窄らしいにも程があるぞ。
王太子の婚約者ならば、もっと身なりにも気を使うべきであろう」
「まあ、そうかもしれませんねぇ」
「その上、筆頭聖女と言う肩書きに胡座をかいたお前は、聖女としての大切な勤めを日常的にサボり、他の聖女達に自分の仕事を押し付けていると言うでは無いかっっ!!
そのせいで、一部の結界が脆くなっていると聞く。お前はその責任を取らねばならない」
「は? そのお話、どなたから伺ったのですか?」
流石にイラッとした私は、アルフォンス殿下を問い質した。
「ここにいる、ステファニーだ!
真面目な彼女は、お前の横暴な振る舞いに心を痛めて、僕に相談してくれたのだっっ!!」
「……」
私はステファニーの口元に一瞬だけ浮かんだ底意地の悪い笑みを見逃さなかった。
あまりの馬鹿馬鹿しさに、言葉を失う。
ここ半年程、私に対する事実無根の不穏な噂が社交界で囁かれていたみたいだが、発信源はどうやらステファニーだったらしい。
否定して真実を伝えた所で、ステファニーの胸の谷間をチラチラ見ながら鼻の下を伸ばしている馬鹿王太子は、きっと聞く耳など持たないのだろう。
……と言うか、その馬鹿王太子も、ステファニーに騙されているだけなのか、或いは真実を理解した上で自発的にデマを広めているのか、今の状況では判断がつかない。
どちらにしても、二人共私の敵である事に変わりは無いが。
「どうした? 少しは反省したのか?
謝罪をするなら、ちょっとくらいは罪を軽くしてやらない事も無いぞ」
「いえ結構。……それで?
アルフォンス殿下は、結局何を仰りたいのですか?」
サッサと会話を終わらせたかった私は、慈悲深い(?)王太子の提案を喰い気味に否定して、早く要点を話せと促す。
すると王太子は勝ち誇った様な顔で、私を睨み据えた。
そのドヤ顔が、なんとも鼻につくんだよなぁ。
「ミシェル・シャヴァリエ!!
僕はお前との婚約を破棄し、同時にお前の聖女の任を解く!
そして、新しく筆頭聖女となるステファニーを婚約者とする事を、ここに宣言するっっ!!」
「えっ? ……それは……、本当ですか?」
震える声で問う私を見て、アルフォンス殿下とステファニーは満足そうに微笑んだ。
「ミシェル、可哀想だけど、全ては貴女自身の行いのせいなのよ。
アルフォンス殿下の事は、今後はわたくしがしっかり支えて行きますから、どうか諦めてちょうだい」
ステファニーは慈愛に満ちた表情で私を説得してくるが、その声は弾んでいて、喜びを隠しきれていない。
「そうだぞ、ミシェル。どんなに泣いて縋っても、僕の決意は変わらな、」
「いや、マジかっっ!? じゃあ、私はもう自由なんですね!!」
「えっ? ああ、うん、そうだな……」
「ぃやったーーーーっっ!!!!
ありがとうございます、アルフォンス殿下。
私、今初めて、貴方の事をほんの少しだけ好きになりました。
ホント、ちょびっとだけですけど」
「「はっっ?」」
ああ、こうしちゃいられない。早く王宮を出て逃げなくっちゃね。
「では、私は急ぎますので、お先に失礼致しますね。
あぁ、そうでした。お二人共、ご婚約おめでとうございます!
末永~~~く、お幸せにっ!!」
(きっと無理だと思うけどっ)
私がいなくなったとしても、ステファニーには筆頭聖女になれる程の力は無いしね。
ポカンとした間抜けヅラで固まる二人に背を向けて、重いドレスの裾をたくし上げる。
そして私は、スキップしたくなるくらいに軽やかな気持ちで、煌びやかな会場を出て行った。
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