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45 傷付けない距離感
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数日後、薬草の収穫の目処が立ったので、私達は本格的に実験の協力者を探し始めた。
と、言っても、協力者候補の選定から、交渉の為のアポイントメントを取るところまで、全て旦那様がやってくれて、私は要所要所で『この方向で進めて良いか?』と確認されただけだった。
「こんなに任せっきりで良いのかしら?」
なんだか申し訳ない気がして、フィルマンに相談してみた。
「良いと思いますよ。旦那様も楽しそうに色々お調べになっていた様ですし」
よく分からないが、楽しそうならば良いか。
私はありがたく助力を賜る事にした。
協力者候補の皆様に、交渉に行く前夜。
グレースやチェルシーと、ああでも無いこうでも無いと議論しながら、最適な服装を選んだ。
こういう場合のファッションは、夜会のドレスを選ぶよりも寧ろ難しい。
豪華だったり派手過ぎたりすれば反感を買うし、お堅過ぎたり地味過ぎると舐められてしまうのだ。
結局、「領主である旦那様との仲の良さを見せ付けるべき!」と言うグレースの強い主張により、旦那様の瞳の色を意識した明るい青色のシンプルなドレスに、旦那様の黒髪をイメージしたオニキスのアクセサリーを身に付ける事に決定した。
当日の朝は、たっぷりと時間を掛けて身支度が整えられ、完成した私の姿を眺めたグレースとチェルシーは、額の汗を拭いながら満足そうに頷き合った。
「これなら旦那様も更にメロメロになっちゃいますよ」
悪戯っぽく笑うチェルシーに、私は小首を傾げた。
「メロメロ? いや、無い無い!!」
普通にメロメロも無いけど、『更に』とか言ったら、現在既にメロメロなのが前提ではないか。
益々有り得ない。
勢い良く否定すると、何故か二人は眉を下げて小さく溜息をついた。
「そろそろ行きましょう。旦那様が待ち草臥れているかもしれないわ」
「そうですね」
今日はチェルシーとレオが私達に同行してくれる事になっている。
玄関ホールに降りると、旦那様とレオは既に待ってくれていた。
フィルマンも見送りに来ている。
「遅くなって済みません」
「…………ああ」
謝罪の言葉を掛けると、旦那様は少しの沈黙の後に、微かに頷く。
バンッ!!
その瞬間、旦那様の背中を、レオとフィルマンが叩いた。
(今、凄い音したけど……大丈夫かしら?)
二人に白い目で見られた旦那様は、軽く咳払いをして、徐に口を開いた。
「あーー…、その、あれだ。
似合っている。……とても、美しい」
「あ、ありがとう、ございます」
まさか褒め言葉を頂けるなんて思っていなかった私は、熱くなった頬を両手で覆いながら、ぎこちなくお礼を言った。
私の動揺が伝染したのか、旦那様の顔も心なしか赤くなっている様に見えた。
普段出掛ける時のようにレオの手を借りて馬車に乗り込む。
えーっと、どこに座るべきかしら?
今日、馬車に乗るのは私と旦那様とチェルシー。
レオは騎乗で馬車の外の警戒にあたる。
デュドヴァン侯爵邸の馬車は、盗賊被害を予防する為、外装が地味でサイズも少し小ぶりだ。だから座席も一般的な物より、少々狭いのだ。
旦那様は多少は私にも触れる事が出来るみたいだけど、流石に狭い密室で隣り合わせに座るのは辛いかもしれない。
そう考えた私は、進行方向とは反対向きの座席の奥に腰を下ろしたのだが───。
「「そっちじゃない!!」」
「えっ?」
チェルシーとレオから強めの突っ込みが入ってしまった。
「奥様、進行方向を向いて、旦那様と並んでお座り下さい」
チェルシーに呆れた様にそう言われて、戸惑いながら旦那様に目を向けると、彼は当然だと言う表情で頷いた。
「……あ、はい」
指定された席に座り直すと、旦那様とチェルシーも乗り込んで来た。
やはり座席は狭い。隣の旦那様と肩が触れ合ってしまって、ちょっとだけドキドキする。
そっと隣を窺えば、旦那様は真っ直ぐ前を向いていた。
その横顔に不快感が浮かんでいない事を確認し、ホッと息を吐く。
寧ろ心なしか、機嫌が良さそうにも見えるのだが……、気のせいだろうか?
旦那様を傷付けないで済む適切な距離感が掴めなくて試行錯誤の連続だが、意外と私が思っている以上に、旦那様は私を受け入れてくれているのかもしれない。
いっその事、本人にはっきり聞いてしまえば良いのだろうか?
私は何処まで許されますか?
手を繋ぐ?
腕を組む?
それとも───。
そんな事をツラツラと考えながら、車窓を眺める。
外装を質素にした分、内装にお金を掛けている侯爵家の馬車は座り心地が抜群で、私はいつの間にかウトウトしてしまっていた。
と、言っても、協力者候補の選定から、交渉の為のアポイントメントを取るところまで、全て旦那様がやってくれて、私は要所要所で『この方向で進めて良いか?』と確認されただけだった。
「こんなに任せっきりで良いのかしら?」
なんだか申し訳ない気がして、フィルマンに相談してみた。
「良いと思いますよ。旦那様も楽しそうに色々お調べになっていた様ですし」
よく分からないが、楽しそうならば良いか。
私はありがたく助力を賜る事にした。
協力者候補の皆様に、交渉に行く前夜。
グレースやチェルシーと、ああでも無いこうでも無いと議論しながら、最適な服装を選んだ。
こういう場合のファッションは、夜会のドレスを選ぶよりも寧ろ難しい。
豪華だったり派手過ぎたりすれば反感を買うし、お堅過ぎたり地味過ぎると舐められてしまうのだ。
結局、「領主である旦那様との仲の良さを見せ付けるべき!」と言うグレースの強い主張により、旦那様の瞳の色を意識した明るい青色のシンプルなドレスに、旦那様の黒髪をイメージしたオニキスのアクセサリーを身に付ける事に決定した。
当日の朝は、たっぷりと時間を掛けて身支度が整えられ、完成した私の姿を眺めたグレースとチェルシーは、額の汗を拭いながら満足そうに頷き合った。
「これなら旦那様も更にメロメロになっちゃいますよ」
悪戯っぽく笑うチェルシーに、私は小首を傾げた。
「メロメロ? いや、無い無い!!」
普通にメロメロも無いけど、『更に』とか言ったら、現在既にメロメロなのが前提ではないか。
益々有り得ない。
勢い良く否定すると、何故か二人は眉を下げて小さく溜息をついた。
「そろそろ行きましょう。旦那様が待ち草臥れているかもしれないわ」
「そうですね」
今日はチェルシーとレオが私達に同行してくれる事になっている。
玄関ホールに降りると、旦那様とレオは既に待ってくれていた。
フィルマンも見送りに来ている。
「遅くなって済みません」
「…………ああ」
謝罪の言葉を掛けると、旦那様は少しの沈黙の後に、微かに頷く。
バンッ!!
その瞬間、旦那様の背中を、レオとフィルマンが叩いた。
(今、凄い音したけど……大丈夫かしら?)
二人に白い目で見られた旦那様は、軽く咳払いをして、徐に口を開いた。
「あーー…、その、あれだ。
似合っている。……とても、美しい」
「あ、ありがとう、ございます」
まさか褒め言葉を頂けるなんて思っていなかった私は、熱くなった頬を両手で覆いながら、ぎこちなくお礼を言った。
私の動揺が伝染したのか、旦那様の顔も心なしか赤くなっている様に見えた。
普段出掛ける時のようにレオの手を借りて馬車に乗り込む。
えーっと、どこに座るべきかしら?
今日、馬車に乗るのは私と旦那様とチェルシー。
レオは騎乗で馬車の外の警戒にあたる。
デュドヴァン侯爵邸の馬車は、盗賊被害を予防する為、外装が地味でサイズも少し小ぶりだ。だから座席も一般的な物より、少々狭いのだ。
旦那様は多少は私にも触れる事が出来るみたいだけど、流石に狭い密室で隣り合わせに座るのは辛いかもしれない。
そう考えた私は、進行方向とは反対向きの座席の奥に腰を下ろしたのだが───。
「「そっちじゃない!!」」
「えっ?」
チェルシーとレオから強めの突っ込みが入ってしまった。
「奥様、進行方向を向いて、旦那様と並んでお座り下さい」
チェルシーに呆れた様にそう言われて、戸惑いながら旦那様に目を向けると、彼は当然だと言う表情で頷いた。
「……あ、はい」
指定された席に座り直すと、旦那様とチェルシーも乗り込んで来た。
やはり座席は狭い。隣の旦那様と肩が触れ合ってしまって、ちょっとだけドキドキする。
そっと隣を窺えば、旦那様は真っ直ぐ前を向いていた。
その横顔に不快感が浮かんでいない事を確認し、ホッと息を吐く。
寧ろ心なしか、機嫌が良さそうにも見えるのだが……、気のせいだろうか?
旦那様を傷付けないで済む適切な距離感が掴めなくて試行錯誤の連続だが、意外と私が思っている以上に、旦那様は私を受け入れてくれているのかもしれない。
いっその事、本人にはっきり聞いてしまえば良いのだろうか?
私は何処まで許されますか?
手を繋ぐ?
腕を組む?
それとも───。
そんな事をツラツラと考えながら、車窓を眺める。
外装を質素にした分、内装にお金を掛けている侯爵家の馬車は座り心地が抜群で、私はいつの間にかウトウトしてしまっていた。
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