【完結】死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く

miniko

文字の大きさ
151 / 200

151 嫌いにならないで

しおりを挟む
 あの大規模捜索の日。
 リンメル先生が思った以上の抵抗を見せ、大きな騒動になってしまったせいで、午後の授業は急遽休みになった。
 というか、生徒達の動揺も大きかったので、それから一週間、学園は休校の措置が取られた。


 アイザックは『今日は迎えに行けない』と言っていたにも拘らず、私が人質になった事が耳に入ってしまったせいで、昼過ぎには大慌てでエヴァレット伯爵邸に駆け付けた。

 その時、私は気持ちを鎮める為、自室でリーザが淹れてくれたハーブティーを飲んでいた。

「オフィーリア!!」

 ノックもせずに私の部屋へ乱入したアイザック。
 憔悴し切った様な彼の顔を見ると、胸がギュッと痛くなる。
 こんなに彼が動揺したのは、トムがチョコレートを食べさせられた事件の時以来だ。

 驚いてソファーから立ち上がった私の体を、アイザックは痛いくらいに強く抱き締めた。

「危険には近寄らないって、約束したじゃないか!」

「ごめんなさい。
 でも、私が近寄った訳じゃなくて、危険が勝手に近付いて来たんですもの」

 つい言い訳を零してしまった事を、私は直ぐに後悔した。
 アイザックの目が、益々吊り上がってしまったからだ。

「またベアトリスを庇ったって聞いたけどっっ!?
 そーゆーのを、危険に飛び込むって言うんだよ!
 君はっ……、君は、自分が怪我をした時に、僕がどれほど心を痛めるか、どうしていつも考えてくれないんだっ!?」

 彼の悲痛な叫び声を聞いている内に、心の底から申し訳ない気持ちが湧いて来る。

(ああ……、私はまた、間違えてしまったんだわ)

 何度も反省した筈なのに、二度としないと誓った筈なのに、どうしていつも考え無しに行動してしまうんだろう?
 人生二週目なのに、全く成長しない自分が情けなくなってしまって、涙が出そうになるのを私は必死で堪えた。
 ここで泣くのは、卑怯だと思ったから。

「……無謀な行動ばかりして、ごめんなさい。
 いつも心配かけてしまって、ごめんなさい。
 でも……、でもね、咄嗟の時には何も考えられなくなって、勝手に体が動いてしまうの。
 だから『もう絶対にしない』って言い切る事は出来ない。
 だけど、最大限、気を付ける様にします。
 だから、お願い。嫌いにならないで」

 アイザックの胸に顔を埋めながら懇願すると、頭上から「ハァ……」と呆れを含んだ溜息が降って来た。

「オフィーリアは、狡い」

 ポツリと零れたアイザックの言葉に、彼の顔を見上げると、まだ少し怒った様な、困った様な微笑みが向けられていた。

「僕が君を嫌いになれないのを知ってて、そんな事を言うんだから。
 やっぱり、どう頑張ったって、先に惚れた方が負けなんだよな……」

「……もう、怒ってない?」

 そう聞いたら、アイザックは眉間に深い皺を寄せた。

「怒ってるよ、怒ってるに決まってるだろ?
 あー、クソッ。なんで君はいつもそんなに無防備なんだ?
 そんな可愛い顔をして上目遣いに見たりしたら、喰われちまっても文句は言えないぞ」

「アイザック様、そこまでです」

 アイザックの瞳が熱を持ち始めた所で、部屋の隅に大人しく控えていたリーザとユーニスの手によって、私達はベリッと引き離された。


 結局、その後もブツブツ言いながら、アイザックは私を許してくれた。


「見捨てられなくて良かった」

 アイザックが帰った後、そう呟いた私に、リーザ達は残念なものを見る眼差しを向けた。



 捕縛劇の翌日には、王位簒奪を狙った謀略が白日の下に晒され、貴族平民問わず王都全体に広まった。
 教皇やその配下に向けられた民の怒りは想像を絶する物であった。
 しかし、プリシラやクリスティアンに関しては『駒にされただけで、法を犯してはいない』と発表された事から、ある意味被害者であるという見方をする者もいたらしい。

 態々プリシラ達を擁護するコメントを出すなんて、サディアス殿下にしては随分とお優しい……なんて、思っていたのだが。

 その二日後。
 王都新聞の一面に掲載された記事によって、一気に世論が動いた。

 プリシラ一行が王都からフォーガス伯爵領に辿り着く迄の所業が、赤裸々に明かされたのだ。
 道中、彼等が立ち寄った街の人達の証言を集め、しっかりと裏取りされたその内容に、王都民は騒然となった。

(これって多分、サディス殿下がリークしたのよね?)

 だってプリシラ達に同行した者じゃないと知り得ない情報が含まれている。


 そして、なんとその記事には、プリシラの治癒魔法が失われた事まで書かれていた。


「治癒魔法が消えたって、本当ですか?」

「んー、そうみたいだね」

 私の問いにアイザックは特に興味もなさそうに、お茶を飲みながら答える。

 学園が休みの間も、アイザックは忙しい合間を縫って一日一度は会いに来てくれたので、私は捜査や取り調べの進捗をリアルタイムで知る事が出来た。

「驚かないんですか?」

「まあ、以前からかなり弱まってるって話は聞いてたし、時間の問題かなって思ってたから。
 でも感染症が治まっていて良かったよね。
 そもそも、治癒魔法の使い手がたった一人いた所で、全ての人を救えるわけじゃないからさ、やっぱり僕は医療の充実の方が大事だと思うんだよね」

「そうかもしれないですね」

 私は、かつてベアトリスに借りた本の一節を思い出していた。

『光属性の魔力とは、慈愛の女神の加護によって授けられる物である。
 正しき事に魔法を使えば、更なる恩恵が得られるだろう』

 著者の考察が大半を占めていたあの本の内容が、どこまで真実であるかは分からない。
 だけど、もしかしたら、女神様はプリシラの所業を『正しく無い』と判断したのかもしれない。



 教皇の非道な行いに続き、プリシラの治癒魔法消失などで国民が大きく動揺する中、一人の若い女性が密やかに王都を出た事を、私達はまだ知らなかった。

しおりを挟む
感想 1,006

あなたにおすすめの小説

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる

冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」 謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。 けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。 なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。 そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。 恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.11/4に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

処理中です...